【スギ アカツキ】「ひき肉ステーキ」は手抜きか…小3息子に出してみて、返ってきた「予想外の反応」

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夏休みも中盤に入り、毎日の昼ごはん対応にうんざりしている家庭も少なくないでしょう。ある調査によれば、夏休みの昼ごはん作りにストレスを感じている親は8割以上にも上り、メニュー決めや調理にかかる時間が最も負担になっている実態が明らかになっています。
この状況の原因を冷静に分析してみると、共働き世帯の増加が真っ先にあげられるでしょう。今では7割近くが共働き世帯。むしろ1997年以前は専業主婦世帯の方が主流であったことに驚く人も多くいることでしょう。母親を取り巻く環境に大きな変化が起こっていることがわかります。それに加えて猛暑が連日続くような気候変動も重なり、買い出しや料理にかける稼動が重く感じられることは容易に想像ができます。
このような状況をふまえると、親が昼ごはん作りにストレスを抱えるのは当然と言っても過言ではありません。そして 合わせて世の中の動向をとらえていくと、このような物理的・精神的な負担感を軽減・緩和してくれるような提案が目立つようになっています。例えば、毎日献立を提案してくれるアプリや、かけるだけで料理が完成する ような万能調味料、栄養バランスを考えたジャンクフードなど……。
そして今回注目したいのは、SNS上で生まれる親目線の”手抜き料理”。料理の奇想天外さはもちろんのこと、誰が手抜きと断定するかで、炎上が起こるほどのパワーを秘めていますが、このような簡便料理は今にはじまったことではありません。昭和の時代から存在し、実は子どもの心に深く刻まれるような心温かな魅力があることに気がつきました。そこで今回は、最近話題になっている”あるメニュー”を実際に作ってみて、夏休みの家庭料理が持つ真の価値について再確認をしたくなりました。
まずは自分の幼少時代や周囲を振り返り、夏休みに登場していた昼ごはんを並べてみましょう。昨晩の残り物を活用したからあげ卵とじ丼、おいしさよりも時間優先で作られた大量焼きそば、大きなボウルに盛られた薬味なしの素麺、残りの天ぷらが入った味噌汁、柔らかくゆでたパスタを使った炒めスパゲッティなど、どんどん頭に浮かんでくるのです。
私は専業主婦世帯で育ちましたが、料理とともに印象に強く残っているのが、母親が忙しく奮闘する姿。料理だけでなく、一緒に遊んでくれたり、勉強を見てくれたりしたことを鮮明に覚えています。宿題が終わらずに焦った時の様子や昼寝をさせられた記憶までしっかり……。みなさんは、どのような夏休みを過ごし、どんな料理が食卓にのぼってきましたか? 思い出してみると、様々な思い出や感情がよみがえってくるのではないでしょうか。
このように、自分が大人になってから改めて振り返りをすることで、母の昼ごはんを”手抜きで嫌だ”と感じたことがなかったことに気がつきました。それは一体なぜなのでしょうか? そこで私は、その答えを探すために、話題の料理を作ってみることにしました。
その料理とは、「ひき肉ステーキ」。スーパーで購入したひき肉をフライパンにそのままドンと置いて焼いた、ビジュアル度満点のメニュー。主婦が実際に作ってシェアしているケースや有名料理家が実食判定するほど、大きな話題を呼んでいます。実は2年ほど前にも子育て世帯向けのレシピを発信するアカウントが紹介して話題になっていたメニューでもあります。
作り方を紹介しましょう。スーパーで購入したひき肉(合い挽き、豚肉、牛肉)をそのまま活用することが最大のポイント。ハンバーグのようにつなぎを加える下準備や俵型に成型することは不要で、スパイスをふって焼肉のたれをかければ完成します。
付け合わせの野菜はもやしとコーン。同じフライパンに入れてステーキの脇で焼いて、バターを加えて仕上げます。包丁やまな板、ボウルやザルといったキッチン用具は一切不要。調理時間を測ってみたところ、8分で完成することが出来ました。ひき肉に厚みがあるため、両面をじっくり焼いて中まで加熱する時間が必要になります。
そして完成したひき肉ステーキを、小学3年生の息子に出してみることに。一口、二口と食べた息子に感想を聞いたところ、「これ、どうやって作ったの? いつもの感じと違うけど?」という質問が返ってきました。確かにひき肉をそのまま焼いて食卓に出した経験はありませんし、これまでに食べてきたハンバーグやステーキとは食感が大きく異なり、初体験の味だったのでしょう。最後まで完食し、様子を観察していましたが、「おいしくない」というニュアンスは一切出てきませんでした。
今回のひき肉ステーキがおいしいかどうか、は個人の味覚によるところが大きいと思います。今回実際に作ってお伝えしたくなったポイントはおいしさ云々ではなく、他にあったのです。それは、家庭料理の真価は、作り手である親の心情と子どもの反応のバランスにかかっているということ。料理をする側に手抜きをしたという罪悪感があり、子どもに不満が生まれれば、その家庭にとって良い料理とは言いがたい。逆にどんな料理であっても、お互いが安心したり救われたり満足すれば、幸せを生み出します。
つまり家庭によって置かれている状況や環境は様々ですから、一概に判定することができないのです。ここで確認したいのは、手抜きや手間抜きによって、子どもに不満や批判精神が必ず芽生えるわけではないということ。出来栄えやおいしさだけが重要ではありません。
むしろ、どんなに忙しくても、夏休みの昼ごはんによってもたらされる親子関係の様子を冷静に観察していく、時々チェックするきっかけにもなるでしょう。試練の時にチャンスありとまでは思いませんが、今後の良好な家族関係や育児を考えていく上のエピソードとしては有意義な経験と考えることもできます。
それでは最後に、なぜこれらの料理が幼少期の記憶として深く刻まれるか、という理由を考えてみましょう。結論から申し上げると、時間がない中で準備を強いられる平日の昼ごはんは、極めて合理性を極めた料理だからということに尽きるのではないでしょうか。
昨日残ったものがもったいないからリメイクする。コンロ調理は暑いからレンジ調理に徹する。時間がないから5分で作れるものを選ぶ。すべてにおいて理由があり、それを具現化した料理こそが、夏休みの昼ごはんなのです。そして家族の一員である子ども達は、それを受け止める理解力や度量が備わっているのです。お母さんやお父さんが忙しいということは誰よりもわかっていて、親の苦労や頑張りを必ず見ています。
ですから、食卓に出てくる昼ごはんが、もし他人から見て手抜きだと指摘されたとしても、当事者である親子間において大きな問題にすることでもないと私は思うのです。普段は学校などで済ませてくれる平日の昼食。準備は大変であるものの、家族のあり方や関係性を再確認できるチャンスと捉えることができれば、気持ちも少し楽になるかもしれません。私は食文化研究家として、子育てに奮闘する母親の一人として、多くの親が不用意に脅かされないことを願います。合理性に満ちた料理の数々がむやみに他人から批判をされるのではなく、満足感や安心を伴う正解は、自身の家庭の中にしか存在しないのです。
残りの夏休み、SNSやテレビ、他の家庭などから健やかなヒントを発見し、我が家らしい無理ない昼ごはん準備をしていければ、必ずや心地よいゴールが見えてくると信じています。
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