ようやく法廷に 京アニ放火の真相解明本格化へ 8日から公判前手続き

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36人が死亡した京都アニメーション第1スタジオ放火殺人事件で、殺人などの罪で起訴された青葉真司被告(44)の公判前に争点の絞り込みなどを行う公判前整理手続きが8日、京都地裁で始まる。
検察側は9月にも初公判を開きたい意向を遺族側に伝えており、手続きで公判日程も確定させる。約2年半前の起訴以降、裁判開始に向けた具体的な手続きは初めて。平成以降で最悪の犠牲者数を出した殺人事件の真相解明がついに本格化する。
「裁判所としてもそろそろ(公判日程や審理計画を)決めなくては、という雰囲気になっているようだ」。発生から今夏で4年となる京アニ事件について、検察関係者は刑事裁判の開始が近づいているという認識を示す。
裁判の迅速・適正化のため、裁判員制度開始に先立つ平成17年に導入された公判前整理手続き。刑事訴訟法によると、希望があれば被告本人の出頭も可能だが、青葉被告は事件で全身に重度のやけどを負い、医療設備が整備された大阪拘置所(大阪市)に収容中だ。8日に出頭するかどうかは判然としない。
関係者によると、地裁と検察、弁護側は公判開始に向け、水面下での調整を進めてきた。被害者が公判で意見を述べたり、被告に質問したりする「被害者参加制度」の利用などを巡り、遺族や負傷者への意向確認などを続けていたという。対象者が多いため時間がかかったが、正式な手続きを進める準備が整ったとみられる。
公判で最大の争点になるとみられるのが、青葉被告の刑事責任能力の有無や程度だ。捜査関係者によると被告は捜査段階で容疑を認める一方、動機に関しては京アニの作品を挙げながら「小説を盗まれた」などと供述。これに対し、京アニ側は盗作の事実はないとする。
被告は過去に精神疾患での通院歴もあった。検察側は約半年間の鑑定留置を踏まえて責任能力を問えると判断、起訴に踏み切った。ただ、弁護側の要請による精神鑑定も行われており、鑑定結果などを巡って双方が主張を展開することも想定される。
初公判を9月上旬とした場合、「早ければ5~6月中に公判日程が決まるのでは」(関係者)。犠牲者数が多数に上ることから、重大な求刑も予想される。審理時間の確保のため、公判日程が長期にわたる可能性もあり、判決期日は越年するとの見方もある。

最高裁が令和3年にまとめた報告書によると、2年に実施された裁判員裁判対象事件で、公判前整理手続きに要した平均期間は過去最長の10カ月。10年前(6・4カ月)から長期化の一途をたどる。新型コロナウイルス禍の影響もあるが、否認事件や責任能力が争点となる事件では、特に長期化の傾向が顕著だ。
背景について最高裁は、メールや防犯カメラなどの客観的証拠の増加に伴う証拠開示や検討の長期化を指摘。また、否認や責任能力の有無などが争点となる事件では、精神鑑定に時間がかかったり、結果や証拠採否をめぐって検察と弁護側の意見が対立したりすることも珍しくない。
起訴後に関係者がすみやかに打ち合わせを始めるなど、長期化解消を模索する動きもある。だが、特に被害者が多数に上るなどの重大事件では、手続きの長期化傾向は避けられないのが実情だ。
例えば相模原市の知的障害者施設で平成28年に入所者ら45人が殺傷された事件。多数の被害者を匿名で審理するための調整などが生じ、起訴から初公判まで約2年9カ月を要した。29年に神奈川県座間市で起きた9人殺害事件はコロナ禍の影響で手続きの中断などがあり、初公判は起訴から約2年後の令和2年9月にずれ込んだ。
通常、非公開で進められる公判前整理手続きの「透明化」を求める声もある。昨年7月の安倍晋三元首相銃撃事件に関し、研究者やジャーナリストでつくる研究会は今年4月、手続きの公開を求める要望書を奈良地裁に提出。「国民が注視する歴史的な事件で、手続きの透明性を高めることが公判の信頼につながるはずだ」と訴えた。(杉侑里香、鈴木文也)

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