若い世代を中心に急速に発展しているeスポーツ。オリンピックの正式種目にするか検討されるほど、今後も競技人口が増えることが見込まれている。そんな中、秋田県にある日本初シニアのプロe スポーツチームがSNSを中心に注目を浴びている。今回はそのメンバーと運営を担当する株式会社エスツーの土門悠さんに、その活動内容について取材した。
2021年、秋田県秋田市に「孫にも一目置かれる存在」をスローガンに結成された、高齢者による日本初のe スポーツのプロチーム「マタギスナイパーズ」。2019年にe スポーツ産業に参入した株式会社エスツーが運営する。「秋田県は、日本で一番急速に高齢化が進んでいます。少子高齢化が進んでいるとどうしてもネガティブに捉えがちですが、なんとかポジティブに考えられないかと思いついたのが、高齢者とe スポーツを掛け合わせることでした。ちょうど当社がe スポーツ産業に参入したタイミングであったのもきっかけになりました。ネーミングも古くから秋田県に根付く『マタギ』の文化とシューティングゲームを結び付けて『マタギスナイパーズ』にしました。メンバーはmark25、NAGIなどプレイヤーネームを各自考えてもらって、お互い呼び合っています」(土門さん)当初65歳以上に募集をかけていたが、2期生募集時は60歳以上に引き下げた。40人くらいから応募があり、面接や実際の活動を経て、現在は10人がマタギスナイパーズのメンバーとして日々、練習に励んでいる。メンバーの応募のきっかけはどんなことだったのだろうか?68歳のmark25さんは「こういったパソコンでやる対戦ゲームは初心者です。65歳で退職してから好きなことをしようと思っていたときに、妻から『パソコン好きなら、こんな募集があるよ』と勧められたのがきっかけです」61歳のまさやんさんは「ゲームが好きだったんで、好きなゲームを選べてできるのかと思っていました」とのこと。72歳のCaitSith(ケットシー)さんは2期生募集時に応募したそう。「1期の人たちが地元のテレビ番組で取り上げられているのを見て、私もやってみたいと思い、すぐに公式Xをフォローしました。2期の募集があると聞いて小躍りするくらいうれしくて(笑)。すぐに応募しました。ゲームは昔から好きでやっていましたが、eスポーツがこんなに集中力が必要とは知りませんでした」とメンバーはほぼ初心者。中にはパソコン作業さえ、あまりやったことのない人もいた。
マタギスナイパーズが練習しているのは、一人称視点(プレイヤー目線)のシューティングゲーム、FPS系(First Person Shooter)の『VALORANT』というゲームだ。はじめは、スタッフからパソコンの使い方から教わったり、ゲームのやり方の指導を受けたりすることからスタート。今は自宅で平日月曜から金曜の13時~17時は合同練習をし、それ以外の時間も各自で毎日3時間くらいは練習しているという。
「高齢者が時間潰しのためにゲームをするのではなく、スポーツとして試合に勝つことが目的です。チームワークも大事なので、反省会をしたり、合同練習が終わっても時間がある人は継続して練習したりしていて、技術の向上に時間を費やしています。また、ロゴやメインカラーも黒を基調にし、クールな印象になるようにしています。モデルが高齢者だとどうしてもPOPになりがちなので、クールな方向に振り切ることによりカッコ良さを際立たせるようコントロールしています。」(土門さん)
日本初のシニアのeスポーツのプロチームとして、マスコミの取材を受けることも多かったマタギスナイパーズだが、さらにSNSで注目を浴びることに。公式Xにゲームのクリップ動画を付けたところ、高齢者と思えないそのプレイぶりがバズって当初はフォロワー数3000人くらいだったのが、一気に2万8000人に増加した。(3月29日時点)動画によっては、1万いいねがつくことも。コメントも「普通に上手い」「視点移動もきれい」「対戦してみたい」というスキルについての感想が並ぶ。
「自分が今までやってきたゲームとは違ったけど、指導してもらってそれをゲーム内でできると自分のレベルが上がったと実感できます。ゲームというと遊びのイメージがありましたが、こんな世界があったんだという新鮮な気持ちになりました」(mark25さん)65歳のひろBooさんは、始めたころは3D酔いみたいになったが、3カ月くらいで慣れて今では特に問題なくやれている。「座っているから楽だろうと思われますが、頭を使うので、けっこう体力を使います。ゲーム前はストレッチなどしています」日々練習は積んでいるが、まだまだ実力不足で、大会ではなかなか勝ち進めないのが現状だ。今後もゲームをプレイする配信のほか、地元・秋田での高齢者向けイベントやゲームショウ、eスポーツイベントへの出演など、精力的に活動する予定だ。「やはり技術の上達が課題ですね。スポーツですから“強くなって勝つ”、これが一番だと考えています。そこにファンがついてくると思っていますので、とにかく今は一生懸命練習しています」(土門さん)eスポーツは競技なので結果はもちろん大切だが、それ以外に得たものは大きいとメンバーはいう。64歳のNAGIさんは「私は59歳のときに東京から秋田が地元の主人とともに移住しました。秋田には知り合いがいなかったので、マタギスナイパーズの仲間との交流はとてもありがたかったです」「オンラインでお互い姿は見えなくても、対戦ゲームなので声を掛け合ってやるため、いつも一緒にがんばっているという繋がりを感じています」(ひろBooさん)「家にいたら、きっとゴロゴロしていたと思います。eスポーツと出会って、仲間もできて上達のために目標をもって取り組むことができるものがあるのはすごくよかったです」(mark25さん)終始、笑顔でインタビューに応じてくれたマタギスナイパーズのメンバーを見ていると、今後ますますeスポーツはシニア世代にも広がり、人生と暮らしを豊かに彩るものになるかもしれない予感がした。
取材・文/百田なつき