【白鳥 純一】セレブ化進むニセコに「すき家」が進出…牛丼の値段はそのまま、時給1,650円でアルバイトを雇う「納得の理由」

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北海道の倶知安町とニセコ町にまたがる「ニセコリゾート」は、水分が少なく柔らかいパウダースノーが人気を博し、バブル崩壊後の低迷を経て多くの外国人富裕層が集う人気リゾートへと変貌を遂げた。
そして、高級ホテルの建設ラッシュや著しい物価高騰が進むこのエリアに昨年12月、牛丼チェーン大手のすき家がオープン。全国展開する飲食店としては初のニセコ進出やアルバイトの高額な時給などが話題になったすき家5号倶知安店の現状を、すき家を運営する(株)ゼンショーホールディングス(以下、ゼンショーHD)の広報に伺った。
ゼンショーHD傘下のすき家が昨年12月に「すき家5号倶知安店」(虻田郡倶知安町)を構えたのは、函館本線の倶知安駅に近い国道5号線沿いのエリアだ。
これまで全国展開のチェーン店が少なかった地域であることや、外資企業の進出によって50%の地価上昇率を記録(※)するなど、不動産の取得や店舗の経営を続けるという点で不確定な要素も見られるように思われる。
それでもすき家が他社に先んじて出店を決められた背景には、ゼンショーHDの多角的なブランド展開が挙げられる。(※ヒラフ坂周辺・2020年1月1日時点の1?あたりの土地評価額は72万円で、標準宅地の上昇率で6年連続1位を獲得した)
「ニセコへの出店を目指して物件を探していたというわけではなく、日頃から全国各地への出店計画を進めていく中で、当該地域への進出は決まりました。実際に店舗を設けるにあたっては、さまざまな要素を加味しながら決めていくことになりますが、弊社が自社で店舗の立地開発を進めていることや、全部で約30の飲食ブランドを展開して、周辺状況に合った業態を選べることも大きかったと思います」
先ほど2024年2月に発表した(株)ゼンショーHDの決算によると、連結経常利益は、前年同期比62.2%増の342億円(24年3月期第3四半期累計・4-12月)。
グループ創業のきっかけになった「すき家」以外にも、なか卯、ココス、はま寿司、そして昨年買収したロッテリアなどを抱え日本最大手の外食企業に成長した自社の強みが、他社に先んじてニセコに進出出来た背景にはあるようだ。
北海道内に53店舗(2024年2月末時点)を設けるすき家だが、「5号倶知安店」は、すき家の他店舗があるエリアからは離れた場所に存在している。郊外での店舗運営に定評のある同社。だが、降雪量の多い北海道で、一店舗のために新たな流通網を作ることは、非効率のようにも思えるが…。そこには長年に渡って築いた数々のノウハウが生かされているという。
「配送業務を全て自社で行っているわけではありませんが、傘下に物流会社を持つ強みを活かしながら、本来ならば構築が難しいと思われるような物流網をこれまでも構築してきた実績があります」
だが、2024年度内には後志自動車道の開通。2030年には北海道新幹線の延伸も控えており、首都圏や函館や札幌といった道内各都市からのニセコエリアへのアクセス向上も見込まれる。
担当者は「高速道路が配送ルートに使われるかどうかについては、今の段階では不透明」としつつも、「利便性の向上によって、冬場を中心により多くのお客様に来ていただける可能性がある地域だと思っています。今後も寒い地域でお客様に温かい牛丼を楽しんでいただけるような体制をしっかり整えていきたい」と今後に意欲を覗かせる。
人気のスキーリゾートに設けられた新店舗の一つにすぎなかったはずの「すき家5号倶知安店」が予想外の注目を集めたのは、開店前に掲載された新規アルバイトの募集広告がきっかけだった。
人口約16,000人(2023年1月1日・国勢調査)の倶知安町にある店舗が「時給1,650円、深夜2,088円」(1月末までのオープニング時給)でアルバイトを募っている様子は瞬く間にSNSで拡散され、ニセコバブルを象徴する出来事の一つとして扱われるようになった。
同じ北海道の札幌市内にある店舗(時給1,020~1,300円)や、都内の店舗(時給1,320~1,650円)を上回る「ゼンショーが運営する店舗の中でも高額な部類」という時給は、「周辺の労働市場や出店エリアの状況を調査した上で決められたもの」とのこと。(※現在募集中の札幌桑園店と新宿NSビル店の時給を参考にしています)
「店舗のオープン前から今年の1月末までは、従来の時給よりも150円上乗せさせていただいておりましたが、おかげさまで店舗周辺に住む方々を中心に多くの優秀なスタッフを迎え入れ、24時間営業の店舗を円滑に運営出来る体制が整えられました。既にオープンから2ヶ月ほど経過しましたが、インバウンドで訪日された外国人のお客様を中心に、当初の予想以上のお客様にご来店いただいており、私たちとしても大変嬉しく思っていますし、これからもさまざまなノウハウを活かしながら魅力的な店舗作りを目指していきたいです」と、順調な滑り出しに手応えを覗かせる。
数々の人気牛丼チェーン店を抑え、今は業界一位を走るすき家。ゼンショーグループ全体で7,799億6,400万円(2023年3月期)を売り上げるその強みは、すき家だけで全国1952(2024年2月末時点)に及ぶ(確認)店舗の運営を、本部が直接行っていることにもある。
「決定した指針やオペレーションの変更をすぐに店舗に反映することができる点は、直営でチェーン展開を続ける強みだと思いますし、私たちもこだわりを持っている部分です。既に長年の店舗経営で培ったオペレーションは確立されているところもありますが、このエリアで培った経験を社内全体の更なるサービスの向上に活かしていきたい」と、バブルに湧くリゾートエリアでの新たな挑戦に長期的な視野を見据えながら取り組んでいる。
外国人富裕層で賑わうニセコのインフレは、アルバイトの時給に限った話ではない。
ニセコの周辺で3,000円のカツカレーや2,000円の牛丼が販売されている様子は、連日のようにニュースで取り沙汰されるようになったが、「当該店舗の周辺でそのような傾向が見られることは把握している」としつつも、すき家はこれらの高級路線とは一線を画し、5号倶知安店においても全国各地の店舗と同価格でさまざまなメニューの提供を続けているという。
倶知安を訪れる外国人観光客に人気なのは、牛丼の並盛(価格:400円)。チーズソースと牛肉が絡み合うまろやかな味わいが特徴的な『とろ~り3種のチーズ牛丼』(並盛590円)も、非常に人気が高い商品であるという。
そして「選べる楽しさを大切にしている」というすき家では、12種類(確認)のトッピングメニューを用意。
「豊富に取り揃えたトッピングや、毎月2回登場する新商品などのラインナップによって、ニセコを訪れる外国人観光客の皆さんにも選ぶ楽しさをご提供できているのではないかと思っています。すき家では創業時からテーブル席を設けるなど、ゆっくりと落ち着いてお食事ができる店舗作りを心がけてきました。同店に限った話ではありませんが、これからも老若男女さまざまな皆さんにお越しいただいて、日本の美味しい牛丼の味を手軽に楽しんでいただけたらなと思っています」
価格の高騰が続くリゾートエリアにおいても、普段通りの“庶民的”な価格でビジネスを続けていくすき家。外資系企業の躍進が目覚ましいエリアでの挑戦をこれからも見守っていきたい。
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