ふるさと納税に「返礼品Gメン」、苦情多発で覆面調査…リピーター獲得へ自治体が本腰

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ふるさと納税の返礼品を巡り、各地で品質への苦情やトラブルが絶えない中で、自治体が返礼品を扱う事業者の監督に力を入れ始めた。
事業所訪問や参入審査の厳格化のほか、寄付者を装って調べる「返礼品Gメン」と名付けた覆面調査を導入した自治体もある。悪評を防ぐだけでなく、品質向上でリピーターを獲得し、安定的に寄付金を集める狙いもあるようだ。(和歌山支局 大家広之)
■ブランドイメージを守りたい
「緩衝材もきちんと入り、包装も丁寧ですね」「甘さも十分ある」
桃の出荷が最盛期を迎えていた今夏、和歌山県紀の川市役所で市職員や農協職員が、返礼品の桃の品質や包装状態を確認していた。納税者を装って入手、チェックする「返礼品Gメン」たちだ。
市は今年度からこの調査を試験的に導入し、来年度に本格的に実施する。市地域創生課の西川昌克さん(34)は「何か大きなトラブルがあれば、地場産品のブランドイメージを壊しかねない」と狙いを話す。
背景には、返礼品への苦情が増えている事情がある。
市への寄付は昨年度約12万件。金額は計約14億円で、5年で約23倍になった。返礼品の約7割は桃で、以前はほとんどなかった梱包(こんぽう)の不備による傷や、「熟していない」といった味への苦情が年100件程度に上る。
要因とされるのが、寄付の増加に伴い、関わる事業者が増えてきたことだ。
ふるさと納税では、自治体が返礼品の調達・発送を担う事業者を募集する。その際、扱う返礼品が地場産であるかや、金額が適正かを国の基準と照らして審査するが、具体的な方法は自治体に委ねている。
紀の川市では、かつては農協や地元で農産物を扱う業者が中心に担ってきたが、徐々に経験の乏しい事業者が参入。農家から仕入れず、スーパーや市場で桃を購入する業者もおり、市は昨年2月、仕入れ先農家を証明する書類を市に提出させる対策を導入した。西川さんは「他産地の桃が誤って混入すれば大問題。受け取った人が、また寄付したいと思える返礼品を届けたい」と話す。
■ずさんな対応「ほとんど脂身」
ふるさと納税のトラブルは、事業者のずさんな対応が絡むことが多い。
宮崎県美郷(みさと)町では2019年、食肉業者が返礼品として送った「黒毛和牛薄切り」にミンチ用の肉などが混入。寄付者が「ほとんど脂身」とSNSに投稿したのを機に批判が寄せられ、町は謝罪の上、関連する18件の寄付(計約25万円)を返金する事態になった。
同県都農(つの)町では、21年に返礼品の「宮崎牛赤身肉 切り落とし」に申し込みが殺到し、応じきれなくなった事業者が撤退。別の事業者から調達したが、返礼品額が「寄付額の3割以下」とする国の基準を上回り、町は2年間、ふるさと納税制度から除外された。
両町では今年度までに、事業者への訪問調査や複数回クレームがついた事業者を外すなどの再発防止策を導入した。
慶応大の保田隆明教授(商学)は「寄付集めの競争でふるさと納税の市場が拡大する一方、監督する自治体の意識が追いついていない面がある」と指摘する。
■審査方法見直し
他の自治体のトラブルを教訓に対策を導入したケースもある。
牛肉やのりの返礼品が人気の佐賀市では22年から、書類と写真だけだった返礼品事業者の審査方法を見直した。有識者を交えた審査会を設置して、食品は試食、加工品は製造工場の視察を行い、担当者は「市も事業者も地元を応援してもらうという制度の原点を再確認できた」と話す。
品質向上は安定的に寄付を集めることにもつながる。
コンサルティング会社「イミュー」(東京)の分析によると、ふるさと納税では、2年連続で同じ自治体に寄付した人の6割が3年目も寄付する。一方で、翌年寄付を見送った人が、再びその自治体に寄付する割合は1割しかない。
事業構想大学院大の河村昌美教授(公民連携)は「ふるさと納税では、業者のミスも、自治体への信頼を損なう事態になりかねない。各自治体は、返礼品の中身を工夫するだけでなく、信頼できる品を届けるためのチェック体制を強化する必要がある」としている。

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