「日本は若者よりも、高齢者を優遇している」って本当?元日銀副総裁がわかりやすく解説

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―[経済オンチの治し方]―
私は経済学者として国内外の大学で教鞭をとったりした後、’13~’18年には日本銀行副総裁として金融政策の立案にも携わりました。そこで、感じたのは「経済を知れば、生活はもっと豊かになる」ということ。そのお手伝いができればと思い、『週刊SPA!』で経済のカラクリをわかりやすく発信していきたいと考えました。◆日本は若者よりも、高齢者を優遇しているって本当?
所得の不平等の程度を示す「ジニ係数」を見てみましょう。このジニ係数には、当初所得(税・社会保障によって再分配が行われる前の所得)と再分配所得(当初所得から税・社会保険料を控除し、年金や医療の現物支給などの公的補助を加えた所得)の2種類があります。
OECDのデータによると、どの国も、65歳以上と64歳以下(18~64歳)との再分配所得の格差は当初所得格差よりもかなり大きくなっています。どの国でも、65歳以上に対する公的補助を、64歳以下よりも優遇しているわけです。
なかでも日本は特に高齢者を優遇している国です。日本の65歳以上のジニ係数改善率(当初所得ジニ係数に対する再分配所得ジニ係数の改善率)は50.6%です。年金などの公的補助で65歳以上の格差は大幅に改善されていることを示しています。
一方、64歳以下の改善率は12.9%にすぎません。この数値は所得再分配政策がほとんど機能していないことを示しています。日本以外のOECD主要国の同改善率が20~37%であることを考えても、日本の64歳以下に対する所得再分配政策が乏しいのは明らかです。
次に、厚生労働省の『所得再分配調査』(’18年版)で、日本の所得再分配政策の特徴を見てみましょう。すると、次のようなことがわかります。
まず、現金給付(生活保護、児童手当、年金など)と現物給付(医療、介護)の合計である「公的受給」が、税と社会保険料(年金、医療、介護その他)の合計である「公的拠出」を上回るのは、65歳以上になります。年金の支給開始が原則65歳であるためです。
次に、公的拠出から公的受給を差し引いた「家計の公的純負担」の割合を見てみると、39歳までは10%程度ですが、40~54歳では17%を超えています。この年齢層は教育費や住宅ローンの返済費などもかかるため、負担が特に重くなっていると予想されます。
一方で、定年後の60~64歳の公的純負担率は1.6%まで下がり、65歳以上になるとマイナスになります。負担率はその後も減り続け、75歳以上の後期高齢者になると、当初所得の約2倍の公的“純受給”があるのです。
ただし、これをもって後期高齢者が豊かであるとはいえません。公的受給はほとんど現物給付の医療と介護(合計131万円 ※所得再分配調査’18年版より)で、さらに、215万円の年金・恩給から医療と介護の自己負担分を賄うと、手元に残るお金はかなり少なくなるからです。
他方、現役世代は定年まで高齢者の扶養のために働いています。その現役世代も高齢者になると、そのときの現役世代に扶養されることになります。少子・高齢化が急速に進む日本で、この仕組みをどこまで維持できるかが、日本が抱える大問題です。
◆岩田の“異次元”処方せん
日本の64歳以下向け所得再分配政策は、ほぼ機能していません
―[経済オンチの治し方]―

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