一般人からも相次ぐ「いじめ被害」告白 加害者が過去と向き合う方法はあるのか

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有名人による「いじめ被害体験」の告白は、かつてもたびたび行われてきた。その多くは、若い女性アイドルや女性タレントによるものが多かったように思うが、最近は中年男性による告白が増えており、それに勇気づけられたのか、一般の中年による被害告白と救済を訴える動きが出ているという。ライターの森鷹久氏が、過去のいじめ加害によって一般の中年が追いつめられ疲弊する様子ついてレポートする。
【写真】何十年経っても被害者は忘れない * * * いじめた方は覚えていないが、いじめを受けた方は一生忘れることはない── 最近、かつて「いじめ」の被害に遭った人々が、SNSなどで「告発」をするパターンが増えている。人気お笑い芸人「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんによる「いじめ体験」の告白は、テレビや新聞でも大々的に取り上げられ、かつて自身をいじめていた人物から「俺の名前を出さないで」と連絡が来たことも明かしている。お笑い芸人「ライセンス」の藤原一裕さんや、なだぎ武さんもやはり「いじめ体験」をメディアや講演で赤裸々に告白。「よく言った」という意見が多数寄せられ、いじめ被害者達からも賞賛の声が上がっているようだ。そしてこの流れは有名人だけでなく、一般人にも波及しつつあるのかもしれない。「息子が幼稚園から帰ってくるなり、パパはいじめっ子だったのかと聞かれました。何のことか理解できず、そんなことないよ、やさしいパパだよと言ったんですが、息子の目には涙が溜まっていました」(本田さん) 声を震わせながら筆者の取材に応じたのは、埼玉県在住の主婦・本田かえでさん(仮名・30代)。夫の実家近くにマンションを購入した本田さんは現在、夫と幼稚園に通う息子と三人で暮らしている。幼稚園で仲良くなった息子の友人の親には、夫と小学校や中学校が一緒だった同窓生もいるという。息子は、そんな親の誰かから「パパはいじめっ子だ」と吹き込まれたようだった。「夫が帰ってからも、息子は怒って黙ったまま、夫もうろたえていました。昔誰かをいじめていたのか、と夫に聞いても、そんなこと覚えていない、の一点張り。結局その後、夫と小中学校が一緒だったXさんというママが、息子にそう話したことが発覚しました」(本田さん) 息子の機嫌は一向に回復する兆しがない。それだけショックだったのだろうと感じ、ほかに手段が思いつかなかった本田さんは、思い切って幼稚園に相談したという。すると、この「いじめ問題」は園内ですでにちょっとした「騒動」になっていたらしく、応じたのは園長だった。「Xさんは息子以外の複数の子供にも、あなたの親からいじめられた、と話していたそうで、ほかの親御さんからも園に相談が来ているそうでした。園長先生からは”改めて謝罪されてみては”と言われたので、そのすすめに従ってみてはと改めて夫に相談しました」(本田さん) ところが、その話を夫にしても、やはり覚えていないの一点張り。さらに「そんなことを蒸し返して子供まで巻き込んで」と怒鳴りあげたのだ。それをきっかけとして本田さんは、Xママも許せなかったが、夫にも不信感を抱いたと話す。「Xママを責める前に、本当にいじめてないのか、しっかり思い返してほしかったんです。何度も問い詰めたら、子供らしい”からかい”みたいなものがあったと白状しました。なのに、謝ろうともせず、息子には”Xママとしゃべるな”とまで言う始末。私もいじめられた経験があり、Xママの気持ちはわからないでもないし、忘れようとしても忘れられない。息子を巻き込んだことは許せませんが、夫にも責任はある」(本田さん) その後、誰かがXママに謝罪をしたとの噂が広まると、騒動自体もいつの間にか終息した。しかし、夫は未だに「そんな昔のことを今さら」と納得いかないという態度を崩さないのだと、本田さんはうなだれる。「僕の責任ではあるんですが……」 本田さんの夫に限らず、いじめ加害を指摘される側は、とぼけているわけではなく本当に過去の出来事だから覚えていないと言うことも少なくない。だが、やはり「いじめられた側」の記憶は鮮明なのだろう。都内の会社員・坂本信一さん(仮名・40代)は半年前、思いもよらないところで「反撃」を受けたと話す。「SNSで見知らぬ人から”いじめっ子 “とだけ記した不気味なメッセージが届き、嫌がらせなのかと思い無視していました。ところが、小中学校の同級生である私の友人にも同じユーザーから同様のメッセージが届いていたんです。正直、このユーザーの心当たりはありました」(坂本さん) 実は坂本さんと友人は、小学校高学年から中学まで、男子生徒・Y氏のことを毎日のようにからかっていた。頭を叩いてみたり、格闘技の技をかけてみたり、水泳の授業中に女子生徒の前で水着をはぎ取ったりしたが「当時はそれが面白いと思っていたし、そいつ(男子生徒)も喜んでいたように見えた」と振り返る。しかし、冷静に考えてみれば、坂本さんにとっては悪ふざけでも、彼にとっては「凄惨ないじめ」そのものだったのだ。Y氏のフェイスブックを見つけた坂本さんは、Y氏の書き込みを見つけて震え上がった。「私や友人、そして当時の担任の名前をあげて、こいつらからいじめられた、何度も死を考えた、と書かれていました。さらに、私たちの職業や家族の有無まで細かくありました。メッセージを送ってきたのは別のユーザー名でしたが、どちらもYがやっているに違いないと警察に相談もしました」(坂本さん) 自身だけでなく、家族へも危険が及ぶかもしれないと思った坂本さんだったが、警察は「それは当事者で解決してください、謝罪してみては」というばかり。その後、Y氏の自宅へ謝罪に訪れたが、Y氏本人が出てくることはなかった。一方、今でもY氏の書き込みは続いていて、坂本さんは頭を抱えている。「正直、こうなるまでYのことは忘れていました。Yは高校時代に引きこもりになったようですが、その責任も僕にあるんだと思います。今は反省するしかなく、謝罪だってしたいが、家族まで不安にさせるようなことは……やめてほしいというか……。僕の責任ではあるんですが……」(坂本さん) 筆者にもいじめられた経験はあるし、いじめた経験もある。いじめられた経験は忘れられないし、相手の名字を見ただけで気分が害されることもある。一方、いじめた記憶はおぼろげで、誰をどういう形でいじめていたのかはっきりと思い出せず、ここで紹介した本田さんや坂本さんのように、いつか「反撃」を食らう日が来るのかもしれないが、まさに自業自得、身から出た錆に他ならない。 いじめは、近年になって「犯罪行為そのもの」とも指摘されるようなったが、それはこれまで、いじめ被害が軽視されてきたことの裏返しでもある。だから、救済されないまま放置されたいじめ被害者は、相当数に上るはずだ。たとえ時間が経った出来事であっても、救われる術を模索することに意味はあるだろう。それが、恨みをぶつけるだけのような形になることは、望ましいこととは思えない。 また「反撃されるからいじめをやめる」では、問題の根本的な解決にはならないかもしれないが、少なくともいじめ加害者に対する一定の抑止力になる可能性はあるだろう。芸能人による勇気ある「いじめ被害告白」は、有名人だけの特権という行為では終わらず、一般社会にも多大な影響を及ぼし始めている。いじめられた被害体験、いじめてしまった加害体験は、どのように解決するのがよいのか。その答えはまだ誰にも見つけられないままだ。
* * * いじめた方は覚えていないが、いじめを受けた方は一生忘れることはない──
最近、かつて「いじめ」の被害に遭った人々が、SNSなどで「告発」をするパターンが増えている。人気お笑い芸人「ジャングルポケット」の斉藤慎二さんによる「いじめ体験」の告白は、テレビや新聞でも大々的に取り上げられ、かつて自身をいじめていた人物から「俺の名前を出さないで」と連絡が来たことも明かしている。お笑い芸人「ライセンス」の藤原一裕さんや、なだぎ武さんもやはり「いじめ体験」をメディアや講演で赤裸々に告白。「よく言った」という意見が多数寄せられ、いじめ被害者達からも賞賛の声が上がっているようだ。そしてこの流れは有名人だけでなく、一般人にも波及しつつあるのかもしれない。
「息子が幼稚園から帰ってくるなり、パパはいじめっ子だったのかと聞かれました。何のことか理解できず、そんなことないよ、やさしいパパだよと言ったんですが、息子の目には涙が溜まっていました」(本田さん)
声を震わせながら筆者の取材に応じたのは、埼玉県在住の主婦・本田かえでさん(仮名・30代)。夫の実家近くにマンションを購入した本田さんは現在、夫と幼稚園に通う息子と三人で暮らしている。幼稚園で仲良くなった息子の友人の親には、夫と小学校や中学校が一緒だった同窓生もいるという。息子は、そんな親の誰かから「パパはいじめっ子だ」と吹き込まれたようだった。
「夫が帰ってからも、息子は怒って黙ったまま、夫もうろたえていました。昔誰かをいじめていたのか、と夫に聞いても、そんなこと覚えていない、の一点張り。結局その後、夫と小中学校が一緒だったXさんというママが、息子にそう話したことが発覚しました」(本田さん)
息子の機嫌は一向に回復する兆しがない。それだけショックだったのだろうと感じ、ほかに手段が思いつかなかった本田さんは、思い切って幼稚園に相談したという。すると、この「いじめ問題」は園内ですでにちょっとした「騒動」になっていたらしく、応じたのは園長だった。
「Xさんは息子以外の複数の子供にも、あなたの親からいじめられた、と話していたそうで、ほかの親御さんからも園に相談が来ているそうでした。園長先生からは”改めて謝罪されてみては”と言われたので、そのすすめに従ってみてはと改めて夫に相談しました」(本田さん)
ところが、その話を夫にしても、やはり覚えていないの一点張り。さらに「そんなことを蒸し返して子供まで巻き込んで」と怒鳴りあげたのだ。それをきっかけとして本田さんは、Xママも許せなかったが、夫にも不信感を抱いたと話す。
「Xママを責める前に、本当にいじめてないのか、しっかり思い返してほしかったんです。何度も問い詰めたら、子供らしい”からかい”みたいなものがあったと白状しました。なのに、謝ろうともせず、息子には”Xママとしゃべるな”とまで言う始末。私もいじめられた経験があり、Xママの気持ちはわからないでもないし、忘れようとしても忘れられない。息子を巻き込んだことは許せませんが、夫にも責任はある」(本田さん)
その後、誰かがXママに謝罪をしたとの噂が広まると、騒動自体もいつの間にか終息した。しかし、夫は未だに「そんな昔のことを今さら」と納得いかないという態度を崩さないのだと、本田さんはうなだれる。
本田さんの夫に限らず、いじめ加害を指摘される側は、とぼけているわけではなく本当に過去の出来事だから覚えていないと言うことも少なくない。だが、やはり「いじめられた側」の記憶は鮮明なのだろう。都内の会社員・坂本信一さん(仮名・40代)は半年前、思いもよらないところで「反撃」を受けたと話す。
「SNSで見知らぬ人から”いじめっ子 “とだけ記した不気味なメッセージが届き、嫌がらせなのかと思い無視していました。ところが、小中学校の同級生である私の友人にも同じユーザーから同様のメッセージが届いていたんです。正直、このユーザーの心当たりはありました」(坂本さん)
実は坂本さんと友人は、小学校高学年から中学まで、男子生徒・Y氏のことを毎日のようにからかっていた。頭を叩いてみたり、格闘技の技をかけてみたり、水泳の授業中に女子生徒の前で水着をはぎ取ったりしたが「当時はそれが面白いと思っていたし、そいつ(男子生徒)も喜んでいたように見えた」と振り返る。しかし、冷静に考えてみれば、坂本さんにとっては悪ふざけでも、彼にとっては「凄惨ないじめ」そのものだったのだ。Y氏のフェイスブックを見つけた坂本さんは、Y氏の書き込みを見つけて震え上がった。
「私や友人、そして当時の担任の名前をあげて、こいつらからいじめられた、何度も死を考えた、と書かれていました。さらに、私たちの職業や家族の有無まで細かくありました。メッセージを送ってきたのは別のユーザー名でしたが、どちらもYがやっているに違いないと警察に相談もしました」(坂本さん)
自身だけでなく、家族へも危険が及ぶかもしれないと思った坂本さんだったが、警察は「それは当事者で解決してください、謝罪してみては」というばかり。その後、Y氏の自宅へ謝罪に訪れたが、Y氏本人が出てくることはなかった。一方、今でもY氏の書き込みは続いていて、坂本さんは頭を抱えている。
「正直、こうなるまでYのことは忘れていました。Yは高校時代に引きこもりになったようですが、その責任も僕にあるんだと思います。今は反省するしかなく、謝罪だってしたいが、家族まで不安にさせるようなことは……やめてほしいというか……。僕の責任ではあるんですが……」(坂本さん)
筆者にもいじめられた経験はあるし、いじめた経験もある。いじめられた経験は忘れられないし、相手の名字を見ただけで気分が害されることもある。一方、いじめた記憶はおぼろげで、誰をどういう形でいじめていたのかはっきりと思い出せず、ここで紹介した本田さんや坂本さんのように、いつか「反撃」を食らう日が来るのかもしれないが、まさに自業自得、身から出た錆に他ならない。
いじめは、近年になって「犯罪行為そのもの」とも指摘されるようなったが、それはこれまで、いじめ被害が軽視されてきたことの裏返しでもある。だから、救済されないまま放置されたいじめ被害者は、相当数に上るはずだ。たとえ時間が経った出来事であっても、救われる術を模索することに意味はあるだろう。それが、恨みをぶつけるだけのような形になることは、望ましいこととは思えない。
また「反撃されるからいじめをやめる」では、問題の根本的な解決にはならないかもしれないが、少なくともいじめ加害者に対する一定の抑止力になる可能性はあるだろう。芸能人による勇気ある「いじめ被害告白」は、有名人だけの特権という行為では終わらず、一般社会にも多大な影響を及ぼし始めている。いじめられた被害体験、いじめてしまった加害体験は、どのように解決するのがよいのか。その答えはまだ誰にも見つけられないままだ。

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