群馬県伊勢崎市の国道17号(上武道路)で家族3人が死亡した事故で、県警はトラックを飲酒運転して事故を起こしたとして自動車運転死傷行為処罰法違反(危険運転致死傷)容疑で逮捕した男が、会社での検査後に飲酒した可能性が高いとみている。
飲酒運転防止には、アルコールを検知するとエンジンがかからない安全装置の設置が必要との声もあるが、費用を理由にためらう事業者も多く、対策は進んでいない。
逮捕されたのは吉岡町下野田、会社員鈴木吾郎容疑者(69)。県警によると、鈴木容疑者は5月6日午後4時15分頃、飲酒して中型トラックを運転し、同市境上矢島の国道17号の交差点近くで、中央分離帯を乗り越えて対向車線の乗用車2台に衝突。前橋市樋越町、会社員塚越寛人さん(当時26歳)と長男湊斗ちゃん(同2歳)、塚越さんの父で渋川市赤城町宮田、会社員の正宏さん(同53歳)を死亡させるなどした疑いがある。捜査関係者によると、トラックには焼酎の空き容器が数本あったという。
鈴木容疑者が勤める運送会社によると、トラックのドライブレコーダーはエンジンがかかると起動するが、運転開始から事故までに飲酒の様子は映っていなかったという。鈴木容疑者は午後2時50分頃に飲酒検査を受け、同3時半頃に出発した。捜査関係者は約40分の間に飲酒した可能性が高いとみている。高崎市の運送会社幹部は「出発まで時間が空くのはおかしい。直前にしないと意味がない」と検査の方法を疑問視した。
飲酒運転防止に効果的とされるのが、安全装置「アルコール・インターロック」だ。吹き込み口に息を吹き、アルコールが検知されると、エンジンがかからない。業界大手の東海電子(静岡県富士市)は2009年に販売を開始。1台当たり約17万円かかるが、今年1月時点で3200台以上に販売した。
全日本トラック協会(東京)には上限2万円の助成制度があるが、群馬県トラック協会が申請を受け付けておらず、県内の事業者が希望しても助成は受けられない。助成制度を活用しない理由について同協会は「薬や酵母菌で検知する可能性があり、そもそも現時点で事業者からのニーズがない」と説明。事業者には、過去にハンディー型アルコール検知器を提供したという。
前橋市の運送会社幹部は「コストもかかるしどこまでやればいいのか」とこぼす。吾妻郡の運送会社専務は「運行中は飲まないと従業員を信じている」と話す。
交通政策に詳しい筑波大の市川政雄教授(公衆衛生学)は「ほとんどの従業員は飲酒運転しないため意欲が低いのは理解できるが、導入は企業が社会的責任を果たし、価値を高める行為」と指摘。米国では安全装置の設置で再犯者が減ったとの報告があるといい、「危険性のある運転者に絞った対策で効果も見込めるはず。国は、飲酒運転をした人を雇った会社に設置を義務付けるべきだ」と話した。

県警は22日、鈴木容疑者を前橋地検に送致した。鈴木容疑者は黒縁の眼鏡にマスク姿で、報道陣からカメラを向けられても前方を見つめ続けていた。