生活は苦しくなっているのに「GDP6%増」ってどういうこと?マスコミが報じない数字のカラクリ

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経済統計や経済指標のなかには、「数値から人々が受け取る印象」と「経済の実態」がずいぶん異なるケースがときどき見受けられる。こうした事例のうち象徴的なものが、’23年4~6月期の「四半期別GDP速報」ではないだろうか。
GDP(国内総生産)は、「一定期間内に国内で生産された最終的な財・サービスの付加価値の合計」を指し、国の豊かさを測定するうえで重要な指標の一つだ。日本では、国民経済計算(SNA)と呼ばれる国際基準に基づき、内閣府の経済社会総合研究所が、GDPを公表する。
公表値の一つが「四半期別GDP速報」である。年4回、3ヵ月ごとに「速報値」が公表される。
8月中旬、この速報値の最新版(’23年4~6月期)が、内閣府から公表された。発表を受け、テレビや新聞などは、物価変動の影響を除いた実質のGDP成長率(季節調整値)が、年率換算で「前期比6%増」という内容で、一斉に報道した。
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年率6%の成長と聞くと、相当に高い値に感じられる。報道を目にした人のなかには、次のような疑問を抱いた人もいるかもしれない。
「賃金や年金が物価高や値上げに追い付かないなか、生活が厳しくなってきているが、それは自分の周囲だけの話で、多くの人々は違うのか?」と。
じつは、この疑問は正しい。GDPの速報値=「6%成長」が与える印象と、実際の経済のあいだには大きな乖離があるからだ。
GDPの推計では、計算を簡便にするため、「三面等価の原則」(生産・分配・支出の三面いずれからみてもGDPは同値)という考え方を用いる。
具体的には、「内需(家計や政府部門の消費支出といった国内需要)」と「外需(財・サービスの輸出入)」の合計から、数値を算出するのである。
今回、数値の印象と実態の乖離が発生した最大の原因は、「外需」の影響だと考えられる。内閣府の公表資料によると、’23年4~6月期の実質GDP成長率6%のうち、内需の寄与はマイナス1・2%、外需の寄与はプラス7・2%だ。この二つの値の合計が6%の成長で、圧倒的に外需の寄与が大きい。
一方で、国民生活に深く関わる「内需」は、マイナスの寄与だった。とりわけ重要な「家計の実質消費支出」の伸びは、前期比でマイナス2%という悲惨な結果である。その原因が、物価高に賃金や年金が追いつかず、家計が財布のヒモを引き締めていることなのは明らかだ。
大規模な金融緩和をおこない、デフレ経済を脱却すれば経済が活性化するという議論がかつてあったが、不思議なことに、現在それとは真逆の現象が起こっている。
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また、外需の寄与(プラス7・2%)のうち、輸出の寄与はプラス2・8%、輸入の寄与はプラス4・4%だった。「輸入の寄与」というのは、輸入の減少を意味する。「輸入の減少」という事実からは、設備投資などのための輸入が減っていることも示唆され、今後の企業の生産などに及ぼす影響が懸念される。
ニュースの報道で、経済統計や指標を目にしたときは、その数値の中身までしっかり理解する必要がある。
週刊現代2023年9月30日・10月7日合併号より

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