「ゴキブリがシャワーのようにボトボトと」「捕まったまま死んだネズミの臭いが…」害虫駆除業者に聞いた“ヤバい現場”

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世の中には必要だが、その実態はよくわからない仕事というのは数多くある。「害虫・害獣駆除」もそのカテゴリーに入るかもしれない。
【写真】この記事の写真を見る(2枚) どんなに衛生的な環境を整えても、害虫や害獣を根絶することは難しい。おしゃれで高級なレストランの天井にはネズミが走り回り、近代的なオフィスビルにもゴキブリやハエ、ネズミが発生している……。そんななか人知れず害虫や害獣を駆除しているプロ業者に、最近の事情と駆除の現実を聞いた。

◆ ◆ ◆研修中の虫の写真でくじける人も 近藤裕二さん(仮名・33歳)は、害虫・害獣駆除会社で働き始めて3年目。もともと虫好きだったこともあり、仕事に対する嫌悪感はなかったという。「クラスにひとりは昆虫好きっているじゃないですか。自分はそのタイプだったので、駆除の仕事もできるかなと思って入社しました。新人は最初に研修があって、まずは虫の習性や生態、それに薬剤について学びます。でも、その時点で、いろんな虫の写真が出てくるので、そこで挫けちゃう人も中にはいました。ある程度の覚悟はしていても『これとリアルに接するのか』と考えたらムリだったんじゃないですかね。 研修が終わると先輩の現場に同行して、この虫の生態だと、こう逃げるから、ここに罠を仕掛けようとか、実地で色々覚えていくという感じでしたね」(以下、近藤さん)iStock.com 駆除を請け負うのは、7割が飲食店。害虫が大量発生したので緊急出動することもあるが、基本的には定期契約を結び、予防と駆除を一定間隔でおこなっていくことが多いという。エリアは新宿・歌舞伎町や、渋谷などの大型繁華街が中心だ。「最近は再開発が盛んで、古いビルを取り壊したりすると、そこに潜んでいた虫がまわりに散っちゃうんですよ。いままで出てなかったのに急な依頼があったお店の周囲を見ると工事現場があったりすることが多いです。あと時期もありますね。寒くなってくると、虫もネズミも温かい屋内に入り込みやすいんです。駆除のシーズンは春・夏と思いがちですけど、都会なら冬でも依頼が減らなかったりしますね」シャワーと言ってもいいくらいボトボトと…… 駆除依頼で多いのは、ゴキブリ、ハエ、ネズミ。これは季節や場所に関係なく発生しているという。「ゴキブリが多いのは、居酒屋やラーメン屋などの中華系。やっぱり油モノを扱う所は特に出ます。最近駆除に行った店舗さんでもヒドい所があって、下から潜ってシンクの裏を拭いてたら、もうゴキブリシャワーと言ってもいいくらいボトボト落ちてきました。店舗で発生するのはチャバネゴキブリという1センチぐらいのちっちゃいやつで、黒くて大きいやつは基本的に外部侵入なんですよ。 ゴキブリの駆除は、まずエアゾール剤を吹き付けて追い出して、あとは希釈して使うプロ用の強い薬剤を撒く。粘着板やベイト剤も使うこともあります。夜間にチームで本格的に駆除するというときは、燻蒸剤も使いますね。ただ、あれは近隣の店にも煙が漏れちゃうので、事前の告知も含めてけっこう大掛かりになります」 昔から1匹いたら、その数十倍は潜んでいるといわれるゴキブリ。プロは慌てず騒がず、速やかにターゲットを探し出し、根気よく駆除していくという。「基本的に温かい所が好きなので、厨房だと冷蔵庫や調理器具のモーター部分、あとはおしぼりウォーマー周辺とかを重点的に駆除しますね。ただ、虫というのは外からも入ってくるので、ゼロにするっていうのは難しいんです。飲食店は人の出入りは多いし、食材の搬入もある。ゴキブリの卵は、段ボールやおしぼりの袋にもついてくるんで、そこから繁殖してしまうこともあるんです」 防げないという意味では、飛んでくるハエ類も強敵だ。彼らは空中だけでなく、水中や地下からもやってくるという。「一般的にコバエと呼ばれるものでも、いろいろな種類がいます。僕たちが主に駆除するのは、チョウバエとかショウジョウバエがほとんどですね。ハエは急に大量発生するので、緊急出動が多いんですよ。飛翔系の虫を捕獲する捕虫器とか、バチバチって殺すライトもありますけど、よく使うのはシンプルな粘着シート系ですね。それらを仕掛けて、あとは薬剤を噴霧する。 ハエは排水溝とか、下水につながるマンホールの中で発生することが多いんです。水が溜まったり、淀んでるところですね。そこに先に噴霧して、しばらくたったから大丈夫かと思って蓋を開けたらブワーっと出てくることがあるんですよ。 顔にバンバンあたってきて、こちらもマスクにゴーグルをつけて防御してますけど、気分は悪いですよね。虫が嫌いというよりは、基本的に汚いところにいるやつらなので、あんまり顔には当たってほしくないです」ネズミの捕獲や駆除は知恵比べ 捕獲と駆除の難易度が高いのはネズミだ。お客さんの前に姿を現すだけでも大変なクレームになってしまうので、頭を悩ましている飲食店も多いという。「ネズミは外から侵入してきます。壁を齧って穴を開けたり、天井から降りてきたりして、そこに食べ物があれば周辺で生活するようになる。なので、まずはフンや足跡、齧った痕跡からルートを探して、粘着板を仕掛けます。それから『鼠穴』というネズミが出入りしている穴を探して、これを徹底的に塞いでいくんです。 ネズミの捕獲に粘着板は有効なんですけど、捕まったまま死ぬと臭いが出てくるんですよね。死んだネズミの臭いを嗅いだことがある人はあまりいないと思いますけど、けっこう強烈なんです。それが客席まで漂ってクレームになることもありますね」 ネズミはすばしこく、神出鬼没なだけに、捕獲や駆除は知恵比べになるという。「僕らが駆除するのは、ドブネズミとクマネズミですね。ドブの方がデカいけど、クマの方が頭はいい。あとドブは平面的な動きしかしないんですよ。でもクマは壁を登ったりする上下運動もあるんで、ちょっと厄介なんですよね」生命力が強く、なかなか死なない問題 他にもネズミ対策として、人間には聞こえない周波数を出してネズミを寄せ付けなくさせる「マウスバリア」や、毒エサを撒くなどの駆除法があるという。「ただ、毒エサは出現する場所によってネズミの好みが本当に違うんで難しいんですよ。生肉だったり、魚好きだったり、食べ物以外の壁紙やロウソクが好きなやつもいる。なので、その時々で毒エサの調合を変えて、誘引物を加えるんです。生臭いの好きかなと思ったら魚粉混ぜるとか、パン屋で出てたらパン粉とか。あとは油や砂糖は基本ですね。ネズミって基本的に甘いもの好きなんですよ」 また、ネズミはなんでもむ習性があり、被害が大きくなってしまう。「ネズミの被害としては、やっぱり食害ですね。飲食店もよくやられますけど、スーパーマーケットでは、売り場に出ている米袋を齧ったりするんですよ。それも、なぜか高い米を狙う。それを2袋とかやられると、店長さんも大激怒ですよ。スーパーは構造的に侵入経路が多いので、防ぐのも難しいんです。 天井裏でケーブルを噛んだりすることもよくありますね。いちばん困るのがLANケーブルで、他のケーブルよりも柔らかいのでよく噛まれて断線する。そうなると、お店全体のシステムが落ちちゃって営業できませんということになる。あと電気系を齧って感電死してるネズミもたまに見ますね。ちょっと焦げてて、臭いが独特だったりします」駆除、捕獲した虫やネズミは持ち帰って冷凍庫へ そしてネズミは生命力が強く、なかなか死なないというのも問題だ。「死んだ臭いもクレームになりますけど、生きたまま捕まってて鳴き出すのも困るんですよ。それがお客さんがいる時間帯だと非常にまずいので、咄嗟に粘着板を畳んで上から踏みつけたこともあります。残酷ですけど騒ぎになってしまうと大変なので」 苦労をして駆除、捕獲した虫やネズミたち。それはその後どこで、どのように処理されるのだろうか。「まず車に積んで会社まで持って帰ります。各営業所に大型の冷凍庫があって、そこにまとめて入れておくんです。それを週に1回くらい別の業者さんが来て回収していく。その業者さんがどこに持っていって、どんなふうに処理してるかまでは現場の僕たちにはわからないですね。たぶん、どこかで焼却処分してるんだとは思いますけど」 ゴキブリ、ハエ、ネズミが3大ターゲットとなるが、営業所には他にも様々な害虫・害獣の駆除依頼が届くという。「ムカデやクモが大量に出たとか……。あとこれは先輩に聞いた話ですけど、トカゲが粘着板に掛かってたことがあったそうです。それも普通にいるやつじゃなくて、飼育用の珍しい種類。どこかから逃げ出したんですかね……。 あと、鳥は捕まえたらダメなんですよ。鳥獣保護法で守られているので、スズメとかカラスも罠にかからないようにしてます。あとハクビシンもダメです。たまに被害があって依頼もあるんですけど、資格が違うのでウチはやってないんです、とお客さんに説明します。 他にはハチの巣の除去はやってますね。これは割と楽な仕事で、防護服を着て、ハチが触れただけでボトボト落ちるくらいの強い薬剤があるので、それを噴霧して完全に弱ったところで巣を取るだけ。慣れてしまえば簡単です。蜂の巣ひとつにつき駆除費用はわが社では1万5000円なんですけど、小さくても2つあればそれで3万円。短時間で処理できますし、仕事としてはおいしいですね」「まだ音がする」害虫駆除業者の“あるある”とは 害虫や害獣との格闘を続ける毎日だが、依頼してくる顧客たちにも向き合わなければならない。「お客さんからのクレームというか、最初の依頼で一番困るのは『足音がする』って言われるときですね。ネズミが天井を走れば音がすることもあると思うんですけど、実物を目撃したわけじゃないんですよ。だったら、それが何の音なのかわからないじゃないですか。 それでまず調査のために定点カメラを設置したりするんですけど、ネズミは現れない。とりあえず穴を探して塞いで、たぶんもう出ないです、と納得していただいたのに、数日後に『まだ音がするんだよね……』。これは同業者ならわかってもらえる“あるある”ですね」 プライベートで飲食店に行った時に、どうしても衛生度や構造が気になってしまうのも“あるある”だ。「それはやっぱり見ちゃいますね。老舗の町中華とか好きなんですけど『これはいるな』とか、『あれちょっと動いたな』とか……。おしゃれな内装のカフェでも、あんな暖かそうな所に隙間あけたら絶対集まってくるよね、みたいなことは思います。あと、たぶん鼻が敏感になってると思うんですけど、これは多分どっかでネズミが死んでるんだろうな、とかもわかりますね」10階や30階に住んでいても、虫や卵は入ってくる 駆除のプロとして、自宅でも気をつけていることはあるのだろうか。「特に気をつけてないですけど、ウチで出たことはないですね。しっかり清潔にして生活していれば、虫はほとんど出ません」 害虫は「高さ制限」があるという俗説がある。高層タワマンは虫たちの生息域ではないので、窓から入ってくることもないというのがその根拠だ。「確かに飛んできて窓から入ってくるようなことはないですけど、別に関係ないですよ。10階でも30階でも、人間が出入りしている以上、虫や卵も入ってくる。スーパーで買ってきた食材はもちろん、通販で買った段ボールとか、Uberで頼んだ料理についてるかもしれない。自分の所は気をつけていても、隣の部屋から侵入することもあります。 よく、ゴキブリを捕まえて外に逃がす方とかいるじゃないですか。ゴキブリは帰巣本能のような能力があるんで、戻ってきちゃうんです。だから、捕まえたら確実に殺して処理すべきですね」 会社も安全ではない。最近ではオフィスビルでの被害も増えているという。「お弁当やお菓子を持ち込んで食べるじゃないですか。他にもおみやげのお饅頭が共有スペースに置きっぱなしとか、置き菓子とかもありますからね。ネズミは、それを狙ってきます。デスクの引き出しにしまっておいても、引き出しは後ろ側に隙間があって簡単に入り込めるんです。とりあえずしまっておいたお菓子の箱に齧った跡がないか、よく確認してほしいですね」 どれだけ駆除しても、害虫や害獣はゼロにはならない。それなりの距離感で同居していくというのが都会生活なのだろう。(清談社)
どんなに衛生的な環境を整えても、害虫や害獣を根絶することは難しい。おしゃれで高級なレストランの天井にはネズミが走り回り、近代的なオフィスビルにもゴキブリやハエ、ネズミが発生している……。そんななか人知れず害虫や害獣を駆除しているプロ業者に、最近の事情と駆除の現実を聞いた。
◆ ◆ ◆
近藤裕二さん(仮名・33歳)は、害虫・害獣駆除会社で働き始めて3年目。もともと虫好きだったこともあり、仕事に対する嫌悪感はなかったという。
「クラスにひとりは昆虫好きっているじゃないですか。自分はそのタイプだったので、駆除の仕事もできるかなと思って入社しました。新人は最初に研修があって、まずは虫の習性や生態、それに薬剤について学びます。でも、その時点で、いろんな虫の写真が出てくるので、そこで挫けちゃう人も中にはいました。ある程度の覚悟はしていても『これとリアルに接するのか』と考えたらムリだったんじゃないですかね。
研修が終わると先輩の現場に同行して、この虫の生態だと、こう逃げるから、ここに罠を仕掛けようとか、実地で色々覚えていくという感じでしたね」(以下、近藤さん)
iStock.com
駆除を請け負うのは、7割が飲食店。害虫が大量発生したので緊急出動することもあるが、基本的には定期契約を結び、予防と駆除を一定間隔でおこなっていくことが多いという。エリアは新宿・歌舞伎町や、渋谷などの大型繁華街が中心だ。
「最近は再開発が盛んで、古いビルを取り壊したりすると、そこに潜んでいた虫がまわりに散っちゃうんですよ。いままで出てなかったのに急な依頼があったお店の周囲を見ると工事現場があったりすることが多いです。あと時期もありますね。寒くなってくると、虫もネズミも温かい屋内に入り込みやすいんです。駆除のシーズンは春・夏と思いがちですけど、都会なら冬でも依頼が減らなかったりしますね」
駆除依頼で多いのは、ゴキブリ、ハエ、ネズミ。これは季節や場所に関係なく発生しているという。
「ゴキブリが多いのは、居酒屋やラーメン屋などの中華系。やっぱり油モノを扱う所は特に出ます。最近駆除に行った店舗さんでもヒドい所があって、下から潜ってシンクの裏を拭いてたら、もうゴキブリシャワーと言ってもいいくらいボトボト落ちてきました。店舗で発生するのはチャバネゴキブリという1センチぐらいのちっちゃいやつで、黒くて大きいやつは基本的に外部侵入なんですよ。
ゴキブリの駆除は、まずエアゾール剤を吹き付けて追い出して、あとは希釈して使うプロ用の強い薬剤を撒く。粘着板やベイト剤も使うこともあります。夜間にチームで本格的に駆除するというときは、燻蒸剤も使いますね。ただ、あれは近隣の店にも煙が漏れちゃうので、事前の告知も含めてけっこう大掛かりになります」
昔から1匹いたら、その数十倍は潜んでいるといわれるゴキブリ。プロは慌てず騒がず、速やかにターゲットを探し出し、根気よく駆除していくという。
「基本的に温かい所が好きなので、厨房だと冷蔵庫や調理器具のモーター部分、あとはおしぼりウォーマー周辺とかを重点的に駆除しますね。ただ、虫というのは外からも入ってくるので、ゼロにするっていうのは難しいんです。飲食店は人の出入りは多いし、食材の搬入もある。ゴキブリの卵は、段ボールやおしぼりの袋にもついてくるんで、そこから繁殖してしまうこともあるんです」
防げないという意味では、飛んでくるハエ類も強敵だ。彼らは空中だけでなく、水中や地下からもやってくるという。
「一般的にコバエと呼ばれるものでも、いろいろな種類がいます。僕たちが主に駆除するのは、チョウバエとかショウジョウバエがほとんどですね。ハエは急に大量発生するので、緊急出動が多いんですよ。飛翔系の虫を捕獲する捕虫器とか、バチバチって殺すライトもありますけど、よく使うのはシンプルな粘着シート系ですね。それらを仕掛けて、あとは薬剤を噴霧する。
ハエは排水溝とか、下水につながるマンホールの中で発生することが多いんです。水が溜まったり、淀んでるところですね。そこに先に噴霧して、しばらくたったから大丈夫かと思って蓋を開けたらブワーっと出てくることがあるんですよ。
顔にバンバンあたってきて、こちらもマスクにゴーグルをつけて防御してますけど、気分は悪いですよね。虫が嫌いというよりは、基本的に汚いところにいるやつらなので、あんまり顔には当たってほしくないです」
捕獲と駆除の難易度が高いのはネズミだ。お客さんの前に姿を現すだけでも大変なクレームになってしまうので、頭を悩ましている飲食店も多いという。
「ネズミは外から侵入してきます。壁を齧って穴を開けたり、天井から降りてきたりして、そこに食べ物があれば周辺で生活するようになる。なので、まずはフンや足跡、齧った痕跡からルートを探して、粘着板を仕掛けます。それから『鼠穴』というネズミが出入りしている穴を探して、これを徹底的に塞いでいくんです。
ネズミの捕獲に粘着板は有効なんですけど、捕まったまま死ぬと臭いが出てくるんですよね。死んだネズミの臭いを嗅いだことがある人はあまりいないと思いますけど、けっこう強烈なんです。それが客席まで漂ってクレームになることもありますね」
ネズミはすばしこく、神出鬼没なだけに、捕獲や駆除は知恵比べになるという。
「僕らが駆除するのは、ドブネズミとクマネズミですね。ドブの方がデカいけど、クマの方が頭はいい。あとドブは平面的な動きしかしないんですよ。でもクマは壁を登ったりする上下運動もあるんで、ちょっと厄介なんですよね」
他にもネズミ対策として、人間には聞こえない周波数を出してネズミを寄せ付けなくさせる「マウスバリア」や、毒エサを撒くなどの駆除法があるという。
「ただ、毒エサは出現する場所によってネズミの好みが本当に違うんで難しいんですよ。生肉だったり、魚好きだったり、食べ物以外の壁紙やロウソクが好きなやつもいる。なので、その時々で毒エサの調合を変えて、誘引物を加えるんです。生臭いの好きかなと思ったら魚粉混ぜるとか、パン屋で出てたらパン粉とか。あとは油や砂糖は基本ですね。ネズミって基本的に甘いもの好きなんですよ」
また、ネズミはなんでもむ習性があり、被害が大きくなってしまう。
「ネズミの被害としては、やっぱり食害ですね。飲食店もよくやられますけど、スーパーマーケットでは、売り場に出ている米袋を齧ったりするんですよ。それも、なぜか高い米を狙う。それを2袋とかやられると、店長さんも大激怒ですよ。スーパーは構造的に侵入経路が多いので、防ぐのも難しいんです。
天井裏でケーブルを噛んだりすることもよくありますね。いちばん困るのがLANケーブルで、他のケーブルよりも柔らかいのでよく噛まれて断線する。そうなると、お店全体のシステムが落ちちゃって営業できませんということになる。あと電気系を齧って感電死してるネズミもたまに見ますね。ちょっと焦げてて、臭いが独特だったりします」
そしてネズミは生命力が強く、なかなか死なないというのも問題だ。
「死んだ臭いもクレームになりますけど、生きたまま捕まってて鳴き出すのも困るんですよ。それがお客さんがいる時間帯だと非常にまずいので、咄嗟に粘着板を畳んで上から踏みつけたこともあります。残酷ですけど騒ぎになってしまうと大変なので」
苦労をして駆除、捕獲した虫やネズミたち。それはその後どこで、どのように処理されるのだろうか。
「まず車に積んで会社まで持って帰ります。各営業所に大型の冷凍庫があって、そこにまとめて入れておくんです。それを週に1回くらい別の業者さんが来て回収していく。その業者さんがどこに持っていって、どんなふうに処理してるかまでは現場の僕たちにはわからないですね。たぶん、どこかで焼却処分してるんだとは思いますけど」
ゴキブリ、ハエ、ネズミが3大ターゲットとなるが、営業所には他にも様々な害虫・害獣の駆除依頼が届くという。
「ムカデやクモが大量に出たとか……。あとこれは先輩に聞いた話ですけど、トカゲが粘着板に掛かってたことがあったそうです。それも普通にいるやつじゃなくて、飼育用の珍しい種類。どこかから逃げ出したんですかね……。
あと、鳥は捕まえたらダメなんですよ。鳥獣保護法で守られているので、スズメとかカラスも罠にかからないようにしてます。あとハクビシンもダメです。たまに被害があって依頼もあるんですけど、資格が違うのでウチはやってないんです、とお客さんに説明します。
他にはハチの巣の除去はやってますね。これは割と楽な仕事で、防護服を着て、ハチが触れただけでボトボト落ちるくらいの強い薬剤があるので、それを噴霧して完全に弱ったところで巣を取るだけ。慣れてしまえば簡単です。蜂の巣ひとつにつき駆除費用はわが社では1万5000円なんですけど、小さくても2つあればそれで3万円。短時間で処理できますし、仕事としてはおいしいですね」
「まだ音がする」害虫駆除業者の“あるある”とは 害虫や害獣との格闘を続ける毎日だが、依頼してくる顧客たちにも向き合わなければならない。「お客さんからのクレームというか、最初の依頼で一番困るのは『足音がする』って言われるときですね。ネズミが天井を走れば音がすることもあると思うんですけど、実物を目撃したわけじゃないんですよ。だったら、それが何の音なのかわからないじゃないですか。 それでまず調査のために定点カメラを設置したりするんですけど、ネズミは現れない。とりあえず穴を探して塞いで、たぶんもう出ないです、と納得していただいたのに、数日後に『まだ音がするんだよね……』。これは同業者ならわかってもらえる“あるある”ですね」 プライベートで飲食店に行った時に、どうしても衛生度や構造が気になってしまうのも“あるある”だ。「それはやっぱり見ちゃいますね。老舗の町中華とか好きなんですけど『これはいるな』とか、『あれちょっと動いたな』とか……。おしゃれな内装のカフェでも、あんな暖かそうな所に隙間あけたら絶対集まってくるよね、みたいなことは思います。あと、たぶん鼻が敏感になってると思うんですけど、これは多分どっかでネズミが死んでるんだろうな、とかもわかりますね」10階や30階に住んでいても、虫や卵は入ってくる 駆除のプロとして、自宅でも気をつけていることはあるのだろうか。「特に気をつけてないですけど、ウチで出たことはないですね。しっかり清潔にして生活していれば、虫はほとんど出ません」 害虫は「高さ制限」があるという俗説がある。高層タワマンは虫たちの生息域ではないので、窓から入ってくることもないというのがその根拠だ。「確かに飛んできて窓から入ってくるようなことはないですけど、別に関係ないですよ。10階でも30階でも、人間が出入りしている以上、虫や卵も入ってくる。スーパーで買ってきた食材はもちろん、通販で買った段ボールとか、Uberで頼んだ料理についてるかもしれない。自分の所は気をつけていても、隣の部屋から侵入することもあります。 よく、ゴキブリを捕まえて外に逃がす方とかいるじゃないですか。ゴキブリは帰巣本能のような能力があるんで、戻ってきちゃうんです。だから、捕まえたら確実に殺して処理すべきですね」 会社も安全ではない。最近ではオフィスビルでの被害も増えているという。「お弁当やお菓子を持ち込んで食べるじゃないですか。他にもおみやげのお饅頭が共有スペースに置きっぱなしとか、置き菓子とかもありますからね。ネズミは、それを狙ってきます。デスクの引き出しにしまっておいても、引き出しは後ろ側に隙間があって簡単に入り込めるんです。とりあえずしまっておいたお菓子の箱に齧った跡がないか、よく確認してほしいですね」 どれだけ駆除しても、害虫や害獣はゼロにはならない。それなりの距離感で同居していくというのが都会生活なのだろう。(清談社)
害虫や害獣との格闘を続ける毎日だが、依頼してくる顧客たちにも向き合わなければならない。
「お客さんからのクレームというか、最初の依頼で一番困るのは『足音がする』って言われるときですね。ネズミが天井を走れば音がすることもあると思うんですけど、実物を目撃したわけじゃないんですよ。だったら、それが何の音なのかわからないじゃないですか。
それでまず調査のために定点カメラを設置したりするんですけど、ネズミは現れない。とりあえず穴を探して塞いで、たぶんもう出ないです、と納得していただいたのに、数日後に『まだ音がするんだよね……』。これは同業者ならわかってもらえる“あるある”ですね」
プライベートで飲食店に行った時に、どうしても衛生度や構造が気になってしまうのも“あるある”だ。
「それはやっぱり見ちゃいますね。老舗の町中華とか好きなんですけど『これはいるな』とか、『あれちょっと動いたな』とか……。おしゃれな内装のカフェでも、あんな暖かそうな所に隙間あけたら絶対集まってくるよね、みたいなことは思います。あと、たぶん鼻が敏感になってると思うんですけど、これは多分どっかでネズミが死んでるんだろうな、とかもわかりますね」
駆除のプロとして、自宅でも気をつけていることはあるのだろうか。
「特に気をつけてないですけど、ウチで出たことはないですね。しっかり清潔にして生活していれば、虫はほとんど出ません」
害虫は「高さ制限」があるという俗説がある。高層タワマンは虫たちの生息域ではないので、窓から入ってくることもないというのがその根拠だ。
「確かに飛んできて窓から入ってくるようなことはないですけど、別に関係ないですよ。10階でも30階でも、人間が出入りしている以上、虫や卵も入ってくる。スーパーで買ってきた食材はもちろん、通販で買った段ボールとか、Uberで頼んだ料理についてるかもしれない。自分の所は気をつけていても、隣の部屋から侵入することもあります。
よく、ゴキブリを捕まえて外に逃がす方とかいるじゃないですか。ゴキブリは帰巣本能のような能力があるんで、戻ってきちゃうんです。だから、捕まえたら確実に殺して処理すべきですね」
会社も安全ではない。最近ではオフィスビルでの被害も増えているという。
「お弁当やお菓子を持ち込んで食べるじゃないですか。他にもおみやげのお饅頭が共有スペースに置きっぱなしとか、置き菓子とかもありますからね。ネズミは、それを狙ってきます。デスクの引き出しにしまっておいても、引き出しは後ろ側に隙間があって簡単に入り込めるんです。とりあえずしまっておいたお菓子の箱に齧った跡がないか、よく確認してほしいですね」
どれだけ駆除しても、害虫や害獣はゼロにはならない。それなりの距離感で同居していくというのが都会生活なのだろう。
(清談社)

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