貧困はすぐ隣に… コロナ禍があぶり出した不寛容な社会と弱者の現実

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

4月28日夜、九州一の歓楽街、中洲にほど近い福岡市博多区の冷泉公園に、50人ほどが列を作っていた。路上生活者を支援する団体の炊き出しに並ぶ人たちだ。おにぎりや豚汁を受け取った人たちが次々と公園を去って行く中、その男性は一人、園内のベンチに残り、おにぎりをほおばった。
怖さ 忘れないで 男性が路上生活に入ったのは7年前。建設関係の仕事をしていたが、職場での折り合いが悪くなって辞め、そのまま路上で過ごし始めた。妻とは既に離婚し、子どもはいない。両親とも連絡を取っていない。現在58歳。「冬になると寒さがこたえるから、こんな生活はやめようと思うこともある」。1台の自転車に最小限の荷物を積み、夜は市内の別の公園で過ごす。

この3年、世界は新型コロナウイルス禍に見舞われた。緊急事態宣言、外出自粛、飲食店の休業――。現代人が経験したことのない世の中の変転を、男性は新聞社屋の1階に毎朝張り出される紙面や、ポータブルラジオで聞くニュース番組で追ってきた。 一方、男性自身の3年間の変化を尋ねると「特にありません」とにべもない。コロナへの社会の対応が過剰と思うことはあっても、どこか人ごとだったからだ。「私のような社会のはみ出し者にはあまり関係ない。人と接触しないので」 新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に変わるのを前に、通りには酔客のにぎやかな声が戻りつつある。男性が寝起きする公園でもジョギングをする人が増えている。だが、男性が気になることは、また別にある。仕切り付きで横になれない構造になった公園のベンチ、通りすがりに男性を見る人々の冷たい目線――。「『あなたたちにここにいられると困る』と言われているよう。もう少しだけ寛容な社会になってくれればと思う」 路上生活者の支援を続けるNPO法人「福岡おにぎりの会」によると、市内各所の炊き出しに集まる人はコロナ前は100人ほどだったが、コロナ禍で一時は150人ほどに膨らんだ。増えたのは、住むところはあっても職を失って食事代がない人や、収入がある時だけネットカフェに寝泊まりする人。身に着けた服はきれいで路上生活者には見えず、困窮が見えにくい。会は感染拡大で緊急事態宣言が出された時期も、ボランティアの人数を絞って感染対策をしながら活動を続けた。 「コロナ禍で明らかになったのは社会のセーフティーネットの弱さと困窮者に対する世間の冷たい目だ」。会の理事長、郡島俊紀(ぐんじまとしのり)さん(66)はそう指摘し、「社会的弱者がさらに弱く貧しい者をたたく風潮が強まっている。貧困はすぐ隣にあるのに」と嘆く。「コロナが終われば支援もなくなり、これまで融資を受けていた人は返済を迫られることになる。これからが正念場だ」。郡島さんは気を引き締めるように語った。
男性が路上生活に入ったのは7年前。建設関係の仕事をしていたが、職場での折り合いが悪くなって辞め、そのまま路上で過ごし始めた。妻とは既に離婚し、子どもはいない。両親とも連絡を取っていない。現在58歳。「冬になると寒さがこたえるから、こんな生活はやめようと思うこともある」。1台の自転車に最小限の荷物を積み、夜は市内の別の公園で過ごす。
この3年、世界は新型コロナウイルス禍に見舞われた。緊急事態宣言、外出自粛、飲食店の休業――。現代人が経験したことのない世の中の変転を、男性は新聞社屋の1階に毎朝張り出される紙面や、ポータブルラジオで聞くニュース番組で追ってきた。
一方、男性自身の3年間の変化を尋ねると「特にありません」とにべもない。コロナへの社会の対応が過剰と思うことはあっても、どこか人ごとだったからだ。「私のような社会のはみ出し者にはあまり関係ない。人と接触しないので」
新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に変わるのを前に、通りには酔客のにぎやかな声が戻りつつある。男性が寝起きする公園でもジョギングをする人が増えている。だが、男性が気になることは、また別にある。仕切り付きで横になれない構造になった公園のベンチ、通りすがりに男性を見る人々の冷たい目線――。「『あなたたちにここにいられると困る』と言われているよう。もう少しだけ寛容な社会になってくれればと思う」
路上生活者の支援を続けるNPO法人「福岡おにぎりの会」によると、市内各所の炊き出しに集まる人はコロナ前は100人ほどだったが、コロナ禍で一時は150人ほどに膨らんだ。増えたのは、住むところはあっても職を失って食事代がない人や、収入がある時だけネットカフェに寝泊まりする人。身に着けた服はきれいで路上生活者には見えず、困窮が見えにくい。会は感染拡大で緊急事態宣言が出された時期も、ボランティアの人数を絞って感染対策をしながら活動を続けた。
「コロナ禍で明らかになったのは社会のセーフティーネットの弱さと困窮者に対する世間の冷たい目だ」。会の理事長、郡島俊紀(ぐんじまとしのり)さん(66)はそう指摘し、「社会的弱者がさらに弱く貧しい者をたたく風潮が強まっている。貧困はすぐ隣にあるのに」と嘆く。「コロナが終われば支援もなくなり、これまで融資を受けていた人は返済を迫られることになる。これからが正念場だ」。郡島さんは気を引き締めるように語った。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。