池袋“パパ活”82歳男性刺した26歳女「貢ぐため」女を追い詰めた“売春のノルマ”と“暴力”

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「ホテル代別のイチャイチャで1万です」。女が法廷で明かした、被害男性との“パパ活”の値段。イチャイチャとは「一緒に風呂に入ったり、添い寝したりすること」だ。ホテルで82歳の男性を刺して死なせた26歳の女は、売春を繰り返していた。それは好きな男性に貢ぐためだった。売春のノルマは「毎日最低2万円」。女には知的障害があり、男性による巧みな言葉と暴力で“支配”される中、事件は起きた。
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被告:私のせいで死なせたおじいさんのことで、とても後悔しています
2024年2月、東京地裁で始まった裁判。黒のスーツ、お団子ヘアの藤井遥被告(26)は、こう謝罪した。2022年1月、東京・池袋のホテルで男性(当時82)の太ももや胸をカッターナイフで刺して死亡させた傷害致死罪などに問われている。男性がシャワーを浴びている隙に、財布から現金を盗んだところ、男性に気付かれて口論になった。当時24歳だった藤井被告は、男性A(当時29)とネットカフェ等で寝泊まりしながら「ほぼ毎日」売春をしていた。 【被告人質問】ーー売春して金を稼ぐこと、どう思っていた?稼げるからいっか、と我慢していましたーー何のために売春していた?貢ぐためです
逮捕後の鑑定で軽度の知的障害、注意欠如・多動症(ADHD)と診断された藤井被告。Aとは、広島に住んでいる時にネットゲームで知り合った。事件の7か月前、Aと初めて会い「一緒にいたい」と好意を抱く。そのまま広島に戻ることなく、東京での暮らしが始まった。売春で稼いだ金は「Aに全部渡していた」という。
売春のノルマは「毎日最低2万円」。売春にはA、Aの弟、Aの交際相手の女性が加担していた。AとAの弟がトラブル時の対応、Aの交際相手が出会い系サイトで売春の客探しをする、という役割分担だった。
【Aの供述調書】被告に恋愛感情はなく、私のことが好きという気持ちを利用し、売春で「金儲けする道具」としてしか見ていなかった。(受け取った金で)交際相手に貢いだり、弟に小遣いを渡したりしていた。
藤井被告は売春だけでなく、客の現金などを盗む「抜き」も頻繁に行っていた。Aは暴力をふるうことで、さらに藤井被告を“支配”していった。
【被告人質問】ーー暴力の頻度は?ほぼ毎日。(Aは)お腹なぐったり、けったり、髪引っ張ったりしていましたーー暴力をふるう人と「一緒にいたい」と?当時は思っていましたーーなぜ?怖かったからです
暴力が原因で警察に2回保護され、Aと離れて暮らしたこともあった。しかし、Aから「客の金を返さないと警察に届けるぞ」と脅され、事件の3週間前に東京に戻ったのだ。
藤井被告は3人姉妹の長女。広島で生まれ育った。証人として出廷した母親は「落ち着きがなく、おてんばで、手のかかる子だった」と語った。
【母親への証人尋問】ーー知的障害やADHDは、どんな形で幼少期にあらわれた?友達の物をとったり、授業中落ち着いていられなかったり、順番を守らなかったり、忘れ物が多かったーー物をとる、具体的には?隣の席の子の消しゴムや鉛筆を「かわいいな」と思って持って帰ってしまうことが毎日のようにあった
「いじめの対象」にもなった。校庭に大きく「お前なんか死ね」と書かれたほか、集合写真の顔に画びょうをさされたり、靴を隠されたりした。
小学校5年生から特別支援学級に。その後、特別支援学校の中学部・高等部に進んだ。特別支援学校では先生との信頼関係も厚く、トラブルも少なかったという。だが高等部を卒業すると「福祉の人たちとの関わりが少なくなっていった(母親の証言)」。そして藤井被告は、薬を過剰摂取するオーバードーズや自傷行為で、救急搬送や入退院を繰り返すようになった。
藤井被告には4歳の娘がいる。Aと出会う前の22歳の時、広島で出産した。娘の父親は誰か、裁判では明らかになっていない。
【被告人質問】ーー赤ちゃんが生まれてどう思った?これからつらいこともある、楽しいこともある人生だけど、一緒に生活できたらいいなと思っていました
だが、藤井被告はまもなく、子どもを置いて家出をしてしまう。
ーーなぜ家を出た?ちょっとだけ育児に疲れたからーー育児のどこに疲れた?分からないです
いったんは児童養護施設に引き取られた娘。その後、藤井被告の母親が特別養子縁組をおこない、今も育てている。
【母親への証人尋問】ーー被告が東京に行った後、連絡は?公衆電話からかかってきて「帰りたいからお金を送ってくれないか」と言われたーーどう対応?「お金送るから帰ってきなさい」と娘の口座に振り込んだが帰ってこなかった
藤井被告の携帯はモバイル通信が利用できず、Wi-Fi環境が整ったところでしか連絡が取れなかった。「迎えに行けばよかったです」。母親は後悔を口にした。
事件の日、藤井被告は東京・八王子で別の男性とも売春をしている。その後、犯行現場となる池袋にひとりで向かった。Wi-Fiが利用できるマンガ喫茶に入り、AとのLINEで念押しされたのは「毎日最低2万円」というノルマだった。
【犯行約3時間前のLINE】A「とりあえずノルマだけは頑張れよ」「それは自分でいうたやろ?」「2も」被告「うん」「がんばる」A「はいよ またあとで」被告「Aはどれぐらいにくるので」A「やることまずしな それからやから 何回もいわせんな」被告「ごめんなさい」A「約束だけ守ってね」被告「はい」
犯行後、藤井被告はAとAの弟に「おじいさんを刺した」と告白して一緒に逃走。藤井被告自身が、名前を名乗らずに公衆電話から110番通報したことで事件は発覚した。
【被告人質問】ーーなぜ警察を呼んだ?助けようと思って呼びました
AとAの弟も犯人隠避容疑で逮捕されたが、その後、不起訴処分になっている。
藤井被告側は「犯行時、幻覚・幻聴があった」と主張している。ただ「刑事責任能力があった」ことに争いはない。精神鑑定を行った医師は、藤井被告の障害について「犯行に直接的な影響があったとは言えない」と証言した。一方で「障害により危険なことを軽はずみに行う傾向が強かった」と述べた。
精神科医:被告は社会生活の困難さ、障害のために「好ましからざる」コミュニティに属しやすい環境にいた
弁護側は「障害の影響を考慮し、懲役4年が相当」としている。一方、検察側は懲役9年を求刑した。
【最終意見陳述】生きている限り背負って生きていこうと思っています。被害者と遺族のことを考えながら生活したいと思っています
藤井被告の後ろ姿を見ながら、傍聴席では母親が涙していた。判決は2月20日に言い渡される。
(TBSテレビ社会部 司法記者クラブ 高橋史子)

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