「あなたの子を彼女にあげて」と義妹に言われ…夫とその「おかしな家族」に恐怖を覚えた妻の決断

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夫の両親とのつきあいに苦労している女性は多い。昔のように「義父母に仕えなければならない」という“価値観”はさすがに減ってきたが、それでも「嫁にもらった」というような上から目線は消えない。
実際、「8割近くの人が義両親との同居はナシ」だと考えている……、そんな調査結果を株式会社クランピーリアルエステートがまとめている。
20代~30代の男女200人を対象にした同調査では、男性はアリとナシが約半数ずつだったが、女性でナシと回答した人はアリの5倍近くにも上る。同居したくない理由としては「お互いに気を遣うから」「義両親とはある程度の距離感が欲しい」などが挙がった。
できれば距離をとって付き合いたい、同居なんて考えたくもない……、という思いとは裏腹に、夫の実家に同居せざるを得ない事情がある女性もいる。前編記事で紹介したアカリさん(38歳・仮名=以下同)もその一人だ。
義父母といえど、しょせんは「他人の家族」。そのつきあいの難しさを引き続き考えていく。
10年前に2歳年上のヨシノリさんと結婚したアカリさん。婚姻届を出してすぐ、夫の会社が倒産してしまったことで、経済的な負担から、夫の実家に住むことに。
しかし、キッチンやお風呂がひとつしかない家で、家事の役割分担もわからぬまま始まった同居生活はストレスの連続。義母が用意するご飯はなぜかアカリさんの部分はない。義妹も交えた夫の再就職パーティでは一人「のけもの」扱い、食費や光熱費は渡しているのに義母はさらに息子(アカリさんの夫)に小遣いをもらっていた……という。
結婚して1年足らずで、もうやっていけないかもしれないと思ったアカリさんだったが、事態はここから意外な展開を見せる。
* * *
離婚という文字が頭をかすめたころ、アカリさんは妊娠していることに気づいた。
「これで離婚が遠のいた」と思う半面、「子どもができたら夫も義母も変わってくれるかもしれない」と期待も生まれた。
Photo by iStock
ところが子どもが産まれてから、夫の家族はさらにわけのわからない行動に出るようになった。「産まれたのは男の子。すでにわかってはいたことなんだけど、実際に赤ちゃんを見た瞬間、義母の顔が変わりました。『かわいいわねえ』と抱いて離さない。退院してからも猫かわいがりでした。私の子なんだけどなと思いつつ、まだしつけが必要な段階でもないから、かわいがってくれるのは悪いことじゃないしと自分をなだめていたんです」産まれてから数か月後、義妹が友人を連れてきた。子どもが見たいからという理由だった。「義妹の高校時代の友人なんですって。結婚しているけど子どもがいないから抱かせてあげてと言われて。それはいいんだけど、そこから妙に頻繁に義妹とその友人が来るようになったんです」あなたの子を彼女にあげてくれない?そして生後8か月がたったころ、保育園のめどがたったのでアカリさんは職場復帰した。すると義妹が「職場復帰をお祝いしたいから食事でもしない? お母さんが赤ちゃんの面倒見てくれるし」と言い出した。「義妹と距離を縮めるのも悪くないかと思って予約してくれた店に行きました。義妹とふたりだけだと思っていたんですが、そこにはすでに例の友人もいて。最初は穏やかに世間話をしていたんですが、義妹が急に『ねえ、アカリさん。お願いがあるんだけど』と言い出したんです。すると友人がほろほろと涙をこぼして。何がなんだかわかりませんでした。Photo by iStock 義妹は『この人、不妊治療もしたけど結局、子どもができないの。アカリさんはまた産めるよね。あの子を彼女にあげてくれない?』って。何言ってるのと笑ったんですが、ふたりは本気だった。養子に出してよとしつこいんです。あまりにバカにした言い草だと思って『いいかげんにしてよ』と怒ったら、『だったら、離婚して。彼女も離婚して兄と一緒になるって言ってるから。子どもは置いていってくれれば育てるから』と、さらにわけのわからないことを言う。『彼女とうちのおかあさん、仲がいいの。おかあさんが言えば、きっとお兄ちゃんも納得するし』って」あまりの不快感に、アカリさんは席を立って帰宅、夫にその話をした。夫はたいして驚いた様子もなく、「まあ、あいつの考えそうなことだよ。妹はいつも奇天烈なことを言うんだよ」とへらへらしていた。その態度にアカリさんはさらに腹を立てた。「あなたがはっきり、何バカなことを言ってるんだって怒ってよと言うと、『大丈夫だよ、放っておけばいいんだよ』と。その話が現実になるわけはないんだからって。そういうことを言っているんじゃなくて、なぜ言うべきことをはっきり言わないのかということなんですよ。夫は奇妙な母と妹をもったせいか、いつも的外れなんですよね。私は、現実になるから怒っているわけじゃなくて、そもそもそういう話をされること自体が不快なのに、それをわかってくれない」夫がずっと隠していたこと話をまともに聞いてもらえなかったと思ったのだろう。しばらくすると義妹から携帯にメッセージが届いた。「そもそもお兄ちゃんには、もう子どもがいるんだし、アカリさんだってこれからも子ども産めるでしょって。後半は先日も言われたけど、前半の話は聞いてないと思って、どういうことなのと尋ねたら、え、知らなかったのと逆に言われて」もう子どもがいるという発言は衝撃的だった。まったく知らなかったからだ。あわてて夫に尋ねると、「いらんこと言いやがって」と夫の顔がゆがんだ。 「夫は私と結婚する前に、婚約していた女性がいて、その人との間に子どもができたんだそう。でもその後、関係が悪化して婚約は破棄。破棄されたのかしたのかはよくわかりませんでした。ただ、子どもの認知だけはしてほしいと言われたのでした、と。私と結婚するときは本籍地を変えて転籍した。だから認知の証拠が残らなかったんですね。結婚するにあたって前の戸籍をたどることまではしませんでしたから、私はまったく知らなかった。義父母も隠していたわけです」義妹によれば、当時は家族内でその話で持ちきりだったそう。しかも義父母は「認知なんてしなくていい」と言い張ったらしい。義妹だけが自分の子なら認知してちゃんと責任をとれと兄に迫ったというのだ。「ヨシノリさんは親とあまり仲が良くなかったと言っていたけどと義妹に言ったら、『え、そんなことないわよ。お兄ちゃんとお母さんの仲良しはこのあたりでは有名だったもん。お兄ちゃんがひとり暮らしをしたのは、お父さんがこのままじゃ母親に頼りきりの息子がダメになると言い出したから。お母さんはひとり暮らしの部屋にしょっちゅう行ってたのよ、お父さんには内緒で』と。夫にずっと騙されていたと思ったけど、義妹の言うことがすべて本当かどうかもわからない。だから夫にストレートに聞きました」すると夫は「結婚前のことだから、いいじゃないか」と言っていたが、何度も尋ねると「認知した子はいる。でも今は接点がないって。養育費はと聞いたら払ってない、と。請求もされてないからと言っていたけど、自分の子が気にならないのか不思議でしたね。私が産んだこの子にも興味がないのかと聞くと、結婚してできた子だから別だよって」結婚していようがいまいが、自分の子には変わりない。この人のどこかが人としておかしい。もちろん義父母もおかしい。自分の友だちに子どもをあげてほしいという義妹も、もちろんおかしい。この家にいたら、いつか私も変になる「この家にいたら、いつか私も変になる。そう思ったら怖くてたまらなくなりました。でも私の実家は遠いし、帰ったところで仕事もない。そこで友人や勤務先、行政にも相談しまくって……。結局、勤務先が借り上げ住宅を用意してくれて、保育園も確保できました。保育園が確保できるまでは、夫の実家で何ごともなかったかのように生活していたんです。その時期が3か月くらい。いちばんつらかったですね。知らないうちに子どもを連れていかれたらどうしようと思って」夫への不信感が表面に出ないようにも気を遣った。そして子どもが1歳になる直前、アカリさんは休みをとり、最小限の荷物を持って昼間、保育園に出向いた。話はすでにしてあったので子どもを連れて、誰にも見られないようにして逃げた。 「その晩、夫からどこにいるのとのんびりしたメッセージが来たんです。だからもうそこには帰れない、一緒にはいられないと返事すると、夫、なんて言ったと思います? 『あ、そうなんだ。わかった』って。何がわかったのか……。離婚届を送ったらすぐに勤務先にサインしたものが戻ってきました。子どもの養育費は払ってほしいと言ったら、それもわかったと言ったけど、今に至るまで一回も支払われていません。関わるのが嫌で連絡しない私もよくないんですが……」ひとり息子は9歳になった。父親がいないことを寂しがっているようには見えないが、本心はわからない。アカリさんは「お父さんはあなたを愛していた」と、産まれた当時の写真を見せながら話してはいる。元夫が赤ちゃんを抱いて満面の笑みを浮かべている写真だ。確かに夫はあのころは喜んでいた。「いつか息子が会いたいと言えば、元夫に連絡をとるつもりではいます。ごくまれに義妹から連絡は来ますが、義妹とももう接点は持ちたくない。今は息子とふたり、静かに暮らしたいです」ときどき、実家の両親が遊びに来る。部屋が狭いのだが、息子が祖父母といるのを喜ぶため、あえて泊まってもらう。父が出張でやってくると一泊していく。母と子ふたりだけの生活が長く続くと息子も息が詰まるだろうとアカリさんは考えている。「母子が密着しすぎると、婚家のようになりそうで怖いですから。あそこで学んだことは私の人生に生かしたいと思っています」アカリさんはそう憂えている。婚家とのいざこざは程度問題でもある。自身の心が平穏に保たれない場合、逃げるが勝ちともなりうるのだ。* * *ARINA株式会社が中学生以下の子どもがいる親を対象に、「離婚したいと思う1番の理由は?」とアンケート調査を行っている。最多回答は「性格の不一致」で以下、「金銭問題」「異性関係」と続くが、6位には「義実家とのあつれき」もランクインしている。その理由を細かく見ると「夫は絶対に義実家の味方だから」「義両親との関わりの中で傷つく事があります。しかしどんな時でも夫は親の味方。彼にとって家族は妻ではなく、両親のようです」と、アカリさんの話にも通じる、妻の悔しさがにじむようだ。義実家の家族仲がよいこと自体は悪いことではない。問題はその「家族」に妻が含まれるのかどうか。含まれないとしたら、妻の心の平穏はなかなか保てないことだろう。
ところが子どもが産まれてから、夫の家族はさらにわけのわからない行動に出るようになった。
「産まれたのは男の子。すでにわかってはいたことなんだけど、実際に赤ちゃんを見た瞬間、義母の顔が変わりました。『かわいいわねえ』と抱いて離さない。退院してからも猫かわいがりでした。私の子なんだけどなと思いつつ、まだしつけが必要な段階でもないから、かわいがってくれるのは悪いことじゃないしと自分をなだめていたんです」
産まれてから数か月後、義妹が友人を連れてきた。子どもが見たいからという理由だった。
「義妹の高校時代の友人なんですって。結婚しているけど子どもがいないから抱かせてあげてと言われて。それはいいんだけど、そこから妙に頻繁に義妹とその友人が来るようになったんです」
そして生後8か月がたったころ、保育園のめどがたったのでアカリさんは職場復帰した。すると義妹が「職場復帰をお祝いしたいから食事でもしない? お母さんが赤ちゃんの面倒見てくれるし」と言い出した。
「義妹と距離を縮めるのも悪くないかと思って予約してくれた店に行きました。義妹とふたりだけだと思っていたんですが、そこにはすでに例の友人もいて。最初は穏やかに世間話をしていたんですが、義妹が急に『ねえ、アカリさん。お願いがあるんだけど』と言い出したんです。すると友人がほろほろと涙をこぼして。何がなんだかわかりませんでした。
Photo by iStock
義妹は『この人、不妊治療もしたけど結局、子どもができないの。アカリさんはまた産めるよね。あの子を彼女にあげてくれない?』って。何言ってるのと笑ったんですが、ふたりは本気だった。養子に出してよとしつこいんです。あまりにバカにした言い草だと思って『いいかげんにしてよ』と怒ったら、『だったら、離婚して。彼女も離婚して兄と一緒になるって言ってるから。子どもは置いていってくれれば育てるから』と、さらにわけのわからないことを言う。『彼女とうちのおかあさん、仲がいいの。おかあさんが言えば、きっとお兄ちゃんも納得するし』って」あまりの不快感に、アカリさんは席を立って帰宅、夫にその話をした。夫はたいして驚いた様子もなく、「まあ、あいつの考えそうなことだよ。妹はいつも奇天烈なことを言うんだよ」とへらへらしていた。その態度にアカリさんはさらに腹を立てた。「あなたがはっきり、何バカなことを言ってるんだって怒ってよと言うと、『大丈夫だよ、放っておけばいいんだよ』と。その話が現実になるわけはないんだからって。そういうことを言っているんじゃなくて、なぜ言うべきことをはっきり言わないのかということなんですよ。夫は奇妙な母と妹をもったせいか、いつも的外れなんですよね。私は、現実になるから怒っているわけじゃなくて、そもそもそういう話をされること自体が不快なのに、それをわかってくれない」夫がずっと隠していたこと話をまともに聞いてもらえなかったと思ったのだろう。しばらくすると義妹から携帯にメッセージが届いた。「そもそもお兄ちゃんには、もう子どもがいるんだし、アカリさんだってこれからも子ども産めるでしょって。後半は先日も言われたけど、前半の話は聞いてないと思って、どういうことなのと尋ねたら、え、知らなかったのと逆に言われて」もう子どもがいるという発言は衝撃的だった。まったく知らなかったからだ。あわてて夫に尋ねると、「いらんこと言いやがって」と夫の顔がゆがんだ。 「夫は私と結婚する前に、婚約していた女性がいて、その人との間に子どもができたんだそう。でもその後、関係が悪化して婚約は破棄。破棄されたのかしたのかはよくわかりませんでした。ただ、子どもの認知だけはしてほしいと言われたのでした、と。私と結婚するときは本籍地を変えて転籍した。だから認知の証拠が残らなかったんですね。結婚するにあたって前の戸籍をたどることまではしませんでしたから、私はまったく知らなかった。義父母も隠していたわけです」義妹によれば、当時は家族内でその話で持ちきりだったそう。しかも義父母は「認知なんてしなくていい」と言い張ったらしい。義妹だけが自分の子なら認知してちゃんと責任をとれと兄に迫ったというのだ。「ヨシノリさんは親とあまり仲が良くなかったと言っていたけどと義妹に言ったら、『え、そんなことないわよ。お兄ちゃんとお母さんの仲良しはこのあたりでは有名だったもん。お兄ちゃんがひとり暮らしをしたのは、お父さんがこのままじゃ母親に頼りきりの息子がダメになると言い出したから。お母さんはひとり暮らしの部屋にしょっちゅう行ってたのよ、お父さんには内緒で』と。夫にずっと騙されていたと思ったけど、義妹の言うことがすべて本当かどうかもわからない。だから夫にストレートに聞きました」すると夫は「結婚前のことだから、いいじゃないか」と言っていたが、何度も尋ねると「認知した子はいる。でも今は接点がないって。養育費はと聞いたら払ってない、と。請求もされてないからと言っていたけど、自分の子が気にならないのか不思議でしたね。私が産んだこの子にも興味がないのかと聞くと、結婚してできた子だから別だよって」結婚していようがいまいが、自分の子には変わりない。この人のどこかが人としておかしい。もちろん義父母もおかしい。自分の友だちに子どもをあげてほしいという義妹も、もちろんおかしい。この家にいたら、いつか私も変になる「この家にいたら、いつか私も変になる。そう思ったら怖くてたまらなくなりました。でも私の実家は遠いし、帰ったところで仕事もない。そこで友人や勤務先、行政にも相談しまくって……。結局、勤務先が借り上げ住宅を用意してくれて、保育園も確保できました。保育園が確保できるまでは、夫の実家で何ごともなかったかのように生活していたんです。その時期が3か月くらい。いちばんつらかったですね。知らないうちに子どもを連れていかれたらどうしようと思って」夫への不信感が表面に出ないようにも気を遣った。そして子どもが1歳になる直前、アカリさんは休みをとり、最小限の荷物を持って昼間、保育園に出向いた。話はすでにしてあったので子どもを連れて、誰にも見られないようにして逃げた。 「その晩、夫からどこにいるのとのんびりしたメッセージが来たんです。だからもうそこには帰れない、一緒にはいられないと返事すると、夫、なんて言ったと思います? 『あ、そうなんだ。わかった』って。何がわかったのか……。離婚届を送ったらすぐに勤務先にサインしたものが戻ってきました。子どもの養育費は払ってほしいと言ったら、それもわかったと言ったけど、今に至るまで一回も支払われていません。関わるのが嫌で連絡しない私もよくないんですが……」ひとり息子は9歳になった。父親がいないことを寂しがっているようには見えないが、本心はわからない。アカリさんは「お父さんはあなたを愛していた」と、産まれた当時の写真を見せながら話してはいる。元夫が赤ちゃんを抱いて満面の笑みを浮かべている写真だ。確かに夫はあのころは喜んでいた。「いつか息子が会いたいと言えば、元夫に連絡をとるつもりではいます。ごくまれに義妹から連絡は来ますが、義妹とももう接点は持ちたくない。今は息子とふたり、静かに暮らしたいです」ときどき、実家の両親が遊びに来る。部屋が狭いのだが、息子が祖父母といるのを喜ぶため、あえて泊まってもらう。父が出張でやってくると一泊していく。母と子ふたりだけの生活が長く続くと息子も息が詰まるだろうとアカリさんは考えている。「母子が密着しすぎると、婚家のようになりそうで怖いですから。あそこで学んだことは私の人生に生かしたいと思っています」アカリさんはそう憂えている。婚家とのいざこざは程度問題でもある。自身の心が平穏に保たれない場合、逃げるが勝ちともなりうるのだ。* * *ARINA株式会社が中学生以下の子どもがいる親を対象に、「離婚したいと思う1番の理由は?」とアンケート調査を行っている。最多回答は「性格の不一致」で以下、「金銭問題」「異性関係」と続くが、6位には「義実家とのあつれき」もランクインしている。その理由を細かく見ると「夫は絶対に義実家の味方だから」「義両親との関わりの中で傷つく事があります。しかしどんな時でも夫は親の味方。彼にとって家族は妻ではなく、両親のようです」と、アカリさんの話にも通じる、妻の悔しさがにじむようだ。義実家の家族仲がよいこと自体は悪いことではない。問題はその「家族」に妻が含まれるのかどうか。含まれないとしたら、妻の心の平穏はなかなか保てないことだろう。
義妹は『この人、不妊治療もしたけど結局、子どもができないの。アカリさんはまた産めるよね。あの子を彼女にあげてくれない?』って。何言ってるのと笑ったんですが、ふたりは本気だった。養子に出してよとしつこいんです。
あまりにバカにした言い草だと思って『いいかげんにしてよ』と怒ったら、『だったら、離婚して。彼女も離婚して兄と一緒になるって言ってるから。子どもは置いていってくれれば育てるから』と、さらにわけのわからないことを言う。『彼女とうちのおかあさん、仲がいいの。おかあさんが言えば、きっとお兄ちゃんも納得するし』って」
あまりの不快感に、アカリさんは席を立って帰宅、夫にその話をした。夫はたいして驚いた様子もなく、「まあ、あいつの考えそうなことだよ。妹はいつも奇天烈なことを言うんだよ」とへらへらしていた。その態度にアカリさんはさらに腹を立てた。
「あなたがはっきり、何バカなことを言ってるんだって怒ってよと言うと、『大丈夫だよ、放っておけばいいんだよ』と。その話が現実になるわけはないんだからって。
そういうことを言っているんじゃなくて、なぜ言うべきことをはっきり言わないのかということなんですよ。夫は奇妙な母と妹をもったせいか、いつも的外れなんですよね。私は、現実になるから怒っているわけじゃなくて、そもそもそういう話をされること自体が不快なのに、それをわかってくれない」
話をまともに聞いてもらえなかったと思ったのだろう。しばらくすると義妹から携帯にメッセージが届いた。
「そもそもお兄ちゃんには、もう子どもがいるんだし、アカリさんだってこれからも子ども産めるでしょって。後半は先日も言われたけど、前半の話は聞いてないと思って、どういうことなのと尋ねたら、え、知らなかったのと逆に言われて」
もう子どもがいるという発言は衝撃的だった。まったく知らなかったからだ。あわてて夫に尋ねると、「いらんこと言いやがって」と夫の顔がゆがんだ。
「夫は私と結婚する前に、婚約していた女性がいて、その人との間に子どもができたんだそう。でもその後、関係が悪化して婚約は破棄。破棄されたのかしたのかはよくわかりませんでした。ただ、子どもの認知だけはしてほしいと言われたのでした、と。私と結婚するときは本籍地を変えて転籍した。だから認知の証拠が残らなかったんですね。結婚するにあたって前の戸籍をたどることまではしませんでしたから、私はまったく知らなかった。義父母も隠していたわけです」義妹によれば、当時は家族内でその話で持ちきりだったそう。しかも義父母は「認知なんてしなくていい」と言い張ったらしい。義妹だけが自分の子なら認知してちゃんと責任をとれと兄に迫ったというのだ。「ヨシノリさんは親とあまり仲が良くなかったと言っていたけどと義妹に言ったら、『え、そんなことないわよ。お兄ちゃんとお母さんの仲良しはこのあたりでは有名だったもん。お兄ちゃんがひとり暮らしをしたのは、お父さんがこのままじゃ母親に頼りきりの息子がダメになると言い出したから。お母さんはひとり暮らしの部屋にしょっちゅう行ってたのよ、お父さんには内緒で』と。夫にずっと騙されていたと思ったけど、義妹の言うことがすべて本当かどうかもわからない。だから夫にストレートに聞きました」すると夫は「結婚前のことだから、いいじゃないか」と言っていたが、何度も尋ねると「認知した子はいる。でも今は接点がないって。養育費はと聞いたら払ってない、と。請求もされてないからと言っていたけど、自分の子が気にならないのか不思議でしたね。私が産んだこの子にも興味がないのかと聞くと、結婚してできた子だから別だよって」結婚していようがいまいが、自分の子には変わりない。この人のどこかが人としておかしい。もちろん義父母もおかしい。自分の友だちに子どもをあげてほしいという義妹も、もちろんおかしい。この家にいたら、いつか私も変になる「この家にいたら、いつか私も変になる。そう思ったら怖くてたまらなくなりました。でも私の実家は遠いし、帰ったところで仕事もない。そこで友人や勤務先、行政にも相談しまくって……。結局、勤務先が借り上げ住宅を用意してくれて、保育園も確保できました。保育園が確保できるまでは、夫の実家で何ごともなかったかのように生活していたんです。その時期が3か月くらい。いちばんつらかったですね。知らないうちに子どもを連れていかれたらどうしようと思って」夫への不信感が表面に出ないようにも気を遣った。そして子どもが1歳になる直前、アカリさんは休みをとり、最小限の荷物を持って昼間、保育園に出向いた。話はすでにしてあったので子どもを連れて、誰にも見られないようにして逃げた。 「その晩、夫からどこにいるのとのんびりしたメッセージが来たんです。だからもうそこには帰れない、一緒にはいられないと返事すると、夫、なんて言ったと思います? 『あ、そうなんだ。わかった』って。何がわかったのか……。離婚届を送ったらすぐに勤務先にサインしたものが戻ってきました。子どもの養育費は払ってほしいと言ったら、それもわかったと言ったけど、今に至るまで一回も支払われていません。関わるのが嫌で連絡しない私もよくないんですが……」ひとり息子は9歳になった。父親がいないことを寂しがっているようには見えないが、本心はわからない。アカリさんは「お父さんはあなたを愛していた」と、産まれた当時の写真を見せながら話してはいる。元夫が赤ちゃんを抱いて満面の笑みを浮かべている写真だ。確かに夫はあのころは喜んでいた。「いつか息子が会いたいと言えば、元夫に連絡をとるつもりではいます。ごくまれに義妹から連絡は来ますが、義妹とももう接点は持ちたくない。今は息子とふたり、静かに暮らしたいです」ときどき、実家の両親が遊びに来る。部屋が狭いのだが、息子が祖父母といるのを喜ぶため、あえて泊まってもらう。父が出張でやってくると一泊していく。母と子ふたりだけの生活が長く続くと息子も息が詰まるだろうとアカリさんは考えている。「母子が密着しすぎると、婚家のようになりそうで怖いですから。あそこで学んだことは私の人生に生かしたいと思っています」アカリさんはそう憂えている。婚家とのいざこざは程度問題でもある。自身の心が平穏に保たれない場合、逃げるが勝ちともなりうるのだ。* * *ARINA株式会社が中学生以下の子どもがいる親を対象に、「離婚したいと思う1番の理由は?」とアンケート調査を行っている。最多回答は「性格の不一致」で以下、「金銭問題」「異性関係」と続くが、6位には「義実家とのあつれき」もランクインしている。その理由を細かく見ると「夫は絶対に義実家の味方だから」「義両親との関わりの中で傷つく事があります。しかしどんな時でも夫は親の味方。彼にとって家族は妻ではなく、両親のようです」と、アカリさんの話にも通じる、妻の悔しさがにじむようだ。義実家の家族仲がよいこと自体は悪いことではない。問題はその「家族」に妻が含まれるのかどうか。含まれないとしたら、妻の心の平穏はなかなか保てないことだろう。
「夫は私と結婚する前に、婚約していた女性がいて、その人との間に子どもができたんだそう。でもその後、関係が悪化して婚約は破棄。破棄されたのかしたのかはよくわかりませんでした。ただ、子どもの認知だけはしてほしいと言われたのでした、と。私と結婚するときは本籍地を変えて転籍した。だから認知の証拠が残らなかったんですね。結婚するにあたって前の戸籍をたどることまではしませんでしたから、私はまったく知らなかった。義父母も隠していたわけです」
義妹によれば、当時は家族内でその話で持ちきりだったそう。しかも義父母は「認知なんてしなくていい」と言い張ったらしい。義妹だけが自分の子なら認知してちゃんと責任をとれと兄に迫ったというのだ。
「ヨシノリさんは親とあまり仲が良くなかったと言っていたけどと義妹に言ったら、『え、そんなことないわよ。お兄ちゃんとお母さんの仲良しはこのあたりでは有名だったもん。お兄ちゃんがひとり暮らしをしたのは、お父さんがこのままじゃ母親に頼りきりの息子がダメになると言い出したから。お母さんはひとり暮らしの部屋にしょっちゅう行ってたのよ、お父さんには内緒で』と。夫にずっと騙されていたと思ったけど、義妹の言うことがすべて本当かどうかもわからない。だから夫にストレートに聞きました」
すると夫は「結婚前のことだから、いいじゃないか」と言っていたが、何度も尋ねると「認知した子はいる。でも今は接点がないって。養育費はと聞いたら払ってない、と。請求もされてないからと言っていたけど、自分の子が気にならないのか不思議でしたね。私が産んだこの子にも興味がないのかと聞くと、結婚してできた子だから別だよって」
結婚していようがいまいが、自分の子には変わりない。この人のどこかが人としておかしい。もちろん義父母もおかしい。自分の友だちに子どもをあげてほしいという義妹も、もちろんおかしい。
「この家にいたら、いつか私も変になる。そう思ったら怖くてたまらなくなりました。でも私の実家は遠いし、帰ったところで仕事もない。そこで友人や勤務先、行政にも相談しまくって……。結局、勤務先が借り上げ住宅を用意してくれて、保育園も確保できました。保育園が確保できるまでは、夫の実家で何ごともなかったかのように生活していたんです。その時期が3か月くらい。いちばんつらかったですね。知らないうちに子どもを連れていかれたらどうしようと思って」
夫への不信感が表面に出ないようにも気を遣った。そして子どもが1歳になる直前、アカリさんは休みをとり、最小限の荷物を持って昼間、保育園に出向いた。話はすでにしてあったので子どもを連れて、誰にも見られないようにして逃げた。
「その晩、夫からどこにいるのとのんびりしたメッセージが来たんです。だからもうそこには帰れない、一緒にはいられないと返事すると、夫、なんて言ったと思います? 『あ、そうなんだ。わかった』って。何がわかったのか……。離婚届を送ったらすぐに勤務先にサインしたものが戻ってきました。子どもの養育費は払ってほしいと言ったら、それもわかったと言ったけど、今に至るまで一回も支払われていません。関わるのが嫌で連絡しない私もよくないんですが……」ひとり息子は9歳になった。父親がいないことを寂しがっているようには見えないが、本心はわからない。アカリさんは「お父さんはあなたを愛していた」と、産まれた当時の写真を見せながら話してはいる。元夫が赤ちゃんを抱いて満面の笑みを浮かべている写真だ。確かに夫はあのころは喜んでいた。「いつか息子が会いたいと言えば、元夫に連絡をとるつもりではいます。ごくまれに義妹から連絡は来ますが、義妹とももう接点は持ちたくない。今は息子とふたり、静かに暮らしたいです」ときどき、実家の両親が遊びに来る。部屋が狭いのだが、息子が祖父母といるのを喜ぶため、あえて泊まってもらう。父が出張でやってくると一泊していく。母と子ふたりだけの生活が長く続くと息子も息が詰まるだろうとアカリさんは考えている。「母子が密着しすぎると、婚家のようになりそうで怖いですから。あそこで学んだことは私の人生に生かしたいと思っています」アカリさんはそう憂えている。婚家とのいざこざは程度問題でもある。自身の心が平穏に保たれない場合、逃げるが勝ちともなりうるのだ。* * *ARINA株式会社が中学生以下の子どもがいる親を対象に、「離婚したいと思う1番の理由は?」とアンケート調査を行っている。最多回答は「性格の不一致」で以下、「金銭問題」「異性関係」と続くが、6位には「義実家とのあつれき」もランクインしている。その理由を細かく見ると「夫は絶対に義実家の味方だから」「義両親との関わりの中で傷つく事があります。しかしどんな時でも夫は親の味方。彼にとって家族は妻ではなく、両親のようです」と、アカリさんの話にも通じる、妻の悔しさがにじむようだ。義実家の家族仲がよいこと自体は悪いことではない。問題はその「家族」に妻が含まれるのかどうか。含まれないとしたら、妻の心の平穏はなかなか保てないことだろう。
「その晩、夫からどこにいるのとのんびりしたメッセージが来たんです。だからもうそこには帰れない、一緒にはいられないと返事すると、夫、なんて言ったと思います? 『あ、そうなんだ。わかった』って。何がわかったのか……。離婚届を送ったらすぐに勤務先にサインしたものが戻ってきました。子どもの養育費は払ってほしいと言ったら、それもわかったと言ったけど、今に至るまで一回も支払われていません。関わるのが嫌で連絡しない私もよくないんですが……」
ひとり息子は9歳になった。父親がいないことを寂しがっているようには見えないが、本心はわからない。アカリさんは「お父さんはあなたを愛していた」と、産まれた当時の写真を見せながら話してはいる。元夫が赤ちゃんを抱いて満面の笑みを浮かべている写真だ。確かに夫はあのころは喜んでいた。
「いつか息子が会いたいと言えば、元夫に連絡をとるつもりではいます。ごくまれに義妹から連絡は来ますが、義妹とももう接点は持ちたくない。今は息子とふたり、静かに暮らしたいです」
ときどき、実家の両親が遊びに来る。部屋が狭いのだが、息子が祖父母といるのを喜ぶため、あえて泊まってもらう。父が出張でやってくると一泊していく。母と子ふたりだけの生活が長く続くと息子も息が詰まるだろうとアカリさんは考えている。
「母子が密着しすぎると、婚家のようになりそうで怖いですから。あそこで学んだことは私の人生に生かしたいと思っています」
アカリさんはそう憂えている。婚家とのいざこざは程度問題でもある。自身の心が平穏に保たれない場合、逃げるが勝ちともなりうるのだ。
* * *
ARINA株式会社が中学生以下の子どもがいる親を対象に、「離婚したいと思う1番の理由は?」とアンケート調査を行っている。
最多回答は「性格の不一致」で以下、「金銭問題」「異性関係」と続くが、6位には「義実家とのあつれき」もランクインしている。
その理由を細かく見ると「夫は絶対に義実家の味方だから」「義両親との関わりの中で傷つく事があります。しかしどんな時でも夫は親の味方。彼にとって家族は妻ではなく、両親のようです」と、アカリさんの話にも通じる、妻の悔しさがにじむようだ。
義実家の家族仲がよいこと自体は悪いことではない。問題はその「家族」に妻が含まれるのかどうか。含まれないとしたら、妻の心の平穏はなかなか保てないことだろう。

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