日本社会において学歴と年収は切っても切り離せない相関関係にある。indeedの調べによれば、最終学歴が高卒と大学・大学院卒の生涯年収を比較した場合、男性では約5600万円、女性で約6500万円の収入差があったことを報じていた。
しかし、単なる大卒というだけで、高卒よりも高収入が見込まれるはずもないことは周知の事実だ。現在は将来年収の目安も大学名で可視化されるため“学歴のチケット”は将来を考えるうえで意外に重い。
一方、少子高齢化の影響から働き手確保のための高卒需要も高まっている。東大の授業料値上げによる大学全体の学費高騰が危惧されるなか、働きながらキャリアを積み、転職してステップアップする道を選択する者も増加する可能性は十分にある。
借りた奨学金を返済できるだけの高収入を見込めればよいが、返済ができずそれゆえ望まない仕事で稼いだり、長く苦しい暮らしをしている者も相次いでおり、大きな社会問題にもなった。
現在、約8割が高校卒業後に進学、うち約6割が大学進学を希望していると言われているが、やみくもな大学進学は将来的に自分の首を絞めることにもなりかねない。進学であろうが就職であろうが、その一歩が未来の方向性を決定づけるため、ルートからはずれた者はコンプレックスに苛まれる場合もある。
千葉県で夫と子ども3人と暮らす、専業主婦のサツキさん(仮名、37歳)も、大学卒業後から15年間、学歴コンプレックスに悩まされているひとりだ。滑り止めなしの大学受験で失敗し、定員割れのいわゆるFラン大学に入学したものの辛い日々だったと話す。
「親戚に会えば『どこの大学に入ったの?』と聞かれ、話すと微妙な反応をされる。一番つらかったのは久しぶりに会った友達が、私の志望校に合格していたことです……。内心なんで私じゃないの?とすごく惨めでした。
行きたくもない大学に通うのも苦痛だったし、同級生の男性たちもパッとしない。本当に惨めでした。でも日が経つにつれて、こんなことで落ち込んでいちゃダメだ、ハイスぺと結婚して人生逆転しなくちゃ!と思うようになったんです」
そこから、将来性のある男性と交際すべく積極的に有名大学の学生が主宰するインカレサークルや合コンなどに参加した。大学名や内定先など条件をいちばんに相手を選んだ結果、大手銀行に内定している国立大の男性と出会った。
「見た目は全然好みではありませんでしたが、国立大で大手銀行内定のスペック、それに自分の主張をしない性格も決め手でアタックしました。
華奢で眼鏡のいわゆる非モテで、私と付き合うまで彼女がいたことがなかった男性だったからすぐに付き合えました。でもそれで自分がモテると勘違いしたのか、その後有名私立大学の女性と二股をしたんです。
相手は地味でパッとしない女性だったので、絶対に私が本命だと思っていたんですがフラれてしまって。遊ばれていたのは私のほうだったんです。約束はしてないけど、私が卒業したらその彼と結婚するつもりだったのでショックでした」
結婚後は専業主婦になる腹づもりでいたため、就活どころか職さえ探しておらず、その時点ですでに新卒の一次試験や面接がはじまっていたそうだ。フラられた直後から必死になって職探しを始めるが、結局1社からの内定も取れず、就職先が決まらないまま卒業を迎えてしまう。
「大手企業も受けましたが、たぶん”学歴フィルター”で落とされたんだと思います。面接まですすめたのは中小企業ばかりでした。でも中小で働くくらいなら、時間に自由のきくフリーターになって、ハイスペ狙いの婚活に力を入れたほうがいいと考えたんです」
卒業後は昼間は近所のファミレスでバイト、それが終わると合コンなどで知り合った男性と食事をしたり、同じようなハイスペ狙いの友人と街コンに参加した。そんな生活が3ヵ月ほど経った頃、サツキさんに運命の相手が現れる。
「街コンで5歳年上の商社勤務で慶応大卒の男性と知り合いました。顔もソコソコで悪くない、一人暮らししていると聞いてお酒の力を借り、その日のうちに身体の関係を持ちました。
その後も関係を続けて数回で妊娠。はじめは中絶を促されましたが、会社名も本名も分かっているし、学生時代の交友なども把握していたから逃げることはできないだろうと。ゴリ押ししてでも絶対に結婚する自信があった」
サツキさんの説得に折れた形で彼も結婚を承諾、翌年には出産とようやくハイスぺとの結婚という念願がかない、第二の夢であった専業主婦に収まる見通しも立った。
大学受験の挫折からはじまり、地味な交際相手にはフラれ、就活では全敗。何一つ思い通りにならない自分の人生が「ハイスぺ婚」で逆転できると、手に入れたステイタスを喜んだサツキさん。だが蓋を開けてみると、現実は思い描いていた生活とかけ離れたものだった。
「結婚当初の夫の年齢は30歳で年収が400万円に満たなかったんです。社宅があり福利厚生もしっかりとしていますが、まさかこんなに給料が低いとは思いませんでした。『年功序列で給料が上がるから』と言っていたものの、貧乏すぎて辛かった。ハイスペじゃない……って思ってしまいました」
到底夫の給与だけでは食べていけず、産後すぐにパートで働き始めた。結婚を機に大学時代の友人と連絡を取るようになったが「一緒にランチするのが苦痛だった」と話す。
「みんなは共働きだったこともあり、世帯年収が高いんです。持ち物もオシャレだし、記念日に貰ったのかなと思うようなアクセサリーを付けていたり……。
同じFラン大学を卒業しているはずなのに、就職してキャリアを積んでいる友人にも嫉妬しました。話ぶりで毎日が充実しているのが目に見えてわかるんです。結婚したら夫の収入だけで不自由ない生活を送るはずだったのに、なんでこうなってしまったんだろう」
年功序列の言葉通り、夫の収入は年を重ねるごとに上がっていき、40代を超えた今では年収も600万円ほどになった。そのタイミングでサツキさんはパートをやめて専業主婦となった。最初猛反対していた夫も、泣きながら発狂してやめると宣言するサツキさんに最後は折れたそうだ。
「学歴・職歴なしの私が周囲から羨ましいと思われるには、専業主婦の道しかないと思いました。ですが実際のところ、お小遣いは1万円もないし、友達と遊ぶのも気軽にできません。いつも自宅で掃除と子育て、すごくつまらないです。習い事とか良い食材でお料理とか出来ると思っていたけれど、年収600万円じゃ無理なんですね。
40歳手前になった今でも、学歴コンプレックスがなくなりません。あの時浪人していれば、もっと受験勉強を頑張っていれば人生が変わったかもしれません。
夫とは不仲ではないですが、一緒に居てもつまらないです。旅行も滅多に行かなくて公園ばかり。外食も回転すしばかりですよ。夫と結婚したことを後悔することも少なくありません」
サツキさんは自分が学歴で苦労したことを子どもにはさせたくないとの思いから、現在中学校受験に向けて気合いを入れているという。狙うのは都内の偏差値70超えの学校。勉強を教えているのはサツキさんだ。
最初のうちは一生懸命に教えていたものの、徐々に内容も難しくなり、どうやって解説したらいいのか悩むことが増えたので、解答を見て丸付けだけしているとのことだった。
「夫の遺伝子はいいはずなので、子どもは難関中学に合格できると思います。私みたいな学歴コンプにグチグチ言われたくないでしょうし」
多かれ少なかれ誰もが学歴に対して様々な想いを持っている。しかしあまりにも学歴至上主義になりすぎてしまうのはいかがなものかと思う。その人の内面に目を向けることも、人生を豊かに過ごしていくにあたって大切なことである。
吉田みくさんの連載、<40代「セレブ妻」が絶句…息子を「インターナショナルスクール」に入れたら「地獄」が待っていた>も引き続きどうぞ。
40代「セレブ妻」が絶句…息子を「インターナショナルスクール」に入れたら「地獄」が待っていた