【小林 一哉】「山梨県に出る水は静岡県の水」…JR東海に言いがかりをつける川勝知事の「デタラメ」

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「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」
静岡県の川勝平太知事は、県内の地下水が引っ張られる懸念を持ち出して、山梨県内のリニア工事にまで言い掛かりをつけている。
静岡県の無謀な言い掛かりに、山梨県の長崎幸太郎知事は「山梨県の工事で出る水は100%山梨県内の水だ」などと強硬なクレームをつけた。
そんなクレームにも、川勝知事は「科学的根拠に基づいてやっている」などと意に介さない様子で、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」を繰り返している。
ところが、「山梨県に出る水は静岡県の水」を示す「科学的根拠」を提案した県リニア専門委員に聞くと、「山梨県内の調査ボーリングをやめろ」ではなく、「やれ」と言っていることがわかった。
まんまと、川勝知事の詭弁に周囲が騙されたのである。
「山梨県の調査ボーリングをやめろ」を繰り返した5月15日の川勝知事会見(静岡県庁、筆者撮影)
昨年10月13日、静岡県は突然、山梨県内のリニアトンネル掘削で、距離的に離れていても、高圧の力が掛かり、静岡県内の地下水を引っ張る恐れがあるため、「静岡県境へ向けた山梨県内の工事をどの場所で止めるのか」を決定する必要があるなどとした文書をJR東海に送りつけた。
10月31日に開かれた県リニア専門部会で、当時の難波喬司副知事(現静岡市長)が、掘削による周辺の高圧地下水がトンネルに引っ張られるという概念図を示し、“引っ張られ理論”があるかどうかを迫ると、JR東海は「理論上はありうる」と回答した。
この回答で静岡県は、JR東海も静岡県内の地下水が引っ張られる恐れを認めたとして、引き続き、県リニア専門部会で議論することを強引に決めてしまった。
12月に入ると、静岡県はトンネル掘削だけでなく、調査ボーリングまで問題にしてしまう。「水抜きがあり得る高速長尺先進ボーリングが“静岡県の地下水圏”に近づくことは同意できない」という意見書をJR東海に送った。
川勝知事は「調査の名を借りた水抜き工事だ」と糾弾、山梨県内の調査ボーリングを続ければ、「湧水の全量戻し」は“実質破綻”するとJR東海を脅した。
調査ボーリングで水抜きがあるのは事実だが、水抜きはトンネル掘削に比べればはるかに微量である。そもそも長崎知事の発言にあるように、「100%山梨県の水」だから、山梨県内の水抜きに何ら問題はない。
また地下水は動的な水であり、地下水脈がどのように流れているのか不明だ。所有権を主張する「静岡県の地下水圏」など存在しない。
何よりも、たとえ、地下深くの水が山梨県へ引っ張られても、「全量戻し」の理由だった大井川下流域の利水への影響には全く関係ない。
山梨県の調査、工事を止める指導権限など静岡県にはない。単なる川勝知事の嫌がらせでしかないことは明白だった。
その後、川勝知事は静岡県の断層帯と山梨県の断層帯が地下深くで、つながっている可能性から、「サイフォンの原理」を唱え、調査ボーリングが静岡県の地下水を山梨県内に流出させると超自然現象を持ち出した。
2023年3月28日の会見で、さすがに「サイフォンの原理は間違っていた」と誤りを認めたが、その席で「掘っていけば極めて高い水圧があり、その圧力の違いによって水が流出する。間違いなく静岡県の地下水が流出する恐れがある」を繰り返し、「山梨県の調査ボーリングをやめろ」を正当化した。
静岡県の水が山梨県へ引っ張られることを示した概念図(静岡県資料)
このようなドタバタの中、県リニア専門部会が4月27日開催され、ウエブ参加した丸井敦尚委員(地下水学)が「山梨県の調査ボーリングの湧水が静岡県の地下水である根拠を科学的に示す方法」の提案書を出した。地下深くの水がどちらの水かを推定する方法があるというのだ。
翌日の28日の会見で、中日新聞記者が「全量戻しで合意しているのは、県境付近の工事期間中のことであり、今回の高速長尺先進ボーリング(調査ボーリング)は山梨県内で行われている。これに対しても、その全量を戻せという考えは譲らないのか」と追及した。
川勝知事は「丸井先生から明確に、山梨県側の調査ボーリングの湧水が、静岡県の地下水である根拠を科学的に示す方法があると言われており、科学的工学的にやるというのが丹羽(俊介JR東海)社長も明確に言われて、わたしも同意した中身である」などわけのわからない回答で逃げた。
5月に入って、長崎知事が「山梨県の問題は山梨県が責任をもって行う」などと静岡県の対応に怒りを露わにした。
この結果、川勝知事の5月15日の会見で、記者たちの質問がこの問題に集中した。
読売新聞記者が「山梨県に出る水は静岡県の水なのか」と“蒟蒻(こんにゃく)問答”を仕掛けた。
すると、川勝知事は「それがわかる方法があると丸井先生が言われた。JR東海もそれを検証するという方向で回答したと聞いている」などと、あくまでも丸井委員の検証方法をやればわかると言う。
2度の知事会見で、川勝知事は丸井委員の「山梨県に出る水が静岡県の水である根拠を科学的に示す方法」を検証しなければ、「山梨県の調査ボーリングをやめろ」という主張を変えないというのだ。
記者たちは、川勝知事の説明から丸井委員の検証方法が数学的モデルによるコンピューター上のシミュレーションと思い込んでしまった。
丸井委員の提案は、非常に専門的でわかりにくい内容でもあり、4月27日の会議で議論などなかった。
丸井委員の提案書にある3点は次の通りである。
県リニア会議に出席した丸井敦尚委員(静岡県庁、筆者撮影)
現在、JR東海は約600メートルから1000メートルの地下でボーリング調査を行い、県境から約300メートルの地点へ近づいている。
筆者には、丸井委員の提案は、「調査ボーリングを行うことで地下水の湧出範囲などを推定する」と読み取れた。つまり、JR東海が水の組成、滞留時間等を検証するためには、実際の調査ボーリングが必要となるのだ。
静岡県に確認すると、筆者の考えに間違いないことがわかった。だから、現在の山梨県の調査ボーリングを県は止めていないのだ。それなのに、静岡県が県境から300メートル地点でやめるようJR東海に要請する理由は何なのか?
県リニア担当者は、300メートル付近の地下深くで、山梨県の断層と静岡県の断層がつながっている可能性を理由に挙げた。
もともと、丸井委員らは静岡県と山梨県の断層帯がつながっていることなど問題にもしていなかった。
それなのに、地質や地下水の専門家でもない、県リニア事務方の渡邉光喜参事が2023年2月28日の知事会見で、静岡県と山梨県の断層帯がつながっていることをJR東海の資料で発見したと発表、その上で、川勝知事が「サイフォンの原理」を持ち出して、静岡県の水が山梨県に引っ張られる“自作自演”の言い掛かりをつけた。
3月20日の県専門部会で、丸井委員から「サイフォンの原理」などありえないと否定されると、今度は、断層帯がつながっていることによる高圧水の可能性を静岡県は持ち出した。
高圧水の可能性についても、筆者の取材に答えた丸井委員は「もし、地下深く静岡県、山梨県の断層帯がつながっていたとしても、10年掛かってほんのわずかな水が出る程度であり、リニア工事のリスクにならない」と否定した。
とすれば、丸井委員が、県境手前の約300メートルで調査ボーリングを止める主張をするはずはない。
ふつうに考えれば、丸井委員の主張は「山梨県の調査ボーリングをやめろ」ではなく、「やれ」となる。県リニア担当者に、この疑問を投げ掛けると、「丸井先生に確認してみる」の一点張りだった。
渡邉参事が静岡県と山梨県の断層が地下深くで、つながることを説明、川勝知事は「サイフォンの原理」を唱えた(静岡県庁、筆者撮影)
こんな重要な問題をいま頃、確認するのか? あまりにも疑わしい回答である。
やはり、筆者の推論通りだった。
直接、丸井委員に確認すると、「最低でも静岡県境までは調査ボーリングをやってほしい。さらに静岡県内に入ってほしい」とのことだった。県境手前の300メートルで、「やめろ」などとひと言も言っていないのだ。
逆に、静岡県内の調査ボーリングまでやらなければ、どちらの水か推定できない。そういう検証方法を丸井委員は提案したのだ。
これで、「科学的根拠」とする丸井委員の検証方法を盾にした川勝知事の「山梨県の調査ボーリングをやめろ」が成り立たないことが明らかになった。つまり、川勝知事は、丸井委員の提案を都合よくダシに使ったのだ。
拙著『知事失格 リニアを遅らせた川勝平太静岡県知事の「命の水」の嘘』(飛鳥新社)で、大井川流域の「62万人の命の水」の嘘とごまかしを明らかにして、川勝知事の“化けの皮”をはがした。
今回も、“オレオレ詐欺級”の詭弁を弄する、デタラメな主張だったのだ。静岡県で行われているリニア議論は、科学的でも工学的でもない。
もうこの辺で、「反リニア」を貫く川勝知事の嘘とごまかしをやめさせなければ、リニア計画そのものが中止に追い込まれるだろう。

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