実に面倒くさいことになっているのが、クレジットカード会社による「決済拒否」問題でありまして、同人マンガ界隈でも大変な騒動になっております。
【画像】話題となっているpixivによる規約改定のお知らせカード会社の利用規約が大きく影響 問題の概要はシンプルで、クレジットカード会社が決済を行う商品やサービスについて、「こういう取引を行う場合は、お金を払うことを代行できませんよ」というブランド利用規約が仲介会社であるアクワイアラーと決済契約をしている店舗・サイトなどとの間で結ばれていることが発端です。まあ、うっかりカード決済で拳銃や麻薬などが取引されたら、カード会社もブランド価値の毀損待ったなしですので、こういう契約は当然と言えば当然と言えます。

なぜ表現規制問題が巻き込まれるのかというと、世界的に問題となっている児童ポルノや同意を伴わないセックスに関する描写、獣姦、腕脚などの切断を主とするゴア表現に関するコンテンツなども、カード会社の意向で決済をキャンセルできるよという条文が入っているのです。iStock.com この場合のカード会社とは、VISAカードやMastercard、JCBカードなどの各カード会社がブランドを立てて実際に決済仲介を行う各社を指します。これらの仕組みを使ってカード決済ができる加盟店を取りまとめているのがアクワイアラー、いろんなブランドでクレジットカードを発行しているのがイシュアーと呼ばれています。つまり、この決済の大元であるカード会社の利用規約が、一連の問題に大きく影響しているのです。2018年夏ごろから続発はしていた 実は、性的表現や暴力表現の中身が問題であるとしてクレジットカード会社から決済を断られるという事例そのものは、2018年夏ごろから続発はしていました。 当時池袋や中野に店舗を構えていたDVD販売会社が、アクワイアラーより名指しで「カード会社から取引の中身に問題があるので、カード決済ができなくなるかもしれない」と通知を受けて、問題となったとされる商品の販売を控えるという事件がありました。 その後、この業界では立て続けにこれらのカード会社による決済拒否(決済BAN)が多発したものの、問題となりそうな決済は全体の取引のうちのわずかな部分だったため、これらの商品の販売を取りやめるか、現金決済や他のカードブランドのカード会社による決済にシフトすることで難を逃れていました。 ところが、そこから徐々に決済拒否を受ける頻度や、何が決済拒否の対象となる商品やサービスなのか、どのような検証方法でこれらの商品が問題の対象にされたのかが明らかになってくると、2020年頃から「これはヤバイ」ということで、店舗側各社で対策会議みたいなのが組まれるようになりました。 中でも、アダルトビデオ界隈や同人誌界隈で割と一般的な表現とされていたものがどうやらNGであるらしいということが分かり、とりわけ「何とか殺人事件」とか「女子校生凌辱」などといった単語が含まれている商品は、積極的に取扱不可コンテンツと自動判別されているのではないかというぐらいにBANを食らうことが判明。さらには、取扱コンテンツの掲載サイトでのパッケージも判定されているのではないかという知見も出て、これらを「一般的に販売するにあたり、クレジットカード決済を行うことの店舗側リスク」として考える風潮が強くなりました。DMMグループがMastercardによる取引から全面撤退 カード決済は、商品を買う利用者にとっては手持ちの現金がなくても即座に買える便利なものです。一方、カードでモノを買われる加盟店は、店舗規模やアクワイアラーによって差はあるものの、概ね数%の加盟店手数料を売上に対して引かれた金額を決められた決済日に売上として入金されます。ところが、カード会社が取引を拒否した場合、すでに商品やサービスを売ってしまったにもかかわらず、これらの決済代金が売上として取扱店舗に振り込まれないことがあります。 もちろん、アクワイアラー側から保険や補償がある場合も多々ありますが、不適切な商品を販売したと決済拒否をされるときは、店舗側にもリスクがあることに変わりはありません。 今年に入り、アダルトコンテンツ流通大手のFANZAを含むDMMグループが、世界的カードブランドの一角であるMastercardの取扱を中止すると発表して物議を醸しました。 発端は、FANZAで流通するコンテンツの販売に対して、Mastercardが決済拒否の原因となった商品を明示せずFANZA全体を業者ごと決済拒否し、さらにDMMグループを決済できないとアクワイアラーである三井住友カードに通知をしてきたことでした。これにより、サイト利用者の利便性を考えて、決済できたりできなかったりするカードブランドとは取引が継続できないという理由で、DMMグループ側からMastercardによる取引から全面撤退するという判断を下したことになります。 アクワイアラーであったとされる三井住友カードも業界的に事態正常化に努力をし、誠実に対応したようですが、FANZA側としても決済拒否にいたったコンテンツの特定がむつかしいのであればどうしようもありません。 他方で、Mastercardが決済拒否に至る線引きを明示しない理由として、やはり決済できるできないのギリギリを突いてくる業者からの挑戦を招くことは控えたいのも事実です。冒頭の利用規約を巡る解釈と、現行の国内取引の問題は非常にデリケートなところまで来てしまっていると思わせる一件でした。カード会社が共同被告になるという衝撃 それと並行して、アメリカ・カリフォルニア州でこの界隈が震撼する裁判が勃発しました。国際的なアダルトコンテンツ大手で、ユーザーからの動画投稿も受け付けているポルノサイト『Pornhub(ポルノハブ)』に対して、その広告やユーザーからの月額課金を扱う関連会社ともども児童ポルノの投稿に対する被害救済をすべきという巨額訴訟の共同被告として、なんとVISAも巻き込まれたという事件です。 要は、児童ポルノや私怨によるリベンジポルノを掲載したポルノハブへの名誉毀損や損害賠償の裁判において、その経営を支えている広告会社や会員からの資金決済をみだりに仲介したVISAなどカードブランドも問題だと共同被告に加える申請が原告からあったのです。VISAも「そんなわけねえだろ」と抗弁したものの、カリフォルニア州の判事が「VISAも加担したと認定するでやんす」と認めてしまった一件です。 いままでは、どちらかというと広告会社が海賊版サイトや違法コンテンツ販売サイトの片棒を担いでいるとして制裁の対象になることはあっても、月額課金など表面上問題のないサービスの決済を担ったカード会社が共同被告となることはありませんでした。むしろ、カード会社はどちらかというと「必ずしもそのサービスのすべてを知って決済したとは言えない」という観点から聖域のように扱われてきただけに衝撃的でした。 これが問題になると、決済開始当時は問題のないとされていた団体がカード決済で収益を現金化してきたのに、後から実はイランや北朝鮮のハッカー組織が深く関与した団体でしたということが露呈すると、決済したカード会社も後から「お前、何決済しとんねん」と槍玉に挙げられ、かなり面倒なことになりかねません。 このあたりから、表現規制とカード決済拒否の熱量が一気に上がっていき、ついには12月5日付で、一部のアクワイアラーに対してカード会社がコンテンツなども含めて不適切な商品やサービスの販売に対して厳格な取引制限を開始する(かもしれないよ)という通知を送ってくることになりました。ここで最初に問題となったのは、Mastercardからほぼ名指しで取引拒否の可能性を示唆されたアニメイト傘下のイラストサービスサイト大手のpixivです。対応を一歩間違えると、表現の自由が委縮することになりかねない カード会社から特に問題だとされた内容は、通常会員でも検索ワードで閲覧できるコンテンツの中に、主に中国からのアクセスと見られる実在する児童の違法なポルノ動画・画像や、ガチの死体画像などです。pixivの検索結果から違法な販売サイトに誘導されるため、これらのコンテンツへのアクセスが問題視されたことで起きた制限であるとされます。しかし、内容は必ずしも明示されないため、pixiv側にも他にもいろいろ積み重なったものがあるのかもしれません。 実際、pixivが展開しているBOOTHやFANBOX経由で、中華系サイトを中心に実在する男児ポルノサイトや死姦サイトへの誘導や販売があったことは視認されています。ここでpixivが対処を怠ると、かなり本格的にカード会社各社からの怒られが発生し、決済ごとではなく業者全体として、親会社アニメイトごとBANされるので大変なことになります。 死体が好き、凌辱に興奮する、児童ポルノを愛するなどの、俗にいう異常性癖と表現規制の問題は非常にデリケートです。これらのサービスを通じて私人が個人的に楽しむものは問題ないとされていましたが、児童ポルノは日本法でも単純所持も含めて違法化されました。にもかかわらず、これらのサービスで実際の児童ポルノが価格表付きで詰め合わせコンテンツ販売サイトに誘導しているのは運営上の問題と言わざるを得ません。対応を一歩間違えると、表現の自由がそのまま決済BANにより委縮することになりかねないのです。FANZAの事例やpixivが怖れているのは… さらに、今後の問題点として、これらのアダルトコンテンツの流通に厳しいMastercardに続いて、JCBやVISAも追従する可能性が極めて高いことが挙げられます。また、一連のコンテンツ販売への決済拒否は、実在する人物に対する権利侵害だけでなく、イラストなど2次元も対象となりえます。 前述規約でも、表現の内容については実在するかどうかは問われていませんし、イラストやゲーム動画なども権利侵害を疑わせるものであれば制限が可能な留保がついているというのが、一般的な法務的な読み取り方となります。 実際、19年以降断続的に起きていたコンテンツ決済拒否では、R-18指定ではないアニメすら問題商品であったと認識されています。 FANZAやpixivの事例が典型的ですが、日本のコンテンツ販売者やウェブサービス会社がこれらの問題を怖れるのは、VISAなど他のカードブランドの決済も閉じられるだけでなく、単体の商品に対する決済拒否に加えて、事業者全体、資本グループ全体への決済拒否(業者BAN)に広がる可能性です。これは、特に性的コンテンツの制作・販売を含む事業者(性風俗産業:Sex Industry)が人身売買を含む犯罪組織・反社会的勢力との関係があると蓋然的に判断される場合には、国内法の犯罪収益移転防止法だけでなく、国際的なアンチマネーロンダリングの枠組みとして、カード会社が犯罪収益に繋がる行動を防がなければならないという問題(FATF対応)につながります。「『ウマ娘』はどうか」などと言われると… 日本人からすれば、単に同好の士が動画やイラストを楽しんでいたものが、それは児童ポルノだ犯罪収益だと名指しで言われて、面倒なことになるという反発も強かろうと思います。 ある程度分かっていて慣れ親しんでいる私たちからすれば、「『けものフレンズ』は獣姦コンテンツにあたるのではないか」とか「Cygamesの『ウマ娘』はどうか」などと言われると、「なに言ってんだお前?」としか思いません。ただ、こういう日本の独自文化で自然発生的に生まれてきたものが、バリバリの金融業界の人たちの審議の対象となったとき、相手に適切な理解を促すことの困難さにも直面します。 さらには、イラストサービスを手掛けるSkeb社やpatreonなどで提供されているNSFW(お前の職場で観るのは安全ではない:Not Safe For Work)と呼ばれる個別のイラスト依頼での異常性癖がどこまで許容されるのか。児童ポルノ界隈では、これからホットな分野になり得ます。というのも、表立って流通させることが困難になった児童ポルノを含む異常性癖コンテンツが地下に潜り、そこで仲介をすることで飯を喰っている業者がいる、という認識を持たれることに他ならないからです。政治家や所轄官庁がここで動くべきでは また、業者が決済を平準化して特定のサービスで不適切なエロが流通しているわけではないとポイントサービスに乗り出しているところや、携帯電話会社の決済代行でカバーしようとしているところも、業者ごと取引拒否を促す動きが出ると全部死滅してしまいかねませんし、実際そういう話が出ているようです。どのように表面上糊塗しようとも、そのようなコンテンツが取引されているのだとされれば、業者が名指しで決済ネットワークからBANされる未来絵図は容易に想像できます。 これはもはや、カード決済会社が対応を強化している以上、はっきり言って被害を減らしながら大事なところを死守するタイプの敗戦処理であるなあと個人的には思います。 この流れを日本が「これは独自文化でやんす」と強弁したところで守り切れないことは確実です。本来であれば、これは経済産業省のクールジャパン機構なり文化庁などの所轄官庁なりが乗り出してきて、保護政策と共に決済手段の確保を図り、ついでにアニメーターを含めたクリエイターの所得や健康保険などの各種福祉政策と組み合わせた青写真を描くべきなんじゃないかとも思います。というより、政治家や所轄官庁がここで動くべきものなんじゃないのかなあと。 現場からは以上です。(山本 一郎)
問題の概要はシンプルで、クレジットカード会社が決済を行う商品やサービスについて、「こういう取引を行う場合は、お金を払うことを代行できませんよ」というブランド利用規約が仲介会社であるアクワイアラーと決済契約をしている店舗・サイトなどとの間で結ばれていることが発端です。まあ、うっかりカード決済で拳銃や麻薬などが取引されたら、カード会社もブランド価値の毀損待ったなしですので、こういう契約は当然と言えば当然と言えます。
なぜ表現規制問題が巻き込まれるのかというと、世界的に問題となっている児童ポルノや同意を伴わないセックスに関する描写、獣姦、腕脚などの切断を主とするゴア表現に関するコンテンツなども、カード会社の意向で決済をキャンセルできるよという条文が入っているのです。
iStock.com
この場合のカード会社とは、VISAカードやMastercard、JCBカードなどの各カード会社がブランドを立てて実際に決済仲介を行う各社を指します。これらの仕組みを使ってカード決済ができる加盟店を取りまとめているのがアクワイアラー、いろんなブランドでクレジットカードを発行しているのがイシュアーと呼ばれています。つまり、この決済の大元であるカード会社の利用規約が、一連の問題に大きく影響しているのです。
実は、性的表現や暴力表現の中身が問題であるとしてクレジットカード会社から決済を断られるという事例そのものは、2018年夏ごろから続発はしていました。
当時池袋や中野に店舗を構えていたDVD販売会社が、アクワイアラーより名指しで「カード会社から取引の中身に問題があるので、カード決済ができなくなるかもしれない」と通知を受けて、問題となったとされる商品の販売を控えるという事件がありました。
その後、この業界では立て続けにこれらのカード会社による決済拒否(決済BAN)が多発したものの、問題となりそうな決済は全体の取引のうちのわずかな部分だったため、これらの商品の販売を取りやめるか、現金決済や他のカードブランドのカード会社による決済にシフトすることで難を逃れていました。
ところが、そこから徐々に決済拒否を受ける頻度や、何が決済拒否の対象となる商品やサービスなのか、どのような検証方法でこれらの商品が問題の対象にされたのかが明らかになってくると、2020年頃から「これはヤバイ」ということで、店舗側各社で対策会議みたいなのが組まれるようになりました。
中でも、アダルトビデオ界隈や同人誌界隈で割と一般的な表現とされていたものがどうやらNGであるらしいということが分かり、とりわけ「何とか殺人事件」とか「女子校生凌辱」などといった単語が含まれている商品は、積極的に取扱不可コンテンツと自動判別されているのではないかというぐらいにBANを食らうことが判明。さらには、取扱コンテンツの掲載サイトでのパッケージも判定されているのではないかという知見も出て、これらを「一般的に販売するにあたり、クレジットカード決済を行うことの店舗側リスク」として考える風潮が強くなりました。
カード決済は、商品を買う利用者にとっては手持ちの現金がなくても即座に買える便利なものです。一方、カードでモノを買われる加盟店は、店舗規模やアクワイアラーによって差はあるものの、概ね数%の加盟店手数料を売上に対して引かれた金額を決められた決済日に売上として入金されます。ところが、カード会社が取引を拒否した場合、すでに商品やサービスを売ってしまったにもかかわらず、これらの決済代金が売上として取扱店舗に振り込まれないことがあります。
もちろん、アクワイアラー側から保険や補償がある場合も多々ありますが、不適切な商品を販売したと決済拒否をされるときは、店舗側にもリスクがあることに変わりはありません。
今年に入り、アダルトコンテンツ流通大手のFANZAを含むDMMグループが、世界的カードブランドの一角であるMastercardの取扱を中止すると発表して物議を醸しました。
発端は、FANZAで流通するコンテンツの販売に対して、Mastercardが決済拒否の原因となった商品を明示せずFANZA全体を業者ごと決済拒否し、さらにDMMグループを決済できないとアクワイアラーである三井住友カードに通知をしてきたことでした。これにより、サイト利用者の利便性を考えて、決済できたりできなかったりするカードブランドとは取引が継続できないという理由で、DMMグループ側からMastercardによる取引から全面撤退するという判断を下したことになります。
アクワイアラーであったとされる三井住友カードも業界的に事態正常化に努力をし、誠実に対応したようですが、FANZA側としても決済拒否にいたったコンテンツの特定がむつかしいのであればどうしようもありません。
他方で、Mastercardが決済拒否に至る線引きを明示しない理由として、やはり決済できるできないのギリギリを突いてくる業者からの挑戦を招くことは控えたいのも事実です。冒頭の利用規約を巡る解釈と、現行の国内取引の問題は非常にデリケートなところまで来てしまっていると思わせる一件でした。
それと並行して、アメリカ・カリフォルニア州でこの界隈が震撼する裁判が勃発しました。国際的なアダルトコンテンツ大手で、ユーザーからの動画投稿も受け付けているポルノサイト『Pornhub(ポルノハブ)』に対して、その広告やユーザーからの月額課金を扱う関連会社ともども児童ポルノの投稿に対する被害救済をすべきという巨額訴訟の共同被告として、なんとVISAも巻き込まれたという事件です。
要は、児童ポルノや私怨によるリベンジポルノを掲載したポルノハブへの名誉毀損や損害賠償の裁判において、その経営を支えている広告会社や会員からの資金決済をみだりに仲介したVISAなどカードブランドも問題だと共同被告に加える申請が原告からあったのです。VISAも「そんなわけねえだろ」と抗弁したものの、カリフォルニア州の判事が「VISAも加担したと認定するでやんす」と認めてしまった一件です。
いままでは、どちらかというと広告会社が海賊版サイトや違法コンテンツ販売サイトの片棒を担いでいるとして制裁の対象になることはあっても、月額課金など表面上問題のないサービスの決済を担ったカード会社が共同被告となることはありませんでした。むしろ、カード会社はどちらかというと「必ずしもそのサービスのすべてを知って決済したとは言えない」という観点から聖域のように扱われてきただけに衝撃的でした。
これが問題になると、決済開始当時は問題のないとされていた団体がカード決済で収益を現金化してきたのに、後から実はイランや北朝鮮のハッカー組織が深く関与した団体でしたということが露呈すると、決済したカード会社も後から「お前、何決済しとんねん」と槍玉に挙げられ、かなり面倒なことになりかねません。
このあたりから、表現規制とカード決済拒否の熱量が一気に上がっていき、ついには12月5日付で、一部のアクワイアラーに対してカード会社がコンテンツなども含めて不適切な商品やサービスの販売に対して厳格な取引制限を開始する(かもしれないよ)という通知を送ってくることになりました。ここで最初に問題となったのは、Mastercardからほぼ名指しで取引拒否の可能性を示唆されたアニメイト傘下のイラストサービスサイト大手のpixivです。対応を一歩間違えると、表現の自由が委縮することになりかねない カード会社から特に問題だとされた内容は、通常会員でも検索ワードで閲覧できるコンテンツの中に、主に中国からのアクセスと見られる実在する児童の違法なポルノ動画・画像や、ガチの死体画像などです。pixivの検索結果から違法な販売サイトに誘導されるため、これらのコンテンツへのアクセスが問題視されたことで起きた制限であるとされます。しかし、内容は必ずしも明示されないため、pixiv側にも他にもいろいろ積み重なったものがあるのかもしれません。 実際、pixivが展開しているBOOTHやFANBOX経由で、中華系サイトを中心に実在する男児ポルノサイトや死姦サイトへの誘導や販売があったことは視認されています。ここでpixivが対処を怠ると、かなり本格的にカード会社各社からの怒られが発生し、決済ごとではなく業者全体として、親会社アニメイトごとBANされるので大変なことになります。 死体が好き、凌辱に興奮する、児童ポルノを愛するなどの、俗にいう異常性癖と表現規制の問題は非常にデリケートです。これらのサービスを通じて私人が個人的に楽しむものは問題ないとされていましたが、児童ポルノは日本法でも単純所持も含めて違法化されました。にもかかわらず、これらのサービスで実際の児童ポルノが価格表付きで詰め合わせコンテンツ販売サイトに誘導しているのは運営上の問題と言わざるを得ません。対応を一歩間違えると、表現の自由がそのまま決済BANにより委縮することになりかねないのです。FANZAの事例やpixivが怖れているのは… さらに、今後の問題点として、これらのアダルトコンテンツの流通に厳しいMastercardに続いて、JCBやVISAも追従する可能性が極めて高いことが挙げられます。また、一連のコンテンツ販売への決済拒否は、実在する人物に対する権利侵害だけでなく、イラストなど2次元も対象となりえます。 前述規約でも、表現の内容については実在するかどうかは問われていませんし、イラストやゲーム動画なども権利侵害を疑わせるものであれば制限が可能な留保がついているというのが、一般的な法務的な読み取り方となります。 実際、19年以降断続的に起きていたコンテンツ決済拒否では、R-18指定ではないアニメすら問題商品であったと認識されています。 FANZAやpixivの事例が典型的ですが、日本のコンテンツ販売者やウェブサービス会社がこれらの問題を怖れるのは、VISAなど他のカードブランドの決済も閉じられるだけでなく、単体の商品に対する決済拒否に加えて、事業者全体、資本グループ全体への決済拒否(業者BAN)に広がる可能性です。これは、特に性的コンテンツの制作・販売を含む事業者(性風俗産業:Sex Industry)が人身売買を含む犯罪組織・反社会的勢力との関係があると蓋然的に判断される場合には、国内法の犯罪収益移転防止法だけでなく、国際的なアンチマネーロンダリングの枠組みとして、カード会社が犯罪収益に繋がる行動を防がなければならないという問題(FATF対応)につながります。「『ウマ娘』はどうか」などと言われると… 日本人からすれば、単に同好の士が動画やイラストを楽しんでいたものが、それは児童ポルノだ犯罪収益だと名指しで言われて、面倒なことになるという反発も強かろうと思います。 ある程度分かっていて慣れ親しんでいる私たちからすれば、「『けものフレンズ』は獣姦コンテンツにあたるのではないか」とか「Cygamesの『ウマ娘』はどうか」などと言われると、「なに言ってんだお前?」としか思いません。ただ、こういう日本の独自文化で自然発生的に生まれてきたものが、バリバリの金融業界の人たちの審議の対象となったとき、相手に適切な理解を促すことの困難さにも直面します。 さらには、イラストサービスを手掛けるSkeb社やpatreonなどで提供されているNSFW(お前の職場で観るのは安全ではない:Not Safe For Work)と呼ばれる個別のイラスト依頼での異常性癖がどこまで許容されるのか。児童ポルノ界隈では、これからホットな分野になり得ます。というのも、表立って流通させることが困難になった児童ポルノを含む異常性癖コンテンツが地下に潜り、そこで仲介をすることで飯を喰っている業者がいる、という認識を持たれることに他ならないからです。政治家や所轄官庁がここで動くべきでは また、業者が決済を平準化して特定のサービスで不適切なエロが流通しているわけではないとポイントサービスに乗り出しているところや、携帯電話会社の決済代行でカバーしようとしているところも、業者ごと取引拒否を促す動きが出ると全部死滅してしまいかねませんし、実際そういう話が出ているようです。どのように表面上糊塗しようとも、そのようなコンテンツが取引されているのだとされれば、業者が名指しで決済ネットワークからBANされる未来絵図は容易に想像できます。 これはもはや、カード決済会社が対応を強化している以上、はっきり言って被害を減らしながら大事なところを死守するタイプの敗戦処理であるなあと個人的には思います。 この流れを日本が「これは独自文化でやんす」と強弁したところで守り切れないことは確実です。本来であれば、これは経済産業省のクールジャパン機構なり文化庁などの所轄官庁なりが乗り出してきて、保護政策と共に決済手段の確保を図り、ついでにアニメーターを含めたクリエイターの所得や健康保険などの各種福祉政策と組み合わせた青写真を描くべきなんじゃないかとも思います。というより、政治家や所轄官庁がここで動くべきものなんじゃないのかなあと。 現場からは以上です。(山本 一郎)
このあたりから、表現規制とカード決済拒否の熱量が一気に上がっていき、ついには12月5日付で、一部のアクワイアラーに対してカード会社がコンテンツなども含めて不適切な商品やサービスの販売に対して厳格な取引制限を開始する(かもしれないよ)という通知を送ってくることになりました。ここで最初に問題となったのは、Mastercardからほぼ名指しで取引拒否の可能性を示唆されたアニメイト傘下のイラストサービスサイト大手のpixivです。
カード会社から特に問題だとされた内容は、通常会員でも検索ワードで閲覧できるコンテンツの中に、主に中国からのアクセスと見られる実在する児童の違法なポルノ動画・画像や、ガチの死体画像などです。pixivの検索結果から違法な販売サイトに誘導されるため、これらのコンテンツへのアクセスが問題視されたことで起きた制限であるとされます。しかし、内容は必ずしも明示されないため、pixiv側にも他にもいろいろ積み重なったものがあるのかもしれません。
実際、pixivが展開しているBOOTHやFANBOX経由で、中華系サイトを中心に実在する男児ポルノサイトや死姦サイトへの誘導や販売があったことは視認されています。ここでpixivが対処を怠ると、かなり本格的にカード会社各社からの怒られが発生し、決済ごとではなく業者全体として、親会社アニメイトごとBANされるので大変なことになります。
死体が好き、凌辱に興奮する、児童ポルノを愛するなどの、俗にいう異常性癖と表現規制の問題は非常にデリケートです。これらのサービスを通じて私人が個人的に楽しむものは問題ないとされていましたが、児童ポルノは日本法でも単純所持も含めて違法化されました。にもかかわらず、これらのサービスで実際の児童ポルノが価格表付きで詰め合わせコンテンツ販売サイトに誘導しているのは運営上の問題と言わざるを得ません。対応を一歩間違えると、表現の自由がそのまま決済BANにより委縮することになりかねないのです。
FANZAの事例やpixivが怖れているのは… さらに、今後の問題点として、これらのアダルトコンテンツの流通に厳しいMastercardに続いて、JCBやVISAも追従する可能性が極めて高いことが挙げられます。また、一連のコンテンツ販売への決済拒否は、実在する人物に対する権利侵害だけでなく、イラストなど2次元も対象となりえます。 前述規約でも、表現の内容については実在するかどうかは問われていませんし、イラストやゲーム動画なども権利侵害を疑わせるものであれば制限が可能な留保がついているというのが、一般的な法務的な読み取り方となります。 実際、19年以降断続的に起きていたコンテンツ決済拒否では、R-18指定ではないアニメすら問題商品であったと認識されています。 FANZAやpixivの事例が典型的ですが、日本のコンテンツ販売者やウェブサービス会社がこれらの問題を怖れるのは、VISAなど他のカードブランドの決済も閉じられるだけでなく、単体の商品に対する決済拒否に加えて、事業者全体、資本グループ全体への決済拒否(業者BAN)に広がる可能性です。これは、特に性的コンテンツの制作・販売を含む事業者(性風俗産業:Sex Industry)が人身売買を含む犯罪組織・反社会的勢力との関係があると蓋然的に判断される場合には、国内法の犯罪収益移転防止法だけでなく、国際的なアンチマネーロンダリングの枠組みとして、カード会社が犯罪収益に繋がる行動を防がなければならないという問題(FATF対応)につながります。「『ウマ娘』はどうか」などと言われると… 日本人からすれば、単に同好の士が動画やイラストを楽しんでいたものが、それは児童ポルノだ犯罪収益だと名指しで言われて、面倒なことになるという反発も強かろうと思います。 ある程度分かっていて慣れ親しんでいる私たちからすれば、「『けものフレンズ』は獣姦コンテンツにあたるのではないか」とか「Cygamesの『ウマ娘』はどうか」などと言われると、「なに言ってんだお前?」としか思いません。ただ、こういう日本の独自文化で自然発生的に生まれてきたものが、バリバリの金融業界の人たちの審議の対象となったとき、相手に適切な理解を促すことの困難さにも直面します。 さらには、イラストサービスを手掛けるSkeb社やpatreonなどで提供されているNSFW(お前の職場で観るのは安全ではない:Not Safe For Work)と呼ばれる個別のイラスト依頼での異常性癖がどこまで許容されるのか。児童ポルノ界隈では、これからホットな分野になり得ます。というのも、表立って流通させることが困難になった児童ポルノを含む異常性癖コンテンツが地下に潜り、そこで仲介をすることで飯を喰っている業者がいる、という認識を持たれることに他ならないからです。政治家や所轄官庁がここで動くべきでは また、業者が決済を平準化して特定のサービスで不適切なエロが流通しているわけではないとポイントサービスに乗り出しているところや、携帯電話会社の決済代行でカバーしようとしているところも、業者ごと取引拒否を促す動きが出ると全部死滅してしまいかねませんし、実際そういう話が出ているようです。どのように表面上糊塗しようとも、そのようなコンテンツが取引されているのだとされれば、業者が名指しで決済ネットワークからBANされる未来絵図は容易に想像できます。 これはもはや、カード決済会社が対応を強化している以上、はっきり言って被害を減らしながら大事なところを死守するタイプの敗戦処理であるなあと個人的には思います。 この流れを日本が「これは独自文化でやんす」と強弁したところで守り切れないことは確実です。本来であれば、これは経済産業省のクールジャパン機構なり文化庁などの所轄官庁なりが乗り出してきて、保護政策と共に決済手段の確保を図り、ついでにアニメーターを含めたクリエイターの所得や健康保険などの各種福祉政策と組み合わせた青写真を描くべきなんじゃないかとも思います。というより、政治家や所轄官庁がここで動くべきものなんじゃないのかなあと。 現場からは以上です。(山本 一郎)
さらに、今後の問題点として、これらのアダルトコンテンツの流通に厳しいMastercardに続いて、JCBやVISAも追従する可能性が極めて高いことが挙げられます。また、一連のコンテンツ販売への決済拒否は、実在する人物に対する権利侵害だけでなく、イラストなど2次元も対象となりえます。
前述規約でも、表現の内容については実在するかどうかは問われていませんし、イラストやゲーム動画なども権利侵害を疑わせるものであれば制限が可能な留保がついているというのが、一般的な法務的な読み取り方となります。
実際、19年以降断続的に起きていたコンテンツ決済拒否では、R-18指定ではないアニメすら問題商品であったと認識されています。
FANZAやpixivの事例が典型的ですが、日本のコンテンツ販売者やウェブサービス会社がこれらの問題を怖れるのは、VISAなど他のカードブランドの決済も閉じられるだけでなく、単体の商品に対する決済拒否に加えて、事業者全体、資本グループ全体への決済拒否(業者BAN)に広がる可能性です。これは、特に性的コンテンツの制作・販売を含む事業者(性風俗産業:Sex Industry)が人身売買を含む犯罪組織・反社会的勢力との関係があると蓋然的に判断される場合には、国内法の犯罪収益移転防止法だけでなく、国際的なアンチマネーロンダリングの枠組みとして、カード会社が犯罪収益に繋がる行動を防がなければならないという問題(FATF対応)につながります。
日本人からすれば、単に同好の士が動画やイラストを楽しんでいたものが、それは児童ポルノだ犯罪収益だと名指しで言われて、面倒なことになるという反発も強かろうと思います。
ある程度分かっていて慣れ親しんでいる私たちからすれば、「『けものフレンズ』は獣姦コンテンツにあたるのではないか」とか「Cygamesの『ウマ娘』はどうか」などと言われると、「なに言ってんだお前?」としか思いません。ただ、こういう日本の独自文化で自然発生的に生まれてきたものが、バリバリの金融業界の人たちの審議の対象となったとき、相手に適切な理解を促すことの困難さにも直面します。
さらには、イラストサービスを手掛けるSkeb社やpatreonなどで提供されているNSFW(お前の職場で観るのは安全ではない:Not Safe For Work)と呼ばれる個別のイラスト依頼での異常性癖がどこまで許容されるのか。児童ポルノ界隈では、これからホットな分野になり得ます。というのも、表立って流通させることが困難になった児童ポルノを含む異常性癖コンテンツが地下に潜り、そこで仲介をすることで飯を喰っている業者がいる、という認識を持たれることに他ならないからです。
また、業者が決済を平準化して特定のサービスで不適切なエロが流通しているわけではないとポイントサービスに乗り出しているところや、携帯電話会社の決済代行でカバーしようとしているところも、業者ごと取引拒否を促す動きが出ると全部死滅してしまいかねませんし、実際そういう話が出ているようです。どのように表面上糊塗しようとも、そのようなコンテンツが取引されているのだとされれば、業者が名指しで決済ネットワークからBANされる未来絵図は容易に想像できます。
これはもはや、カード決済会社が対応を強化している以上、はっきり言って被害を減らしながら大事なところを死守するタイプの敗戦処理であるなあと個人的には思います。
この流れを日本が「これは独自文化でやんす」と強弁したところで守り切れないことは確実です。本来であれば、これは経済産業省のクールジャパン機構なり文化庁などの所轄官庁なりが乗り出してきて、保護政策と共に決済手段の確保を図り、ついでにアニメーターを含めたクリエイターの所得や健康保険などの各種福祉政策と組み合わせた青写真を描くべきなんじゃないかとも思います。というより、政治家や所轄官庁がここで動くべきものなんじゃないのかなあと。
現場からは以上です。
(山本 一郎)