7月3日、20年ぶりに新紙幣が発行される。今回1万円札の肖像画となったのは、「日本資本主義の父」とも「近代日本経済の父」とも称され、500社以上に及ぶ著名企業の設立に携わった渋沢栄一だ。
渋沢と言えばふたりの妻との間に7人の子どもをもうけているが、そのうち5人を授かった最初の妻とはいとこ同士の結婚だった。
いとこ同士の結婚は日本の法律で認められているものの、抵抗を示す人は少なくない。よく聞くのが、「遺伝子も近い。他人同士の夫婦よりも、障がいを持つ子どもが生まれる確率が高いから」という理由だ。
それゆえ、いとこ婚自体も、渋沢栄一が生きた時代のように、周囲から無条件で歓迎されるような状況ではないようだ。
「いとこ同士婚」という理由で姑(母親同士が姉妹なので、伯母でもある)から「子づくり禁止令」を出されてしまった宮田彩美さん(仮名・34歳)。「どうしても子どもが欲しいなら、養子をもらうとか、代理母(別の女性に夫の子供を産んでもらう)という手段がある」という伯母の提案には、夫の巧さん(仮名・34歳)とともに反発。「既成事実を作って諦めさせよう」と妊活に励むも、それを阻止したい伯母の嫌がらせが始まる。
「「どうしても結婚するなら、子どもはつくらないと約束して」…いとこ婚で身内から「子づくり禁止令」を出された夫婦の「不満」」からつづきます。
「伯母は通販で購入したとみられる、大量の避妊具(コンドーム)や避妊薬(アフターピル)を私たち夫婦の部屋に置くようになりました。もちろん、手はつけずに捨てました。ついでに勝手に部屋に入らないようドアに鍵も付けました。すると今度はどこからか入手した、パイプカットや卵管結紮術など、不妊手術のパンフレットをドアの隙間から部屋の中に差し込むようになったのです」(彩美さん。以下同)
彩美さん夫婦が「嫌がらせみたいなマネは止めてくれ」と懇願しても、伯母はひるまず。それどころか「絶対妊娠なんてさせないから」と宣言までされた。
「生まれてくる子どもに障がいがある可能性が高いというだけで、なぜそこまでされるのかわかりません。健常児で生まれても、その後に障がいを負う可能性だってあるじゃないですか。私も夫もリスクは承知の上で、それでも自分たちの子どもを持ちたいと思っているんです。どんな子どもでも、充分に愛情を注いで大切に育てる自信があります」
なぜいとこ同士で恋におちたのか、ここで少し彩美さん、巧さんの生い立ちを振り返ってみたいと思う。
母親同士が姉妹という、いとこ同士として生まれたふたりは誕生日が4ヵ月違いの同級生。幼少期からしょっちゅうお互いの家を行き来しており、兄妹のように育ったというふたりに恋愛感情が芽生えたのは、高校生の頃だった。
「受験もあったし、高校に入ってからはバイトとか部活とかで忙しくなった私と夫は1年近く合わない時期があったのですが、久しぶりに顏を合わせた時、それぞれが男らしく女らしく成長した姿にときめいてしまったのです。
お互い雰囲気が似ているせいか見た目も親近感があって好感が持てるし、何よりずっとよく顔を合わせてきたので性格とかもわかっている。付き合うのはもちろんだけど、結婚を意識するにも最適な相手なんじゃないかと、私も夫も考えました」
一般的なカップルに比べて、いとこ同士ならお互いの素性がわかっているという安心感もあるし、結婚後の親戚付き合いなどもスムーズだろう。
「伯母は私のことを実の娘のように可愛がってくれましたし、私が幼い頃は『彩美ちゃんが巧のお嫁さんに来てくれればいいのに…』なんて話していたくらいなんです。なのに、それが現実になった途端、『アレ(彩美ちゃんが巧のお嫁さんに…発言)はものの例えみたいなもので、いとこ同士を本気で結婚させたいと思うわけがない』と大反対されて…。
で、ようやく結婚を認めてもらったと思ったら、今度は『子どもはつくるな!』の一点張り。私も夫もひとりっ子ですから、私たちが子どもを持たないと両方の家が途絶えてしまうんです。でも伯母は『それでもかまわない』と言います」
ちなみに彩美さんの母親(59歳)は、彩美さん夫婦が子どもを持つことに関しては理解を示しており、意見の相違から、実の姉妹である母親同士の仲も険悪になってしまったという。
「私の母が伯母に『子づくりは夫婦の問題だから本人たちに任せれば良い』と言ってくれたのですが、伯母は『これは我が家の問題だから他人は口を挟むな』と言い返したようで、他人呼ばわりされた母が怒ってしまったのです」
彩美さんの母親が、
「思えば姉さんは昔から一度言い出したらきかないところがあった」
と伯母を非難すると、伯母は伯母で、
「妹は昔からの私のやることに対してエラそうに意見することがあった」と反撃。
お互い「相手の顏を見たくない」と盆暮れや法事などの集まりにも顏を出さなくなってしまい、親戚中から不審がられるようになったという。
「自分たちのせいで、仲良し姉妹だった母親同士がいがみ合うようになってしまっただけでなく、親戚ともギクシャクしてしまった」ことを思い悩むようになってしまった彩美さん夫婦は、とうとう妊活どころではなくなってしまったそうだ。
「精神的なものが原因だと思うのですが、夫がED(勃起不全)になってしまったのです。ネットで調べていろいろ試してみましたがダメでした」
最終手段としてバイアグラやシアリスなどのED治療薬に頼ることも考えたそうだが、薬剤アレルギーのある巧さんが服用を躊躇。さらに「薬に頼ってまで妊活する必要ある?」と巧さんが言い出したことで、保留になっている。
「それまでは私の基礎体温表をふたりで見ながら性交渉する日を確認していたのですが、夫はだんだん無関心を装うようになりました。私に誘われることを警戒してか、先にベッドに入って寝たふりをしていることもあります。何と言うか、夫婦としてのスキンシップがとれないことがすごく寂しくて、正直妊活どころじゃなくなりました」
とはいえ、彩美さんも巧さんも子どもを諦めたわけではない。ただ、今のままでは、仮に子どもが生まれても誰からも歓迎されないような気がして苦しいのだという。
「根気よく伯母を説得して理解してもらうのが一番良いのかなと思うんですが、私には時間がないんです」…と天を仰ぐ彩美さん。
今年35歳になる彩美さんにとって、妊娠・出産はタイムリミットとの戦いでもあるのだ。
女性は35歳を過ぎると卵子の老化が加速して妊娠しにくくなるため、妊娠出産には「35歳の壁」と呼ばれるものが存在する。また胎児の染色体異常のリスクも35歳が378分の1なのに対し、40歳だと16分の1まで上昇すると言われている。
ただでさえ「いとこ婚」というリスクを背負っている彩美さんにとって、1日でも早い妊娠出産は悲願といっても良い。
「このままだと、産んでも産めなくても後悔しそうで怖いです」と追いつめられる彩美さんと男性としての窮地に立たされた巧さんに、筆者はかつて取材した、長年不妊治療に関わって来た産科医のアドバイスを伝えた。
「世の中にはさまざまな事情で子どもを持てない人が大勢いますが、健康な身体と健全な心を持っているカップルにはぜひ子どもを持つという選択をして欲しいと思います。ただ、妊娠は結果であって目的ではありません。それを踏まえて、まずはパートナーと良好な関係でいることを優先して欲しいです」
彩美さんは、
「そうですね。愛が感じられない夫婦の間に愛の結晶が宿るわけがないですよね。これからは夫婦としての関係を見直してみます」
と話した。
数ヵ月後、筆者はひょんなことから、彩美さんの祖母(83歳)とお会いすることができた。
祖母は孫同士の結婚にそれほど抵抗は持っておらず、「ひ孫が抱けたらうれしい」とも話してくれたが、彩美さんの伯母にあたる「長女」がいとこ婚での出産を断固として反対する背景には、「私の出自が関係しているのではないか?」と切り出した。
「私が生まれ育ったのは長らく近親婚が繰り返されていた土地で、そのせいか何代か続いた家には必ずと言っていいほど、心か身体に障がいを持った人が生まれました。その話を長女が中学生くらいの時にした覚えがあります。もしかしたら、それが影響しているのかもしれません」
この話を彩美さんに伝えたところ、
「それは初めて聞きました。そういうことも踏まえた上で夫と子づくりについて話し合おうと思います」
と言い、さらに数日後、
「夫婦で話し合いを重ねた結果、やはり子どもは欲しいという結論になった」
と報告があった。
「とはいえ、伯母や周囲の人たちの気持ちも無下にはできないので、まずは私たち自身がリスクについてきちんと理解したうえで、あらためて覚悟を伝えたいと思いました」
彩美さん夫婦は、近いうちに「遺伝子カウンセリング」と「遺伝子検査」を受ける予定だという。
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