前編記事「「生活費は分担」「シェアハウスだと意識」…卒婚と熟年離婚における「鉄則の掟」」では、熟年離婚に代わる選択肢である「卒婚」について紹介してきた。続くこの後編記事では、配偶者を亡くした後、その親族との関係を断ち切りたい場合について引き続き紹介していく。
妻が熟年離婚を選択する大きな理由に挙げられるのが「義父母の介護疲れ」である。介護ではなくても、嫁姑の不仲が夫婦関係に影響を与えることは少なくない。
そんな妻にとって最悪のケースは、夫に先立たれてしまい、ひとりで義父母の面倒を見ることだ。
そんな事態を避ける手段が「死後離婚」だ。
これは、配偶者を亡くした人が配偶者の親や兄弟姉妹と縁を切ることをいう。その大半が、夫を亡くした女性が舅や姑らとの関係を断ち切るために行われ、逆のパターンはほぼない。
葬儀・お墓・終活コンサルタントの吉川美津子氏が解説する。
「いちばんのメリットとされているのは、夫を亡くした妻に、姑など義理の親族への『扶養義務』がなくなることです。通常、妻は夫を亡くしても、仮にその親族が生活に困窮すれば、民法の規定で彼らを助ける義務が生じることがあるのです。
しかも、夫の実家との姻族関係を終わらせたとしても、相続した遺産や遺族年金、生命保険は変わらずに受け取ることができます」
その手続きは驚くほど簡単だ。姻族関係終了届というA4の書類を一枚、役所に提出するだけだ。書類は役所で受け取るか、自治体によってはHPでダウンロードできる。
手続きするのは本籍地、もしくは居住地の市区町村役所。身分証明書さえあれば、ただちに成立してしまう。一度関係を切ってしまうと、その義父母と養子縁組を結ばない限り、親族には戻らない。
書類の届け出は配偶者の死後であればいつでもかまわない。
しかも、関係を断ち切れる親族の了承などは不要で、姻族関係終了の通知もない。誰にも知られることなく、本人の意思だけで実行できるのだ。
この手軽さが人気となってか、死後離婚を選択する人は年々増えている。’05年度は約1800件だったのが、’22年度には約3100件に伸びた。
「『旦那の親族のお墓を管理したくない』という理由で死後離婚をする方もいらっしゃいます。花代でも年間4万円、さらに年間10万円くらいの管理費がかかりますからね。もちろん、『夫の墓に入りたくない』というのも大きな理由になりえます」(前出・宮本氏)
注意しておきたいのは、子どもがいる人が死後離婚するケースだ。自分の子どもと義父母の関係は切れないため、子どもに義父母への扶養義務が生じる恐れがある。また、唐突に縁を切るわけなので義父母とトラブルになりかねない。こうした事態を避けるためにも、生前から互いの親族との付き合い方について、夫婦でしっかり話し合うことが肝要だろう。
面倒なしがらみから、たった一枚の紙で解放される。残された人が義理の親子関係で悩んでいるならば、死後離婚は十分に選択肢の一つとなる。
「週刊現代」2024年8月10・17日合併号より
「生活費は分担」「シェアハウスだと意識」…卒婚と熟年離婚における「鉄則の掟」