「地震ない頃に戻って」約2年半で300回超 収束の兆し見えず

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

前日に震度6強の揺れを観測した石川県珠洲(すず)市では6日も余震が相次いだ。
地震で地盤が緩んでいるところに7日にかけて大雨が降るおそれがあり、住民の不安は尽きない。今回の地震も令和2年から活発化した一連の群発地震の一つとみられる。「元の生活に戻れるのか」。揺らぐ地面におびえ、収束の兆しが見えない現状に、直接的な被害を免れた人たちにも精神的な疲労がにじむ。
「昔はこんなに地震が起こる土地じゃなかった」
珠洲市宝立町春日野で暮らす男性(78)はこう言ってため息をついた。前日の揺れでは家財道具が倒れ、屋根瓦の一部が落下した。この日朝からの雨で、その部分から雨漏りがしている。「昨年の地震で壊れた壁の修理がやっと終わったところだった。このままでは生活がたちゆかない。地震がなかった頃に戻ってほしい」と切実な口調で訴えた。
同市を含む能登地方では令和2年12月から地震活動が活発となり、震度1以上の地震は今年4月10日までに300回超に。昨年6月19日には最大震度6弱=マグニチュード(M)5・4、その翌日にも同5強=M5・0=を観測した。政府の地震調査委員会は今年4月に「一連の地震活動は当分続く」との見通しを示したばかりだった。
5日のM6・5の地震の後、金沢市内に住む女性(49)は珠洲市正院町川尻の実家へ急遽(きゅうきょ)帰省、80代の両親の無事を確かめた。家屋にも大きな被害はなかったというが「テレビで地震速報が出るたびに怖くなる」と苦悩を明かす。両親には何度か一緒に暮らそうと転居を持ちかけたが、「長年暮らした家から離れたくない」と断られている。「転居してほしいが、故郷で静かに暮らしてもらいたいという気持ちもある」と胸中は複雑だ。
同市宝立町鵜飼の「妙厳(みょうごん)寺」では、本堂が地震で甚大な被害を受けた。土壁が広範囲にわたり崩落し、金箔(きんぱく)が貼られた欄間彫刻や仏壇も壊れた。幸いにも本尊や文化財は無事だったが、地震のリスクがあるため本堂は当面の間、参拝客の立ち入りを禁止することにした。武内亨住職(57)は「長年維持してきた古い本堂が誇りだったが、法要中に地震が起きたら大変だ。高齢者の利用も多い。今まで通り法要ができるようになるのは当分先のことになるかもしれない」と話した。
地震で裏山が崩れ、自宅が大きな被害を受けた同市正院町岡田の会社員、坂東典明さん(59)は「リフォームで何とかなるレベルじゃない。もう住めない」と嘆いた。
巨大な石が屋根に落ち、崩れた天井と台所の間に母親(80)が挟まれた。停電で真っ暗となり、母のうめき声が聞こえる中、スマートフォンのライトを頼りにさがし出した。母は消防に救助されてドクターヘリで病院に搬送され、一命を取り留めたという。
被災から一夜明け、坂東さんは崩れた家から当面の衣類など必要な物資を運び出した。しばらくは同じ町内の妻の実家に身を寄せるという。「先のことは考えられない」としつつ「仕事があり、家族もいる。この土地を離れることは考えられない」と言葉を絞りだした。(土屋宏剛、倉持亮)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。