【渋澤 和世】金庫を買うべきか…父親の「2000万円のタンス預金」で一家は大揉め、そして起こった事件

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「タンス預金」の総額が2021年3月には遂に100兆円を超えたことが判明しました。静岡県に住む青山学・恵子さん御夫婦(夫75歳 妻75歳)一家では、夫の学さんがタンス預金で2000万円貯めていたことが発覚し、息子家族を巻き込んだ騒動になります。<築古マンションに住む70代父親のタンスから「2000万円の現金」が…長男が絶句>より続く。
こうした「人災」に加えて、注意が必要なのが、災害で失う危険性も高まっていることです。大雨、地震、津波などによって自宅で管理していたお金を失ってしまうケースがあります。タンス預金は火災保険や地震保険の対象外なので、火事や地震などによってお金を失ってしまった場合は取り戻すことができません。
日本における「タンス預金」の総額が、年々増加していることをご存じでしょうか。日本銀行が毎年行っている統計によると、2021年3月には遂に100兆円を超えたことが判明しました。銀行に預けても利息が付かないに等しいことを考えると、自宅に保管しても同じと考える人も多いのかも知れません。
しかし、タンス預金には思わぬトラブルを起こすリスクがあります。
更に聡さんが懸念しているのは、現金をタンスにしまっている点でした。泥棒に入られた場合、真っ先に荒らされるのが、タンスだからです。
お金を家で保管することをタンス預金といいますが、その保管場所はタンスに限る必要はありません。ですが、青山さん夫婦は昔から“大切なものはタンスにしまう”という習慣が、抜け切れていのでしょう。
そこで、百歩譲って自宅に現金を保管することは認めたとしても、せめて金庫を買うように勧めました。耐火式で一人では運べないような重さのものなら、盗難にあっても持ち出せないかもしれないし、火事や自然災害に遭ったとしても守られるかも知れないからです。
「うちは、山の中なので津波の心配はないのですが、がけ崩れなどは心配が残ります。東日本大震災のときも、金庫が5700個も流されたようです。
ただ現金だけでは持ち主がわからなかったようですが、中に預金通帳や権利書などが一緒に入っていたものは持ち主を特定し、返却されたと聞きました。そこで、うちもそのようにしようと思い、自分が金庫を手配することにしたのです」
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聡さんが手配したのは、タッチパネル+指紋認証式の耐火/防盗金庫です。これなら鍵を壊されるリスクも下がると考えたからです。
配送予定も決まり、「これで一安心」と、翌週実家に再び訪れたとき、信じられないことかが起こりました。
桐のタンスを開けてみたら、封筒に入った現金が、風呂敷ごとなくなっていたのです。
なんと、学さんは、息子といえども、自分たちのお金のありかを知られたくなかったようです。どこに移したかを確認しても何も話してくれず「金庫が届いたら話すから心配するな」というばかりです。
もちろん、現金は両親のものですから、それをどこに保管するかは両親の自由です。とは言え、その存在だけは確認したい。そう思った聡さんは、両親に内緒で家の中を探してみることにしました。
すると、食器棚から封筒1袋、押し入れからも1袋、下駄箱の奥からも1袋が見つかりました。しかし、どうしても残りの1袋が見つかりません。週末の2日間、実家に滞在していたので、その間は両親の目を盗んで探したのですがどうしてもわからないのです。
しかも、間が悪いことに散歩に出たと思っていた学さんが予定より早く帰宅。家の中を探し回っている所を見られてしまいます。
「父には、申し訳ないが本当に心配なので、現金を探してしまったと言いました。3つは見つけることができたがもう一つがどうしても見つからない。自分は盗ったりしないし、物騒なのでもう少し安心な場所を一緒に考えよう」と提案しました。
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自分に黙ってお金を探していた聡さんに不信を抱いた学さんでしたが、理由を訊いて渋々と残り1袋は「冷蔵庫にある」と教えてくれました。
早速、聡さんは学さんと共に冷蔵庫を開けてみたのですが、なんとそこにも封筒は見当たらないのです。
学さんが「ここだ」と、野菜室を指しますが、なんど探してもそこに封筒はありません。聡さんは妻の恵子さんにも内緒で封筒を冷蔵庫の野菜室に入れていました。そこで、恵子さんにも尋ねてみましたが、「自分は知らない」というのです。
「しっかりしてくれよ、よく思い出して」と聡さんが何度学さんに尋ねても「自分は確かに冷蔵庫に入れた。それからは動かしていない」と言うばかりです。1袋はおよそ500万円ほどに分けていたのですから、これは大変なことです。
「泥棒に入られ可能性もないとは言えませんが、他の場所に保管していた封筒が無事で、冷蔵庫の封筒だけが盗まれるというのは不自然ですよね。
なにより、冷蔵庫に現金を保管していたということを証明することができない以上、警察に届けても真剣に探してもらえるとは思えません。損害は少なかったとは言え、思っていた自体が起きてしまった、と思いましたね」(聡さん)
泥棒の線がないとすれば、どうなってしまったのか。聡さんは、札幌で起きた市の委託業務で持ち込まれた雑紙の中から現金1000万円の札束が見つかった事件や、青森のごみ処分場で現金1099万円が見つかった事件を思い出していました。
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最近の母、恵子さんのも忘れは、加齢によるうっかり的な物忘れでは済まされないほど深刻な状態になっていました。
「そういえば、火曜日は普通ゴミの日。母が紙袋のごみと思って捨てたのでは・・・」悪い予感もしています。学さんと共に再度、家じゅうを確認しますが、結局、最後の封筒は見つかることはありませんでした。
先述の通り、日本ではゴミの中から現金が見つかることがあります。コツコツと現金を貯めて手元に置いておいたことを、認知症や記憶力の低下などによって本人が忘れてしまい、自ら誤って捨ててしまうというケースもあるようです。
深刻な高齢化社会に入っている日本では、様子を見に来てくれる親族がいない高齢者が多くなっていることが、ゴミ捨て場から現金が見つかるケースの増加からも見て取れます。青山さんのケースでゴミと一緒に誤って捨ててしまったのかどうかは、わかりませんが、その可能性は高いのではないでしょうか。
しかし、このタンス預金の一部紛失事件は、それだけで終わりませんでした。
聡さんは、この一連の出来事を、大阪の弟にも知らせようと電話をしたのですが、弟の武さんは、兄の心労を心配するどころか、信じられない言葉を聡さんにかけます。
「その500万円、兄貴がとったんじゃないのか」
勿論、身に覚えのない聡さんは否定しますが、信用していないようです。
「でもさ、俺は1週間も何も知らされていなかったんだぜ。おかしいじゃないか。タンス預金があったことがわかったときに何ですぐ電話をくれなかったんだよ。その時に電話をしてくれたら、兄貴に一旦預けるように父に自分から説得していたのに。兄貴はそれが困るからすぐに言わなかったんじゃないのか」
最後には「本当に2000万なのか、もっとあったのではないか」とまで言い出す始末です。
その数日後、金庫が届き、3つの封筒は厳重に包み直して保管しました。聡さんは、それからも自分への濡れ衣を晴らすために、毎週実家整理に通っています。
「500万円が見つからない心労はもちろん、弟に疑われたことがショックでしたね。今後、相続の時期にはトラブルになることは避けられないように思います。こんなことなら、タンス預金なんてしてもらわない方が良かったと思っていますよ。」
聡さんの気持ちはよくわかりますが、弟の武さんとの争いは、更に泥沼にはまっていきました。
その後、弟の武さんも実家に来てもらい、タンス預金の事件について話し合う機会を設けました。その席で父親の学さんは、タンス預金は2000万円で、「自分たちが入院したり、仮に老人ホームに入ることになった場合でも、子どもたちの負担にならないように」自宅に保管していたことを認めてくれました。
聡さんとすれば、これで武も納得する。そう思ったものの、なんと母の恵子さんが「私は、そんなお金は知らない。初めて聞いた」と言いはじめたのです。
それを聞いた武さんの表情が変わりました。
「母さんが何で知らないんだ? 親父と兄貴で何か企んでいんじゃないのか?」と机をたたく剣幕です。
武さんは、兄の聡さんに両親のことは任せっきりなので、母が認知症の疑いある行動が増えたことも知りません。二人になった時、聡さんはそのことを武さんに伝えましたが、どこまでその言葉を信用しているかは疑問でしょう。
「こんなことならもっと早く母を病院に連れて行って、認知症検査をすればよかったです。結果によっては弟に説明できたと思います。でも、たとえ、診断が下ったとしても、紛失した500万円に関しては説明の余地がありません。」
その後、武さんからは、こんなことも言われました。
「仮に500万円の紛失が本当だとしても、兄貴の管理に責任があるのは事実。兄貴に任せておくわけにはいからから、いずれこの家の相続が発生した時は自分が中心になってやりたい。そのうえで、現金を等分してくれよ。色々と疑えばきりがないが、それでいいよな」
「随分勝手な理屈ですよね。これまでまったく親の面倒を見なかったくせに、もらうものはもらうというのですから。正直、もう本当にストレス限界です。自分も心労から不整脈もでてきてしまい、命を削っているというのに。前は兄弟仲も良かったのですが、少しのことでおかしくなるものなんですね。」
と、聡さんは肩を落とします。
2024年には新札新紙幣が発行されます。旧紙幣のタンス預金がすぐに使えなくなるわけではありませんが、いずれは旧紙幣がほとんど流通しなくなり、新紙幣に交換せざるを得なくなるときがくるでしょう。
タンス預金をする理由はそれぞれにあると思いますが、そうしたリスクがあるのも事実です。大量の現金を新札に交換していることが銀行に伝わると、相続の際に脱税を疑われる危険もないとは言えません。
自分の親がタンス預金をしていることがわかったら、両親ともこのお金をこれからどう管理していくのか、できるだけ早く相談することをお勧めします。もちろん、その時は、兄弟全員で、というのは言うまでもありません。
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連載<「40代町工場の跡継ぎ」が婚活を始めたら、「500万円」を請求された哀しすぎるケース>もあわせてお読みください。

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