夏に一番活発なイメージがある蚊。季節は秋に向かっているが、いまだに「プ~~ン」と羽音が聞こえてゾワッとすることはないだろうか。何が嫌かというと、刺されるとかゆ~い虫刺され。ついかきむしってしまいそうになる時、筆者は“おばあちゃんの知恵袋”的な、よく爪で患部に×印(バッテン)をつけていた。こうするとかゆさが和らぐと言われ、実際にかゆみよりじんわりとした痛みの感覚が勝って、かきむしりたい衝動は抑えられていた気がする。
しかし、「ムヒS」などの虫刺され、かゆみ止めなどの薬を製造・販売する池田模範堂によると、この方法はNG。爪で×印をつけるのは患部に傷をつける行為で、かくことと同じく症状の悪化をまねきかねないのだ。一時的にかゆみが治まったように感じても、結果的に炎症を強めて余計にかゆみが増してしまうこともあるという。
実は蚊は気温が18度以上で吸血活動を開始し、20度を超えると活動がより活発になるとされる。最近は9月になっても暑い日が多く、しばらくは蚊の吸血活動が続きそうだ。そこで、池田模範堂の担当者にかゆみを感じる理由や正しい応急処置の方法をくわしく聞いた。
蚊は人間の血を吸うときに唾液成分を注入する。刺した時に人に痛みを感じさせない麻酔作用や、血液が固まりにくくなる作用などの成分も含まれ、体が異物であると認識することで、かゆみや腫れなどアレルギー反応を起こす。「アレルギー反応により皮膚の中の一部の細胞 が活性化し、かゆみを引き起こす物質『ヒスタミン』などが放出されます。このヒスタミンの作用により、血管が拡張して腫れや赤みが出たり、かゆみ神経を刺激してかゆみを起こしたりします」なお、蚊に刺された直後にかゆくなる人もいれば、刺された翌日~2日後からかゆくなる人もいる。
症状が治まる時間にも個人差があり、炎症反応の程度で変わる。すぐにかゆみや腫れが引くこともあれば、長い場合は数日~1週間程度かかる場合もあるという。また、虫刺されによるアレルギー反応で、炎症反応が強いと治る過程で痕(炎症後色素沈着)が残ることもある。かいてしまうと皮膚を傷つけてしまい、症状を長引かせた結果、消えにくい痕として残ってしまう場合もあるため注意が必要なのだ。
どうして×印をつけた瞬間はかゆみが軽減したように感じるのか。それは脳に優先されて伝わる感覚にあった。「皮膚の中には神経があり、かゆみだけではなく、『痛み』や『冷たい』『熱い』といった温度感覚を脳に伝える働きがあります。一般的にはかゆみよりも痛みの感覚が優先されて伝わると言われ、×印をつけた痛みによってかゆみ感覚が紛れると考えられています」
ちなみに、家族で蚊に刺されてしまった時、子どもはかゆそうにしているのにもかかわらず、祖父母はそれほどかゆみを気にしていなかった経験はないだろうか。年齢でかゆさが変わるのかどうかという点については、一般的には年齢ではなく、刺された「回数」で症状が異なる。
赤ちゃんなどまだ刺されることが少ないときは、虫による唾液成分が異物と認識されていないのだそう。刺されてすぐの炎症反応の後、唾液成分に対してさらなる免疫反応が続き、炎症反応が活発になるため症状が酷くなりやすいと言われているのだ。一方、高齢者など蚊に刺される回数が多くなると、免疫反応が変化しアレルギー反応が生じなくなるとされている。
では、虫刺されのかゆみに我慢できなくなった場合はどうしたらいいのだろうか。その時は、かゆみ止め作用の抗ヒスタミン成分が配合された医薬品を使ってほしい。もし赤みや腫れが出やすい、症状が長引きやすいのであれば、抗炎症作用のあるステロイド成分が配合された医薬品を使うことも勧めている。
かゆみを感じても、薬が手元にない時もあるだろう。そんな時は、水道水や氷で冷やすことも、かゆみをやわらげることができるという。かゆみより冷たさの感覚が優先されると言われるためだ。なお患部を温めることは、さらに炎症がひどくなることがあるため控えた方が良い。悪化を防ぐためには「とにかくかかないこと」が重要とのこと。「かくことで患部を刺激して、余計にかゆみが増します。また、かき壊して患部が傷つくことも治りが遅くなる要因です。特に小さなお子さまの場合はかくことが我慢できないため、『とびひ』(伝染性膿痂疹:でんせんせいのうかしん)といった感染症を起こす場合があります」
爪で×印をつけると、一時的に症状が軽くなったように感じていた。かきむしるよりはよいだろうと考えていたが、やはり患部を傷つけてしまう行為。薬が手元にない時は患部を冷やし、このような正しい応急処置をしてほしい。