《わさび乗せ、醤油舐め、唾液こすりつけ》「億単位の賠償金になる可能性はあるが…」スシロー、はま寿司で相ついだ迷惑行為、裁判の行方は? 弁護士が指摘する“店が勝っても結局大損“の理由

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ネット上での炎上が続く、回転寿司店での迷惑行為。
【画像】「スシロー」でレーンの寿司に唾液のついた指をこすりつける客「はま寿司」で他の客が注文した寿司に勝手にわさびを乗せる動画が出回ったことをきっかけに、「スシロー」では若い男性が未使用の湯呑みや醤油ボトルを舐め回す、寿司に唾液をこすりつける、回転する皿から1カンだけ取って食べるなどの動画がSNS上で拡散。回転寿司店での迷惑動画が“ブーム”のような様相を呈している。 この異常事態を受け、「スシロー」を運営するあきんどスシローは1月31日に被害届を提出。さらに「迷惑行為を行った当事者と保護者から連絡があり、お会いして謝罪を受けましたが、当社としましては、 引き続き刑事、民事の両面から厳正に対処してまいります」と声明を発表した。

迷惑動画を投稿した客に対する法的措置を表明した「スシロー」 共同通信社「はま寿司」を運営するゼンショーホールディングスも同様に、警察へ被害届を出したことを明らかにしている。 迷惑行為を受けても泣き寝入りをすることが多かった店側が強硬な対処に出たことについて、自身でも飲食店を経営するなど飲食業界に詳しい弁護士の石崎冬貴氏はこう語る。「『スシロー』のリリース文を読むと、かなり厳しい対応という印象です。『はま寿司』も加害者からの謝罪の申し入れを断って警察に相談しており、示談で済むことも考えづらい。事態がここまで大きくなった以上、加害者が起訴されて有罪になる可能性は高いでしょう」「業務妨害罪に器物損壊、もっとも重いのは…」 拡散されているイタズラ動画の行為は、石崎氏によれば大きく分けて「3つの犯罪」に問われる可能性があるという。「お寿司にわさびを勝手に乗せる、ツバをつけるといった行為は業務妨害罪にあたり、懲役3年以下または50万円以下の罰金が科せられます。さらに、舐められたコップ等は破棄せざるを得ないでしょうから器物損壊罪も加わって、こちらは懲役3年以下もしくは30万円以下の罰金です。もっとも重いのはレーンからお寿司を直接取って食べるもので、これは窃盗罪にあたるため、10年以下の懲役または50万円以下の罰金となります」 一般的な嫌悪感としては注文した寿司を横取りされるよりも唾液まみれの湯呑を使うことの方が大きいが、横取りは法律的には窃盗となり罪が重い。では彼らは現実的にどれほどの刑罰を受けることになるのだろうか。「動画に映っている男性は若い人も多く初犯だとすれば、社会的な影響を考慮したとしても懲役刑は考えづらいです。とはいえ、法定刑の上限に近い罰金刑が科される可能性は十分にあります。高校生という報道が事実であれば、家庭裁判所に送致され、刑事罰ではなく、保護観察処分を受ける可能性が高いでしょう」 重い刑事罰を受ける可能性は低い一方で、民事訴訟では高額の請求がなされる可能性も十分考えられるという。「舐められた湯呑みやツバのついた備品の代金はせいぜい数万円でしょう。しかし、店内の備品やレーンの消毒などのために営業を停止する店舗があれば、営業停止期間にお店が失った売上が逸失利益として賠償の対象になる可能性があります。そうなれば100万円単位の損害を賠償する必要があります」 回転寿司店の売上は1店舗あたり数十万円ほどで、都心の人気店などでは100万円を超えることもある。 さらに今回のケースでは、動画の拡散によって「回転寿司に行きたくない」という反応が生まれている。そういった風評被害が、賠償金の対象として認定される可能性はないのだろうか。「億単位の賠償金になる可能性もあるが…」「SNSに動画を投稿したことで、直接的には売上げの減少、間接的にはその店舗のブランド価値が低下したり、回転寿司業界全体に風評被害が起こったと認められれば、“億単位”の賠償金が課される可能性があります。しかし現実的にはそのハードルは高く、動画の件が報道されてからしばらくの期間だけ、明らかに売上が減っているというような、因果関係を証明する証拠が必要になります」 騒動の後に「スシロー」の時価総額が約170億円下がったことも話題になったが、こちらも損害賠償の対象になる可能性は低いという。「株価の下落については、会社の損害ではなく株主の損害です。株価は様々な要因で日々上下しますし、今回の事件によって株価が下がったことを証明するのはまず不可能でしょう」 過去の例を見ると、従業員によるいわゆる“バイトテロ”が発覚して閉店を余儀なくされた飲食店のケースで、店側は従業員に対して約1400万円の支払いを求めている。しかし閉店とバイトテロの因果関係を証明することは難しく、約200万円ほどの金額で決着したという。 さらに石崎氏は、たとえ裁判で勝利したとしても飲食店にとっては「まったく得にならない、迷惑でしかないことがほとんどです」と話す。「仮に“億単位”の賠償金を勝ち取れたとしても、加害者の年齢を考えると実際に払ってもらえる見込みは薄い。だいたい『スシロー』や『はま寿司』としては、短期的な売り上げの減少や、今後の予防のための設備投資、顧客に安心してもらうためのPR活動などを考えれば、仮に1億円もらったとしても全くペイしません。つまり勝っても得るものがなく、訴訟のためにかかった従業員の労力や弁護士費用だけがコストとしてのしかかってくる。『裁判なんてやりたくない』というのが本音でしょう」 それでも「スシロー」「はま寿司」の2社が揃って厳しい対応を見せたことには、お金では解決できない理由があるためだ。「『回転寿司は衛生面で不安だよね』という悪いイメージを払拭して世間に納得してもらうために、厳しい姿勢をとる必要があったのだと思います。全国チェーン店はお客さんに個別に説明して回ることもできないので、企業の衛生観念やモラルを示そうというわけです。加えて、模倣犯を生まないための“見せしめ”という側面もあると思います。店側は金銭的な意味がないと分かっていてもやらざるを得ないし、客側も払えない上に、このような不法行為では破産しても免責されない可能性が高い。泥沼です」「数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高い」 先述したバイトテロは2013年頃と2018年頃に“流行”し、そのたびに社会問題となった。TwitterやTikTokのようなSNS上で飲食店でのイタズラ動画は、4~5年の周期で問題になっていることになる。石崎氏はこの「4~5年」という期間には理由があるという「迷惑行為を起こしたアルバイトの多くは大学生でした。そのため、一度社会問題になっても、およそ4年で全員が入れ替わってしまいます。事件直後は社会問題として広く注意喚起されても、4~5年も経てば事件当時は小学生や中学生だった子どもたちが社会に出てきます。彼らは事件の記憶など持っていません。 それは“迷惑客”の場合でも同じで、しばらくは『調子に乗ると訴えられる』という意識が持続しても、数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高いと思います」 SNSで投稿・拡散され、広がりを見せる今回の“回転寿司テロ”。しかし石崎氏は、「迷惑行為自体は昔からあったことで、SNSのせいというよりはもっと根深い問題」と指摘する。「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「はま寿司」で他の客が注文した寿司に勝手にわさびを乗せる動画が出回ったことをきっかけに、「スシロー」では若い男性が未使用の湯呑みや醤油ボトルを舐め回す、寿司に唾液をこすりつける、回転する皿から1カンだけ取って食べるなどの動画がSNS上で拡散。回転寿司店での迷惑動画が“ブーム”のような様相を呈している。
この異常事態を受け、「スシロー」を運営するあきんどスシローは1月31日に被害届を提出。さらに「迷惑行為を行った当事者と保護者から連絡があり、お会いして謝罪を受けましたが、当社としましては、 引き続き刑事、民事の両面から厳正に対処してまいります」と声明を発表した。
迷惑動画を投稿した客に対する法的措置を表明した「スシロー」 共同通信社
「はま寿司」を運営するゼンショーホールディングスも同様に、警察へ被害届を出したことを明らかにしている。
迷惑行為を受けても泣き寝入りをすることが多かった店側が強硬な対処に出たことについて、自身でも飲食店を経営するなど飲食業界に詳しい弁護士の石崎冬貴氏はこう語る。
「『スシロー』のリリース文を読むと、かなり厳しい対応という印象です。『はま寿司』も加害者からの謝罪の申し入れを断って警察に相談しており、示談で済むことも考えづらい。事態がここまで大きくなった以上、加害者が起訴されて有罪になる可能性は高いでしょう」
拡散されているイタズラ動画の行為は、石崎氏によれば大きく分けて「3つの犯罪」に問われる可能性があるという。
「お寿司にわさびを勝手に乗せる、ツバをつけるといった行為は業務妨害罪にあたり、懲役3年以下または50万円以下の罰金が科せられます。さらに、舐められたコップ等は破棄せざるを得ないでしょうから器物損壊罪も加わって、こちらは懲役3年以下もしくは30万円以下の罰金です。もっとも重いのはレーンからお寿司を直接取って食べるもので、これは窃盗罪にあたるため、10年以下の懲役または50万円以下の罰金となります」
一般的な嫌悪感としては注文した寿司を横取りされるよりも唾液まみれの湯呑を使うことの方が大きいが、横取りは法律的には窃盗となり罪が重い。では彼らは現実的にどれほどの刑罰を受けることになるのだろうか。「動画に映っている男性は若い人も多く初犯だとすれば、社会的な影響を考慮したとしても懲役刑は考えづらいです。とはいえ、法定刑の上限に近い罰金刑が科される可能性は十分にあります。高校生という報道が事実であれば、家庭裁判所に送致され、刑事罰ではなく、保護観察処分を受ける可能性が高いでしょう」 重い刑事罰を受ける可能性は低い一方で、民事訴訟では高額の請求がなされる可能性も十分考えられるという。「舐められた湯呑みやツバのついた備品の代金はせいぜい数万円でしょう。しかし、店内の備品やレーンの消毒などのために営業を停止する店舗があれば、営業停止期間にお店が失った売上が逸失利益として賠償の対象になる可能性があります。そうなれば100万円単位の損害を賠償する必要があります」 回転寿司店の売上は1店舗あたり数十万円ほどで、都心の人気店などでは100万円を超えることもある。 さらに今回のケースでは、動画の拡散によって「回転寿司に行きたくない」という反応が生まれている。そういった風評被害が、賠償金の対象として認定される可能性はないのだろうか。「億単位の賠償金になる可能性もあるが…」「SNSに動画を投稿したことで、直接的には売上げの減少、間接的にはその店舗のブランド価値が低下したり、回転寿司業界全体に風評被害が起こったと認められれば、“億単位”の賠償金が課される可能性があります。しかし現実的にはそのハードルは高く、動画の件が報道されてからしばらくの期間だけ、明らかに売上が減っているというような、因果関係を証明する証拠が必要になります」 騒動の後に「スシロー」の時価総額が約170億円下がったことも話題になったが、こちらも損害賠償の対象になる可能性は低いという。「株価の下落については、会社の損害ではなく株主の損害です。株価は様々な要因で日々上下しますし、今回の事件によって株価が下がったことを証明するのはまず不可能でしょう」 過去の例を見ると、従業員によるいわゆる“バイトテロ”が発覚して閉店を余儀なくされた飲食店のケースで、店側は従業員に対して約1400万円の支払いを求めている。しかし閉店とバイトテロの因果関係を証明することは難しく、約200万円ほどの金額で決着したという。 さらに石崎氏は、たとえ裁判で勝利したとしても飲食店にとっては「まったく得にならない、迷惑でしかないことがほとんどです」と話す。「仮に“億単位”の賠償金を勝ち取れたとしても、加害者の年齢を考えると実際に払ってもらえる見込みは薄い。だいたい『スシロー』や『はま寿司』としては、短期的な売り上げの減少や、今後の予防のための設備投資、顧客に安心してもらうためのPR活動などを考えれば、仮に1億円もらったとしても全くペイしません。つまり勝っても得るものがなく、訴訟のためにかかった従業員の労力や弁護士費用だけがコストとしてのしかかってくる。『裁判なんてやりたくない』というのが本音でしょう」 それでも「スシロー」「はま寿司」の2社が揃って厳しい対応を見せたことには、お金では解決できない理由があるためだ。「『回転寿司は衛生面で不安だよね』という悪いイメージを払拭して世間に納得してもらうために、厳しい姿勢をとる必要があったのだと思います。全国チェーン店はお客さんに個別に説明して回ることもできないので、企業の衛生観念やモラルを示そうというわけです。加えて、模倣犯を生まないための“見せしめ”という側面もあると思います。店側は金銭的な意味がないと分かっていてもやらざるを得ないし、客側も払えない上に、このような不法行為では破産しても免責されない可能性が高い。泥沼です」「数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高い」 先述したバイトテロは2013年頃と2018年頃に“流行”し、そのたびに社会問題となった。TwitterやTikTokのようなSNS上で飲食店でのイタズラ動画は、4~5年の周期で問題になっていることになる。石崎氏はこの「4~5年」という期間には理由があるという「迷惑行為を起こしたアルバイトの多くは大学生でした。そのため、一度社会問題になっても、およそ4年で全員が入れ替わってしまいます。事件直後は社会問題として広く注意喚起されても、4~5年も経てば事件当時は小学生や中学生だった子どもたちが社会に出てきます。彼らは事件の記憶など持っていません。 それは“迷惑客”の場合でも同じで、しばらくは『調子に乗ると訴えられる』という意識が持続しても、数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高いと思います」 SNSで投稿・拡散され、広がりを見せる今回の“回転寿司テロ”。しかし石崎氏は、「迷惑行為自体は昔からあったことで、SNSのせいというよりはもっと根深い問題」と指摘する。「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
一般的な嫌悪感としては注文した寿司を横取りされるよりも唾液まみれの湯呑を使うことの方が大きいが、横取りは法律的には窃盗となり罪が重い。では彼らは現実的にどれほどの刑罰を受けることになるのだろうか。
「動画に映っている男性は若い人も多く初犯だとすれば、社会的な影響を考慮したとしても懲役刑は考えづらいです。とはいえ、法定刑の上限に近い罰金刑が科される可能性は十分にあります。高校生という報道が事実であれば、家庭裁判所に送致され、刑事罰ではなく、保護観察処分を受ける可能性が高いでしょう」
重い刑事罰を受ける可能性は低い一方で、民事訴訟では高額の請求がなされる可能性も十分考えられるという。
「舐められた湯呑みやツバのついた備品の代金はせいぜい数万円でしょう。しかし、店内の備品やレーンの消毒などのために営業を停止する店舗があれば、営業停止期間にお店が失った売上が逸失利益として賠償の対象になる可能性があります。そうなれば100万円単位の損害を賠償する必要があります」
回転寿司店の売上は1店舗あたり数十万円ほどで、都心の人気店などでは100万円を超えることもある。 さらに今回のケースでは、動画の拡散によって「回転寿司に行きたくない」という反応が生まれている。そういった風評被害が、賠償金の対象として認定される可能性はないのだろうか。「億単位の賠償金になる可能性もあるが…」「SNSに動画を投稿したことで、直接的には売上げの減少、間接的にはその店舗のブランド価値が低下したり、回転寿司業界全体に風評被害が起こったと認められれば、“億単位”の賠償金が課される可能性があります。しかし現実的にはそのハードルは高く、動画の件が報道されてからしばらくの期間だけ、明らかに売上が減っているというような、因果関係を証明する証拠が必要になります」 騒動の後に「スシロー」の時価総額が約170億円下がったことも話題になったが、こちらも損害賠償の対象になる可能性は低いという。「株価の下落については、会社の損害ではなく株主の損害です。株価は様々な要因で日々上下しますし、今回の事件によって株価が下がったことを証明するのはまず不可能でしょう」 過去の例を見ると、従業員によるいわゆる“バイトテロ”が発覚して閉店を余儀なくされた飲食店のケースで、店側は従業員に対して約1400万円の支払いを求めている。しかし閉店とバイトテロの因果関係を証明することは難しく、約200万円ほどの金額で決着したという。 さらに石崎氏は、たとえ裁判で勝利したとしても飲食店にとっては「まったく得にならない、迷惑でしかないことがほとんどです」と話す。「仮に“億単位”の賠償金を勝ち取れたとしても、加害者の年齢を考えると実際に払ってもらえる見込みは薄い。だいたい『スシロー』や『はま寿司』としては、短期的な売り上げの減少や、今後の予防のための設備投資、顧客に安心してもらうためのPR活動などを考えれば、仮に1億円もらったとしても全くペイしません。つまり勝っても得るものがなく、訴訟のためにかかった従業員の労力や弁護士費用だけがコストとしてのしかかってくる。『裁判なんてやりたくない』というのが本音でしょう」 それでも「スシロー」「はま寿司」の2社が揃って厳しい対応を見せたことには、お金では解決できない理由があるためだ。「『回転寿司は衛生面で不安だよね』という悪いイメージを払拭して世間に納得してもらうために、厳しい姿勢をとる必要があったのだと思います。全国チェーン店はお客さんに個別に説明して回ることもできないので、企業の衛生観念やモラルを示そうというわけです。加えて、模倣犯を生まないための“見せしめ”という側面もあると思います。店側は金銭的な意味がないと分かっていてもやらざるを得ないし、客側も払えない上に、このような不法行為では破産しても免責されない可能性が高い。泥沼です」「数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高い」 先述したバイトテロは2013年頃と2018年頃に“流行”し、そのたびに社会問題となった。TwitterやTikTokのようなSNS上で飲食店でのイタズラ動画は、4~5年の周期で問題になっていることになる。石崎氏はこの「4~5年」という期間には理由があるという「迷惑行為を起こしたアルバイトの多くは大学生でした。そのため、一度社会問題になっても、およそ4年で全員が入れ替わってしまいます。事件直後は社会問題として広く注意喚起されても、4~5年も経てば事件当時は小学生や中学生だった子どもたちが社会に出てきます。彼らは事件の記憶など持っていません。 それは“迷惑客”の場合でも同じで、しばらくは『調子に乗ると訴えられる』という意識が持続しても、数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高いと思います」 SNSで投稿・拡散され、広がりを見せる今回の“回転寿司テロ”。しかし石崎氏は、「迷惑行為自体は昔からあったことで、SNSのせいというよりはもっと根深い問題」と指摘する。「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
回転寿司店の売上は1店舗あたり数十万円ほどで、都心の人気店などでは100万円を超えることもある。
さらに今回のケースでは、動画の拡散によって「回転寿司に行きたくない」という反応が生まれている。そういった風評被害が、賠償金の対象として認定される可能性はないのだろうか。
「SNSに動画を投稿したことで、直接的には売上げの減少、間接的にはその店舗のブランド価値が低下したり、回転寿司業界全体に風評被害が起こったと認められれば、“億単位”の賠償金が課される可能性があります。しかし現実的にはそのハードルは高く、動画の件が報道されてからしばらくの期間だけ、明らかに売上が減っているというような、因果関係を証明する証拠が必要になります」
騒動の後に「スシロー」の時価総額が約170億円下がったことも話題になったが、こちらも損害賠償の対象になる可能性は低いという。
「株価の下落については、会社の損害ではなく株主の損害です。株価は様々な要因で日々上下しますし、今回の事件によって株価が下がったことを証明するのはまず不可能でしょう」
過去の例を見ると、従業員によるいわゆる“バイトテロ”が発覚して閉店を余儀なくされた飲食店のケースで、店側は従業員に対して約1400万円の支払いを求めている。しかし閉店とバイトテロの因果関係を証明することは難しく、約200万円ほどの金額で決着したという。 さらに石崎氏は、たとえ裁判で勝利したとしても飲食店にとっては「まったく得にならない、迷惑でしかないことがほとんどです」と話す。「仮に“億単位”の賠償金を勝ち取れたとしても、加害者の年齢を考えると実際に払ってもらえる見込みは薄い。だいたい『スシロー』や『はま寿司』としては、短期的な売り上げの減少や、今後の予防のための設備投資、顧客に安心してもらうためのPR活動などを考えれば、仮に1億円もらったとしても全くペイしません。つまり勝っても得るものがなく、訴訟のためにかかった従業員の労力や弁護士費用だけがコストとしてのしかかってくる。『裁判なんてやりたくない』というのが本音でしょう」 それでも「スシロー」「はま寿司」の2社が揃って厳しい対応を見せたことには、お金では解決できない理由があるためだ。「『回転寿司は衛生面で不安だよね』という悪いイメージを払拭して世間に納得してもらうために、厳しい姿勢をとる必要があったのだと思います。全国チェーン店はお客さんに個別に説明して回ることもできないので、企業の衛生観念やモラルを示そうというわけです。加えて、模倣犯を生まないための“見せしめ”という側面もあると思います。店側は金銭的な意味がないと分かっていてもやらざるを得ないし、客側も払えない上に、このような不法行為では破産しても免責されない可能性が高い。泥沼です」「数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高い」 先述したバイトテロは2013年頃と2018年頃に“流行”し、そのたびに社会問題となった。TwitterやTikTokのようなSNS上で飲食店でのイタズラ動画は、4~5年の周期で問題になっていることになる。石崎氏はこの「4~5年」という期間には理由があるという「迷惑行為を起こしたアルバイトの多くは大学生でした。そのため、一度社会問題になっても、およそ4年で全員が入れ替わってしまいます。事件直後は社会問題として広く注意喚起されても、4~5年も経てば事件当時は小学生や中学生だった子どもたちが社会に出てきます。彼らは事件の記憶など持っていません。 それは“迷惑客”の場合でも同じで、しばらくは『調子に乗ると訴えられる』という意識が持続しても、数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高いと思います」 SNSで投稿・拡散され、広がりを見せる今回の“回転寿司テロ”。しかし石崎氏は、「迷惑行為自体は昔からあったことで、SNSのせいというよりはもっと根深い問題」と指摘する。「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
過去の例を見ると、従業員によるいわゆる“バイトテロ”が発覚して閉店を余儀なくされた飲食店のケースで、店側は従業員に対して約1400万円の支払いを求めている。しかし閉店とバイトテロの因果関係を証明することは難しく、約200万円ほどの金額で決着したという。
さらに石崎氏は、たとえ裁判で勝利したとしても飲食店にとっては「まったく得にならない、迷惑でしかないことがほとんどです」と話す。
「仮に“億単位”の賠償金を勝ち取れたとしても、加害者の年齢を考えると実際に払ってもらえる見込みは薄い。だいたい『スシロー』や『はま寿司』としては、短期的な売り上げの減少や、今後の予防のための設備投資、顧客に安心してもらうためのPR活動などを考えれば、仮に1億円もらったとしても全くペイしません。つまり勝っても得るものがなく、訴訟のためにかかった従業員の労力や弁護士費用だけがコストとしてのしかかってくる。『裁判なんてやりたくない』というのが本音でしょう」
それでも「スシロー」「はま寿司」の2社が揃って厳しい対応を見せたことには、お金では解決できない理由があるためだ。
「『回転寿司は衛生面で不安だよね』という悪いイメージを払拭して世間に納得してもらうために、厳しい姿勢をとる必要があったのだと思います。全国チェーン店はお客さんに個別に説明して回ることもできないので、企業の衛生観念やモラルを示そうというわけです。加えて、模倣犯を生まないための“見せしめ”という側面もあると思います。店側は金銭的な意味がないと分かっていてもやらざるを得ないし、客側も払えない上に、このような不法行為では破産しても免責されない可能性が高い。泥沼です」
先述したバイトテロは2013年頃と2018年頃に“流行”し、そのたびに社会問題となった。TwitterやTikTokのようなSNS上で飲食店でのイタズラ動画は、4~5年の周期で問題になっていることになる。石崎氏はこの「4~5年」という期間には理由があるという
「迷惑行為を起こしたアルバイトの多くは大学生でした。そのため、一度社会問題になっても、およそ4年で全員が入れ替わってしまいます。事件直後は社会問題として広く注意喚起されても、4~5年も経てば事件当時は小学生や中学生だった子どもたちが社会に出てきます。彼らは事件の記憶など持っていません。 それは“迷惑客”の場合でも同じで、しばらくは『調子に乗ると訴えられる』という意識が持続しても、数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高いと思います」 SNSで投稿・拡散され、広がりを見せる今回の“回転寿司テロ”。しかし石崎氏は、「迷惑行為自体は昔からあったことで、SNSのせいというよりはもっと根深い問題」と指摘する。「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「迷惑行為を起こしたアルバイトの多くは大学生でした。そのため、一度社会問題になっても、およそ4年で全員が入れ替わってしまいます。事件直後は社会問題として広く注意喚起されても、4~5年も経てば事件当時は小学生や中学生だった子どもたちが社会に出てきます。彼らは事件の記憶など持っていません。
それは“迷惑客”の場合でも同じで、しばらくは『調子に乗ると訴えられる』という意識が持続しても、数年後に似たような事例が起きる可能性は残念ながら高いと思います」
SNSで投稿・拡散され、広がりを見せる今回の“回転寿司テロ”。しかし石崎氏は、「迷惑行為自体は昔からあったことで、SNSのせいというよりはもっと根深い問題」と指摘する。
「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
「迷惑行為に及ぶ人のほとんどはバズや収益化を狙っているわけでもなく、『仲間にウケたい』というごく単純な動機で動いています。もちろん、このような迷惑行為自体なくすべきなのは間違いありませんが、それは犯罪がなくなった方がいいというのと同じレベルの話かもしれません。今回は若い男性が目立っていますが、拡散された動画の中にはレーンのお寿司を高齢者がつまみ食いするものもありましたし、女性の迷惑客ももちろん存在します。SNSによって影響が広がりやすくなったのは事実ですが、もっと根本的に飲食業界全体の問題として考える必要があるんです」
(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))

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