ラブホテルは、震災時の2次避難所として認められないのだろうか?
【画像】避難所として申請されたラブホテル「月世界」の部屋の中の様子
1月1日に起きた能登半島地震で、石川県はホテルや旅館などの宿泊施設に対して、2次避難所として避難者の受け入れが可能かどうかを呼びかけた。過去には千葉県柏市で、大地震が起きたときの避難所としてラブホテルを含めた宿泊施設と協力協定を結んだケースがあったが、石川県の対応は事実上「ラブホテルは避難所に含めない」というものだった。
金沢市内にあるラブホテル「月世界」
金沢市内でラブホテルを経営するAさんは、地震のあった1月1日16時10分、自宅にいた。
「慌てましたよ。こんなにひどい地震は体験したことがない。自分の家族は外出していたんですが、自宅から離れることができなかったんです。というのも、ペットのワンコがいたから。ワンコを放っていくわけにはいかない。でも、なかなか帰ってこなくて……」
そんな中で、地震後に火災が発生したという情報が相次いだ。そのうちにホテルへ向かうことにした。
「2007年の能登半島地震も経験していますが、そのときは事務所にいました。震度5弱くらいだったかな。私の記憶では、被害らしい被害はそんなになかったです。今回はけた違いです。ただ、元旦はお客さんが少なくて、街中から離れてるうちも誰もいない時間帯でした。街中だったら、初詣のついでに、というのはあるでしょうけどね。ホテルに着いたら従業員を全員家に帰して、帰省していた弟と父と3人で、全部見回りをしました」

そんなとき、馳浩・石川県知事はX(旧ツイッター)で、「宿泊施設所有の方へ、ご協力のお願いです。今回の能登半島地震で被災し、避難されている方々の二次避難所として、宿泊施設での受け入れに前向きな施設がありましたら、下記フォームからご連絡ください」(1月7日午後10時37分)とポストした。
「知事のポストを見て、1月8日朝に申し込みをしました。『ご提供いただける施設の概要』には『ラブホテル』と記載しました」(Aさん)
すると、数時間後の14時38分に県観光企画課の名前でメールが届く。そこには「令和6年能登半島地震におけるホテル・旅館の避難者受け入れについて」という資料が添付されていた。Aさんは、指定された様式に必要事項を書いてメールを送信した。
「何度か送信したのですが、送信エラーが続いたので観光企画課に電話で確認しました。数時間後、事務局になっていたJTBから『受理された』という確認の連絡がありました。それで2次避難所として登録されたと思ったので、15日からの受け入れ体制を整えるためにあわただしく準備を進めました。ただしばらくしたら、金沢市内の宿泊施設が飽和状態になって小松市や加賀市、隣県にまで誘導されているとの話を耳にして、うちには1人も来ていないのにおかしいなと思いました」
Aさんの経営するラブホテルは金沢市内にある。しかし事務局から避難者の受け入れ打診は全く来なかった。
「被災された方から直接の問い合わせは数件ありました。うちのホテルは北陸道のインターチェンジが近くて、能登半島へのアクセスも良い。駐車場も無料ですし、バストイレ別で部屋はビジネスホテルより広いです。直接の問い合わせはあるのに、県のコールセンターから打診は1件もきませんでした。被災された方からお金をいただくのも申し訳ないけれど、私たちの持ち出しで受け入れることも難しかったので、『県を通じて申し込んでもらえれば避難所扱いになるので宿泊費を無料にできると思います』とお伝えしました」

しかし、県からの連絡はその後もなく、1月23日にAさんは観光企画課に「ホテルは金沢市内にあり、希望者もいるはずなのになぜ打診がないのでしょう? 受け入れ斡旋をする気があるのかないのか教えてほしい」との問い合わせをした。
「翌日の午後に事務局のJTBから連絡があり、『ラブホテルとは知らなかった』『お断りの連絡をしていなかったのは、申し訳ない』などの返事があったんです。しかし私は申請する時に『ラブホテル』と書いています。納得できないのでやりとりを続けると、『県は(避難所からラブホテルを)除外している』との回答でした。あらためて観光企画課に聞くと、そちらは『申請は受理されているが、マッチングされていない』という回答でした。つまり、県の説明が相手によって違うんです」
石川県はラブホテルを避難所から除外したのだろうか。それともマッチングがされていないだけなのか。石川県の観光企画課にAさんのホテルについての事実確認をすると、「該当するホテルは1月8日に受付はしてあったらしいんですが、いま登録のところを見ると、実際には(リストに)入っていない」と回答した。なぜ登録されていないのかと尋ねると「やりとりの中で、なにかあったのかもしれません」と断言を避けた。
内閣府(防災担当)による「指定緊急避難場所の指定」では、ラブホテルを避難所から除外する規定はない。
石川県に「ラブホテルを登録しない」という基準があるか確認すると、「事務局の方針としては、せっかく手を上げてくださっているところだから、ラブホテルであっても登録されているところはあります。しかし、(避難者には)ファミリーの方も入っているので、なるべく送客、避難はさせないようにしているとのこと。家族以外でも同じで、送客する場合は、まずは通常のホテルに送客する方針」としている。

しかし実際に金沢市内のホテルを紹介される人が多くいる状況でも、Aさんのホテルへの避難が打診されることはなかった。Aさんは県の対応についてこう話した。
「県の言っていることと、事務局が言っていることが違うんです。こちらも準備があるので、ダメなら最初からそう書いて欲しいし、せめて募集した後でも連絡をしてくれれば対応はできます。それに、実際は被災された方から問い合わせもあり、『ラブホテルでも避難できたら助かる』という方もいるわけです。県が決めるのではなく、被災者が決めるのが正しいマッチングだと思います」
現在も多くの人が避難所での生活を余儀なくされている。少しでも快適な場所で時間を過ごせる人が増えることを望みたい。
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月世界の従業員有志が管理するXアカウント:https://twitter.com/sosmoonworld
ホテル「月世界」の能登大地震救済サイト:https://sosmoonworld.blog.fc2.com
〈地震で孤立した村で始まった予想外にハイレベルな「自給自足」生活 お祭り用の発電機でウォシュレット、山から水を引いて200人分の料理も〉へ続く
(渋井 哲也)