大行列に客から怒号も……「みどりの窓口」続々廃止で続く“大混乱” 電子化が進む“航空券”との決定的な違いとは

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JR各社が次々に「みどりの窓口」を減らしている。2021年5月の定例会見で、当時JR東日本の深沢祐二社長(現:会長)は、2025年までに7割を減らすと明言し、その結果、みどりの窓口がある駅には、新幹線や特急列車の切符を買い求める人たちが殺到する事態になっている。4月は定期券の購入シーズンということもあって、平日でも大行列だ。土日となると、福袋を買い求めるため徹夜でデパートに並ぶ人たちのように、長い列になっていることも珍しくない。
【写真】実録!「みどりの窓口」の代わりに登場した「話せる指定席券売機」を実際に触ってみてわかった意外な事実
筆者が日常的に利用するJR武蔵野線沿線でも、ことごとくみどりの窓口が撤去された。最寄りの東川口駅からもっとも近いみどりの窓口は、3駅離れた武蔵浦和駅である(東川口駅にも窓口があったが撤去されてしまった)。そこに行くまで、電車で片道10分ほどかかる。そして、駅には窓口が1ヶ所しかなく、駅員が切符を発券するマルスという機械も1台しかない。そのため、駅に着いたら、さらに列に並ばなければならないのだ。
武蔵浦和駅には、やはり窓口が減らされている埼京線沿線などからも客が訪れるため、慢性的に混雑している。列に並ぶ客に、駅員が「ご用件は何ですか」と聞いて回り、券売機で買えるものであれば券売機へと案内しているが、そんなことをするならマルスを増やし、その駅員に使わせればいいのではと思ってしまう。筆者は30分ほど並び、ようやく切符を買い求めることができた。
筆者は各地の窓口に並ぶたび、客がイライラしているのを目にする。老人が「いつまで並ばせるんだ!」と激怒する場面にも出くわした。最近ではインバウンドの乗客も多くなったが、彼らは長時間にわたって窓口を占拠しがちで、いつまで経っても列が捌けない。インバウンドを呼び込み、さらに高齢者向けの旅行商品ばかり出しておきながら、インバウンドにも高齢者にも使いにくく駅を改悪している。これでは利用者が不満を募らせるのは当然ではないだろうか。
はっきり言って、筆者などは窓口にいちいち並びたくない。「指定席券売機」でできるなら、全部指定席券売機で済ませてしまいたいほどである。では、なぜ窓口に並ぶのか。指定席券売機が使い物にならないためである。駅員からはよく「券売機を使ってください」と誘導されるが、実際に操作を始めてから「あれ、やっぱりできないみたいですね。すみません、窓口で案内させてください」と言われたことが、何度もある。
筆者はライターという職業柄、出張が多いが、新幹線の指定券を事前に買っておくことがよくある。同行する芸能人やスタッフに渡すために買っておくことも多い。しかし、リスケジュールなどによって予定が変わることはままある。例えば、4月14日に使う「東京→仙台」行きの指定券を18日の列車に変更したい。その程度なら券売機でできるだろう……、と思いきや、そんな簡単な変更ができないのだ。
さらに、旅程を変更して、14日の「東京→盛岡」に変更したいとする。こんな変更はよくあるパターンだが、券売機ではそれすらできないのだ。もし14日までに変更できなければ大変である。払い戻しもできなくなり、まるまる損をすることになってしまう。せめて、そのくらいの機能は搭載するべきではないか。
鉄道ファンが利用するような、東京を出発し、各地で途中下車を繰り返しながらぐるり一周して東京に戻ってくる、いわゆる“一筆書き乗車券”といった複雑な切符となれば完全にお手上げである。ルート次第では発券できなくはないが、ローカル線を複雑に乗り継ぐような切符を出すことは非常に難しいのだ。
ちなみに、この記事を書くにあたって現役のJR東日本の職員にも取材し、「これはできる」「これはできない」を確認してもらっている。窓口でも話を聞いた。そのため、間違いはないはずなのだが、職員によると「券売機は、ある日突然、これまでできなかったことが急にできるようになったりもする」ことがよくあるらしく、「駅員の間でも情報が共有できていないし、使いこなしている人は少ないのではないか」と話す。そのため、間違いがあれば指摘してほしい。職員も把握できていないほどシステムが複雑で、ややこしいのが現在の券売機のシステムである。
こうした指定席券売機を少し便利にしたのが、オペレーターと会話をしながら切符が買える「話せる指定席券売機」である。実は、東川口駅の隣の南越谷駅にはそれがある。かつて南越谷駅にはみどりの窓口があったが廃止され、その代替品としてJRが導入したものだが、これも評判が芳しくない機械である。
武蔵野線では窓口が減らされているため、この「話せる券売機」にも沿線から客が殺到している。そのため、休日となれば数人待ちはザラにある。列が捌けてようやく自分の番が回ってきたと思ったら、今度はオペレーターにつながるまで、機械の前で待たなければならないのである。
とにかく、オペレーターにつながるまでに時間がかかりすぎる。画面には“待ち人数”が表示されているが、休日ともなれば10人待ちはザラにあるし、だいたい機械の前で何分も待つのは拷問に近い。後ろの客の視線も気になる。そして、オペレーターも律儀にマスクなどしているものだから、声が聞き取りにくいこともある。画面を通して、コロナウイルスがうつるとでもいうのだろうか。
話せる券売機で不思議なのは、なぜ、窓口にあるマルスとまったく同じ仕様にしないのだろうかという点である。例えば、JR東日本の株主優待券を使って新幹線に乗るとする。乗車券の利用開始日と新幹線特急券の利用開始日が同じであれば、問題なく発券可能だ。ところが、初日は普通列車に乗車し、途中下車して宿泊。翌日から新幹線に乗る…という切符は一発で発券できない。一方、みどりの窓口ではそれができるのだ。そのため、こういった少しでも面倒な切符を作る場合、「窓口のある駅に行ってください……」と案内されてしまうのである。
航空券はスマホやパソコンで購入するのが一般的になりつつある。筆者も航空券はほぼ100%、スマホかパソコンで買っている。おそらく、飛行機で可能なのだから、鉄道でもできるだろうと勘違いして、鉄道会社の担当者は躍起になって電子化を推し進めているのだと思われる。
しかし、飛行機と鉄道ではまったく事情が異なる。飛行機は「羽田→大阪(伊丹)」のように単純なルートで運行されているので、電子化が容易なのである。鉄道の場合、新幹線に乗って東京から新大阪に着いてから、その先も普通列車や特急列車を乗り継ぐことがままある。駅の数も空港とは比べ物にならないし、通るルートも無限にある。そのため、電子化が非常に難しいのである。
おそらく、JRで電子化を行っている担当者は、ほとんど列車に乗ったことがないのだと思う。もしくは、「東京→仙台」のように、新幹線を使う単純な片道切符や往復切符しか買ったことがないのだろう。確かに、そういった切符であれば券売機で代替できているのだ。ひょっとすると、新幹線や特急以外の列車の存在など、意識すらしていないのかもしれない。
解決策としては、指定席券売機の機能を駅員が使用するマルス並みに特化するべきである。そのうえで窓口を減らすなら、百歩譲って理解できる。そうすれば、鉄道ファンも券売機で買うだろうし、機械の扱いに慣れた若者も移行できる気がする。しかし、何ら対策を講じないまま窓口を減らしていくばかりなので、現場の負担ばかりが増えていくし、利用者の不満も募っていくのである。
こうなると、今更だが、国鉄民営化は失敗だったのではないかと思わざるを得ない。国鉄民営化で期待されたことは、サービスの向上であった。確かに、民営化直後はサービスの向上が図られた。しかし、現在のJRの駅では国鉄時代を遥かに超えるサービスの改悪が行われている実態がある。鉄道事業よりも、不動産業のほうに力を入れるようになった印象だ。
JR各社は経費の削減を理由に駅の無人化を進め、さらに駅舎を簡素に改築したり、駅から時計やゴミ箱をなくしたりと、乗客に不便を強いる取り組みばかりを進めている。当然なのだが、それらはことごとく評判が良くない。実際、駅員に話を聞いてみると、乗客からのクレームは相当来ているようである。それがどこまで上に届いているのかは不明だが、現場の労働者もサービスの改悪の被害を受けている被害者と言うことができる。
クレームを受け、罵倒されているのは駅員であり、そうした光景を見るたびに筆者は気の毒になる。このままでは、国鉄時代のように“塩対応”が得意な駅員だけが生き残り、性格が優しく、使命感のある駅員が辞めかねない。みどりの窓口廃止は早急に見直すべきだし、JRは民営化の原点に立ち返ることが重要ではないかと思う。
そして、利用者も、民間の会社がやることだと言って黙って見ているだけでいいのか。公共交通の利便性を守っていくために、声を上げるべきなのではないだろうか。
ライター・宮原多可志
デイリー新潮編集部

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