横断歩道で9割が止まらなかった岡山県 ワーストワンを返上した「忍者」効果

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横断歩道で一時停止しない車が約9割と全国ワーストワンだった岡山で、「忍者のような身のこなしでないと横断歩道は渡れない」という逆説的な啓発動画が評判になり、1年後の令和4年の調査では状況が大幅に改善された。
地元でワーストワンが強くアナウンスされたことで、ドライバーの意識改革が進んだとみられている。
「明らかに違った」
実施されたのは、日本自動車連盟(JAF)が行っている「信号機のない横断歩道における歩行者優先」の実態調査。昨年8月、各都道府県の信号がない横断歩道2カ所ずつ、通過車両7540台を対象に、職員が50回渡ろうと試みたときの一時停止率を計測した。
平成28年に開始された調査で、岡山県は令和2年に下から3番目、3年は10・3%とワーストワンになった。約9割の車が一時停止をしなかった。4年は全国平均が前年の30・6%から39・8%にアップしたが、岡山県は急改善し49・0%に。順位も20位まで急上昇した。
調査に参加したJAF岡山支部の担当者は「横断歩道に立ったとき、前年とは明らかに違っていた。手前から減速してしっかりと止まる車が増えた」と話していた。
令和4年調査で最も低かったのは沖縄県(20・9%)、次いで和歌山県(22・5%)、京都府(23・5%)、最も高かったのは長野県(82・9%)、次いで兵庫県(64・7%)、山梨県(64・6%)だった。
岡山県にとっては飛躍的な成果だが、JAFの担当者は「これはマナーではなくルールの問題。100%達成が必須なので、今後もどのような啓発活動が有効か検討していきたい」と話していた。
研究者も評価
なぜドライバーの急速な意識改革が進んだのか。地元ではワーストワンのインパクトが大きく、岡山県警や交通安全協会、自動車学校などがこぞって啓発活動を実施したというが、なかでも話題になったのが自動車販売会社、岡山トヨペット(本店・岡山市南区)の啓発動画だったという。
交通事故ZEROプロジェクトを長年進めている同社は、「忍者のような身のこなしでないと横断歩道は渡れない」というイメージの啓発動画「Road to Ninja-一億総忍者の国」を制作。
日本人は道路を渡るために小中学生の頃から忍者修業を続けているという設定で、小中学生、会社員、主婦、お年寄りが路上、歩道橋、横断歩道といった場所で、高い跳躍、バク転やバク宙などのアクロバティックな動きを見せる。
忍者研究の第一人者、三重大学人文学部の山田雄司教授も「誰でも知っている存在を使って交通事故に遭わないよう忍術を身につけるという発想が興味深い。あっと思わせる動画で注意を喚起するのは効果的」と高く評価する内容だった。
映像を見た人からも「全国区でもっと流してほしい」「めちゃめちゃ面白い」などと、好意的な反響だったという。ACCやJAAの広告賞で「地域ファイナリスト」「テレビ部門メダリスト」などにも選ばれた。
同社セールスプロモーショングループGMの川北秀明さんは「日本らしさをイメージし、インパクトを重視した」と振り返る。
故郷を良くしたい思いで
啓発動画は岡山トヨペットの交通事故ZEROプロジェクトの一環として毎年制作している。「ウインカーを出そう」「居眠り運転を防止しよう」といったテーマを決めて作っているという。
忍者が登場したのは令和3年春の第8弾動画。前年のJAF調査で岡山県がワースト3になった横断歩道の一時停止率をテーマに据えた。「車が止まってくれずに渡れないのなら忍者にならざるを得ない」という逆説的な案を採用した。
翌年春の第9弾「止まろう岡山」も一時停止がテーマ。都道府県対抗マラソンの設定で、ゴール直前に横断歩道を渡ろうとする女の子に気づき、選手は一斉に止まるが、岡山県だけが止まらずにゴールする内容だ。
制作陣は、ワースト1となり「不名誉な結果を真摯(しんし)に受け止めてほしい」という思いをこめたという。
ACCで2年連続地域ファイナリスト、映文連アワードのコーポレートコミュニケーション部門優秀賞を受賞するなど、この動画も高い評価を受けたが、川北さんは「社員が生まれ育った故郷を良くしようという思いで取り組んでいる」と話していた。(和田基宏)

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