なぜ国内外で「おにぎりブーム」? コロナ禍で新規参入、高価格帯も

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

国内外でおにぎり店の新規開業が相次いでいる。国内のコメ消費量は減少傾向が続くが、海外へのコメ輸出量は8年で6倍を超え、コメの魅力が再認識されつつある。おにぎりを通じて和食文化を国内外に広める活動をしている一般社団法人「おにぎり協会」の中村祐介代表理事に、「おにぎりブーム」の背景と課題を聞いた。【聞き手・寺田剛】
【写真まとめ】世界が注目?日本のおいしい「おにぎり」 ――国内では今、おにぎりブームですか? ◆何をもっておにぎりブームと定義するかによりますが、おにぎり業態への新規参入者は確実に増えています。

「おにぎり浅草宿六(やどろく)」(東京都台東区)や「ぼんご」(豊島区)などの老舗専門店がある一方で、「おむすび権米衛(ごんべえ)」のような専門チェーン店、JR東日本グループが駅ナカ(駅構内の商業施設)で展開する「ほんのり屋」などが以前から増え続けています。中食需要でコンビニ店にも変化 ――増えたきっかけは? ◆転機は新型コロナウイルスの流行です。外食の売り上げが落ち、家庭外で調理された食品を家で食べる「中食(なかしょく)」需要の高まりを受けて、コンビニエンスストアを含めて、おにぎりの商品のバリエーションが増えました。かつては安くて手ごろな「ツナマヨ」などが代表的な具材で、価格も100円台が中心でしたが、ここ3年ほどで、より高付加価値な具材を入れた「ごちそうおにぎり」がコンビニにも増えてきました。 ――なぜ付加価値の高いおにぎりが売れるのでしょうか? ◆食品業界では通常、消費者が高額商品を買うという経験をするまでに時間がかかるといわれていますが、コロナ禍で1個数百円のおにぎりを試してみる消費者が増えました。値段が高くても、おいしいおにぎりを買いたいというニーズを受け、一定の付加価値を付けて売る環境が、おにぎり業界全体で整いました。ビジネスの視点でいうと、経営の自由度が高まりました。 低価格中心の商材で利益をあげるためには、大量生産の仕組みが必要です。これでは、具材や資材の大量購入が可能なコンビニや、流通大手しか生き残れません。一定の付加価値と価格を上乗せすることが消費者に認められた結果、中小や新規の参入がしやすくなったのです。炊飯器メーカー、ノリ専門店…参入相次ぐ ――どのような業種が新規参入していますか? ◆最近では、炊飯器メーカーや老舗のノリ専門店、コメ卸など、ご飯やおにぎりの具材として関わりのある会社が、各地で多様な店を開いています。異業種のデザイン会社が参入したり、個人が開業したりする店も増えています。 ロシアによるウクライナ侵攻を受け、小麦の価格が高騰する一方で、国内で自給できるコメの価格は比較的安定しています。ビジネスとしてやってみようと考える人も増えているのではないでしょうか。 ――ブームは海外にも波及していると聞きます。 ◆おにぎり協会にも、海外からの相談が英文で数多く寄せられています。例えば北米では物価が高騰し、カフェでサンドイッチと飲み物だけ注文しても、日本円で2000円程度します。 一方で、日本のコンビニでおにぎりを買った経験のある人たちは、おにぎりのおいしさや、コストパフォーマンスの良さを知っています。海外でもビジネスとして成立するのではないかと関心を持っています。 かつては現地で結婚された日本人の方が、余暇としておにぎり店を始めるというケースがありました。最近では、海外に食料工場を持つ会社から相談を受けます。アジア圏や北米、欧州だけでなく、最近では中東やアフリカ・ケニアからの相談も受けています。テークアウトメニューとして脚光 ――なぜ海外でもおにぎりが人気なのでしょうか。 ◆おにぎりはラーメンなどと違い、持ち運びがしやすい和食です。ピザやケバブ、サンドイッチがテークアウトで人気の欧州では、おにぎりが新しいテークアウトメニューとして脚光を浴びています。既にドイツではこの波に乗って、ドイツ資本のおにぎり店として急成長している企業があります。海外でも間違いなくブームが来ています。 ――海外進出の課題は。 ◆粘り気のある日本のコメの調達が課題です。日本から輸出できますが、輸送コストをおにぎりの価格に転嫁するのが難しいためです。欧州や北米では現地産米で、日本のコメに近い品種のものを使っているケースが多いと思います。 距離的に近いアジア圏では、日本からの輸出が比較的有利です。日本食ブームを受けて、インドネシアではジャポニカ米を育てようとする動きもあります。同じく、沖縄県産のコメが輸出米として人気があります。いずれもアジア各国への輸送距離を短くして、コストを抑えるためです。 他の穀物の価格高騰を受けてコメのニーズが高まっていますが、例えば小麦やトウモロコシと違い、コメの国際的な流通網が整っているとはいえません。業界では今後、流通網を含めた競争が起きてくるのではないでしょうか。「おにぎり起業家」が世界各国に ――今後の見通しは。 今が海外での「おにぎりブーム」のピークではありません。これからだと思います。東京・銀座にマクドナルド1号店ができた1971年の日本を想像してみてください。マクドナルドはその後、チェーン店を増やす仕組みを整え、なじみがなかったハンバーガーを国内に浸透させました。こうした仕組みを手がけようとする「おにぎり起業家」が、世界のあちこちで芽吹いているのが現状です。 「おむすび権米衛」が2017年にフランス・パリに出店して、繁盛していると聞いています。香港や台湾では以前から大手コンビニチェーンが販売するおにぎりが好調です。その一方で、香港では「華御結(はなむすび)」というスタートアップ企業が運営する店が増えています。 ――改めて、おにぎりとは。 ◆かつて、おにぎりは家で作るものでした。70年代以降、コンビニの台頭でおにぎりが売られるようになり、団塊世代の核家族化、ニュータウンの普及とともに、おにぎりの「中食」化が進みました。おにぎりは内食から、中食、そして今、外食になろうとしているところです。国内にはコメの産地もあれば、ノリの産地もあり、全国各地に具材の産地がある。多くの生産者のつながりが生まれるのも、おにぎりの魅力です。なかむら・ゆうすけ 一般社団法人おにぎり協会代表理事。おにぎりを日本が誇る食文化として国内外に普及させる目的で2013年に同協会を結成。おにぎりに関連した起業を支援したり、食品会社や地方自治体と提携してコラボ商品を開発したりしている。1975年生まれ。好きなおにぎりの具材は梅干しと明太子。
――国内では今、おにぎりブームですか?
◆何をもっておにぎりブームと定義するかによりますが、おにぎり業態への新規参入者は確実に増えています。
「おにぎり浅草宿六(やどろく)」(東京都台東区)や「ぼんご」(豊島区)などの老舗専門店がある一方で、「おむすび権米衛(ごんべえ)」のような専門チェーン店、JR東日本グループが駅ナカ(駅構内の商業施設)で展開する「ほんのり屋」などが以前から増え続けています。
中食需要でコンビニ店にも変化
――増えたきっかけは?
◆転機は新型コロナウイルスの流行です。外食の売り上げが落ち、家庭外で調理された食品を家で食べる「中食(なかしょく)」需要の高まりを受けて、コンビニエンスストアを含めて、おにぎりの商品のバリエーションが増えました。かつては安くて手ごろな「ツナマヨ」などが代表的な具材で、価格も100円台が中心でしたが、ここ3年ほどで、より高付加価値な具材を入れた「ごちそうおにぎり」がコンビニにも増えてきました。
――なぜ付加価値の高いおにぎりが売れるのでしょうか?
◆食品業界では通常、消費者が高額商品を買うという経験をするまでに時間がかかるといわれていますが、コロナ禍で1個数百円のおにぎりを試してみる消費者が増えました。値段が高くても、おいしいおにぎりを買いたいというニーズを受け、一定の付加価値を付けて売る環境が、おにぎり業界全体で整いました。ビジネスの視点でいうと、経営の自由度が高まりました。
低価格中心の商材で利益をあげるためには、大量生産の仕組みが必要です。これでは、具材や資材の大量購入が可能なコンビニや、流通大手しか生き残れません。一定の付加価値と価格を上乗せすることが消費者に認められた結果、中小や新規の参入がしやすくなったのです。
炊飯器メーカー、ノリ専門店…参入相次ぐ
――どのような業種が新規参入していますか?
◆最近では、炊飯器メーカーや老舗のノリ専門店、コメ卸など、ご飯やおにぎりの具材として関わりのある会社が、各地で多様な店を開いています。異業種のデザイン会社が参入したり、個人が開業したりする店も増えています。
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、小麦の価格が高騰する一方で、国内で自給できるコメの価格は比較的安定しています。ビジネスとしてやってみようと考える人も増えているのではないでしょうか。
――ブームは海外にも波及していると聞きます。
◆おにぎり協会にも、海外からの相談が英文で数多く寄せられています。例えば北米では物価が高騰し、カフェでサンドイッチと飲み物だけ注文しても、日本円で2000円程度します。
一方で、日本のコンビニでおにぎりを買った経験のある人たちは、おにぎりのおいしさや、コストパフォーマンスの良さを知っています。海外でもビジネスとして成立するのではないかと関心を持っています。
かつては現地で結婚された日本人の方が、余暇としておにぎり店を始めるというケースがありました。最近では、海外に食料工場を持つ会社から相談を受けます。アジア圏や北米、欧州だけでなく、最近では中東やアフリカ・ケニアからの相談も受けています。
テークアウトメニューとして脚光
――なぜ海外でもおにぎりが人気なのでしょうか。
◆おにぎりはラーメンなどと違い、持ち運びがしやすい和食です。ピザやケバブ、サンドイッチがテークアウトで人気の欧州では、おにぎりが新しいテークアウトメニューとして脚光を浴びています。既にドイツではこの波に乗って、ドイツ資本のおにぎり店として急成長している企業があります。海外でも間違いなくブームが来ています。
――海外進出の課題は。
◆粘り気のある日本のコメの調達が課題です。日本から輸出できますが、輸送コストをおにぎりの価格に転嫁するのが難しいためです。欧州や北米では現地産米で、日本のコメに近い品種のものを使っているケースが多いと思います。
距離的に近いアジア圏では、日本からの輸出が比較的有利です。日本食ブームを受けて、インドネシアではジャポニカ米を育てようとする動きもあります。同じく、沖縄県産のコメが輸出米として人気があります。いずれもアジア各国への輸送距離を短くして、コストを抑えるためです。
他の穀物の価格高騰を受けてコメのニーズが高まっていますが、例えば小麦やトウモロコシと違い、コメの国際的な流通網が整っているとはいえません。業界では今後、流通網を含めた競争が起きてくるのではないでしょうか。
「おにぎり起業家」が世界各国に
――今後の見通しは。
今が海外での「おにぎりブーム」のピークではありません。これからだと思います。東京・銀座にマクドナルド1号店ができた1971年の日本を想像してみてください。マクドナルドはその後、チェーン店を増やす仕組みを整え、なじみがなかったハンバーガーを国内に浸透させました。こうした仕組みを手がけようとする「おにぎり起業家」が、世界のあちこちで芽吹いているのが現状です。
「おむすび権米衛」が2017年にフランス・パリに出店して、繁盛していると聞いています。香港や台湾では以前から大手コンビニチェーンが販売するおにぎりが好調です。その一方で、香港では「華御結(はなむすび)」というスタートアップ企業が運営する店が増えています。
――改めて、おにぎりとは。
◆かつて、おにぎりは家で作るものでした。70年代以降、コンビニの台頭でおにぎりが売られるようになり、団塊世代の核家族化、ニュータウンの普及とともに、おにぎりの「中食」化が進みました。おにぎりは内食から、中食、そして今、外食になろうとしているところです。国内にはコメの産地もあれば、ノリの産地もあり、全国各地に具材の産地がある。多くの生産者のつながりが生まれるのも、おにぎりの魅力です。
なかむら・ゆうすけ
一般社団法人おにぎり協会代表理事。おにぎりを日本が誇る食文化として国内外に普及させる目的で2013年に同協会を結成。おにぎりに関連した起業を支援したり、食品会社や地方自治体と提携してコラボ商品を開発したりしている。1975年生まれ。好きなおにぎりの具材は梅干しと明太子。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。