学歴マウント、遺族を誹謗中傷、Xで暴言……議員としての適性を欠く人物が当選してしまう「地方議会」の実態

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埼玉県の鶴ヶ島市議会議員、小川尋海氏のX(旧Twitter)が大炎上している。8月23日、新型コロナウイルスワクチンの接種後に夫を亡くした須田睦子氏のポストを引用し、「とても面白い方がいたのでご紹介します」などと書き込んだのだ。
【写真】記者会見で号泣する野々村竜太郎元兵庫県議会議員 しかも、あろうことか小川氏は医師である。本来であればワクチン接種後に亡くなった人に対しては、慰めの言葉のひとつでもかけなければならない立場であるはずだ。それなのに、これはいったいどうしたことだろうか。議員としての適性はもとより、医師としての倫理観という点でも首を傾げざるを得ない。

さすがに事態を重くみたのか、同じ鶴ヶ島市議会議員の高橋剣二氏が、同日に「うちの1期がお騒がせしております。本日、議長及び副議長に相談して対応を検討します」とポストし、対応に追われる始末になっている。厳正な選挙で選ばれているはずなのに 30日、鶴ヶ島市議会は公式Xを更新。「当議会議員のX(Twitter)に関していただいた様々なご意見は、議会全員協議会で報告し、共有いたしました。個人のSNSにつきましては、議員自身の判断に委ねており、処分等は行っておりません」と報告したが、炎上は収まる気配がなく、議会のイメージダウンは避けられないだろう。 新型コロナウイルスワクチンに関しては様々な意見があるため、その効果云々の議論をここでするつもりはない。筆者が問題視するのは、地方議会では人をバカにしたり暴言を吐くなどといった、明らかに議員としての適性を欠く人物が当選する例が後を絶たないことである。上から目線で学歴マウント 前出の小川氏は、5月30日のポストでも炎上騒動を起こしている。大谷翔平氏の出身校、花巻東高校に掲げられた東大合格者を祝う垂れ幕に対し、「めったに東大合格者が出ない高校だということが分かってしまう垂れ幕」などという発言を行ったのだ。ちなみに小川氏の母校は埼玉医科大学である。 8月に入ると暴言はエスカレートし、22日には「あなたみたいに自分の頭の悪さを認めることができない人でも、幸せに生きられる社会を作れるように頑張りますね」と発言した。また、同じ日に「教育レベルが高いほど公衆衛生の恩恵を受けやすく、教育レベルが低い人ほどその必要性を理解できず、公衆衛生の恩恵を受けることができない」と発言して、やはり炎上した。 公衆衛生と教育レベルの相関を説く発言に謝罪を求める声が相次ぐと、「謝罪を求められている方もいるので、“一部の方が認めたくない”事実を陳列してしまったことを誠に申し訳なく思います」(“”は筆者)などと、皮肉たっぷりのポストで返した。一向に反省していないようである。 X上で活発な議論がなされるのは結構なことだが、小川氏の場合はあまりに他人を小馬鹿にする発言が多く、それでいて、本人は自分が気に食わない発言をした人に対し、開示請求をすると脅していた。まずは自分自身の行動を省みるべきではないか。議員の定数が多すぎる なぜ、地方議会ではこうした議員が当選してしまうのだろうか。結論を先に言えば、「当選しやすいから」である。住民の声をきめ細やかに議会に届けるためだと言えば聞こえがいいが、地方議会の場合は人口に対して議員定数が多いことが珍しくないうえ、地元の名士や企業経営者、さらにイベントの主催者など、比較的知名度のある人物であれば当選圏内に入りやすい。 地方選挙は票が分散する傾向が大きい。例えば、定数15人の選挙に16人が立候補したとして、1位1,200票、2位1,150票、3位1,143票……15位870票、16位868票といった塩梅に、数票差で当落が決まるパターンも珍しくない。しかも落選者がいても数人、場合によっては立候補者がゼロで無投票当選というケースもある。 こうした特性があるため、国政選挙では泡沫候補と言われた人が、地方選挙で当選した例はいくつもある。国政選挙ではほぼ当選者を出せない政党でも、地方選挙では当選者を出している例も多いので、興味のある人はぜひ調べていただきたい。 問題なのは、地方議員の仕事が、あろうことか無職のオッサンや地元名士の副業の場になっているケースだ。マニフェストも自分で作成せず、選挙コンサル会社に丸投げしている例もある。なかには、議会で年に一度も質問をしないグータラ議員までいるほどだ。こうした議員を肥やすため、税金が投入されているのは問題ではないだろうか。議員のなり手が不足している 近年、地方議員のなり手不足が問題になっている。筆者の故郷の秋田県の市町村の議会でも同様で、なり手不足ゆえに、ほとんど何もしない議員がずるずると続けている例が少なくない。 筆者は帰省するたび、「山内さんは当選するから絶対に町議会議員選挙に出た方が良い」などと複数の町民から勧誘されている。現に、私は町おこし活動などで多少の知名度があるため、選挙活動をほとんどしなくても当選できてしまうだろう。ある程度、地元で名が知られていれば、特に過疎地帯であれば当選は容易いとされる。 過疎地になればなるほど、地方選挙はマニフェストよりも縁故と知名度がモノを言う。政策を訴えるよりも友人に声をかけたり、町民の飲み会に出たり、選挙カーで町内をぐるぐる回ることの方が大事だったりする。驚く人もいるかもしれないが、選挙カーが回ってきた回数をこまめに数え、それを投票の理由にする住民までいたりするのだ。 地方議員は住民のためにきめ細やかな活動をするのが本来の姿である。国会議員同様、自らを律することが重要であるのは言うまでもない。地方議会が、地元の人気者ランキングになってはならないのだ。地方議会をしっかり監視すべきだ 2014年にあった兵庫県議会議員の野々村竜太郎氏の号泣会見はもはや伝説となっているが、今年になっても地方議員の不祥事が後を絶たない。2月には静岡県の浜松市議会で、自民党浜松に所属する柳川樹一郎氏が性的マイノリティーに対し、差別的ととれる発言を行って謝罪した。4月に国民民主党の応援を受けて当選した静岡県議会議員の中山真珠氏は、無免許運転が発覚して謝罪した。こうした失言、暴言は枚挙に暇が無く、いちいちニュースにしていてはキリがないほどである。 国会は注目度が高いため、議員の一挙手一投足が問題にされることが多い。しかし、実はスポットライトが当たりにくい地方議会のほうがなんとかしなければいけない議員が多いし、課題が山積しているのである。地元の名士一族の世襲、無駄に多い定員、延々と居座る議員、暴言、セクハラ……国会で問題になっていることが、地方議会には凝縮されているのだ。 議員1人の給料だって決して安くはないのである。仮に年間300万円だと仮定すれば、15人いたら4500万円かかる。さらに議員の研修旅行と称した温泉旅行などが、目が届きにくいためやりたい放題行われている例もある。こうした数千万円の支出は、地方では決して小さな金額ではなく、無駄を省けば子育て政策や高齢者福祉に使える予算が増えるはずだ。 最大の問題は、地方議員の発言は地域のイメージに直結する事例が多いことである。果たして、先の小川氏は鶴ヶ島市にプラスになる仕事をしたと言えるだろうか。地方議員は自分が地域の代表であると覚悟して職務に臨むべきだし、住民もその仕事ぶりを厳しく監視するようにしたいものである。山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。デイリー新潮編集部
しかも、あろうことか小川氏は医師である。本来であればワクチン接種後に亡くなった人に対しては、慰めの言葉のひとつでもかけなければならない立場であるはずだ。それなのに、これはいったいどうしたことだろうか。議員としての適性はもとより、医師としての倫理観という点でも首を傾げざるを得ない。
さすがに事態を重くみたのか、同じ鶴ヶ島市議会議員の高橋剣二氏が、同日に「うちの1期がお騒がせしております。本日、議長及び副議長に相談して対応を検討します」とポストし、対応に追われる始末になっている。
30日、鶴ヶ島市議会は公式Xを更新。「当議会議員のX(Twitter)に関していただいた様々なご意見は、議会全員協議会で報告し、共有いたしました。個人のSNSにつきましては、議員自身の判断に委ねており、処分等は行っておりません」と報告したが、炎上は収まる気配がなく、議会のイメージダウンは避けられないだろう。
新型コロナウイルスワクチンに関しては様々な意見があるため、その効果云々の議論をここでするつもりはない。筆者が問題視するのは、地方議会では人をバカにしたり暴言を吐くなどといった、明らかに議員としての適性を欠く人物が当選する例が後を絶たないことである。
前出の小川氏は、5月30日のポストでも炎上騒動を起こしている。大谷翔平氏の出身校、花巻東高校に掲げられた東大合格者を祝う垂れ幕に対し、「めったに東大合格者が出ない高校だということが分かってしまう垂れ幕」などという発言を行ったのだ。ちなみに小川氏の母校は埼玉医科大学である。
8月に入ると暴言はエスカレートし、22日には「あなたみたいに自分の頭の悪さを認めることができない人でも、幸せに生きられる社会を作れるように頑張りますね」と発言した。また、同じ日に「教育レベルが高いほど公衆衛生の恩恵を受けやすく、教育レベルが低い人ほどその必要性を理解できず、公衆衛生の恩恵を受けることができない」と発言して、やはり炎上した。
公衆衛生と教育レベルの相関を説く発言に謝罪を求める声が相次ぐと、「謝罪を求められている方もいるので、“一部の方が認めたくない”事実を陳列してしまったことを誠に申し訳なく思います」(“”は筆者)などと、皮肉たっぷりのポストで返した。一向に反省していないようである。
X上で活発な議論がなされるのは結構なことだが、小川氏の場合はあまりに他人を小馬鹿にする発言が多く、それでいて、本人は自分が気に食わない発言をした人に対し、開示請求をすると脅していた。まずは自分自身の行動を省みるべきではないか。
なぜ、地方議会ではこうした議員が当選してしまうのだろうか。結論を先に言えば、「当選しやすいから」である。住民の声をきめ細やかに議会に届けるためだと言えば聞こえがいいが、地方議会の場合は人口に対して議員定数が多いことが珍しくないうえ、地元の名士や企業経営者、さらにイベントの主催者など、比較的知名度のある人物であれば当選圏内に入りやすい。
地方選挙は票が分散する傾向が大きい。例えば、定数15人の選挙に16人が立候補したとして、1位1,200票、2位1,150票、3位1,143票……15位870票、16位868票といった塩梅に、数票差で当落が決まるパターンも珍しくない。しかも落選者がいても数人、場合によっては立候補者がゼロで無投票当選というケースもある。
こうした特性があるため、国政選挙では泡沫候補と言われた人が、地方選挙で当選した例はいくつもある。国政選挙ではほぼ当選者を出せない政党でも、地方選挙では当選者を出している例も多いので、興味のある人はぜひ調べていただきたい。
問題なのは、地方議員の仕事が、あろうことか無職のオッサンや地元名士の副業の場になっているケースだ。マニフェストも自分で作成せず、選挙コンサル会社に丸投げしている例もある。なかには、議会で年に一度も質問をしないグータラ議員までいるほどだ。こうした議員を肥やすため、税金が投入されているのは問題ではないだろうか。
近年、地方議員のなり手不足が問題になっている。筆者の故郷の秋田県の市町村の議会でも同様で、なり手不足ゆえに、ほとんど何もしない議員がずるずると続けている例が少なくない。
筆者は帰省するたび、「山内さんは当選するから絶対に町議会議員選挙に出た方が良い」などと複数の町民から勧誘されている。現に、私は町おこし活動などで多少の知名度があるため、選挙活動をほとんどしなくても当選できてしまうだろう。ある程度、地元で名が知られていれば、特に過疎地帯であれば当選は容易いとされる。
過疎地になればなるほど、地方選挙はマニフェストよりも縁故と知名度がモノを言う。政策を訴えるよりも友人に声をかけたり、町民の飲み会に出たり、選挙カーで町内をぐるぐる回ることの方が大事だったりする。驚く人もいるかもしれないが、選挙カーが回ってきた回数をこまめに数え、それを投票の理由にする住民までいたりするのだ。
地方議員は住民のためにきめ細やかな活動をするのが本来の姿である。国会議員同様、自らを律することが重要であるのは言うまでもない。地方議会が、地元の人気者ランキングになってはならないのだ。
2014年にあった兵庫県議会議員の野々村竜太郎氏の号泣会見はもはや伝説となっているが、今年になっても地方議員の不祥事が後を絶たない。2月には静岡県の浜松市議会で、自民党浜松に所属する柳川樹一郎氏が性的マイノリティーに対し、差別的ととれる発言を行って謝罪した。4月に国民民主党の応援を受けて当選した静岡県議会議員の中山真珠氏は、無免許運転が発覚して謝罪した。こうした失言、暴言は枚挙に暇が無く、いちいちニュースにしていてはキリがないほどである。
国会は注目度が高いため、議員の一挙手一投足が問題にされることが多い。しかし、実はスポットライトが当たりにくい地方議会のほうがなんとかしなければいけない議員が多いし、課題が山積しているのである。地元の名士一族の世襲、無駄に多い定員、延々と居座る議員、暴言、セクハラ……国会で問題になっていることが、地方議会には凝縮されているのだ。
議員1人の給料だって決して安くはないのである。仮に年間300万円だと仮定すれば、15人いたら4500万円かかる。さらに議員の研修旅行と称した温泉旅行などが、目が届きにくいためやりたい放題行われている例もある。こうした数千万円の支出は、地方では決して小さな金額ではなく、無駄を省けば子育て政策や高齢者福祉に使える予算が増えるはずだ。
最大の問題は、地方議員の発言は地域のイメージに直結する事例が多いことである。果たして、先の小川氏は鶴ヶ島市にプラスになる仕事をしたと言えるだろうか。地方議員は自分が地域の代表であると覚悟して職務に臨むべきだし、住民もその仕事ぶりを厳しく監視するようにしたいものである。
山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。
デイリー新潮編集部

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