東京湾・隅田川沿いでウミネコ被害に悩む住民、鳴き声やフンで「精神的にまいってしまった人も」

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東京都内の東京湾や隅田川に近い地域で近年、ウミネコの鳴き声やフンの被害が住民を悩ませている。
ビルやマンションに多くの巣が作られており、各自治体には連日苦情が寄せられている。法律で捕獲が禁じられるなど対応が困難だったが、自治体側は期間を限定してヒナや卵を撤去できる運用を始めたり、業者への撤去費用を負担したりするなど、徐々に対策を強化し始めた。(増田知基)
■住民うんざり
「『ミャーミャー』とビルに反響するうるさい鳴き声と大量のフン。今年もまた来ると思うときつい」
江東区で整骨院を営む男性(44)は、近くを流れる隅田川近くに集まるウミネコについて、うんざりした様子で語る。数年前から付近に飛来するようになり、昼夜を問わず鳴き声を上げ、住民を悩ませているという。「精神的にまいってしまった人もいる。生活環境への影響がとても大きい」と訴える。
区によると、飛来が多く確認されるようになったのは2015年のことだ。
調べてみると、10階程度の高さを持つ建造物の緑化された屋上を好み、多くの巣と卵が確認された。14年度に3件だった苦情は22年度には197件に激増。「フンで洗濯物が汚された」「一晩中、甲高い声が響いて夜眠れない」といった声が寄せられているという。
■津波で南下?
野鳥研究者らでつくる「都心ウミネコ研究会」などによると、1990年代に上野動物園が保護した個体を放鳥して以降、近くの不忍池付近のマンション屋上で繁殖が確認された。2011年の東日本大震災の津波ですみかをなくした群れが、南下して繁殖したとの見方もある。隅田川周辺が好まれているのは、河川敷が広い荒川などと比べて高層建物が川に近く、好む環境に類似することにも関係があるとみられる。
都環境局の担当者は「緑を増やした高層建物が巣作りの場所に狙われている。環境に配慮した結果の緑化なのに」とため息をつく。
研究会の松丸一郎さん(65)は「前年に営巣した所は覚えているので、今は偵察に来る時期だ」と予測し、「急に人を襲うことはないが、ヒナが生まれる5、6月頃は威嚇してくることがあるので注意が必要」と指摘する。
■地域で自衛を
被害は墨田区、台東区、中央区、千代田区でも確認されている。都は自治体から情報を集め、21年度に専門家と対策について協議を始めた。
巣は生物ではないため建物の管理者らが撤去できるが、鳥獣保護法により、ウミネコをむやみに捕獲したり、卵を採取したりすることは禁じられている。
このため、都は22年4月、野生鳥獣の保護や管理を目的に策定する「鳥獣保護管理事業計画」を改定。繁殖する3月~8月、23区に限り、特定の業者らがウミネコの卵とヒナを撤去できるようにした。計画に基づき、22年度はヒナ約30羽、卵約600個が撤去された。
ただ、過去に被害が出た場所では継続的な対策が必要で、担当者は「基本的には自衛の努力をしてもらうしかない」としている。
過去9年間で苦情が3倍に増えた墨田区では、今年3月から撤去費用の補助を始めた。また、江東区は昨年度、ホームセンターで買えるテグス(釣り糸)を屋上の縁に張る方法や、防除網の作り方などを一部地域にチラシで周知した。
江東区環境保全課の佐藤生男課長は「都心以外に誘導できればいいが、鳥の行動を変えるのは難しい。地域の方々に早めの対策をお願いしたい」と呼びかけている。
◆ウミネコ=カモメの仲間。名前は鳴き声がネコに似ていることにちなむ。全長約45センチで、翼を広げると1メートルを超える。黄色い目の周りに赤いアイリングがあるのが特徴。日本各地の海岸で一年中見られる。魚類や魚のあらを好み、小枝や枯れ草などを集めた巣を作る。

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