東大の入試問題が「小学生でも解ける」深すぎる訳

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東大の入試では、「小学生程度の知識があれば解けるけど、大人でも難しい」問題がよく出るといいます。その理由とは、何なのでしょうか?(画像:8×10/PIXTA)
「東大に入学して、驚きました。まわりの東大生たちは、勉強にかぎらず、語学、プログラミング、スポーツ、芸術など、いろいろな分野でやたらと上達が速いんです」
そう語るのが、2浪、偏差値35から奇跡の東大合格を果たした西岡壱誠氏。でもそれは、彼らに「才能がある」ということではないといいます。
「100人以上の東大生に勉強法を聞いて、確信しました。彼らが優れているのは『才能』ではなく、『独学の方法』です。その方法を使えば、誰でも、どんなことでも圧倒的に上達できるようになる。実際、もともと偏差値35だった僕自身も、その方法で東大に受かりました」
そんな独学の方法を解説した40万部突破シリーズの新刊『「学ぶ力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大独学』が刊行されました。ここでは、著者の西岡氏の最新作『小学生でも解ける東大入試問題 』(SB新書)でも解説した、東大入試問題の「特徴」を紹介します。
みなさんは、「東大は、『知識の量』を重視しない」と言われたらどう思いますか?
「いやいや、そんなわけないじゃん」「東大は、たくさんの知識を持っている人じゃないと合格できないんでしょ?」と思うかもしれません。偏差値的に、日本でいちばん難しい大学であると言われる東京大学。そんな大学が、「知識の量」を重視しない、というのはにわかには信じがたいですよね。でもこれ、実際に東大が表明していることなんです。僕が2浪して東京大学に入学した日、衝撃的な出来事に出会いました。それは入学式のこと。当時の東大の総長である五神真先生が、式辞でこんなふうに語ったのです。試験の手応えは如何だったでしょうか。私たちは知識の量ではなく、基本となる知識を柔軟な発想によって使いこなす力こそが大学での学びへの備えとして最も大切だと考えています。そのような期待を込めて出題させて頂きました。その期待にしっかり応えてくださった皆さんをここに迎え、これから仲間として共に活動できることを大変嬉しく思っています。出所:東京大学ホームページ「知識の量ではなく、基本となる知識を柔軟な発想によって使いこなす力」という言葉は、僕にとってとても衝撃的でした。というのも、この概念は今まで僕が考えていた「勉強」というものの定義とかけ離れていたからです。僕は小学校でも中学校でも高校でも、「知識の量」を増やすための勉強をしていました。英単語帳を何周もして暗記し、漢字の書き取りをし、数学の公式を暗記し、歴史の年号や化学の公式を覚えて、定期テストで赤点を取らないように努力する……そんなことの繰り返しが「勉強」だと思っていました。多くの人にとっても、勉強ってそういうものだと思います。とにかく覚えるのが勉強であり、その知識の量が測られるのがテストであり、入試問題である、と。東大の考える「勉強」という概念しかし、東大の考える「勉強」という概念は、そういうものではないそうなのです。東大のアドミッションポリシーにも、これと同じ話が載っています。東大の公式ホームページの「受験生に求める能力」のところに、こんなことが書かれているのです。「知識を詰めこむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視します」つまり、知識量や知識を詰め込むだけが「勉強」ではなく、たとえ少ない知識であったとしても、その「活用法」を学ぶことこそが「勉強」だと東大は考えている、ということです。では、その活用法というのは、いったいどういうものなのでしょうか?その答えは、東大の入試問題に表れています。例えば、これまで次のような問題が出題されています。「あなたの気象の知識を使って、『なぜ、朝焼けは雨、夕焼けは晴れなのか』という問いに答えなさい」「なぜシャッター通り商店街は増えているのか答えなさい」「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」東大の入試問題といえば、非常に難解で重箱の隅をつつくような細かい知識が求められる問題が出題されるというイメージがあるかもしれませんが、実際に出題される問題はそのイメージとはまったく違います。むしろ正反対と言ってもいいくらいです。東大の入試問題は、正解にたどりつくのに必要な「知識」自体は本当に小学生レベルの最低限のものである場合も多いです。テーマとしても、大学の教科書に載っているような難しいものではなく、日常生活に立脚するありふれたテーマが選ばれます。しかし、「小学生レベルの知識」を「上手に」使いこなすことができないと、どんなに知識を蓄えている人でも簡単に不正解になってしまうのです。あらゆる科目で「知識を上手に使いこなす力」が必要これは本当に、全科目共通の話です。例えば数学では、他の大学では「いかに難しい公式を覚えているか」を問うような入試問題が出題されるのに対して、東大は真逆で、「簡単な公式でも、その公式がどのようにして成り立っているのか」が問われます。他の大学で難しい三角関数の問題が出題されている中で、東大だけは「sinとcosの定義を答えなさい」「加法定理を証明しなさい」という問題が出題されていました。覚えている知識の量ではなく、最低限の知識でも、その知識を意味もわからず使っていないかどうか、きちんと活用できる人なのかどうかが問われるわけです。英語でも同じです。例えば京都大学や早稲田大学などでは難解な単語やとても難しい文法を使った英文を「日本語に訳しなさい」とか「これはどういうことか、4つの中から選びなさい」というような問題が出題されます。それに対して、東大は中学で習うようなレベルの英単語・英文法、もっと言えば小学生でも知っているような英単語を題材にします。例えば、「order」という英単語を使った問題が2014年に出題されました。「文中のorderという英単語の意味を考えて、その意味と同じ使い方をしているorderを、次の5つの英文から1つ選びなさい」というものです。「order」という英単語は小学生でも知っています。注文とか命令とか、順番という意味ですね。みなさんもお店で店員さんに「オーダーお願いします!」なんて言ったことがあるのではないでしょうか。これを東大は、ちょっと捻って出題します。例えば「alphabetical order」とはどういう意味になるでしょうか?これは、「アルファベットの順番=A・B・Cの順番」という意味になります。orderには「順番」という意味があると言いましたが、それをアルファベットと結びつけたら答えがわかるはずです。また、彼女の部屋は「good order」が保たれている、といったらどういう意味かわかりますか? この「order」は「順番」から派生して、きちんときれいに「整頓されている」という意味であり、「彼女の部屋はいつも綺麗に整頓されている」という意味になるのです。東大は、このように「類推」ができれば受かる入試問題を出題しているのです。何度も言いますが「order」自体は小学生でも知っているようなポピュラーな単語です。普段「オーダー」と日常の中で使う中で、「そういえばオーダーってどういう意味なんだろう?」と一度でも考えたことがある人なら、解くのは簡単です。「知識を使いこなす力」を強く求められる時代東大では「知識ではなくそれを活用する問題」が出題されていることは、ご理解いただけたと思います。そしてたしかに、こちらのほうが真に「頭の良さ」を問えると僕は思います。例えば英単語を丸暗記して「この単語はこういう意味とこういう意味がある」と覚えていただけでは、それがちょっと捻って登場したり、何かと組み合わさって出てきたときに、問題を解くことはできません。そうではなく、最低限の知識から類推して、「おそらくこういう意味なんじゃないか」と解を求められる人が求められているのです。例えば、「detach」という英単語があります。この英単語、みなさんは意味を知っていますか?単語帳でもなかなか出てこない単語なので、暗記していない人が大半だと思います。ですが、これも類推できます。「de」とはマイナスの意味を持つ言葉だというのはなんとなくわかるはず。「deflation(デフレ)」だとか「decrease(減少する)」とか、そういう言葉についているから、否定のニュアンスなんだろうなというのはわかります。では、「tach」はどうでしょうか? 似たような言葉を知りませんか? 「tach」は「touch(タッチ)」という言葉によく似ています。触る・触れるという意味ですね。このように考えていけば、「detach」は「触れる」の「否定」なので、「離す」だと推測できるのではないでしょうか。こうやって、知らない知識を今までの知識と結びつけて、その場で理解できる能力があるほうが、価値が高いのです。覚えられる量には限界があり、暗記だけでは解けない問題も多いです。それは本当の頭のよさではない。真に頭のいい人は、今までの知識を応用して、その場で答えを思いつく人のことです。そっちのほうが社会で求められるニーズに合っており、そういう人はものをたくさん覚えているわけではないけれど、応用してその知識をいくらでも増やすことができるわけです。あらゆる入試が「東大入試」のようになっていくもっと言えば、このような流れは東大の入試問題だけではありません。2020年入試改革以降実施されている共通テストは、それまでの知識偏重のセンター試験を変えて、知識量ではなく思考力を求める問題を出題するようになりました。また共通テストが変わったからこそ、ここからは他の大学でもこのような入試問題が増えると言われていて、また事実もう、そういう問題がどこの大学でも増えつつあるのです。いかがでしょうか? この記事を読んでいる人の中には親御さんもいらっしゃると思いますが、そういう方にはぜひ、お子さんの「知識量ではなく、それを活用する能力」を高めることを意識してもらいたいと思います。これからの時代、勉強の概念はきっと、そういう方向にシフトしていくことでしょうから、僕は強くおすすめさせていただきたいです。(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)
「いやいや、そんなわけないじゃん」
「東大は、たくさんの知識を持っている人じゃないと合格できないんでしょ?」
と思うかもしれません。
偏差値的に、日本でいちばん難しい大学であると言われる東京大学。そんな大学が、「知識の量」を重視しない、というのはにわかには信じがたいですよね。
でもこれ、実際に東大が表明していることなんです。
僕が2浪して東京大学に入学した日、衝撃的な出来事に出会いました。
それは入学式のこと。当時の東大の総長である五神真先生が、式辞でこんなふうに語ったのです。
試験の手応えは如何だったでしょうか。
私たちは知識の量ではなく、基本となる知識を柔軟な発想によって使いこなす力こそが大学での学びへの備えとして最も大切だと考えています。
そのような期待を込めて出題させて頂きました。
その期待にしっかり応えてくださった皆さんをここに迎え、これから仲間として共に活動できることを大変嬉しく思っています。
出所:東京大学ホームページ
「知識の量ではなく、基本となる知識を柔軟な発想によって使いこなす力」という言葉は、僕にとってとても衝撃的でした。
というのも、この概念は今まで僕が考えていた「勉強」というものの定義とかけ離れていたからです。僕は小学校でも中学校でも高校でも、「知識の量」を増やすための勉強をしていました。英単語帳を何周もして暗記し、漢字の書き取りをし、数学の公式を暗記し、歴史の年号や化学の公式を覚えて、定期テストで赤点を取らないように努力する……そんなことの繰り返しが「勉強」だと思っていました。多くの人にとっても、勉強ってそういうものだと思います。とにかく覚えるのが勉強であり、その知識の量が測られるのがテストであり、入試問題である、と。東大の考える「勉強」という概念しかし、東大の考える「勉強」という概念は、そういうものではないそうなのです。東大のアドミッションポリシーにも、これと同じ話が載っています。東大の公式ホームページの「受験生に求める能力」のところに、こんなことが書かれているのです。「知識を詰めこむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視します」つまり、知識量や知識を詰め込むだけが「勉強」ではなく、たとえ少ない知識であったとしても、その「活用法」を学ぶことこそが「勉強」だと東大は考えている、ということです。では、その活用法というのは、いったいどういうものなのでしょうか?その答えは、東大の入試問題に表れています。例えば、これまで次のような問題が出題されています。「あなたの気象の知識を使って、『なぜ、朝焼けは雨、夕焼けは晴れなのか』という問いに答えなさい」「なぜシャッター通り商店街は増えているのか答えなさい」「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」東大の入試問題といえば、非常に難解で重箱の隅をつつくような細かい知識が求められる問題が出題されるというイメージがあるかもしれませんが、実際に出題される問題はそのイメージとはまったく違います。むしろ正反対と言ってもいいくらいです。東大の入試問題は、正解にたどりつくのに必要な「知識」自体は本当に小学生レベルの最低限のものである場合も多いです。テーマとしても、大学の教科書に載っているような難しいものではなく、日常生活に立脚するありふれたテーマが選ばれます。しかし、「小学生レベルの知識」を「上手に」使いこなすことができないと、どんなに知識を蓄えている人でも簡単に不正解になってしまうのです。あらゆる科目で「知識を上手に使いこなす力」が必要これは本当に、全科目共通の話です。例えば数学では、他の大学では「いかに難しい公式を覚えているか」を問うような入試問題が出題されるのに対して、東大は真逆で、「簡単な公式でも、その公式がどのようにして成り立っているのか」が問われます。他の大学で難しい三角関数の問題が出題されている中で、東大だけは「sinとcosの定義を答えなさい」「加法定理を証明しなさい」という問題が出題されていました。覚えている知識の量ではなく、最低限の知識でも、その知識を意味もわからず使っていないかどうか、きちんと活用できる人なのかどうかが問われるわけです。英語でも同じです。例えば京都大学や早稲田大学などでは難解な単語やとても難しい文法を使った英文を「日本語に訳しなさい」とか「これはどういうことか、4つの中から選びなさい」というような問題が出題されます。それに対して、東大は中学で習うようなレベルの英単語・英文法、もっと言えば小学生でも知っているような英単語を題材にします。例えば、「order」という英単語を使った問題が2014年に出題されました。「文中のorderという英単語の意味を考えて、その意味と同じ使い方をしているorderを、次の5つの英文から1つ選びなさい」というものです。「order」という英単語は小学生でも知っています。注文とか命令とか、順番という意味ですね。みなさんもお店で店員さんに「オーダーお願いします!」なんて言ったことがあるのではないでしょうか。これを東大は、ちょっと捻って出題します。例えば「alphabetical order」とはどういう意味になるでしょうか?これは、「アルファベットの順番=A・B・Cの順番」という意味になります。orderには「順番」という意味があると言いましたが、それをアルファベットと結びつけたら答えがわかるはずです。また、彼女の部屋は「good order」が保たれている、といったらどういう意味かわかりますか? この「order」は「順番」から派生して、きちんときれいに「整頓されている」という意味であり、「彼女の部屋はいつも綺麗に整頓されている」という意味になるのです。東大は、このように「類推」ができれば受かる入試問題を出題しているのです。何度も言いますが「order」自体は小学生でも知っているようなポピュラーな単語です。普段「オーダー」と日常の中で使う中で、「そういえばオーダーってどういう意味なんだろう?」と一度でも考えたことがある人なら、解くのは簡単です。「知識を使いこなす力」を強く求められる時代東大では「知識ではなくそれを活用する問題」が出題されていることは、ご理解いただけたと思います。そしてたしかに、こちらのほうが真に「頭の良さ」を問えると僕は思います。例えば英単語を丸暗記して「この単語はこういう意味とこういう意味がある」と覚えていただけでは、それがちょっと捻って登場したり、何かと組み合わさって出てきたときに、問題を解くことはできません。そうではなく、最低限の知識から類推して、「おそらくこういう意味なんじゃないか」と解を求められる人が求められているのです。例えば、「detach」という英単語があります。この英単語、みなさんは意味を知っていますか?単語帳でもなかなか出てこない単語なので、暗記していない人が大半だと思います。ですが、これも類推できます。「de」とはマイナスの意味を持つ言葉だというのはなんとなくわかるはず。「deflation(デフレ)」だとか「decrease(減少する)」とか、そういう言葉についているから、否定のニュアンスなんだろうなというのはわかります。では、「tach」はどうでしょうか? 似たような言葉を知りませんか? 「tach」は「touch(タッチ)」という言葉によく似ています。触る・触れるという意味ですね。このように考えていけば、「detach」は「触れる」の「否定」なので、「離す」だと推測できるのではないでしょうか。こうやって、知らない知識を今までの知識と結びつけて、その場で理解できる能力があるほうが、価値が高いのです。覚えられる量には限界があり、暗記だけでは解けない問題も多いです。それは本当の頭のよさではない。真に頭のいい人は、今までの知識を応用して、その場で答えを思いつく人のことです。そっちのほうが社会で求められるニーズに合っており、そういう人はものをたくさん覚えているわけではないけれど、応用してその知識をいくらでも増やすことができるわけです。あらゆる入試が「東大入試」のようになっていくもっと言えば、このような流れは東大の入試問題だけではありません。2020年入試改革以降実施されている共通テストは、それまでの知識偏重のセンター試験を変えて、知識量ではなく思考力を求める問題を出題するようになりました。また共通テストが変わったからこそ、ここからは他の大学でもこのような入試問題が増えると言われていて、また事実もう、そういう問題がどこの大学でも増えつつあるのです。いかがでしょうか? この記事を読んでいる人の中には親御さんもいらっしゃると思いますが、そういう方にはぜひ、お子さんの「知識量ではなく、それを活用する能力」を高めることを意識してもらいたいと思います。これからの時代、勉強の概念はきっと、そういう方向にシフトしていくことでしょうから、僕は強くおすすめさせていただきたいです。(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)
というのも、この概念は今まで僕が考えていた「勉強」というものの定義とかけ離れていたからです。
僕は小学校でも中学校でも高校でも、「知識の量」を増やすための勉強をしていました。英単語帳を何周もして暗記し、漢字の書き取りをし、数学の公式を暗記し、歴史の年号や化学の公式を覚えて、定期テストで赤点を取らないように努力する……そんなことの繰り返しが「勉強」だと思っていました。
多くの人にとっても、勉強ってそういうものだと思います。とにかく覚えるのが勉強であり、その知識の量が測られるのがテストであり、入試問題である、と。
しかし、東大の考える「勉強」という概念は、そういうものではないそうなのです。
東大のアドミッションポリシーにも、これと同じ話が載っています。東大の公式ホームページの「受験生に求める能力」のところに、こんなことが書かれているのです。
「知識を詰めこむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視します」
つまり、知識量や知識を詰め込むだけが「勉強」ではなく、たとえ少ない知識であったとしても、その「活用法」を学ぶことこそが「勉強」だと東大は考えている、ということです。
では、その活用法というのは、いったいどういうものなのでしょうか?
その答えは、東大の入試問題に表れています。例えば、これまで次のような問題が出題されています。
「あなたの気象の知識を使って、『なぜ、朝焼けは雨、夕焼けは晴れなのか』という問いに答えなさい」「なぜシャッター通り商店街は増えているのか答えなさい」「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」
東大の入試問題といえば、非常に難解で重箱の隅をつつくような細かい知識が求められる問題が出題されるというイメージがあるかもしれませんが、実際に出題される問題はそのイメージとはまったく違います。むしろ正反対と言ってもいいくらいです。
東大の入試問題は、正解にたどりつくのに必要な「知識」自体は本当に小学生レベルの最低限のものである場合も多いです。テーマとしても、大学の教科書に載っているような難しいものではなく、日常生活に立脚するありふれたテーマが選ばれます。
しかし、「小学生レベルの知識」を「上手に」使いこなすことができないと、どんなに知識を蓄えている人でも簡単に不正解になってしまうのです。
これは本当に、全科目共通の話です。
例えば数学では、他の大学では「いかに難しい公式を覚えているか」を問うような入試問題が出題されるのに対して、東大は真逆で、「簡単な公式でも、その公式がどのようにして成り立っているのか」が問われます。他の大学で難しい三角関数の問題が出題されている中で、東大だけは「sinとcosの定義を答えなさい」「加法定理を証明しなさい」という問題が出題されていました。
覚えている知識の量ではなく、最低限の知識でも、その知識を意味もわからず使っていないかどうか、きちんと活用できる人なのかどうかが問われるわけです。
英語でも同じです。例えば京都大学や早稲田大学などでは難解な単語やとても難しい文法を使った英文を「日本語に訳しなさい」とか「これはどういうことか、4つの中から選びなさい」というような問題が出題されます。
それに対して、東大は中学で習うようなレベルの英単語・英文法、もっと言えば小学生でも知っているような英単語を題材にします。
例えば、「order」という英単語を使った問題が2014年に出題されました。「文中のorderという英単語の意味を考えて、その意味と同じ使い方をしているorderを、次の5つの英文から1つ選びなさい」というものです。
「order」という英単語は小学生でも知っています。注文とか命令とか、順番という意味ですね。みなさんもお店で店員さんに「オーダーお願いします!」なんて言ったことがあるのではないでしょうか。
これを東大は、ちょっと捻って出題します。
例えば「alphabetical order」とはどういう意味になるでしょうか?
これは、「アルファベットの順番=A・B・Cの順番」という意味になります。orderには「順番」という意味があると言いましたが、それをアルファベットと結びつけたら答えがわかるはずです。
また、彼女の部屋は「good order」が保たれている、といったらどういう意味かわかりますか? この「order」は「順番」から派生して、きちんときれいに「整頓されている」という意味であり、「彼女の部屋はいつも綺麗に整頓されている」という意味になるのです。
東大は、このように「類推」ができれば受かる入試問題を出題しているのです。
何度も言いますが「order」自体は小学生でも知っているようなポピュラーな単語です。普段「オーダー」と日常の中で使う中で、「そういえばオーダーってどういう意味なんだろう?」と一度でも考えたことがある人なら、解くのは簡単です。
東大では「知識ではなくそれを活用する問題」が出題されていることは、ご理解いただけたと思います。
そしてたしかに、こちらのほうが真に「頭の良さ」を問えると僕は思います。
例えば英単語を丸暗記して「この単語はこういう意味とこういう意味がある」と覚えていただけでは、それがちょっと捻って登場したり、何かと組み合わさって出てきたときに、問題を解くことはできません。そうではなく、最低限の知識から類推して、「おそらくこういう意味なんじゃないか」と解を求められる人が求められているのです。
例えば、「detach」という英単語があります。この英単語、みなさんは意味を知っていますか?
単語帳でもなかなか出てこない単語なので、暗記していない人が大半だと思います。ですが、これも類推できます。
「de」とはマイナスの意味を持つ言葉だというのはなんとなくわかるはず。「deflation(デフレ)」だとか「decrease(減少する)」とか、そういう言葉についているから、否定のニュアンスなんだろうなというのはわかります。
では、「tach」はどうでしょうか? 似たような言葉を知りませんか? 「tach」は「touch(タッチ)」という言葉によく似ています。触る・触れるという意味ですね。
このように考えていけば、「detach」は「触れる」の「否定」なので、「離す」だと推測できるのではないでしょうか。
こうやって、知らない知識を今までの知識と結びつけて、その場で理解できる能力があるほうが、価値が高いのです。覚えられる量には限界があり、暗記だけでは解けない問題も多いです。それは本当の頭のよさではない。
真に頭のいい人は、今までの知識を応用して、その場で答えを思いつく人のことです。そっちのほうが社会で求められるニーズに合っており、そういう人はものをたくさん覚えているわけではないけれど、応用してその知識をいくらでも増やすことができるわけです。
もっと言えば、このような流れは東大の入試問題だけではありません。2020年入試改革以降実施されている共通テストは、それまでの知識偏重のセンター試験を変えて、知識量ではなく思考力を求める問題を出題するようになりました。
また共通テストが変わったからこそ、ここからは他の大学でもこのような入試問題が増えると言われていて、また事実もう、そういう問題がどこの大学でも増えつつあるのです。
いかがでしょうか? この記事を読んでいる人の中には親御さんもいらっしゃると思いますが、そういう方にはぜひ、お子さんの「知識量ではなく、それを活用する能力」を高めることを意識してもらいたいと思います。これからの時代、勉強の概念はきっと、そういう方向にシフトしていくことでしょうから、僕は強くおすすめさせていただきたいです。
(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)

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