給湯室から聞こえた「おっさん、マジで使えねえ」の声…59歳・派遣事務、月収61万円のエリート時代を思い出して号泣【CFPが助言】

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

プライム市場上場企業の課長を務めていたHさん。社内の「早期退職制度」を利用して、60歳の定年を待たずに会社を辞めました。「一足先にリタイアして、セカンドライフを満喫しよう」と考えていたHさんでしたが、実際には「過酷な現実」が待ち受けていたのです。家計破綻間近のHさんに、牧野FP事務所の牧野CFPはどのような助言をしたのでしょうか。みていきましょう。
50歳までプライム市場上場企業の課長として月収61万円で働いていたHさん。パート勤めで1歳年下の妻と19歳の息子、16歳の娘がおり、4人で暮らしていました。Hさんが51歳のとき、社内の「早期退職制度」を利用して早期退職しました。
Hさんは、「いま辞めれば退職金も多くなるし、お金が足りなくなったら再就職すればいい。この経歴ならなんとかなるだろう」と軽い気持ちで退職。しかし、“予想外の事態”により生活が困窮し、59歳になったHさんは筆者のFP事務所を訪れたのです。
[図表1]Hさんが早期退職してからのH家 出所:筆者作成
「早期退職制度※」とは、企業の福利厚生の一環として、定年退職を迎える前に社員の意思で退職できるしくみのことです。
※ なお、この「早期退職制度」は、“社員の意思”での退職であるため「自主退職」扱いとなる。また、企業によって呼び方は「早期優遇退職」「転進支援制度」などさまざまあるが、本記事においては「早期退職制度」と統一する。
この制度を利用して退職すると、企業によって異なるものの、主に
・退職金が定年退職時の支給予定額よりも上乗せされる・企業側が再就職のサポートをしてくれる
といったメリットがあるといわれています。
Hさんは、「早期退職制度を利用すれば、1日中誰にも拘束されることなく好きなことができる」と思っていました。
[図表2]退職者※1人あたりの平均退職給付額 ※勤続20年以上かつ45歳以上で、大学・大学院卒の管理・事務・技術職の場合。出所:厚生労働省『平成30年就労条件総合調査』をもとに筆者作成。
早期退職後、Hさんに起こった“予想外の事態”Hさんは退職時、すでに住宅ローンを完済しており、また子どもたちのために大学進学資金も準備していました。また、老齢厚生年金を受給するまでのあいだも、退職金といままでの貯蓄があれば生活できるだろうと安易に思っていたようです。しかし、退職後、主に次のような想定外の出来事がありました。1.一緒に趣味を満喫してくれる相手が見つからないHさんは退職後、友人を誘って趣味の旅行やキャンプ、ゴルフ、釣りを満喫する生活を始めましたが、徐々に雲行きが怪しくなってきました。というのも、Hさんとの遊びに付き合ってくれる友人は世代的に責任ある立場の方が多く、平日に時間のとれる人はなかなかいません。また、妻もパートに町内会の用事にとなにかと忙しく、誘っても冷たくあしらわれてしまいます。しだいにHさんは1人で出かけることが増え、ただただ散財するようになりました。2.社会保険料の支払いが発生した会社員だったころは第2号被保険者として給与から天引きされていた社会保険料ですが、退職後は第1号被保険者※となり、国民健康保険料と国民年金保険料を毎月納付する必要が出てきました。また、妻もHさんが退職したことで第3号被保険者から第1号被保険者になり、保険料を納付しなければならなくなりました。国民年金だけでも、2人で毎月3万円以上。家計は圧迫されました。※ <参考>日本年金機構HP「国民年金の「第1号被保険者」、「第3号被保険者」とは何ですか」3.再就職先での待遇上記2つの出来事から、Hさんは再就職しようと派遣事務の働き口を見つけたものの、「元エリート」のプライドが邪魔をして派遣会社や上司に対してついつい口出しするようになりました。しかも、業務は若いころのように早く覚えられず、20代の若手社員に同じことを何度も聞くことに。当然社内では「老害」扱い。Hさんが給湯室を横切った際、いつも教えてもらっている若手社員が「あのおっさん、マジで使えねえ。はやく辞めればいいのに」と話している声が聞こえ、思わずトイレで泣いてしまったそうです。結局、Hさんは周りの冷ややかな視線に耐えかねて、わずか1年で辞めてしまいました。その後は自宅にこもり、今後の生活への不安や輝いていた退職前の自分との差を憂い、涙する日々が続いています。Hさんにとっては、想定外のことだったかもしれません。しかし冷静に考えてみれば、こうなってしまった原因は「退職後の家計収支」を考えていなかったことにあります。「早期退職制度」は、退職金やその後の自分の時間を、起業や再就職などといったさらなるスキルアップのために活用できる人にはいい制度かもしれません。しかし、退職が定年より早い分、退職金が上乗せされても年金受給までの生活は長くなります。また、早期退職することで生まれた「厚生年金に加入していない期間」分、老齢厚生年金の受給額も減ってしまうことに注意が必要です。破綻寸前のHさんに、FPが行った「3つ」の提案筆者は、Hさんから話を聞き、妻が65歳まで月8万円でパートを続けることを前提に、家計再建のために下記の3つを提案しました。1.資産を売却する2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」する3.Hさんが働く1.資産を売却するHさんはすでに、早期退職時に受け取った退職金や預金はほとんど使い果たしてしまい、いまある資産は住んでいるマンションと自家用車のみです。資産価値としては、2,500万円程度です。資産を売却し、妻が今後30年間生きると仮定すると、2,500万円(資産売却価格)÷30年間÷12ヵ月=約7万円と、毎月7万円生活費に充てることができます。ただしこの場合、H家は毎月家賃を払いながら賃貸住まいとなります。2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」するH夫妻の老齢厚生年金の受給見込額は[図表3]のとおりです。[図表3]H夫妻の老齢厚生年金受給見込額 出所:筆者作成なお、Hさんが65歳から1年間は加給年金も受給できる。65歳の年金受給開始を待っていてはそれまでの生活が成り立たないため、60歳から繰上げ受給※します。ただし、繰上げ受給の申請後にこれを取消すことはできません。繰上げ受給した場合の年金額は、約121万6,000円(月額約10万円)となります。※ 詳細と注意点については、日本年金機構HP「年金の繰上げ受給」を参照。3.Hさんが働くHさんが無職のままでは、家計は苦しくなる一方です。そこで、Hさんが気分を一新して働くために、「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」に参加して職場を見つけるのもひとつの方法です。「ハロートレーニング」では、主に雇用保険を受給できない求職者を対象に、就職に必要な職業スキルや知識を習得する職業訓練を無料で実施しています。また、一定の支給要件を満たせば、職業訓練の受講を支援するための給付金(職業訓練受講給付金)が受けることができます。ただし、テキスト代は自己負担となります※。※<参考>厚生労働省HP「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」1~3のいずれか、または複数の方法を組み合わせて、今後の収入を確保するとよいでしょう。まとめ順調に出世していたHさんが、なぜ「早期退社制度」を利用して退職したのでしょう。そこには秘めた理由もあったかもしれません。いずれにせよ、Hさんは早期退職してからの約10年、妻や子どもたちに多くの心配をかけてきました。これからの生活は夫婦でよく話し合い、家計収支の推移を定期的に点検することが、子どもたちのためにも大切なことです。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
Hさんは退職時、すでに住宅ローンを完済しており、また子どもたちのために大学進学資金も準備していました。また、老齢厚生年金を受給するまでのあいだも、退職金といままでの貯蓄があれば生活できるだろうと安易に思っていたようです。
しかし、退職後、主に次のような想定外の出来事がありました。
Hさんは退職後、友人を誘って趣味の旅行やキャンプ、ゴルフ、釣りを満喫する生活を始めましたが、徐々に雲行きが怪しくなってきました。
というのも、Hさんとの遊びに付き合ってくれる友人は世代的に責任ある立場の方が多く、平日に時間のとれる人はなかなかいません。また、妻もパートに町内会の用事にとなにかと忙しく、誘っても冷たくあしらわれてしまいます。しだいにHさんは1人で出かけることが増え、ただただ散財するようになりました。
会社員だったころは第2号被保険者として給与から天引きされていた社会保険料ですが、退職後は第1号被保険者※となり、国民健康保険料と国民年金保険料を毎月納付する必要が出てきました。
また、妻もHさんが退職したことで第3号被保険者から第1号被保険者になり、保険料を納付しなければならなくなりました。国民年金だけでも、2人で毎月3万円以上。家計は圧迫されました。
※ <参考>日本年金機構HP「国民年金の「第1号被保険者」、「第3号被保険者」とは何ですか」
上記2つの出来事から、Hさんは再就職しようと派遣事務の働き口を見つけたものの、「元エリート」のプライドが邪魔をして派遣会社や上司に対してついつい口出しするようになりました。
しかも、業務は若いころのように早く覚えられず、20代の若手社員に同じことを何度も聞くことに。当然社内では「老害」扱い。Hさんが給湯室を横切った際、いつも教えてもらっている若手社員が「あのおっさん、マジで使えねえ。はやく辞めればいいのに」と話している声が聞こえ、思わずトイレで泣いてしまったそうです。
結局、Hさんは周りの冷ややかな視線に耐えかねて、わずか1年で辞めてしまいました。その後は自宅にこもり、今後の生活への不安や輝いていた退職前の自分との差を憂い、涙する日々が続いています。
Hさんにとっては、想定外のことだったかもしれません。しかし冷静に考えてみれば、こうなってしまった原因は「退職後の家計収支」を考えていなかったことにあります。
「早期退職制度」は、退職金やその後の自分の時間を、起業や再就職などといったさらなるスキルアップのために活用できる人にはいい制度かもしれません。
しかし、退職が定年より早い分、退職金が上乗せされても年金受給までの生活は長くなります。また、早期退職することで生まれた「厚生年金に加入していない期間」分、老齢厚生年金の受給額も減ってしまうことに注意が必要です。
破綻寸前のHさんに、FPが行った「3つ」の提案筆者は、Hさんから話を聞き、妻が65歳まで月8万円でパートを続けることを前提に、家計再建のために下記の3つを提案しました。1.資産を売却する2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」する3.Hさんが働く1.資産を売却するHさんはすでに、早期退職時に受け取った退職金や預金はほとんど使い果たしてしまい、いまある資産は住んでいるマンションと自家用車のみです。資産価値としては、2,500万円程度です。資産を売却し、妻が今後30年間生きると仮定すると、2,500万円(資産売却価格)÷30年間÷12ヵ月=約7万円と、毎月7万円生活費に充てることができます。ただしこの場合、H家は毎月家賃を払いながら賃貸住まいとなります。2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」するH夫妻の老齢厚生年金の受給見込額は[図表3]のとおりです。[図表3]H夫妻の老齢厚生年金受給見込額 出所:筆者作成なお、Hさんが65歳から1年間は加給年金も受給できる。65歳の年金受給開始を待っていてはそれまでの生活が成り立たないため、60歳から繰上げ受給※します。ただし、繰上げ受給の申請後にこれを取消すことはできません。繰上げ受給した場合の年金額は、約121万6,000円(月額約10万円)となります。※ 詳細と注意点については、日本年金機構HP「年金の繰上げ受給」を参照。3.Hさんが働くHさんが無職のままでは、家計は苦しくなる一方です。そこで、Hさんが気分を一新して働くために、「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」に参加して職場を見つけるのもひとつの方法です。「ハロートレーニング」では、主に雇用保険を受給できない求職者を対象に、就職に必要な職業スキルや知識を習得する職業訓練を無料で実施しています。また、一定の支給要件を満たせば、職業訓練の受講を支援するための給付金(職業訓練受講給付金)が受けることができます。ただし、テキスト代は自己負担となります※。※<参考>厚生労働省HP「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」1~3のいずれか、または複数の方法を組み合わせて、今後の収入を確保するとよいでしょう。まとめ順調に出世していたHさんが、なぜ「早期退社制度」を利用して退職したのでしょう。そこには秘めた理由もあったかもしれません。いずれにせよ、Hさんは早期退職してからの約10年、妻や子どもたちに多くの心配をかけてきました。これからの生活は夫婦でよく話し合い、家計収支の推移を定期的に点検することが、子どもたちのためにも大切なことです。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
筆者は、Hさんから話を聞き、妻が65歳まで月8万円でパートを続けることを前提に、家計再建のために下記の3つを提案しました。
1.資産を売却する2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」する3.Hさんが働く1.資産を売却するHさんはすでに、早期退職時に受け取った退職金や預金はほとんど使い果たしてしまい、いまある資産は住んでいるマンションと自家用車のみです。資産価値としては、2,500万円程度です。資産を売却し、妻が今後30年間生きると仮定すると、2,500万円(資産売却価格)÷30年間÷12ヵ月=約7万円と、毎月7万円生活費に充てることができます。ただしこの場合、H家は毎月家賃を払いながら賃貸住まいとなります。2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」するH夫妻の老齢厚生年金の受給見込額は[図表3]のとおりです。[図表3]H夫妻の老齢厚生年金受給見込額 出所:筆者作成なお、Hさんが65歳から1年間は加給年金も受給できる。65歳の年金受給開始を待っていてはそれまでの生活が成り立たないため、60歳から繰上げ受給※します。ただし、繰上げ受給の申請後にこれを取消すことはできません。繰上げ受給した場合の年金額は、約121万6,000円(月額約10万円)となります。※ 詳細と注意点については、日本年金機構HP「年金の繰上げ受給」を参照。3.Hさんが働くHさんが無職のままでは、家計は苦しくなる一方です。そこで、Hさんが気分を一新して働くために、「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」に参加して職場を見つけるのもひとつの方法です。「ハロートレーニング」では、主に雇用保険を受給できない求職者を対象に、就職に必要な職業スキルや知識を習得する職業訓練を無料で実施しています。また、一定の支給要件を満たせば、職業訓練の受講を支援するための給付金(職業訓練受講給付金)が受けることができます。ただし、テキスト代は自己負担となります※。※<参考>厚生労働省HP「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」1~3のいずれか、または複数の方法を組み合わせて、今後の収入を確保するとよいでしょう。まとめ順調に出世していたHさんが、なぜ「早期退社制度」を利用して退職したのでしょう。そこには秘めた理由もあったかもしれません。いずれにせよ、Hさんは早期退職してからの約10年、妻や子どもたちに多くの心配をかけてきました。これからの生活は夫婦でよく話し合い、家計収支の推移を定期的に点検することが、子どもたちのためにも大切なことです。牧野 寿和牧野FP事務所合同会社代表社員
1.資産を売却する
2.老齢厚生年金を「繰上げ受給」する
3.Hさんが働く
Hさんはすでに、早期退職時に受け取った退職金や預金はほとんど使い果たしてしまい、いまある資産は住んでいるマンションと自家用車のみです。資産価値としては、2,500万円程度です。
資産を売却し、妻が今後30年間生きると仮定すると、
2,500万円(資産売却価格)÷30年間÷12ヵ月=約7万円
と、毎月7万円生活費に充てることができます。ただしこの場合、H家は毎月家賃を払いながら賃貸住まいとなります。
H夫妻の老齢厚生年金の受給見込額は[図表3]のとおりです。
[図表3]H夫妻の老齢厚生年金受給見込額 出所:筆者作成なお、Hさんが65歳から1年間は加給年金も受給できる。
65歳の年金受給開始を待っていてはそれまでの生活が成り立たないため、60歳から繰上げ受給※します。ただし、繰上げ受給の申請後にこれを取消すことはできません。繰上げ受給した場合の年金額は、約121万6,000円(月額約10万円)となります。
※ 詳細と注意点については、日本年金機構HP「年金の繰上げ受給」を参照。
Hさんが無職のままでは、家計は苦しくなる一方です。そこで、Hさんが気分を一新して働くために、「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」に参加して職場を見つけるのもひとつの方法です。
「ハロートレーニング」では、主に雇用保険を受給できない求職者を対象に、就職に必要な職業スキルや知識を習得する職業訓練を無料で実施しています。また、一定の支給要件を満たせば、職業訓練の受講を支援するための給付金(職業訓練受講給付金)が受けることができます。ただし、テキスト代は自己負担となります※。
※<参考>厚生労働省HP「ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)」
1~3のいずれか、または複数の方法を組み合わせて、今後の収入を確保するとよいでしょう。
順調に出世していたHさんが、なぜ「早期退社制度」を利用して退職したのでしょう。そこには秘めた理由もあったかもしれません。
いずれにせよ、Hさんは早期退職してからの約10年、妻や子どもたちに多くの心配をかけてきました。これからの生活は夫婦でよく話し合い、家計収支の推移を定期的に点検することが、子どもたちのためにも大切なことです。
牧野 寿和
牧野FP事務所合同会社
代表社員

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。