妻と娘を失った池袋暴走事故の被害者遺族・松永拓也さん(37)が2024年4月7日、Xで「池袋暴走事故の加害者より、返答が来ました」として、その要旨を公開した。
「被害者と加害者という立場を超え、一緒の目線で再発防止を考えることが重要」と訴える松永さんの主張と、事故当時の態度とは一変した飯塚幸三受刑者(92)=禁錮5年の実刑確定=の返答は、驚きをもって受け止められている。
東京・池袋の路上で2019年4月19日、乗用車が暴走して松永真菜さん(当時31)と長女・莉子ちゃん(同3)が死亡し、男女9人が重軽傷を負った。東京地裁が21年9月2日に出した判決が確定している。
松永さんは判決当時、禁錮5年という量刑について「大きな不満は、私自身今のところ感じていない」と語った一方で、「大前提として私はまず何よりも、被告人に2人の命、罪と向き合ってほしかった。それは残念ながらなかなか叶わなかった」とやりきれない胸中を明かしていた。
事故の発生から約5年、判決からは約3年が経った24年4月、松永さんは「池袋暴走事故の加害者より、返答が来ました」としてXに一枚の文書を公開した。
松永さんは3月23日、刑務所の職員を介して被害者が加害者本人に心情を伝えることができる新たな制度「心情等伝達制度」を通じ、飯塚受刑者に質問とメッセージを送ったことを明かしていた。
こうした行動を起こした意図について、「本当に大切なことは、罪を償うこと『だけ』ではない」「本当に大切なこと。それは、誰しもが同じミスを二度と起こさず、同じような加害者と被害者を生まないよう、社会が取り組むこと」などと説明。その上で、「被害者と加害者という立場は明確に違う。それでも、その立場を越えて、一緒の目線で再発防止を考えることが重要だと思っています。私は彼の経験と、その言葉を社会全体の財産にしたい」と訴えていた。
松永さんの質問と、それに対する飯塚受刑者の返答は以下の通りだ。
松永さんは、質問時の飯塚受刑者の様子について「私の心情や質問に対し、言葉を詰まらせる場面もあったものの、一文一文『はい』と返答をしながら、最後に『申し訳ない』と述べたそうです」と明かした。
事故発生後から裁判時にかけては、頑なな態度を見せ世論の批判を受けた。今回の回答では対照的に「(いろいろな規則や指示に)従うことが苦しい」など率直な胸中を明かしつつ、「運転しないことが大事」など自らの過失を認め「申し訳ない」と反省を述べたという。
こうした飯塚受刑者の変化は、松永さんが粘り強く対話を重ねた結果だとして、労う声や考えさせられたとする声が相次いだ。