「子供部屋を作りたい」ゴミに苦しむ母の切実願望

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小学2年生の息子と暮らす家の様子(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
夫が亡くなってからというもの、シングルマザーと現在小学2年生になる息子の暮らす部屋はモノであふれていく一方だった。玄関にはいらなくなったモノの中に、夫の遺品が埋もれていた。病気がちな母が部屋の片づけを決意した理由とは――。
本連載では、さまざまな事情を抱え「ゴミ屋敷」となってしまった家に暮らす人たちの“孤独”と、片付けの先に見いだした“希望”に焦点をあてる。
ゴミ屋敷・不用品回収の専門業者「イーブイ」(大阪府大阪市)を営み、YouTube「イーブイ片付けチャンネル」で多くの事例を配信する二見文直社長が、断捨離をする心構えについて語った。
2人が暮らす部屋はゴミ屋敷と呼ぶには生活ゴミ(生ゴミ)は少ないものの、不要となったモノであふれかえっていた。母は何度もいらないモノを捨てようとしたという。しかし、いるモノを仕分けしたとしても、それを避難させておくスペースがなかった。
もう引っ越しをしてしまったほうが楽なのではないか。そう考えたが、病気で働けていない状態なので審査に通らなかった。
「息子が小学生になる前に子ども部屋を作ってあげたいなってずっと思っていたんです。でも体を壊して2年ぐらいほとんど何もできへんぐらいの体調になってしまって、その間にどんどん部屋が散らかっていって、いざやろうと思ったときには自分ではどうしようもない状態になってしまって」
リビングを片付けている様子(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
自分で搬入したはずの家具が「どうやって入れたんだろう?」と思うほど外に出すのが困難で、いらないモノをとりあえず使っていない部屋に押し込んでいった。物置となった部屋にはダニが発生するようになり、怖くて立ち入ることもなくなった。息子も幼いながらに母に気を使っていたようだ。友だちの家から帰ってくると、「うちは呼べないもんね」と言うそうだ。
「私、虫がものすごい苦手で、ベランダも怖くなっちゃって。コバエやアリに襲撃されることが過去にあったので、今回1年ぶりくらいに家の窓を開けたんです」
家に友達を呼べないと息子は依頼者に話していたという(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
生活ゴミが少ないとはいえ、1年も窓を開けていなければ臭いもこもってしまうだろう。精神衛生的な観点からも、いいことはなさそうだ。
「実はもともとそんな汚い家ではなくて。でも、“なんだろうこの臭い?”って感じるようになってから、買い物に行っても家に帰るのが嫌やった。家にいても吐きそうになるし。違う業者にも電話したんですけど、対応もすごく怖くて。“あなたの持っているものなんか全部ゴミですよ”と言われました。そこから怖くなってまた1年ぐらい空いちゃって。最初はどうにか自分でやろうと思ったんですけど、どうしても無理で」
女性がイーブイへの依頼を決めたのは料金体系だった。事情がある依頼者に対しては分割での支払いを提案しているからだ。分割払いを認めている業者は、二見氏が知る限りでもほとんどないという。イーブイは料金をホームページでも動画でも公表していない。そのため依頼者の女性も「高かったらどうしよう」と不安を感じながらコンタクトを取ったかもしれないが、料金を公表しないのには理由があると二見氏は言う。
「料金を公表したときに、“これだけで済むんだ”と感じる人もいれば“こんなにかかるんだ”と感じる人もいると思うんです。そこで諦めてしまう人を生みたくないという気持ちがあります。たとえば予算が5万円しかないのなら、5万円の範囲でできることを考えます。すぐに全額用意できないのであれば、今回の依頼者さまのように分割払いにすることもあります」
とはいえ、料金を後払いにしている以上、綺麗ごとだけでは済まない部分もある。依頼者の中には分割の支払いが途中で止まってしまう人もいれば、1円も払わずに連絡が取れなくなってしまうこともある。
「でもそれに対して恨むことはないです。電話をするなどできる限りのことはしますけど、法的措置を取るかと言われたらそういうわけにもいきません。親族に内緒で依頼をしている人もいるわけですから。料金未払いの人も、もう1回依頼したいときがきたら、清算をしたうえで“あのときはお金払わなくてごめん”と言ってくれればいいですよ。“お金が足りない”という理由で悩んでほしくないんです」
「可愛いけどね……。そういうのがアカンよね」
「昔、新地で働いていたときに、靴かわいいな、って言われて、だから捨てられない」
捨てるかどうか少し迷ったパンプス(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
依頼者の女性は1つひとつモノを手に取り、迷いながら仕分けをしていった。結局、お笑い芸人に褒められたというパンプスは、今は使っていないので捨てることにした。仕分けのポイントは、「現在、使っているか否か」だ。引っ越し当時から開封せずに放置しているダンボールの中身などは、もういらないモノと言ってもいいだろう。
「片付けを終えた後の光景をイメージしてもらうことも大事かなと思っています。“服が多いからとにかく減らそう”と言うのではなく、“これだけ服を減らしたらダンボール20箱分になるので、部屋がこれだけ広くなります”と具体的にイメージしてもらうんです」(二見氏)
くわえて、亡くなった夫の私物が頭を悩ませた。趣味のレコードや草野球をするときにかぶっていた帽子が出てきたが、さすがにそれは捨てられなかった。よく聞くのは、「思い出まで捨てるわけではない」というセリフだ。ありがちな意見なだけに、それで悩みが解決するとは思えないが……。
片付けをしているときに出てくる夫の遺品の数々(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
「職場の送別会でもらったプレゼントなど、誰かにもらったモノを売ったり捨てたりするのって、その行為自体が後ろめたいんだと思うんです。子どもの工作とかは実用性はないですけど思い出の品なので捨てづらいですよね。そのときに、“思い出まで捨てるわけじゃない”という言葉を第三者が言ってあげることが大事かなと。それなら罪悪感が薄れると思うんです」
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娘から父の日にプレゼントされた鞄を使い続け、みすぼらしいほどにボロボロになってしまったとしよう。会社で使うことはもうできなさそうだが、捨てるのはなんだか気が引ける。だが、娘本人に「もうボロボロだから捨てていいよ」と言われたら、肩の荷が下りるはずだ。
「片付けってこんなに楽しいんや。心機一転、今日から引っ越してきたみたいな感じです。息子も喜びます。こんなん1人でやっていたら2カ月くらいかかる」
片付けが終わった部屋(写真:「イーブイ片付けチャンネル」より)
片付けを終えてだいぶスッキリした部屋を見て、依頼者の女性は子どものようにはしゃいでいた。自分の部屋がもらえた小学2年生の息子も、「友だちを呼ぶのが楽しみ」とスタッフに話していた。
(國友 公司 : ルポライター)

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