ブランド品「スーパーコピー」転売被害1500万円 真贋鑑定のプロをだました「好青年」の狡猾手口

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偽物のブランド品を本物とだまして店に買い取らせたとして、兵庫県警が昨年秋、詐欺と商標法違反の疑いで無職の男(26)を逮捕した。
一見さわやかな風貌のこの青年が扱っていたのは、本物と見分けがつかないほど精巧な「スーパーコピー」と呼ばれるもの。狙われたのは質店やリサイクル店で、被害総額は約1500万円にも上った。真贋(しんがん)鑑定のプロたちの目をもだました男の手口とは。
「少し前に阪急(百貨店)で彼女と一緒に買った」
令和3年4月、兵庫県内の質店で、男は、フランスの有名ブランド・クリスチャン・ディオール社製「ブックトート」の買い取りを持ち掛けた。
50代の男性店主がバッグを確認すると、同店にあった在庫品と比べても同じように見えた。店頭買い取りをうたい、目利きには自信があったため、買い取ったがバッグは偽物。「好青年という印象で受け答えも誠実だった。うちは人物も見た上で買い取りするけど、逆手に取られてしまった」と恨めし気に語った。
男は、住所不定、無職の菊地心被告(26)=詐欺と商標法違反罪で公判中。兵庫県警生活経済課と灘署は昨年10月24日、同容疑で菊地被告を逮捕した。逮捕容疑は兵庫県内の別の店でシャネルの偽物バッグを本物と装い、60万円をだまし取ったとしている。
11月にも、神戸市内の質店でディオールの偽物バッグを18万5千円で買い取らせたとして同容疑で再逮捕。その後、神戸地検が同罪で起訴し、現在、神戸地裁で公判が行われている。
高品質、高い縫製技術、2回目は本物
仕入れ値は、シャネルの偽物が20万~30万円、ディオールが10万円前後で、いずれのバッグも高品質な生地や高い縫製技術で作られていた。フリマサイトや大阪・鶴橋の違法コピーブランド店などで仕入れ、ブランド品買い取り店に転売を繰り返していたという。
菊地被告は調べに「仕入れるときの値段は高かったが、利益率が良かった」などと供述したという。
県警などによると、令和3年1月から昨年9月までの間に、兵庫、大阪、京都の3府県の約40店舗に約70点のスーパーコピーを持ち込み、約1500万円をだまし取ったとみられる。
菊地被告は店側を信用させるため、2回目の来店時は本物を持っていくなどの偽装工作を行い、同じ店に多いときは5~6回商品を持ち込むこともあった。狙われたのは、買い取り専門店や古物商といういわば鑑定の?プロ?のため、業界内で「目利きができない」「だましやすい」といった風評が立つことを恐れ、警察に相談しない店も多いという。
兵庫県の質店の男性店主は「本物かどうか鑑定してほしいと持ち込まれることもあるから被害を訴えにくい側面がある。同業者がだまされたことに恥ずかしさを覚える気持ちも分かる」と打ち明ける。
同店の場合は、同業者間のインターネットサイトで偽物が出回っているとの情報があり、不審に思い、同業でつくる鑑定機関に現物を送付して鑑定したところ偽物と判明した。本人にメールや電話で返金するよう督促したが、支払いがされなかったため警察に相談したという。
ある捜査関係者は「仮に偽物とばれても自分も本物だと信じてしまったと言い逃れができてしまう。鑑定士のプロ意識の弱みも巧妙に突いており、かなり悪質だ」と明かす。
被害推計6千億円、判別難しく
菊地被告は公判で「1年以上前ではっきり覚えてないが、正規店で買ったことがないので(だましたことに)間違いない」と罪を認めた。
偽ブランド品の見分け方などを動画共有サイト「You Tube」で発信しているブランド品鑑定士の遠矢雄介さん(36)によると、最近は出来の良いコピー商品が増えているという。見た目やロゴ、材質、色は正規品と遜色がなく、箱や袋、保証書が付いているものもある。縫製や金具の細かい点、手触り、厚み、皮革の匂いなどをもとに見極めるが、遠矢さんは「プロでも判別が難しいことがある」と話す。
コピー商品販売者に関する情報の受け付けや告発を行っている一般社団法人「ユニオン・デ・ファブリカン」によると、輸入された偽ブランド品による正規品の被害総額は推計で令和3年は約6755億円に上った。大半は粗悪品だが、なかには完成度の高い偽物も含まれているという。
ネットオークションやフリマサイトにも偽物が出回る。ブランドの権利者が主要サイトに削除を依頼した点数は4年が約72万点で、10年前の10倍以上にも上る。完成度の高い偽物が本物として出品された場合はほぼ見分けることができない。なかには海外のブランド本社に現物を送って、分解してみなければ偽物と判別できないものもあるという。
同法人の堤隆幸事務局長は「鑑定のプロでもだまされることがある。一般の人は信頼できる顔の見えるお店で商品を購入してほしい」と訴えた。

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