ふんどし姿の男たちが激しくぶつかり合うことで知られる、国府宮神社(愛知県稲沢市)の「はだか祭」。2月にあった今年の祭りでは、願い事が書かれた布を結びつけた巨大なササを担いで奉納する神事に女性グループが初めて参加し、注目を集めた。
「国府宮はだか祭」 初参加の女性団体、巨大なササ担ぎ奉納
「はだか祭は男の祭り」――。1300年近い歴史の中で深く根を張っていた風習を打ち破ったグループの隊長として、ササの担ぎ方などを指導した玉腰厚子さん(56)は「私は生粋の祭り好き。来年も参加します」と屈託なく笑う。
東京・墨田区で生まれ育った。「物心つく頃には、神輿(みこし)を担ぐことが当たり前になっていた」。両親も祭り好きで、浅草神社の例大祭「三社祭」などさまざまな祭りに参加していた。
両国国技館のある相撲のまちで育ち、近くにはいつも“お相撲さん”がいた。10代のころに知り合った元力士・玉鵬(最高位・序二段)の玉腰辰夫さん(56)と数年前にたまたま連絡を取り、2人で国府宮神社にお参りしたのが縁で辰夫さんと結婚。同神社で挙式した。
辰夫さんの出身地である愛知県一宮市に移り住んだ厚子さん。近隣地区に神輿を担ぐ祭りがなかったため、名古屋市や岐阜県まで足を運んで地元に伝わる祭りに参加していた。
はだか祭は、触れると厄が落ちるという神男(しんおとこ)を目がけて数千人のふんどし姿の男たちが激しくもみ合う。辰夫さんもかつて神男を務めている。もみ合いに先だって行われる、ササを奉納する神事「儺追笹(なおいざさ)奉納」に、厚子さんを含む20~60代の女性40人でつくる「縁友会」が初めて参加した。
縁友会はササ奉納をするための団体として組織された。メンバーには名古屋や岐阜の祭りで知り合った神輿仲間も多数参加していた。厚子さんはずっと、はだか祭は「男の祭り」と考えていたため、最初に縁友会への参加を打診された際はためらいがあった。それでも「やっぱり参加したい」と生来の祭り好きの血が騒ぎ、参加を決めた。
事前練習では神輿担ぎで培った経験を生かし、ササの担ぎ方や声出しをメンバーに指導。「一番大切なことは心を一つに合わせることだった」と振り返る。
本番では参加者だけでなく、沿道の見物客からも「ワッショイ、ワッショイ」の声が上がった。「みんなが笑顔になり、神様も喜んでくれただろう。心も体も元気になるのがお祭りの魅力」と話す。
ササには約700人分の願いを書いた布をくくりつけた。元日に発生した能登半島地震の被災地の復旧復興の願いも込めて奉納した。
はだか祭は江戸末期に現在のもみ合いが始まるなど、1300年近い歴史の中で形を変えながら継承されてきた。厚子さんは「私たち女性のグループがササ奉納に参加し、形が変わった。それを継承していくのが私たちの役目です」と力強く語る。【川瀬慎一朗】
たまこし・あつこ
1967年、東京都墨田区生まれ。2018年に愛知県一宮市に移住。現在は夫の辰夫さんと共に、建物の基礎を作る型枠大工として各地の現場を飛び回っている。趣味は出張の先で行く寺社仏閣参り。東京ではちゃんこ屋の女将(おかみ)をしていた。