【田中 ひかる】生理用品、着替え、性被害…避難所生活の大問題、なんと6割の自治体が「防災部署に女性職員ゼロ」の現実

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元旦に能登半島を襲った大地震は甚大な被害をもたらし、発災から1ヵ月になろうとする今も、避難所で不便な生活を強いられている方が大勢いる。
トイレ一つ取っても、数が足りない、ドアが壊れている、汚れがひどくて使用できないといった問題が指摘されており、使用する回数を減らすため、水分を控える被災者もいる。極寒の中、平常とは異なる環境で、トイレまで我慢しなければならない状況では、たちまち体調不良に陥ってしまう。
なぜ日本は自然災害大国であるにもかかわらず、いつまで経っても避難所生活がアップデートされないのか。この記事では特に、避難所で女性が直面する問題を取り上げ、解消のための手がかりとしたい。
大きな災害が発生するたびに話題になるのが、避難所における生理用品の取り扱いである。東日本大震災の際には、避難所を取り仕切る男性が、支援物資として送られてきた生理用品を「こんな時に不謹慎だ」と受け取らなかったという驚くべき話が広まった。
現在、災害時の支援物資として生理用品が必需品であるという認識は広く共有されるようになったものの、必要な人にスムーズに届いている状況とは言いがたい。避難所の支援物資の配布担当に女性がいないため、生理用品が欲しいと言いづらいという話や、生理用ナプキンが1人に1枚ずつしか配られないという話は、枚挙にいとまがない。
こうした問題は生理に対する無理解から生じるため、避難所運営に女性が関われば容易に解決されるはずだが、そもそも自治体の防災担当の部署に女性職員が少ない。2022年に内閣府男女共同参画局が全国の自治体を対象に行った調査によれば、全体の61.1%にあたる1063の自治体で、防災担当の部署に女性職員が1人もいなかった。こうした自治体では、生理用品などの女性用品や、哺乳瓶やおむつなどの備蓄に遅れが見られた。
生理に対する無理解と言えば、今回、市販の生理用ナプキンの代用品として、布ナプキンを勧める記事が批判を浴びた。布ナプキンは洗濯のための水を必要とし、洗濯後は干さねばならないため、避難所生活には向かない。災害時に布ナプキンが役に立つとすれば、東日本大震災時のように、被災地以外でも生理用品が不足する場合だろう。市販の生理用品は優先的に被災地へ送り、被災地以外の洗濯ができる地域では布ナプキンを使用すれば、ささやかな災害支援になる。
今回、能登半島のある避難所では、必要な人が自由に持っていけるように、生理用品を他の支援物資と同様に並べていたが、この方法についてSNSでは「人目のあるところで生理用品を手に取るのは恥ずかしいのではないか」という声が上がった。最近では「生理は恥ずかしいことではないのだから、生理用品も隠す必要はない」と考える女性も増えているが、そうでない女性もいる。また、「生理は恥ずかしくはないけれど、自分が生理中であることを他人に知られたくない」と考える女性もいる。したがって、生理用品の配布には配慮が必要である。
この避難所でテレビ局の取材を受けた女性は「何か困っていることはないか」との質問に、遠慮がちに「仕切りがないので、着替えができない」と答えていた。避難所ではこれまでも、着替えているところや授乳しているところをジロジロ見られて不快だったという女性が少なからずおり、盗撮の被害も出ている。今回も、着替えのためだけに半壊した自宅へ帰るという女性がおり、余震が続くなか、命の危険もありうる。したがって、女性が安心して着替えができるようなスペースは必須である。生理用品も女性専用スペースへ置いておけば、手に取りやすい(最も理想的なのは、女性専用のトイレに衛生的に設置することである)。
少し前に島根県内の道の駅に導入され、「安普請だ」と非難を浴びた「段ボール授乳室」をいくつか設置するだけでも、授乳室としてはもちろん、更衣室としても使える。そもそも「段ボール授乳室」は、東日本大震災で被災した女性が考案したもので、すでに活用している避難所もある。
もちろん、女性が安心して休むことのできる部屋が確保できればそれに越したことはない。避難所に限らず、覗きや盗撮、その他の性被害に遭うのは圧倒的に女性であり、これまでも被災地で深刻な性犯罪が多発している。今回の被災地でもすでに、「不同意わいせつ罪」で19歳の男性が逮捕されている。
1月10日付の産經新聞によれば、「日本衛生材料工業連合会」が国の要請を受けて、8万枚以上の生理用ナプキンを被災地へ送った。被災した自治体からの要請もあるという。こうした動きに対し、SNSでは「生理用品より、水や食料の方が大事だ」という声が上がったが、多くの女性や医師たちから「経血の処置をおざなりにすることは、当の女性の健康を損なうのみならず、避難所全体の衛生問題にも関わる」という反論が殺到した。
また、「女性に生理用品を配るなら、男性にも何か配らないと不公平だ」という意見には、「女性だけが生理にわずらわされることの方が不公平だ」という反論が見られた。生理用品など要らないから、生理自体をなくしてほしいというのが、多くの女性の本音ではないだろうか。最近では、低容量ピルなどで生理をコントロールしている女性も多いが、被災地では薬の入手も難しいだろう。
ところで、生理をコントロールすることは、いわゆる「経血コントロール」とは異なる。「経血コントロール」とは、自分の意志で経血を止めたり(溜めたり)出したりすることを指し、訓練次第でできるようになるとされているが、それは間違いである。こうした誤った認識は、生理用品の軽視や、布ナプキンで事足りるとする考え方につながるため、有害である。
今回、支援物資として被災地へ送られている生理用品は、最終的には余る可能性もあるが、無駄にはならない。2021年春頃から「生理の貧困(生理への対処が十分にできない状態)」対策として、全国の自治体が生理用品の無償配布を始めたが、その際、多くの自治体が災害用に備蓄されていた生理用品を活用した。生理用品にも使用期限があるため、備蓄品を定期的に無償配布することは理に適っている。支援物資の生理用品が余った場合も、自治体の判断で「生理の貧困」対策として有効活用することができるのだ。
さて、この記事では、避難所における女性の困りごとについて述べてきた。対策として、自治体の防災担当の部署や避難所の運営に女性を配す、女性専用スペースを設けるといったごく基本的な提案を行った。しかしこれらは、以前から繰り返し主張されていることである。
内閣府男女共同参画局が2020年に作成した防災・復興ガイドラインの「避難所チェックシート」にも、「管理責任者には男女両方を配置している」「男女別更衣室、男女別休養スペースがある」「女性専用スペース(女性用品の配置・女性相談)がある」といった項目のほか、「トイレの個室内、トイレまでの経路に夜間照明が設置されている」「就寝場所や女性専用スペース等へ巡回警備が行われている」といった項目もある。
しかし残念ながら、このガイドラインは現実の避難所にほとんど反映されていない。なにしろすでに述べたように、防災担当部署に女性職員が1人もいない自治体が6割を占めているのだ。女性職員をせめて1人配するということが、そんなに難しいことなのだろうか。被災者の半数は女性なのだ。
女性の困りごとに限らず、現状の避難所生活は問題山積である。申し分のないガイドラインは存在する。いざというときにこれを実現できるよう、明日は我が身の思いで、地元の防災対策、避難所運営の方針を確認し、不足があると感じたら、声を上げていくことが重要である。
・内閣府男女共同参画局「地方公共団体における男女共同参画の視点からの防災・復興に係る取組状況について フォローアップ調査結果(概要)」(2023年5月)https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/pdf/chousa/r4_zentaigauyou.pdf・内閣府男女共同参画局「災害対応力を強化する女性の視点~男女共同参画の視点からの防災・復興ガイドライン~」(2020年5月)https://www.gender.go.jp/policy/saigai/fukkou/pdf/guidelene_01.pdf

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