フン害で運動場に座れない中学校 超音波でシカ撃退実験 成否は?

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日本海側の山あいにある兵庫県新温泉町立夢が丘中学校に毎晩、シカが進入。運動場にフンが散乱し、体育の授業で生徒が座ることができないほど悩まされている。県が民間企業から解決策を募ったところ、53歳のベンチャー企業経営者がシカが嫌う超音波を出す装置を開発した。ネズミでは効果を上げているというが、シカでの成否はいかに?
ムクドリを追っ払え タカがだめなら特殊音波だ 朝の運動場を歩くと野球のマウンドのそばに黒い粒が転がり、テニスコートのライン際は2本爪の足跡でいっぱいだった。フンは30カ所以上に散らばり、集めると1日で1・5キロほどにもなる。毎朝、掃除をするが、体育の授業ではフンが落ちていれば生徒もおちおち運動場に座れないと、体育館で説明して外で実技だけすることもある。「部活前に顧問がシカを追い払ったこともあり、けががないかとヒヤヒヤした」と田中千尋校長は顔を曇らせた。

新温泉町では、シカの有害鳥獣捕獲数が2015年度の58頭から21年度は1378頭と24倍に急増。町内11の小中学校と認定こども園のうち7カ所は菜園の食害やフンに悩む。生徒数120人の夢が丘中では2年前から十数頭のシカが夜間に植栽やプランターの花を食べるようになった。電気柵は生徒が触るリスクがあり、フェンスも山側の約100メートル全てに設置するのは費用面で難しかった。線路進入防ぐ実績あり 田中校長のSOSを受け、県が解決策を持つ民間企業とのマッチングを進めたところ、設立4年のベンチャー企業「イーマキーナ」(神戸市)の藤井誠社長(53)が手を挙げた。以前に勤めていた会社で大学と共同でネズミが嫌がる周波数帯を突き止め、商品化。会社が事業を切り離したため、藤井さんが同僚2人と引き受けた。ネズミ用の超音波装置(1台9万2000円)は飲食店や食品工場などで約600台が導入されている。 シカにも超音波は効くのだろうか。近鉄は16~19年に三重、奈良県内の線路を横切るシカの通り道5カ所に超音波で線路進入を防止する「シカ踏切」を設置。16年に設置した3カ所で設置前は年間15~17件あった接触事故が21年は0件と大きく減っている。藤井さんも岡山県の島にかかる橋を渡るシカを超音波で半減させた実績があり、シカがより嫌がる周波数を特定しようと実験を続けていた。 イーマキーナの装置は周波数の波形や音圧をランダムに変えて、常に流す。人間にはほとんど聞こえないが、シカには突然大音量で響いたり、低音から急に高音になったりして、その場にいられなくなる仕組みだ。何万通りもの音の組み合わせができ、シカが慣れないようにしているという。 9月末、藤井さんは夢が丘中に午前0時近くまで張り込んでシカの動向を観察。10月11日には、超音波を遠くまで響かせるためのスピーカーをつけた装置12台を、山から校庭への進入経路とみられる6カ所に設置した。周波数の一部は大人には聞こえなくても子どもには聞こえる場合がある。設置場所は生徒の活動場所からできるだけ離し、日中は遠隔操作でストップできるようにした。 夢が丘中でシカは「夢の実現を手助けするヒーロー」として、生徒会のシンボルキャラクターのモチーフになるほど人気者。田中校長は「授業の邪魔だけはしないで」と祈るような表情を浮かべる。今回は23年1月まで、シカのフンが減ったかどうかで効果を確かめる予定だ。藤井さんは「超音波の装置はいろんな製品があり、『効かない』というお客様の声もよく聞く。ここで効果を証明し、新技術でシカ対策に貢献したい」と話している。【井上元宏】
朝の運動場を歩くと野球のマウンドのそばに黒い粒が転がり、テニスコートのライン際は2本爪の足跡でいっぱいだった。フンは30カ所以上に散らばり、集めると1日で1・5キロほどにもなる。毎朝、掃除をするが、体育の授業ではフンが落ちていれば生徒もおちおち運動場に座れないと、体育館で説明して外で実技だけすることもある。「部活前に顧問がシカを追い払ったこともあり、けががないかとヒヤヒヤした」と田中千尋校長は顔を曇らせた。
新温泉町では、シカの有害鳥獣捕獲数が2015年度の58頭から21年度は1378頭と24倍に急増。町内11の小中学校と認定こども園のうち7カ所は菜園の食害やフンに悩む。生徒数120人の夢が丘中では2年前から十数頭のシカが夜間に植栽やプランターの花を食べるようになった。電気柵は生徒が触るリスクがあり、フェンスも山側の約100メートル全てに設置するのは費用面で難しかった。
線路進入防ぐ実績あり
田中校長のSOSを受け、県が解決策を持つ民間企業とのマッチングを進めたところ、設立4年のベンチャー企業「イーマキーナ」(神戸市)の藤井誠社長(53)が手を挙げた。以前に勤めていた会社で大学と共同でネズミが嫌がる周波数帯を突き止め、商品化。会社が事業を切り離したため、藤井さんが同僚2人と引き受けた。ネズミ用の超音波装置(1台9万2000円)は飲食店や食品工場などで約600台が導入されている。
シカにも超音波は効くのだろうか。近鉄は16~19年に三重、奈良県内の線路を横切るシカの通り道5カ所に超音波で線路進入を防止する「シカ踏切」を設置。16年に設置した3カ所で設置前は年間15~17件あった接触事故が21年は0件と大きく減っている。藤井さんも岡山県の島にかかる橋を渡るシカを超音波で半減させた実績があり、シカがより嫌がる周波数を特定しようと実験を続けていた。
イーマキーナの装置は周波数の波形や音圧をランダムに変えて、常に流す。人間にはほとんど聞こえないが、シカには突然大音量で響いたり、低音から急に高音になったりして、その場にいられなくなる仕組みだ。何万通りもの音の組み合わせができ、シカが慣れないようにしているという。
9月末、藤井さんは夢が丘中に午前0時近くまで張り込んでシカの動向を観察。10月11日には、超音波を遠くまで響かせるためのスピーカーをつけた装置12台を、山から校庭への進入経路とみられる6カ所に設置した。周波数の一部は大人には聞こえなくても子どもには聞こえる場合がある。設置場所は生徒の活動場所からできるだけ離し、日中は遠隔操作でストップできるようにした。
夢が丘中でシカは「夢の実現を手助けするヒーロー」として、生徒会のシンボルキャラクターのモチーフになるほど人気者。田中校長は「授業の邪魔だけはしないで」と祈るような表情を浮かべる。今回は23年1月まで、シカのフンが減ったかどうかで効果を確かめる予定だ。藤井さんは「超音波の装置はいろんな製品があり、『効かない』というお客様の声もよく聞く。ここで効果を証明し、新技術でシカ対策に貢献したい」と話している。【井上元宏】

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