山形県内初のご当地サーモン「ニジサクラ」の幼魚飼育を担う公益財団法人「県水産振興協会」(鶴岡市)が、余った幼魚約1000匹を鶴岡市の赤川支流に放流していたことが、県や同協会への取材でわかった。
ニジサクラは誕生したばかりで自然界への影響がわからず、県のマニュアルでは放流しないよう定めていた。
ニジサクラはニジマスとサクラマスを交配させ、当時の県内水面水産試験場(米沢市)で2017年に誕生した養殖用の品種。同協会は県から委託を受け、内水面水産センター(遊佐町)で幼魚を育て、県内の養殖業者に出荷している。
同協会などによると、放流したのは昨年12月中旬。複数の養殖業者から引き取りのキャンセルがあり、水槽の許容量の限界に達する恐れがあったため、500グラムほどまで育った幼魚約1000匹を赤川の支流・青龍寺川に放した。そのままではどんどん大きく育つ上、降雪期では運搬も困難になると判断したという。
赤川では3月から、サクラマス釣りが解禁された。釣り人のSNSへの投稿の中で、サクラマスとは外見が異なる魚の画像があったため、複数の釣り人から県に問い合わせがあった。県が同協会に確認し、放流が発覚したという。
ニジサクラはすべて雌。染色体の数が通常より多い影響で卵巣が発達せず、生殖能力はないという。だが、品種誕生から日が浅く、自然界への影響の有無がわかっていないことから、県は「生産・出荷マニュアル」で自然界への散逸防止に努めるよう定めている。
一方、水産庁は、ニジサクラを含む人工的に作られた魚について、当初は国などの試験研究機関を除いて放流を行わないよう要領を定めていたが、生態系への影響が確認されなかったことから、2022年に廃止した。
同協会は、水産庁の要領を参考に、問題がないと判断したという。県のマニュアルについては、養殖池での管理に関するものと解釈していた。
しかし、水産庁研究指導課によると、要領の廃止によって放流が推奨されるわけではなく、都道府県に適切な管理を求めているという。同課の担当者は「ニジサクラの場合は、県がマニュアルを定めているので、それに従って管理すべきだった」としている。
県水産振興課は、交雑などで生態系に影響を与える可能性は低いとみているが、「埋却や焼却による殺処分が適切だった」とし、同協会にマニュアルの順守と再発防止を求めたという。
同協会の笠原裕・業務執行理事は「認識が甘かった。県などに広く対応について意見を求めるべきだった」と話した。