「私人逮捕系YouTuber」に絡まれたらどう対応すべき? 強く反論はNG…弁護士が解説

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痴漢や盗撮、チケット転売の疑いのある人を私人逮捕するYouTuberをめぐって、昨今、SNSで批判が高まっている。私人逮捕系YouTuberに痴漢の疑いをかけられ、私人逮捕されそうになったら、どのような対応をするべきか。またとるべきではない行動はあるか。J-CASTニュースの取材に対し、弁護士は「可能な限り距離を取り、できればその現場から速やかに離れることをおすすめします」と見解を述べた。

「痴漢をしていないのに痴漢の疑いをかけられた場合には、誤認逮捕されてしまう可能性が高くなります」「パトロール系YouTuber」を自称し、痴漢・盗撮の撲滅を掲げて活動する「ガッツch」の中島蓮さんは、2023年9月30日に「【超問題作】Twitter(X)で冤罪暴行をしたとして大炎上した私人逮捕の一部始終です【前編】」という動画をYouTubeに公開した。 痴漢を疑われた男性は、中島さんに電車を降りるよう促された。被害を受けたとされる女性の1人は「何もされていない」と主張しており、被疑者の男性も冤罪を主張した。その後、男性は駅員と警察に引き渡された。 Xでは中島さんに対し、やりすぎではないかという旨の批判の声が寄せられている。 また、「犯罪撲滅活動家」を名乗り更生支援の活動をしているYouTuber・フナイムさんは9月、ジャニーズタレントが出演する舞台のチケット転売をする一般人を私人逮捕したとXに投稿し、物議を醸した。フナイムさんをめぐっては、8月にもアイドルグループ「乃木坂46」のコンサートチケットを転売したとされる人物を制圧する様子を収めた動画を公開し、賛否の声が上がっていた。Xでは、私人逮捕YouTuberに関して「私人逮捕のような集団に絡まれたらどう対処するのが正解なんだろ」「無実なのに突然絡まれたらと思うと恐怖すぎる」「私人逮捕系な人に絡まれたら、私ら一般市民は、すぐに110番した方が良いのかな」といった声が寄せられている。私人逮捕系YouTuberに痴漢の疑いをかけられた場合、どのような行動をとるべきか。11月1日、取材に応じた弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士は、「痴漢をしていないのに痴漢の疑いをかけられた場合には、誤認逮捕されてしまう可能性が高くなります。自分は犯罪行為をしていないと申し開きをしてそれが通用すればいいのですが、現行犯人を逮捕すると気負っている逮捕者に対して、そのような弁明をしても必ずしも通用するとは言い切れません。可能な限り距離を取り、できればその現場から速やかに離れることをおすすめします」と見解を述べる。「喧嘩腰の態度で応じることは避けたほうがいいと思います」刑事訴訟法213条は「現行犯人」であれば、捜査機関以外の一般人が犯人を逮捕することを認めているという。現行犯人については、刑事訴訟法212条1項が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」と定めている。これには犯罪の嫌疑が必要であり、そのためには、犯罪行為の明白性だけでなく、犯罪行為をしている犯人の明白性の両方が必要になると解されている。「電車の中で、目の前で痴漢行為があっただけでなく、痴漢をしているのが誰であるのかが逮捕をする人にとって明白である場合には、犯罪行為と犯罪行為をしている人が明白といえるため、犯罪行為の嫌疑があるといえます」しかし、刑事訴訟規則143条の3には「明らかに逮捕の必要がない場合」には逮捕できないと記されている。正木弁護士は、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に逮捕の必要性が生じるが、一般人が判断することは非常に困難だという。犯罪行為および犯人の明白性についても、見間違いや思い違いなどの危険があり、一般人がとっさに正確な判断ができるのかが問題だとする。そのため、私人逮捕には誤認逮捕の危険がつきまとうと説明する。私人逮捕されたとしても、直ちに最寄りの交番などに立ち寄り、捜査の専門家へ接触したり、弁護士に連絡することが肝要になると述べる。「逮捕は身体拘束という重要な人権侵害が伴いますので、適法な手続きに則ってされる必要があることは当然だからです。また、映像がインターネットにアップされることにより、身体拘束だけでなく、肖像権侵害やプライバシー侵害という、他の重要な権利侵害がなされる危険が非常に高いからです」反対に、私人逮捕系YouTuberに痴漢を疑われている場合にしてはいけない行為はあるか。正木弁護士は次のように述べる。「私人逮捕系YouTuberは、犯罪行為をした者を逮捕するという正義感だけでなく、動画をアップすることで大衆から注目されたいという自己承認欲求を満たすために行う側面もあるかと思いますので、動画を撮るための熱量は高いといえます。意気込んで気負った状態で逮捕に臨んでおり、興奮状態にあると思います。そのような状態のYouTuberに対して、自分はやっていないと強く主張した場合、喧嘩に発展する可能性もあります。口喧嘩にとどまらず、殴り合いなどに発展してしまうと、暴行罪や傷害罪、強要罪、恐喝罪などに問われてしまう可能性もありますので、喧嘩腰の態度で応じることは避けたほうがいいと思います」「映像を撮られ、インターネットにアップされる可能性が高いため、YouTuberが現れやすい場所には不用意に近づかないほうがいいでしょう」では、私人逮捕系YouTuberにチケット転売を疑われている場合、するべき行動は何か。正木弁護士は、基本的には痴漢の場合の対応と同様だという。「不正転売をしていないというのであれば、誤認逮捕をされないためにも、速やかにその場を離れることをおすすめします」と見解を示す。「チケット不正転売禁止法」により、チケットの不正転売は犯罪行為となり得るため、私人による現行犯逮捕の対象となりうると説明。チケット転売は、「業者だけでなく個人でも反復継続の意思をもって、販売価格を超える価格でチケットの転売をしていれば『不正転売』に該当し、罰則の対象」となるという。「反復継続という要件を充足させるために、YouTuberは、何度もコンサート会場に現れる転売ヤーにあたりをつけ、実際に不正転売をした瞬間を狙って、一連の逮捕にかかわる映像を撮ろうとします」「実際に逮捕されなくても、嫌疑がある人物として、映像を撮られ、インターネットにアップされる可能性が高いため、YouTuberが現れやすい場所には不用意に近づかないほうがいいでしょう」痴漢とチケット転売に共通して、私人逮捕系YouTuberから腕を掴まれる、行く手を阻まれるなどの実力行使を受けた場合、どのような対応をとるべきか。痴漢を疑われた男性が私人逮捕系YouTuberともみ合いになった末、階段から転げ落ちるトラブルも起きている。「腕を掴まれる、行く手を阻まれる場合であっても、あくまで逮捕に必要な限度で許されるだけであり、逮捕の必要を超えた行為がされた場合には、それを止めさせることができます。力任せに止めさせようとすると、喧嘩闘争に発展したり、却ってこちらが暴行罪、傷害罪等に問われる可能性があります。止めて下さいと冷静に伝え、それでも止めて貰えない場合は、周囲に助けを求めることも考えられます。階段から突き落とすことは、逮捕に必要な行為とは到底考えられませんので、どのような場合でも許されません」
痴漢や盗撮、チケット転売の疑いのある人を私人逮捕するYouTuberをめぐって、昨今、SNSで批判が高まっている。
私人逮捕系YouTuberに痴漢の疑いをかけられ、私人逮捕されそうになったら、どのような対応をするべきか。またとるべきではない行動はあるか。
J-CASTニュースの取材に対し、弁護士は「可能な限り距離を取り、できればその現場から速やかに離れることをおすすめします」と見解を述べた。
「パトロール系YouTuber」を自称し、痴漢・盗撮の撲滅を掲げて活動する「ガッツch」の中島蓮さんは、2023年9月30日に「【超問題作】Twitter(X)で冤罪暴行をしたとして大炎上した私人逮捕の一部始終です【前編】」という動画をYouTubeに公開した。
痴漢を疑われた男性は、中島さんに電車を降りるよう促された。被害を受けたとされる女性の1人は「何もされていない」と主張しており、被疑者の男性も冤罪を主張した。その後、男性は駅員と警察に引き渡された。
Xでは中島さんに対し、やりすぎではないかという旨の批判の声が寄せられている。
また、「犯罪撲滅活動家」を名乗り更生支援の活動をしているYouTuber・フナイムさんは9月、ジャニーズタレントが出演する舞台のチケット転売をする一般人を私人逮捕したとXに投稿し、物議を醸した。
フナイムさんをめぐっては、8月にもアイドルグループ「乃木坂46」のコンサートチケットを転売したとされる人物を制圧する様子を収めた動画を公開し、賛否の声が上がっていた。
Xでは、私人逮捕YouTuberに関して
といった声が寄せられている。
私人逮捕系YouTuberに痴漢の疑いをかけられた場合、どのような行動をとるべきか。11月1日、取材に応じた弁護士法人ユア・エースの正木絢生代表弁護士は、「痴漢をしていないのに痴漢の疑いをかけられた場合には、誤認逮捕されてしまう可能性が高くなります。自分は犯罪行為をしていないと申し開きをしてそれが通用すればいいのですが、現行犯人を逮捕すると気負っている逮捕者に対して、そのような弁明をしても必ずしも通用するとは言い切れません。可能な限り距離を取り、できればその現場から速やかに離れることをおすすめします」と見解を述べる。
刑事訴訟法213条は「現行犯人」であれば、捜査機関以外の一般人が犯人を逮捕することを認めているという。現行犯人については、刑事訴訟法212条1項が「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者」と定めている。
これには犯罪の嫌疑が必要であり、そのためには、犯罪行為の明白性だけでなく、犯罪行為をしている犯人の明白性の両方が必要になると解されている。
しかし、刑事訴訟規則143条の3には「明らかに逮捕の必要がない場合」には逮捕できないと記されている。
正木弁護士は、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合に逮捕の必要性が生じるが、一般人が判断することは非常に困難だという。
犯罪行為および犯人の明白性についても、見間違いや思い違いなどの危険があり、一般人がとっさに正確な判断ができるのかが問題だとする。
そのため、私人逮捕には誤認逮捕の危険がつきまとうと説明する。
私人逮捕されたとしても、直ちに最寄りの交番などに立ち寄り、捜査の専門家へ接触したり、弁護士に連絡することが肝要になると述べる。
反対に、私人逮捕系YouTuberに痴漢を疑われている場合にしてはいけない行為はあるか。正木弁護士は次のように述べる。
では、私人逮捕系YouTuberにチケット転売を疑われている場合、するべき行動は何か。正木弁護士は、基本的には痴漢の場合の対応と同様だという。「不正転売をしていないというのであれば、誤認逮捕をされないためにも、速やかにその場を離れることをおすすめします」と見解を示す。
「チケット不正転売禁止法」により、チケットの不正転売は犯罪行為となり得るため、私人による現行犯逮捕の対象となりうると説明。
チケット転売は、「業者だけでなく個人でも反復継続の意思をもって、販売価格を超える価格でチケットの転売をしていれば『不正転売』に該当し、罰則の対象」となるという。
痴漢とチケット転売に共通して、私人逮捕系YouTuberから腕を掴まれる、行く手を阻まれるなどの実力行使を受けた場合、どのような対応をとるべきか。痴漢を疑われた男性が私人逮捕系YouTuberともみ合いになった末、階段から転げ落ちるトラブルも起きている。

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