フィリピンの元“収容所仲間”が語る「ルフィ」の正体 塀の中で “バカラ賭博”までも…豪遊三昧しながら強盗を指示していたヤクザ

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フィリピン入国管理局の収容所にいながら、携帯電話で日本の若者たちを操り、全国で30件以上の強盗・窃盗事件を主導してきたとされる謎の男「ルフィ」。その人物像がノンフィクションライター・水谷竹秀氏の取材で浮かび上がった。「賄賂を使って入手した携帯電話で強盗を指示していたらしい」「マグロや牛肉を外から大量に取り寄せ、食べきれない分は捨てていた」。日本の常識では考えられない収容施設に巣食い、卑劣な犯罪を繰り返してきた男の“素顔”とは――。
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【写真】渡辺容疑者の“マグショット”と収容所で暮らす日本人。地面師事件で有名になった「カミンスカス操受刑者」もここにいた6代目山口組の三次団体に所属していた「ルフィの報道を知った時に、思い浮かんだのは渡辺です。話し方は丁寧ですが、悪知恵が働きそうなタイプですね。どういうわけか金を持っていたので、収容所で支給の食事は食べず、職員に金を渡してマクドナルドなどのファストフードを外部から取り寄せて食べていました」渡辺優樹容疑者 こう私に証言してくれたのは、フィリピン入国管理局が管轄する「ビクータン収容所」に昨年までいた60代の男性A氏である。私がA氏にこの話を聞いたのは、1月26日の晩であったが、翌27日、フィリピンのレムリア司法相も日本メディアの取材に「日本の警察当局がルフィと見ている男は渡辺優樹」と認めた。警察関係者によると、6代目山口組の三次団体に所属していた38歳の暴力団関係者だという。 1月19日に東京都狛江市の住宅で大塩衣与(きぬよ)さん(90)が殺害された強盗殺人事件、昨年12月に東京都中野区の住宅から3000万円が奪われた強盗傷害事件など、昨年から全国で30件以上発生している連続強盗・窃盗事件。逮捕された実行役の供述や押収した携帯電話の解析記録から判明したのは、ビクタン収容所にいる「ルフィ」と名乗る男が携帯電話で実行犯をリクルートし、操っていたという衝撃の事実だった。指示役は「ルフィ」のほか、「キム」「ミツハシ」などの名前も使い分けていたが、とうとう素性が判明したのである。ルフィは複数いる? ネットを調べると、フィリピン政府系ウェブメディアに渡辺は写真入りで載っていた。短髪に口髭と顎髭をたくわえた、いかつい男。横顔も撮られている。映画などによく出てくる“マグショット”だ。 渡辺容疑者は2021年4月19日、フィリピンの捜査当局に入管法違反で逮捕された。日本やその他の国で特殊詐欺に関与したとして、国際手配され、フィリピンでは「シマダケンジ」という偽名を使っていた。 当初、日本の報道関係者の間では、「ルフィ」は同じ収容所にいる今村磨人容疑者ではないかという話も出回っていた。27日夕刻にフィリピンの入管当局が出した文書には、〈ワタナベはグループのリーダーで、イマムラはただのメンバー〉とあった。渡辺・今村両容疑者の他にも同収容所にいる2人の男に警視庁が特殊詐欺の容疑で逮捕状を取っていたことも判明しているが、「ルフィ」が渡辺容疑者個人かグループなのかは、いまだ判然としていない。 A氏が渡辺・今村両容疑者の関係について語る。「私が収容所にいたころは渡辺と今村はそれほど仲良さそうな関係ではありませんでしたが、今は一緒になって強盗を指示していたような話を別の元収容者から聞きました」韓国人とつるんでいた渡辺容疑者 ビクータン収容所は首都マニラの中心部から車で南に約1時間走った距離にある、首都圏警察本部の敷地内にある外国人専用の収容所である。中国や韓国、日本、アメリカなど、各国から指名手配された逃亡犯および、フィリピンの入国管理法(不法滞在など)に違反した外国人が約300人収容されている。「ここはお金があれば何でも手に入ります。収容者は携帯電話も中で使えます。職員に携帯電話の金額プラス5,000~10,000ペソ(約12,000~24,000円)を支払えば買ってきてくれます。その携帯を使ってリクルートした実行犯を動かしていたのでしょう。ちなみに、お酒や覚醒剤などの違法薬物も手に入ります。中で酒盛りをして、職員の前で吐いている収容者もいました」(A氏) 施設は2階建ての建物で、部屋数は16部屋。1部屋の収容人数は4人だが、それでは収まりきらないため、部屋の外にも2段ベッドが並び、「すし詰状態」になっている。A氏によれば、日本人は現在約15人いる。渡辺容疑者は一般の収容者がいる建物ではなく、日本語ができる金持ちの韓国人たちと一緒に生活をしていたという。「韓国人のエリアは木とトタン屋根でできた10畳以上のスペースで、そこにベニヤ板でそれぞれの個室が作られていました。シャワーやキッチンもありますが、一般の収容者は近寄り難い雰囲気の場所です。そこに渡辺は韓国人4~5人と暮らしていました」(同)「オレオレ詐欺」を取り仕切っていた“ボス”もいた 一方の今村容疑者は、一般の建物に収容されていたが、韓国人とバカラなどのギャンブルをして負けて金に困り、日本人男性のボス格であったSが滞在する「VIPルーム」で暮らし始めたという。A氏によると、VIPルームには冷房が完備され、ベッドやテレビ、電子レンジなどの家財道具も備わっている。月々の家賃は5万ペソ(約12万円)で、収容所の職員に支払っていたという。「そこでSは若い日本人を束ねてオレオレ詐欺をやらせていました。怠けていたり、実績がない若者にはタバコの火を押し付けていじめていました。実際にやられていた若者からその話を聞きました。今村とSは金遣いが荒く、牛肉10キロやマグロ1匹を入管施設の外部から取り寄せ、パシリの日本人に調理をさせ、食べきれなくて捨てていたそうです」(同) ところがSが昨年11月に日本へ強制送還された。「そこで今村が1人になったので、金脈として渡辺と一緒になったのではないかと。連続強盗は私が収容所を出た後のことなので、直接は知りません。ですが、収容所の人間たちと今も連絡が取れる元収容者によれば、2人は強盗を指示していたみたいですね」(同) 渡辺、今村両容疑者ばかりでなく、複数の日本人収容者たちが携帯電話を使った特殊詐欺やら強盗で儲けたカネで入管施設内で「豪遊」していた疑惑があるのだ。”裏ワザ”を使って強制送還を逃れていた 渡辺容疑者は逮捕後、他の日本人収容者たちとともに日本に強制送還されそうになったことがあるという。「渡辺はみんなと一緒に強制送還の準備をしていました。(日本で逮捕されることに)びびっていたんでしょうねえ、焦っているように見えました。でも急遽、フィリピンに残留することになったんです。金を積んで外部の人間に訴えさせたんじゃないでしょうか。他の日本人収容者もよくやっていた手口です」 フィリピンでは事件に関与している外国人は、本国へ強制送還できない。本国での刑務所生活やフィリピン国内に妻や子供がいて離れ離れになるのを避けたい外国人収容者は、外部の人間に自身を詐欺などの容疑で告訴してもらい、それで強制送還期日の延期を繰り返しているのだ。同じような手口で、渡辺容疑者も収容施設に居残ったとみられる。 だが、もうそんな裏ワザは通用しそうにない。「露木康浩警察庁長官は、日本警察の威信にかけて首謀者を逮捕すると息巻いています。フィリピン当局も準備が出来次第、順次、強制送還していく方針で、すでに今村は手続きに入っている。送還までどのくらい時間がかかるかは不明ですが、渡辺たちが強盗事件の容疑者として逮捕される可能性は高い」(社会部記者) ルフィは送還されたとき、国民にどんな顔を見せるのだろうか。水谷竹秀(みずたにたけひで)ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。5月上旬までウクライナに滞在していた。デイリー新潮編集部
「ルフィの報道を知った時に、思い浮かんだのは渡辺です。話し方は丁寧ですが、悪知恵が働きそうなタイプですね。どういうわけか金を持っていたので、収容所で支給の食事は食べず、職員に金を渡してマクドナルドなどのファストフードを外部から取り寄せて食べていました」
こう私に証言してくれたのは、フィリピン入国管理局が管轄する「ビクータン収容所」に昨年までいた60代の男性A氏である。私がA氏にこの話を聞いたのは、1月26日の晩であったが、翌27日、フィリピンのレムリア司法相も日本メディアの取材に「日本の警察当局がルフィと見ている男は渡辺優樹」と認めた。警察関係者によると、6代目山口組の三次団体に所属していた38歳の暴力団関係者だという。
1月19日に東京都狛江市の住宅で大塩衣与(きぬよ)さん(90)が殺害された強盗殺人事件、昨年12月に東京都中野区の住宅から3000万円が奪われた強盗傷害事件など、昨年から全国で30件以上発生している連続強盗・窃盗事件。逮捕された実行役の供述や押収した携帯電話の解析記録から判明したのは、ビクタン収容所にいる「ルフィ」と名乗る男が携帯電話で実行犯をリクルートし、操っていたという衝撃の事実だった。指示役は「ルフィ」のほか、「キム」「ミツハシ」などの名前も使い分けていたが、とうとう素性が判明したのである。
ネットを調べると、フィリピン政府系ウェブメディアに渡辺は写真入りで載っていた。短髪に口髭と顎髭をたくわえた、いかつい男。横顔も撮られている。映画などによく出てくる“マグショット”だ。
渡辺容疑者は2021年4月19日、フィリピンの捜査当局に入管法違反で逮捕された。日本やその他の国で特殊詐欺に関与したとして、国際手配され、フィリピンでは「シマダケンジ」という偽名を使っていた。
当初、日本の報道関係者の間では、「ルフィ」は同じ収容所にいる今村磨人容疑者ではないかという話も出回っていた。27日夕刻にフィリピンの入管当局が出した文書には、〈ワタナベはグループのリーダーで、イマムラはただのメンバー〉とあった。渡辺・今村両容疑者の他にも同収容所にいる2人の男に警視庁が特殊詐欺の容疑で逮捕状を取っていたことも判明しているが、「ルフィ」が渡辺容疑者個人かグループなのかは、いまだ判然としていない。
A氏が渡辺・今村両容疑者の関係について語る。
「私が収容所にいたころは渡辺と今村はそれほど仲良さそうな関係ではありませんでしたが、今は一緒になって強盗を指示していたような話を別の元収容者から聞きました」
ビクータン収容所は首都マニラの中心部から車で南に約1時間走った距離にある、首都圏警察本部の敷地内にある外国人専用の収容所である。中国や韓国、日本、アメリカなど、各国から指名手配された逃亡犯および、フィリピンの入国管理法(不法滞在など)に違反した外国人が約300人収容されている。
「ここはお金があれば何でも手に入ります。収容者は携帯電話も中で使えます。職員に携帯電話の金額プラス5,000~10,000ペソ(約12,000~24,000円)を支払えば買ってきてくれます。その携帯を使ってリクルートした実行犯を動かしていたのでしょう。ちなみに、お酒や覚醒剤などの違法薬物も手に入ります。中で酒盛りをして、職員の前で吐いている収容者もいました」(A氏)
施設は2階建ての建物で、部屋数は16部屋。1部屋の収容人数は4人だが、それでは収まりきらないため、部屋の外にも2段ベッドが並び、「すし詰状態」になっている。A氏によれば、日本人は現在約15人いる。渡辺容疑者は一般の収容者がいる建物ではなく、日本語ができる金持ちの韓国人たちと一緒に生活をしていたという。
「韓国人のエリアは木とトタン屋根でできた10畳以上のスペースで、そこにベニヤ板でそれぞれの個室が作られていました。シャワーやキッチンもありますが、一般の収容者は近寄り難い雰囲気の場所です。そこに渡辺は韓国人4~5人と暮らしていました」(同)
一方の今村容疑者は、一般の建物に収容されていたが、韓国人とバカラなどのギャンブルをして負けて金に困り、日本人男性のボス格であったSが滞在する「VIPルーム」で暮らし始めたという。A氏によると、VIPルームには冷房が完備され、ベッドやテレビ、電子レンジなどの家財道具も備わっている。月々の家賃は5万ペソ(約12万円)で、収容所の職員に支払っていたという。
「そこでSは若い日本人を束ねてオレオレ詐欺をやらせていました。怠けていたり、実績がない若者にはタバコの火を押し付けていじめていました。実際にやられていた若者からその話を聞きました。今村とSは金遣いが荒く、牛肉10キロやマグロ1匹を入管施設の外部から取り寄せ、パシリの日本人に調理をさせ、食べきれなくて捨てていたそうです」(同)
ところがSが昨年11月に日本へ強制送還された。
「そこで今村が1人になったので、金脈として渡辺と一緒になったのではないかと。連続強盗は私が収容所を出た後のことなので、直接は知りません。ですが、収容所の人間たちと今も連絡が取れる元収容者によれば、2人は強盗を指示していたみたいですね」(同)
渡辺、今村両容疑者ばかりでなく、複数の日本人収容者たちが携帯電話を使った特殊詐欺やら強盗で儲けたカネで入管施設内で「豪遊」していた疑惑があるのだ。
渡辺容疑者は逮捕後、他の日本人収容者たちとともに日本に強制送還されそうになったことがあるという。
「渡辺はみんなと一緒に強制送還の準備をしていました。(日本で逮捕されることに)びびっていたんでしょうねえ、焦っているように見えました。でも急遽、フィリピンに残留することになったんです。金を積んで外部の人間に訴えさせたんじゃないでしょうか。他の日本人収容者もよくやっていた手口です」
フィリピンでは事件に関与している外国人は、本国へ強制送還できない。本国での刑務所生活やフィリピン国内に妻や子供がいて離れ離れになるのを避けたい外国人収容者は、外部の人間に自身を詐欺などの容疑で告訴してもらい、それで強制送還期日の延期を繰り返しているのだ。同じような手口で、渡辺容疑者も収容施設に居残ったとみられる。
だが、もうそんな裏ワザは通用しそうにない。
「露木康浩警察庁長官は、日本警察の威信にかけて首謀者を逮捕すると息巻いています。フィリピン当局も準備が出来次第、順次、強制送還していく方針で、すでに今村は手続きに入っている。送還までどのくらい時間がかかるかは不明ですが、渡辺たちが強盗事件の容疑者として逮捕される可能性は高い」(社会部記者)
ルフィは送還されたとき、国民にどんな顔を見せるのだろうか。
水谷竹秀(みずたにたけひで)ノンフィクション・ライター。1975年生まれ。上智大学外国語学部卒。2011年、『日本を捨てた男たち』で第9回開高健ノンフィクション賞を受賞。10年超のフィリピン滞在歴をもとに「アジアと日本人」について、また事件を含めた現代の世相に関しても幅広く取材。5月上旬までウクライナに滞在していた。
デイリー新潮編集部

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