「値上げはしない」宣言のサイゼリヤ、“安さを維持しつつ客単価をアップ”させた方法

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値上げ、値上げの連続。原材料と水道・光熱費の高騰により、特に飲食業界が多大な影響を受けている。さらには鳥インフルエンザによって卵が供給不足・高騰。一部飲食チェーンでは卵を使ったメニューの休止も起こっている。
【写真】「5個から4個になった」サイゼリヤ人気メニューの辛味チキン そんななか今月12日、「値上げはしない」と社長自ら決算記者会見で述べたのがファミリーレストランチェーン『サイゼリヤ』だ。原材料の高騰が利益を圧迫しているが、当面は価格を変えない方針を示し、業務の効率化やメニューの見直しで乗り切るという。

“サイズダウン”で客単価アップ 同日発表された決算では、売上高が前年同期比21.2%増の838億円となったが、注目したいのが“客単価”である。以下、ここ数年の決算で発表されたサイゼリヤの客単価の推移だ。818円(2023年)743円(2022年)698円(2021年)679円(2020年)なぜサイゼリヤは“値上げをせず”に客単価を上昇させられたのか。「まず前提として、同じく値段の安い同業他社やその他チェーン店が値段を上げているなか、サイゼリヤは値段を上げていないこと。そこから生まれるお得感から複数のメニューを注文しやすいことが要因でしょう」 そう話すのはグルメジャーナリストの東龍さん。 今年2月、サイゼリヤと同じファミリーレストランチェーン『デニーズ』は、全店でメニューの約9割の値上げを発表した。値上げ幅はハンバーグ類で最大60円、パスタ類が同・50円、ステーキなど肉類は同・150円となっている。その他、低価格帯飲食チェーンでは、『丸亀製麺』『かつや』『日高屋』も同様に値上げしている(これらのチェーンは’22年にも値上げを行っている)。いずれも光熱費・物流費・原材料の高騰が理由だ。※厳密にはサイゼリヤもコロナ禍において現金(お釣り)の受け渡しをなるべく避けるために、’20年に “1円”の値上げを行っている。これにより299円のメニューが300円になるなど、“安さ”を維持しつつ、キリの良い価格に変更となっている。「値段の安さに加えて、“量”のコントロールも要因の1つ」(東龍さん、以下同) ネット上ではサイゼリヤのメニューに対して、「量が減った」という声が散見される。事実、人気メニューである「辛味チキン」はもともと5個だったところ4個に。また、パスタメニューの「大盛り」(有料)は廃止となっている。「もともとサイゼリヤは値段の割にボリュームがありましたが、サイズダウンしたことによって追加でもう1品注文する人が増えて、結果、客単価が上がっていると考えられます」 パスタをいつも大盛りで頼んでいたならば、普通盛りでは物足りず「もう1品」となる人も少なくないだろう。また、ボリュームダウンだけでなく、無くなったメニューもある。「サイゼリヤはコストが高くなってしまったメニューなどの改訂・統廃合がすごく上手であるということは以前から業界的に言われています。だからこそコストをできるだけ下げて、低価格を維持して提供できる」「安いからたくさん頼んでも大丈夫」。そう考える人は少なくないようだ。「サイゼ 豪遊」というワードでSNSを検索すると、毎日数多くの人がサイゼリヤで複数のメニューを頼み、“豪遊”している。“値上げをしない”がいちばんの差別化《定時退社決めてからのサイゼで豪遊が日課になりつつある》《久しぶりにぼっちサイゼで豪遊キめたけど1,500円で腹パンなのめちゃくちゃヤバい》《サイゼで豪遊しようと思ったのに安すぎて2人で3kちょいしかいかなかった》(以上、Twitterより) ちょい足しとなる“味変”メニューも少なくない。この春のメニュー改定では「オリーブアンチョビペースト」(100円)がメニューに登場。数百円のメニューを1品、追加で注文するよりもさらに注文の心理的ハードルは低い。これも客単価アップにつながるだろう。 また、その“イメージ”も大きい。サイゼリヤは昨年7月に発表された公益財団法人日本生産性本部のサービス産業生産性協議会による調査で、飲食部門において“顧客満足度”で1位に。トップ獲得は2年連続と利用客から高い評価を得ている。「LINEが昨年行った“好きなファミリーレストラン”という調査でもサイゼリヤが1位となっています。全体では2割弱、10代女性で見ると4割ほどと、他と比較するとダントツといえる評価となっていました。これは“頑張って低価格を維持している”という姿勢によって、ファンに愛されているのではないでしょうか。応援したいという気持ちにもなるでしょう」 デニーズなど、もともとの価格がサイゼリヤより高く設定されていたファミリーレストランも多い。そのようなサイゼリヤと比較して“高価格帯”の同業チェーンから客が流入した結果とも考えられるのだろうか?「決算の数字を見ると、サイゼリヤの来客数は回復傾向にはありますが、コロナ禍の前より増えているわけではない。やはり1人あたりの注文数が増えていることが客単価が上がっている要因でしょう。値段が安いので頼みやすく、他チェーンと比較して、より“お得感”を感じられて財布の紐も緩みやすい。 財布の紐の固い人はたとえばラーメンのトッピング1つとっても絶対追加はしないでしょう。しかし、そこまで財布の紐が固くない人は“玉子が安い。じゃあトッピングしようかな”となりますし、それがサイゼリヤでいえば、ワインやビールが安いから頼もうかなとなる。そういった人の取り込みで客単価が伸びているのだと思います」 ほかのファミリーレストランチェーンとサイゼリヤの“違い”は――。「大きくはやはり“値上げをしない”という姿勢がいちばんの差別化であり、戦略だと思います。またサイゼリヤのメニューには幅がありますが、ベースはイタリアンです。ファミリーレストランではなく、イタリアンと考えたとき、他にもイタリアンのチェーンはありますが、比較すると”サイゼリヤの方が断然安い”となります。エスカルゴであったり割と本格的なものも食べられ、安いというのは強い」 その安さから“サイゼしか勝たん”状態のサイゼリヤ。信頼できる庶民の味方ではあるが、“豪遊できるのはサイゼリヤ”というのは、今の日本社会・経済における庶民の悲しき現状とも言えるかもしれない……。
そんななか今月12日、「値上げはしない」と社長自ら決算記者会見で述べたのがファミリーレストランチェーン『サイゼリヤ』だ。原材料の高騰が利益を圧迫しているが、当面は価格を変えない方針を示し、業務の効率化やメニューの見直しで乗り切るという。
同日発表された決算では、売上高が前年同期比21.2%増の838億円となったが、注目したいのが“客単価”である。以下、ここ数年の決算で発表されたサイゼリヤの客単価の推移だ。
818円(2023年)743円(2022年)698円(2021年)679円(2020年)
なぜサイゼリヤは“値上げをせず”に客単価を上昇させられたのか。
「まず前提として、同じく値段の安い同業他社やその他チェーン店が値段を上げているなか、サイゼリヤは値段を上げていないこと。そこから生まれるお得感から複数のメニューを注文しやすいことが要因でしょう」
そう話すのはグルメジャーナリストの東龍さん。
今年2月、サイゼリヤと同じファミリーレストランチェーン『デニーズ』は、全店でメニューの約9割の値上げを発表した。値上げ幅はハンバーグ類で最大60円、パスタ類が同・50円、ステーキなど肉類は同・150円となっている。その他、低価格帯飲食チェーンでは、『丸亀製麺』『かつや』『日高屋』も同様に値上げしている(これらのチェーンは’22年にも値上げを行っている)。いずれも光熱費・物流費・原材料の高騰が理由だ。
※厳密にはサイゼリヤもコロナ禍において現金(お釣り)の受け渡しをなるべく避けるために、’20年に “1円”の値上げを行っている。これにより299円のメニューが300円になるなど、“安さ”を維持しつつ、キリの良い価格に変更となっている。
「値段の安さに加えて、“量”のコントロールも要因の1つ」(東龍さん、以下同)
ネット上ではサイゼリヤのメニューに対して、「量が減った」という声が散見される。事実、人気メニューである「辛味チキン」はもともと5個だったところ4個に。また、パスタメニューの「大盛り」(有料)は廃止となっている。
「もともとサイゼリヤは値段の割にボリュームがありましたが、サイズダウンしたことによって追加でもう1品注文する人が増えて、結果、客単価が上がっていると考えられます」
パスタをいつも大盛りで頼んでいたならば、普通盛りでは物足りず「もう1品」となる人も少なくないだろう。また、ボリュームダウンだけでなく、無くなったメニューもある。
「サイゼリヤはコストが高くなってしまったメニューなどの改訂・統廃合がすごく上手であるということは以前から業界的に言われています。だからこそコストをできるだけ下げて、低価格を維持して提供できる」
「安いからたくさん頼んでも大丈夫」。そう考える人は少なくないようだ。「サイゼ 豪遊」というワードでSNSを検索すると、毎日数多くの人がサイゼリヤで複数のメニューを頼み、“豪遊”している。
《定時退社決めてからのサイゼで豪遊が日課になりつつある》《久しぶりにぼっちサイゼで豪遊キめたけど1,500円で腹パンなのめちゃくちゃヤバい》《サイゼで豪遊しようと思ったのに安すぎて2人で3kちょいしかいかなかった》(以上、Twitterより)
ちょい足しとなる“味変”メニューも少なくない。この春のメニュー改定では「オリーブアンチョビペースト」(100円)がメニューに登場。数百円のメニューを1品、追加で注文するよりもさらに注文の心理的ハードルは低い。これも客単価アップにつながるだろう。
また、その“イメージ”も大きい。サイゼリヤは昨年7月に発表された公益財団法人日本生産性本部のサービス産業生産性協議会による調査で、飲食部門において“顧客満足度”で1位に。トップ獲得は2年連続と利用客から高い評価を得ている。
「LINEが昨年行った“好きなファミリーレストラン”という調査でもサイゼリヤが1位となっています。全体では2割弱、10代女性で見ると4割ほどと、他と比較するとダントツといえる評価となっていました。これは“頑張って低価格を維持している”という姿勢によって、ファンに愛されているのではないでしょうか。応援したいという気持ちにもなるでしょう」
デニーズなど、もともとの価格がサイゼリヤより高く設定されていたファミリーレストランも多い。そのようなサイゼリヤと比較して“高価格帯”の同業チェーンから客が流入した結果とも考えられるのだろうか?
「決算の数字を見ると、サイゼリヤの来客数は回復傾向にはありますが、コロナ禍の前より増えているわけではない。やはり1人あたりの注文数が増えていることが客単価が上がっている要因でしょう。値段が安いので頼みやすく、他チェーンと比較して、より“お得感”を感じられて財布の紐も緩みやすい。
財布の紐の固い人はたとえばラーメンのトッピング1つとっても絶対追加はしないでしょう。しかし、そこまで財布の紐が固くない人は“玉子が安い。じゃあトッピングしようかな”となりますし、それがサイゼリヤでいえば、ワインやビールが安いから頼もうかなとなる。そういった人の取り込みで客単価が伸びているのだと思います」
ほかのファミリーレストランチェーンとサイゼリヤの“違い”は――。
「大きくはやはり“値上げをしない”という姿勢がいちばんの差別化であり、戦略だと思います。またサイゼリヤのメニューには幅がありますが、ベースはイタリアンです。ファミリーレストランではなく、イタリアンと考えたとき、他にもイタリアンのチェーンはありますが、比較すると”サイゼリヤの方が断然安い”となります。エスカルゴであったり割と本格的なものも食べられ、安いというのは強い」
その安さから“サイゼしか勝たん”状態のサイゼリヤ。信頼できる庶民の味方ではあるが、“豪遊できるのはサイゼリヤ”というのは、今の日本社会・経済における庶民の悲しき現状とも言えるかもしれない……。

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