「あそこは要塞のように奥まっていて、中の様子が外から見えないんです。幼稚園って通りに面していることが多くて、周囲に子供たちの明るい声がもれてきますよね。これでは何が行われているか分かりませんよね」(近隣住民)──鹿児島市内の認定こども園「可愛幼稚園」で6月7日、保育士の女が2歳男児を刃物のようなもので切りつけ、殺人未遂容疑で県警に逮捕された事件。笹山なつき容疑者(21)は、他の職員とともに救護にあたっていたことも判明しているが、取り調べには『けがを負わせたことは間違いないが、殺すつもりはなかった』と供述している。また、接見した弁護士には「仕事に悩み手が出た」と明かしており、仕事で使っていた私物の小型カッターナイフで男児にけがをさせたことを認めている。
【写真】意味深SNSほか、園の誕生会で、2歳の誕生日を迎えたと思われる男児を祝う笹山なつき容疑者(21)
笹山容疑者は、県内で唯一、保育科がある神村学園(鹿児島県いちき串木野市)の高等部で3年間を過ごし、その後併設の専修学校で保育士の免許を取得していた。保育の現場は、容疑者の長年の夢だった。
学校の関係者は口を揃えて「なんであの子が……」と驚く。「うちは学園併設の保育園もあって実習もしっかりと行われており、他の学生さん含めてしっかりと社会に出て活躍できると信じて送り出しています」(学校関係者)
そんな彼女がいちばん守るべき相手だった2歳男児に手を出したのか。容疑者は2月から同園で勤務していたが、その1カ月後から仕事について悩みを抱えていたことを自身のSNSで発信していた。同園に勤め始めてから1ヶ月が経過すると、仕事に関するものと思われる投稿が増えていく(下記の投稿内容は原文ママ)。
〈今日、クラス回す時になーんか全部うまくいかなくて、向いてないのかなって嫌になった〉(3月22日)〈目に光がないのよ笑笑 流石に6連勤2連チャンは疲れた〉(4月7日)〈朝4時になったら突然の腹痛がやってくる〉(4月10日)
“6連勤2連チャン”はたしかにきつい。冒頭の住民が話すように、中の様子が周囲からは分かりにくい同園について取材した。かつて園に子供を通わせていたという、近隣に住む40代女性が語る。
「私の子が通っていたのが10年前くらいですね。その頃から園長先生と、副園長先生の2人がずーっと変わっていません。あのね、園長先生は口調が強いんですよ。子どもたちには普通ですが、職員の先生に厳しいらしくて。そう言っていた先生が当時いました。『私ばっかりすごいきつく言われるんだけど』とも言っていて。
先生たちには厳しかったようだけど、子どもたちの発表会とか誕生会の時とかは普通に接しているから、保護者からしたらそんな悪い印象ではないんですよね。園は女性職員ばっかりで、女性社会特有の悩みもあったと思います」 この女性は別の職員の“異様な姿”も目にしており、長年気になっていたという。
「当時、うちの子が年中の時に新卒の先生が担任になったんですよ。珍しく男の先生。すごく優しくていい先生だったんですよ。4月に入られて、それでやっぱり6月のこれくらいの時期に何かおかしいなと思って。父の日に日曜参観というのがあるんですけど、イベント当日の先生の寝癖がぐしゃぐしゃで……。でも、それからすぐに来れなくなって辞めたんです。多くの保護者が集まるので、先生たちにとってはいちばんくらいに重要なイベントなのに、髪も整えられないというのは、相当参っていたんだと思います。
そのあとうちのクラスだけ説明会があって、園長先生も参加して保護者に説明があったんです。園長先生は『体調壊して来られなくなり、実家に帰っています』と言っていて、その時に『新任の先生に担任持たせるのってしんどくないですか。お便り帳を30人ぶんほど書いて、保護者の話も聞かないといけないし。人手が足りないのもわかるんですけど、そういう仕組みを作ったらどうですかね』ということを伝えたんですけど……結局、人手が足りなかったんですよ」(同40代女性)
10年前の話なので現在は改善されている可能性もある。しかし、変わっていなければ笹山容疑者が上司からの圧力や、人手不足による業務過多から、園児の首を切りつけるという突拍子もない行動に出たのではないのだろうか──。
同園の代理人弁護士に問い合わせると、以下のような内容だった。
「3月末で10人くらい職員が辞めたのは間違いありません。しかしブラックな職場と思われる話は見つかっていない。結婚を機に辞めた人もいるし、すでに復職した人もいます。職員数も足らないということはありません」
園内での職員に対するパワハラの有無については「確認していない」ということだった。
笹山容疑者がSNSで「6連勤が2週連続」と投稿していることについては「正しいです。しかしその翌週に3、4日休んでいると思います」と説明。さらに笹山容疑者のクラスでケガ人が相次いでいたことについて尋ねると「捜査に支障が出る情報を流さないでくれと言われているんですよ。これは結構余罪の可能性もありますし」と回答した。
「園としても、今回の事件がなぜ起こったのかわからない状況なので、驚いています。私を含め、保育士、医師、保護者らで構成される調査委員会で早急な原因究明と再発防止に取り組みます」(代理人弁護士)
今回の事件以前に相次いで起きていたクラス内でのケガも、笹山容疑者の手によるものなのだろうか。はたして、幼稚園の運営に非は無かったのか。真相究明が待たれる。