事件の真相や反省の弁は一切述べることなく、公判では「死刑にしてください」などと手前勝手な主張に終始した被告に「懲役20年」の実刑判決が下された。最後まで犯した罪に向き合うことのなかった男の名は宮本浩志(57)。専門家曰く「妄想世界に閉じ籠った」まま、男は刑に服することになるのか。
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【写真4枚】亡くなった被害者と騒然とする事件当時の現場 事件が起きたのは昨年6月。大阪市北区でカラオケパブを経営する稲田真優子さん(当時25歳)が、店内で首や胸など十数カ所を刃物で刺され死亡。ほどなく殺人容疑で逮捕されたのが店の常連客だった宮本である。

「逮捕当初、容疑を否認していた宮本ですが、上着や靴から被害者の血液が検出され、事件で使われた粘着テープにも宮本の指紋が付いていた。また事件当日、パブが入居するビルの防犯カメラに宮本の不審な行動が記録されていたことも逮捕の決め手となりました」(全国紙社会部デスク) 公判で宮本は起訴内容の認否は黙秘する一方、「判決は死刑をお願いします」と発言。さらに今月12日の最終意見陳述では50分にわたって延々と一方的な主張を繰り広げた。「死刑」を願いながら罪と向き合わず(宮本浩志)「被害者が大学の学費を親に頼らず、自分で工面するなど、苦労しながらも自立していたことを知って“尊敬の念を持つようになった”と陳述。かと思えば、被害者が念願の自分の店を持つに至ったことについて“夢を実現させていく実行力を見て、彼女を本気で応援しようと思った”と回想した。店に足繁く通ったのも、少しでもお金を落としてあげたかったからだと語り、まるで“推し活”のように話していたのが印象的でした」(同)ストーカーに多い妄想錯覚 稲田さんと宮本の接点は約4年前。彼女が大阪市内のカラオケバーで働いていた時、宮本が客として訪れたのが最初の出会いだ。そのバーでも宮本は稲田さん目当てに通うようになり、事件現場となった店に移ってからは連日のようにLINEでメッセージを送ったり、稲田さんに電話をかけるようになる。「執拗に送られたLINEのやりとりのなかには宮本が自分の食事の写真を送ったものも含まれ、それらについて“彼女は仕事で無理をするところがある。ちゃんとご飯を食べろよというメッセージ”だったと説明。被害者は宮本のLINE攻勢に“しつこくて困っている”と周囲に漏らしていましたが、事件の4日前、宮本に対して“もう店には来ないで”と直接伝えた。これが犯行のキッカケになったと見られています」(同) しかし宮本は「来ないで」と言われた日には「(稲田さんから)誕生日プレゼントをもらった」と意見陳述で話し、拒絶されたわけではないと主張。“こうも自分に都合よく物事を解釈できるものか”と傍聴席に座る記者らを驚かせた。 精神科医の片田珠美氏が話す。「被害者に対する強い執着とともに、被告は現実世界でなく、みずからの妄想の世界に生きているような印象を受ける。“推し活”も疑似恋愛の一種ですから、妄想錯覚のひとつであるエロトマニー(恋愛妄想)だった可能性も否定できません。こうした妄想錯覚はストーカーに多く、相手が嫌がっている素振りを見せても、“本当は自分に好意を持っているけど、事情があって示せないだけ”などと都合よく事実を歪曲して妄想世界を構築します。その世界が崩れ去ると生きていけないので、妄想世界を守るために相手を殺すという理解しがたい行動に出るケースもあります」少なくない予備軍 宮本は地方の国立大学工学部を卒業後、大阪に本社を置く有名メーカーに就職。逮捕時は妻子と4人暮らしで、関連会社に出向中だったという。「会社員の場合、50歳を過ぎれば組織のなかでの自分の立ち位置や将来像もある程度、見えてしまいます。出世コースにでも乗っていれば別ですが、そうでないと“自分の人生は果たしてこれでいいのか? このまま終わるのは嫌だ”と考える中高年は少なくありません。この手のミドルエイジクライシス(中年の危機)に陥った時、“暴発”の恐れがあるのは、若い時に遊んだ経験もなく、真面目に生きてきた人たちです」(片田氏) 人生の下り坂で直面する「危機」に際して、自分の趣味に没頭するなど上手く“ガス抜き”できる人もいれば、これまで“免疫”のあまりなかった領域にのめり込む中高年もいるという。「恋愛経験の少ない人ほど、中年期に推し活や色恋にハマると抑制が利かなくなるケースは珍しくありません。これまでの抑圧が大きいほど、一度タガが外れた時の振り幅も大きく、視野狭窄に陥って思い込みも激しくなる傾向にある。問題は、いまの日本社会でエロトマニーの隘路(あいろ)に嵌まり込む中高年予備軍が少なくないと考えられる点です」(片田氏) 仮に「妄想錯覚」であったとしても、決して犯した罪が軽減されるものではないが、そのうえで遺族の心情にどう向き合い、さらには再発防止に向けてできることは何か――重い問いが突き付けられる。デイリー新潮編集部
事件が起きたのは昨年6月。大阪市北区でカラオケパブを経営する稲田真優子さん(当時25歳)が、店内で首や胸など十数カ所を刃物で刺され死亡。ほどなく殺人容疑で逮捕されたのが店の常連客だった宮本である。
「逮捕当初、容疑を否認していた宮本ですが、上着や靴から被害者の血液が検出され、事件で使われた粘着テープにも宮本の指紋が付いていた。また事件当日、パブが入居するビルの防犯カメラに宮本の不審な行動が記録されていたことも逮捕の決め手となりました」(全国紙社会部デスク)
公判で宮本は起訴内容の認否は黙秘する一方、「判決は死刑をお願いします」と発言。さらに今月12日の最終意見陳述では50分にわたって延々と一方的な主張を繰り広げた。
「被害者が大学の学費を親に頼らず、自分で工面するなど、苦労しながらも自立していたことを知って“尊敬の念を持つようになった”と陳述。かと思えば、被害者が念願の自分の店を持つに至ったことについて“夢を実現させていく実行力を見て、彼女を本気で応援しようと思った”と回想した。店に足繁く通ったのも、少しでもお金を落としてあげたかったからだと語り、まるで“推し活”のように話していたのが印象的でした」(同)
稲田さんと宮本の接点は約4年前。彼女が大阪市内のカラオケバーで働いていた時、宮本が客として訪れたのが最初の出会いだ。そのバーでも宮本は稲田さん目当てに通うようになり、事件現場となった店に移ってからは連日のようにLINEでメッセージを送ったり、稲田さんに電話をかけるようになる。
「執拗に送られたLINEのやりとりのなかには宮本が自分の食事の写真を送ったものも含まれ、それらについて“彼女は仕事で無理をするところがある。ちゃんとご飯を食べろよというメッセージ”だったと説明。被害者は宮本のLINE攻勢に“しつこくて困っている”と周囲に漏らしていましたが、事件の4日前、宮本に対して“もう店には来ないで”と直接伝えた。これが犯行のキッカケになったと見られています」(同)
しかし宮本は「来ないで」と言われた日には「(稲田さんから)誕生日プレゼントをもらった」と意見陳述で話し、拒絶されたわけではないと主張。“こうも自分に都合よく物事を解釈できるものか”と傍聴席に座る記者らを驚かせた。
精神科医の片田珠美氏が話す。
「被害者に対する強い執着とともに、被告は現実世界でなく、みずからの妄想の世界に生きているような印象を受ける。“推し活”も疑似恋愛の一種ですから、妄想錯覚のひとつであるエロトマニー(恋愛妄想)だった可能性も否定できません。こうした妄想錯覚はストーカーに多く、相手が嫌がっている素振りを見せても、“本当は自分に好意を持っているけど、事情があって示せないだけ”などと都合よく事実を歪曲して妄想世界を構築します。その世界が崩れ去ると生きていけないので、妄想世界を守るために相手を殺すという理解しがたい行動に出るケースもあります」
宮本は地方の国立大学工学部を卒業後、大阪に本社を置く有名メーカーに就職。逮捕時は妻子と4人暮らしで、関連会社に出向中だったという。
「会社員の場合、50歳を過ぎれば組織のなかでの自分の立ち位置や将来像もある程度、見えてしまいます。出世コースにでも乗っていれば別ですが、そうでないと“自分の人生は果たしてこれでいいのか? このまま終わるのは嫌だ”と考える中高年は少なくありません。この手のミドルエイジクライシス(中年の危機)に陥った時、“暴発”の恐れがあるのは、若い時に遊んだ経験もなく、真面目に生きてきた人たちです」(片田氏)
人生の下り坂で直面する「危機」に際して、自分の趣味に没頭するなど上手く“ガス抜き”できる人もいれば、これまで“免疫”のあまりなかった領域にのめり込む中高年もいるという。
「恋愛経験の少ない人ほど、中年期に推し活や色恋にハマると抑制が利かなくなるケースは珍しくありません。これまでの抑圧が大きいほど、一度タガが外れた時の振り幅も大きく、視野狭窄に陥って思い込みも激しくなる傾向にある。問題は、いまの日本社会でエロトマニーの隘路(あいろ)に嵌まり込む中高年予備軍が少なくないと考えられる点です」(片田氏)
仮に「妄想錯覚」であったとしても、決して犯した罪が軽減されるものではないが、そのうえで遺族の心情にどう向き合い、さらには再発防止に向けてできることは何か――重い問いが突き付けられる。
デイリー新潮編集部