【安田 峰俊】生徒たちがカップラーメンを取り合う、理不尽な罰則、学食もイマイチ…超セレブ校の「意外と残念な内部」

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前編記事『【特別ルポ】数々の偉人を輩出したイギリスの超名門が日本に進出…!聞こえてきた保護者、生徒の「本音」』では日本に進出が相次いでいる海外資本の学校の背景について解説してきた。この後編記事では、学校生活の実態について引き続き解説していく。
取材に応じた同校の初代校長のミック・ファーリー氏は、日本進出の初年度を振り返り、こう胸を張る。
「本校の強みである『ハロウのアカデミックな教育』『安比高原の自然を活用した全人教育』『全寮制の環境だからこそできる徹底した個別ケア』を高いクオリティで実現できたと自負している。親元を離れた全寮制に戸惑う生徒もいましたが、私たちのケアを通じて成長を遂げてくれました」
しかし、当事者であり、実際に学校に通う生徒たちの声に耳を傾けてみると、周囲の期待とは裏腹の残念な一面も浮かび上がってきた。
ハロウ安比校の生徒たちの国籍は、日本人と、中国人もしくは東南アジア系華人などの中国系が全体の8割程度を占め、残りは欧米人や韓国人などだ。ある日本人生徒はこう話す。
「授業中以外は、日本人と中国人がそれぞれ固まって、母国語で喋っています。特に日本人の男子生徒は、英語が上手ではない人が多く、日本語ばかり。休み時間に英語で話すと、他の生徒から『調子に乗るな』と仲間外れにされかねない雰囲気です……」
ハロウ安比校の現地に、実際に足を運んでみると、最寄り駅(安比高原駅)は無人駅で、その前には自動販売機すら置かれていない。
自然豊かで美しい環境といえば聞こえがいいが、学校の半径1km圏内には民家すら見当たらず、人の姿を見かけるのは、1軒あるローソンの周りだけだ。
ハロウ安比校の生徒たちの憩いの場、ローソン。ただし週1回の買い物の権利は容易に剥奪される。周囲に人家は稀である。生徒たちは週末、このローソンでの買い物を許可される。それが、寮に暮らす彼らにとって、外部とのほぼ唯一の接点だ。ある中国人生徒はこう嘆く。「寮内では、規則違反やマナー違反の行動をすると『SKEW』という罰則ポイントが与えられます。たった1ポイントで、ローソン禁止になるんです」ハロウ校に限らず、英国の全寮制の名門校が、規律を守るためにこうした罰則を設けるのは珍しくない。「僕の寮の場合、夜9時を過ぎて寮の自室から廊下に出る、校外で無断で買い食いをする、冬季に建物内に落ちている雪を踏む……、といった行為はすべてSKEWの対象です。取り締まりの基準と罰則内容が厳しすぎるし、寮や先生によって、何が罰に値するかの判断はバラバラ。いつも自分がやられないか、不安な毎日です」(同前)ほかにも、生徒の間で特に不満の声が上がっているのが、食事だ。「そもそも量が少なすぎるし、味も良くないんです。しかも、授業が長引いて遅くに食堂へ行くと、肉がほとんど残っていない。珍しく唐揚げが多く余っていたときは、喜んで食べたら、中身がピンク色で火が通っていなかった。お腹を空かせたまま、ひもじい夜を過ごすこともあります」(前出・日本人生徒)カップラーメンがご馳走?空腹を紛らわせるため、ローソンで食料を買うこともある。「食料を部屋に保管するとSKEWの対象にされる可能性があるので、共有スペースに置くしかない。すると、いつの間にか誰かに盗まれてしまうんです。罰は受けたくないけれど、食べ物を盗まれるのも嫌。いったいどうすれば……」(前出・中国人生徒)日本人の平均年収の2倍以上の教育費をかけ、名門校に通わせたわが子が、週1回のローソンを心待ちにし、カップラーメンを取り合う……。子も親もそんな生活を送ることになるとは、夢にも思わなかったはずだ。同校に通う子供を持つ中国人の母親が嘆く。「理不尽なSKEWが連発されるのは、異国で娯楽のない環境に置かれた外国人教員たちのストレスも関係していると思います。安比高原駅から盛岡市内に出る電車は1~2時間に1本だけ。教員にとっても映画館に行ったりバーで飲んだりといった気晴らしが難しい環境ですからね。一連の事態に業を煮やした日本人保護者の一部が生徒の教育環境の改善を求める英文の要望書を作成し、学校側に提出したと聞いています」肝心のインターナショナルな教育環境をぶち壊してしまう、一部の日本人生徒もいる。帰国子女の息子をハロウ安比校に通わせる日本人女性はこう語る。「ハロウ校に通わせることをステータスだと考えた親に無理やり入学させられたり、中学受験で志望校に入れず、とりあえず入学したりした日本人生徒は、日常英語もままならない子がかなりいるんです」安比高原駅。冬場はスキー客で賑わうとはいえ、駅前にコンビニはおろか自動販売機すらないストイックなたたずまいだ。ハロウ安比校へは徒歩2分。このパターンの生徒は、お受験ママから解放されるため、意外とハロウ校の環境を好む子も多いという。ただ、英語が話せないため、当然ながら授業についていくことは容易ではない。全寮制のボーディング・スクールは、学習面のケアの手厚さが売りだ。本人にやる気があればサポートを受けられる環境はあるものの、やはり肝心の英語ができなければ、数学と体育以外は落ちこぼれがちになる。別の日本人生徒を通わせる母親は、こう眉をひそめる。「いま、一番心配なのは卒業後の進路です。正直、現在の環境では、息子が海外の名門大学に進学することは難しい。保護者の間では、国内の私立大学の国際コースくらいしか現実的な選択肢はないのではという声も出ています」前述の通り、同校校長は、初年度の学校運営や教育環境に胸を張っていた。だが、異国でのゼロからの学校運営で、多忙ゆえに目が行き届かないことも多いのだろう。英国式のボーディング・スクールが、日本社会において世界水準の教育環境を実現できるかは、まだ道半ばのようである。やすだ・みねとし/’82年、滋賀県生まれ。’19年、『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』で第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)「週刊現代」2023年9月23日号より・・・・・さらに関連記事『「東大合格が人生のピークでした」…世間が知らない東大格差の実態』では、東大生が直面する「東大内格差」の厳しい実態についてレポートしています。
ハロウ安比校の生徒たちの憩いの場、ローソン。ただし週1回の買い物の権利は容易に剥奪される。周囲に人家は稀である。
生徒たちは週末、このローソンでの買い物を許可される。それが、寮に暮らす彼らにとって、外部とのほぼ唯一の接点だ。ある中国人生徒はこう嘆く。
「寮内では、規則違反やマナー違反の行動をすると『SKEW』という罰則ポイントが与えられます。たった1ポイントで、ローソン禁止になるんです」
ハロウ校に限らず、英国の全寮制の名門校が、規律を守るためにこうした罰則を設けるのは珍しくない。
「僕の寮の場合、夜9時を過ぎて寮の自室から廊下に出る、校外で無断で買い食いをする、冬季に建物内に落ちている雪を踏む……、といった行為はすべてSKEWの対象です。取り締まりの基準と罰則内容が厳しすぎるし、寮や先生によって、何が罰に値するかの判断はバラバラ。いつも自分がやられないか、不安な毎日です」(同前)
ほかにも、生徒の間で特に不満の声が上がっているのが、食事だ。
「そもそも量が少なすぎるし、味も良くないんです。しかも、授業が長引いて遅くに食堂へ行くと、肉がほとんど残っていない。珍しく唐揚げが多く余っていたときは、喜んで食べたら、中身がピンク色で火が通っていなかった。お腹を空かせたまま、ひもじい夜を過ごすこともあります」(前出・日本人生徒)
空腹を紛らわせるため、ローソンで食料を買うこともある。
「食料を部屋に保管するとSKEWの対象にされる可能性があるので、共有スペースに置くしかない。すると、いつの間にか誰かに盗まれてしまうんです。罰は受けたくないけれど、食べ物を盗まれるのも嫌。いったいどうすれば……」(前出・中国人生徒)
日本人の平均年収の2倍以上の教育費をかけ、名門校に通わせたわが子が、週1回のローソンを心待ちにし、カップラーメンを取り合う……。子も親もそんな生活を送ることになるとは、夢にも思わなかったはずだ。同校に通う子供を持つ中国人の母親が嘆く。
「理不尽なSKEWが連発されるのは、異国で娯楽のない環境に置かれた外国人教員たちのストレスも関係していると思います。安比高原駅から盛岡市内に出る電車は1~2時間に1本だけ。教員にとっても映画館に行ったりバーで飲んだりといった気晴らしが難しい環境ですからね。一連の事態に業を煮やした日本人保護者の一部が生徒の教育環境の改善を求める英文の要望書を作成し、学校側に提出したと聞いています」
肝心のインターナショナルな教育環境をぶち壊してしまう、一部の日本人生徒もいる。帰国子女の息子をハロウ安比校に通わせる日本人女性はこう語る。
「ハロウ校に通わせることをステータスだと考えた親に無理やり入学させられたり、中学受験で志望校に入れず、とりあえず入学したりした日本人生徒は、日常英語もままならない子がかなりいるんです」
安比高原駅。冬場はスキー客で賑わうとはいえ、駅前にコンビニはおろか自動販売機すらないストイックなたたずまいだ。ハロウ安比校へは徒歩2分。このパターンの生徒は、お受験ママから解放されるため、意外とハロウ校の環境を好む子も多いという。ただ、英語が話せないため、当然ながら授業についていくことは容易ではない。全寮制のボーディング・スクールは、学習面のケアの手厚さが売りだ。本人にやる気があればサポートを受けられる環境はあるものの、やはり肝心の英語ができなければ、数学と体育以外は落ちこぼれがちになる。別の日本人生徒を通わせる母親は、こう眉をひそめる。「いま、一番心配なのは卒業後の進路です。正直、現在の環境では、息子が海外の名門大学に進学することは難しい。保護者の間では、国内の私立大学の国際コースくらいしか現実的な選択肢はないのではという声も出ています」前述の通り、同校校長は、初年度の学校運営や教育環境に胸を張っていた。だが、異国でのゼロからの学校運営で、多忙ゆえに目が行き届かないことも多いのだろう。英国式のボーディング・スクールが、日本社会において世界水準の教育環境を実現できるかは、まだ道半ばのようである。やすだ・みねとし/’82年、滋賀県生まれ。’19年、『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』で第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)「週刊現代」2023年9月23日号より・・・・・さらに関連記事『「東大合格が人生のピークでした」…世間が知らない東大格差の実態』では、東大生が直面する「東大内格差」の厳しい実態についてレポートしています。
安比高原駅。冬場はスキー客で賑わうとはいえ、駅前にコンビニはおろか自動販売機すらないストイックなたたずまいだ。ハロウ安比校へは徒歩2分。
このパターンの生徒は、お受験ママから解放されるため、意外とハロウ校の環境を好む子も多いという。ただ、英語が話せないため、当然ながら授業についていくことは容易ではない。
全寮制のボーディング・スクールは、学習面のケアの手厚さが売りだ。本人にやる気があればサポートを受けられる環境はあるものの、やはり肝心の英語ができなければ、数学と体育以外は落ちこぼれがちになる。
別の日本人生徒を通わせる母親は、こう眉をひそめる。
「いま、一番心配なのは卒業後の進路です。正直、現在の環境では、息子が海外の名門大学に進学することは難しい。保護者の間では、国内の私立大学の国際コースくらいしか現実的な選択肢はないのではという声も出ています」
前述の通り、同校校長は、初年度の学校運営や教育環境に胸を張っていた。だが、異国でのゼロからの学校運営で、多忙ゆえに目が行き届かないことも多いのだろう。
英国式のボーディング・スクールが、日本社会において世界水準の教育環境を実現できるかは、まだ道半ばのようである。
やすだ・みねとし/’82年、滋賀県生まれ。’19年、『八九六四 「天安門事件」は再び起きるか』で第50回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。近著に『北関東「移民」アンダーグラウンド』(文藝春秋)
「週刊現代」2023年9月23日号より
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さらに関連記事『「東大合格が人生のピークでした」…世間が知らない東大格差の実態』では、東大生が直面する「東大内格差」の厳しい実態についてレポートしています。

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