酷暑や台風の影響により、野菜の高騰が続き、日常通うスーパーや飲食店で値上げを実感することも多いでしょう。さらに、レジャー施設や宿泊費、交通運賃の値上げも畳みかけ、物価高が夏休みの家計を圧迫しています。なかでも、可愛い孫たちが遊びにくる、年金収入頼りの高齢者へ影響は顕著なもので……。本記事では、金沢さん(仮名)の事例とともに、老後のマネープランについてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
金沢英雄さん(仮名/71歳)は、妻の栄子さん(仮名/70歳)と2人で暮らしています。金沢さんは地方の中堅企業に勤務し、65歳で定年退職。以来、年金生活を送っています。
決して貧しい暮らしを強いられるような収入ではありませんでしたが、現役のころから贅沢はできませんでした。金沢さん夫婦のあいだには、5人の子供がいたのです。5人全員を、誰の助けも借りずに自分たちで貯めたお金だけで大学にまで行かせてきたことを誇りに思っていました。
末っ子の大学卒業とほぼ同時期に定年退職を迎え、退職金300万円を受け取り、妻と2人での年金生活に突入しました。
「子供たちの学費はすべて自分たちが用意したし、そんなに蓄えもないけれど、慎ましく暮らしていれば生活費が足りないということもないだろう……」と考え、6年間は穏やかな日々を送ることができていました。
野菜は趣味の家庭菜園で作り、肉や魚はスーパーで半額品を買い、冷凍庫で保管し必要なときに使うなど、見事な節約生活を送ることができていました。
英雄さんの年金はひと月約17万円、栄子さんは6万円で、合計23万円ですが、2人の倹約生活の成果により、なにか突発的にお金が必要なことがなければ基本的には十分生活ができていました。
しかし、そんな英雄さんの想定外は孫たちへのお金でした。
5人の子供たちのうち3人が結婚し子供を持ち、孫たちは総勢7名にもなります。お盆やお正月、ゴールデンウィークなどで家族が集まるときにはお年玉やお小遣いを用意したり、ご馳走を用意したりと一度に数万円のお金が飛んでいきます。誕生日プレゼントは年に7回。1回の金額は少額であっても7回分となると結構な出費です。
英雄さんと栄子さんは、子育ての際、5人平等にをポリシーにしてきました。5人全員に大卒の肩書を持たせてあげるのには大変な苦労が伴いましたが、やり遂げました。そのポリシーは孫たちへも続いており、1人の孫にだけ優遇するということはどうしてもやりたくなかったのです。
そして、孫が小学校に上がったころには、夏休みになると「おじいちゃん、ディズニーランドに連れて行って」と言われるようになってきたのでした。
現役のころから夫婦での旅行も行くことがなかった金沢さん夫妻は、そんなに旅行も好きではないし、老後も旅行にも行かないだろうと考えていました。かわいい孫達にせがまれれば、当然喜んで一緒に行きたい金沢さん夫妻ですが、孫たちを連れて行くとなると交通費含めて20万円程度が見込まれます。
「もうちょっと大きくなったらね」などと聞き流し続けているのでした。

ディズニーランドの入園料はオープン以来ずっと上昇を続けています。30年ほど前と比較すると6,000円以上値上がりし、大人1名1万円を超えるほどになりました。
もう開園してから40年以上も経つテーマパークですが、来場者を飽きさせることなく、新しいアトラクションや季節ごとのイベントを仕掛け、入園料は上がり続けているのに来園者数もほぼ右肩上がりです。
さらに、昼食や夕食も基本的には園内で済ませることになりますが、一般的な飲食店と比較し価格はやや高めに設定してあり、家族で連れだって行けばランチだけでも1万円を超えることはよくあります。
アトラクションを楽しんだあとには、出口付近に世界観そのままのグッズ店が用意され、自然とお店に入るような導線になっていて、アトラクションの興奮冷めぬまま店内に入りついつい欲しくなってしまうような設計となっています。
決して安くない入園料でも来園者が増え続け、園内でも訪れたゲストがお金を使いたくなるような仕掛けを細部にまで施してあり、ゲストが飽きることなくリピートしているディズニーリゾートはビジネス設計の教科書のようにも思えるほど素晴らしいです。その結果が少子化と人口減少の進む日本でも入園料を倍にしても来園者数が増えている理由と考えられます。
しかし一方で、ゲスト側の立場ではやはり負担は大きく感じてしまうもので、30年前と比べて会社員の収入や公的年金の受給額は増えていないのに、入園料は2.5倍以上、中のグッズや飲食も価格が上がっているのですから、子育て世代にとってディズニーリゾートに行くことの負担率としては大きなものになっているといえます。
そして、年金生活を営む世代にとっては自分達の入園料や食費、交通費だけでも大きな負担となります。そのうえ、ポリシーを曲げない金沢さん夫妻のように孫たちの分まで払うとなると1ヵ月分の年金受給額を使ってしまうほどにもなってしまいます。

さて、いつかは孫7人を連れ、ディズニーランドへ行きたいと考えている金沢さん夫妻。昨今の酷暑を受け、庭で作っているトマトやナス、キュウリなどの野菜の育ちが悪く、スーパーで購入するともっと高いというのが目下の悩みです。
そこで、育った少ない野菜は基本冷凍し、孫たちが来たときのためにとっておくことにしました。最近のメインのおかずはもっぱら豆苗です。葉と茎を食べ終わったあと、根を水に浸しておけば、新しい芽が伸びて1週間ほどで再収穫できます。クーラーを入れた日の当たる部屋で一緒に過ごしているだけで簡単に育つので、外気温に影響されず、これはいいと夫婦ではまりました。
3回収穫したら、近所のスーパーで1袋99円のものを購入することにしています。いまのところ豆苗は値上げの影響を大きく受けていないようで、安心です。
「年をとって食欲も落ちてきたからちょうどいいね」と笑いながら、浮いた食費をディズニーランド貯金に回しています。
平均的な老後の支出の目安として、総務省のデータでは26万円~27万円とされています。しかし、必要な生活支出に加え、趣味や旅行を楽しむためのお金や、子供や孫たちへのプレゼントのためのお金や、一緒に旅行を楽しむようなお金も含めると、それでは心もとないという方も多いものです。
年齢を重ねても元気でいるための秘訣として、なにか楽しみや熱中できるものを持つことがあります。そのためには趣味に掛ける費用やコミュニティに所属するための費用、旅行の費用など、生活費以外にも支出が必要となります。老後にはただ生活していくだけでなく、そういった趣味や楽しみのための費用もしっかり見込んでおくことが大切です。
「普段あまりお金は使わないから……」そう思っても、ある程度余裕を持った資金計画を立てることが大事です。現役のころから老後に向けて資産形成を行うことが重要ですが、今回の金沢さんのように子供たちが独立するのが老後の間際になり、定年退職までに資産形成が間に合わないような場合には、
・公的年金を繰り下げて受給し年金の受給額を増やすこと・老後に少しでも働いて収入を得ること
・公的年金を繰り下げて受給し年金の受給額を増やすこと
・老後に少しでも働いて収入を得ること
などで老後の収入を増やすことも可能です。
また、介護が必要になった際に、高齢者施設に入居したり、ひとり暮らしになったりするような場合には、高齢者向けのマンション等、見守りサービスが尽いた住居への入居のための費用の準備も必要です。金沢さんのように、豆苗がメインのおかずになり、栄養が偏ると、病気になりやすくなったり、骨粗鬆症となってケガのリスクが高まったりする可能性があります。無理のある節約では小さな積み重ねでその後の生活に響く可能性も。
がむしゃらに節約に励むのではなく、生活費に限らない、ケガや病気となった場合の資金も含めての資金計画を立てておくことが大事ですね。

今回は、金沢さんの事例をお伝えしました。老後2,000万円問題が話題になりましたが、それはあくまで高齢夫婦の2人暮らしの世帯で、一般的な年金収入と支出の差の100歳までの累計の概算のことです。
生命保険文化センターが2019年に行った「生活保障に関する調査」によると、趣味や旅行など、生活を充実させるために必要な費用は月額36万1,000円という結果が出ています。
そんなにお金を使わないだろう、と思っていても、退職して時間ができると現役で勤務しているときにはできなかったことをやってみたいと思ったり、金沢さんのように孫たちと過ごすために必要なお金が必要になったりする場合もあります。
また、自身の介護費用の準備まで含めると、余裕を持って暮らせる支出を見込んで老後の資金計画を立てておくことが望ましいといえます。
ディズニーランドだけでなくあらゆる物価が上がり始めている昨今、投資信託などを活用し資産形成、資産運用を行うことで物価上昇から老後資金を守りながら、ゆとりを持って暮らすための計画を立てておくとよいでしょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP