現代数学の二本柱ともいえる「集合と位相」。抽象的でかっこいいという感じもするし、いかにも数学! という雰囲気もあります。
集合と位相は現代数学の根底を形づくるもっとも重要な概念です。これらは20 世紀になって初めてきちんと確立されたものですが、数千年の歴史を持つすべての数学を展開する場を提供しています。
とかく難しいと思われがちな集合や位相の考え方を瀬山士郎さんの新刊『現代数学はじめの一歩 集合と位相』から、楽しい解説とともに見ていくことにしましょう。
*本記事は、『現代数学はじめの一歩 集合と位相 数学はいかに「無限」をかぞえたのか』を再構成・再編したものです。
はじめに、集合の定義の問題にちょっと触れておきます。
集合とは、ある一定の条件を満たすものの集まりとして定義されました。その条件は数学的にきちんとしたものであるならなんでもいいし、別に数学的でなくても、普通の判断で、あるものがその集合に入るかどうかがきちんと判定できるものならなんでもいいということになっていました。
この定義には何も問題がないようにみえます。ところが、少し精密にものを考え出すと、気になるところが出てきてしまうのです。
たとえば、高校生や大学生でも悩む問題に、
0.9999… = 1
があります。とくに高校生は、0.9999…がどうしても1ではなくて、1との間にほんのわずかの隙間があるように感じるようです。
では、こんな感覚を残している人に、0.9999…が自然数の集合に入るかどうか尋ねたらどう答えるでしょう。そもそもこういう疑問を持った人にとって、自然数の集合がそれほどはっきりと区別された対象として理解できるのでしょうか。皆さんはどう思いますか。
じつは、これは自然数1 の表現の仕方の一つで、0.9999…は自然数の集合に入ると考えられます。
つまり、集合に入るのは、数1そのものであって、どのように表現されようとも、数1は「自然数の集合の元」と考えられます。
しかし、単純な循環小数でもこんな疑問がわくのだから、実数の集合ともなるともっと曖昧模糊(あいまいもこ)としてきます。
集合とは、はっきりと確定したものの集まりです。したがって、実数とは何かについてしっかりとした概念を持っていないと、実数の集合は、集合としての基礎がグラグラと揺らいでしまいます。
ただ、ここでは実数の問題には深入りしません。他の記事で使うことを考えて、ここでは「実数とは有限小数、または無限小数で表される数のことをいう」としておきましょう。
無限小数が一つの数を表しているのは、次のようにすると理解しやすいです。例として√2を取り上げます。
√2 = 1.41421356…
はよく知られています。
この無限小数は次のように数直線上の一つの数を確定します。
まず、閉区間[1, 2](これは{x|1≦x≦2} という集合を表します)を10 等分すると、
1.4<√2<1.5
となります(1.4の2乗= 1.96, 1.5の2乗= 2.25 であることから)。
次に、区間[1.4, 1.5] を10等分すると、1.41<√2<1.42となります。
以下、この手続きをどんどん続けていくと、手続き1 回ごとに区間の長さは1/10ずつ縮小し、数√2 の存在範囲は狭くなっていきます。
そして、最終的に数直線上に一つの点が定まりますが、これが数√2 を表しています。
このように分析的に考えると、実数の集合もたしかに集合として定まっていると考えることができます。
しかし、じつは別の大問題が集合という考え方そのものの中に潜んでいるのです。それが「ラッセルのパラドックス」といわれる問題の中にあらわれます。
*続きの〈「おかしな集合」とはなにか?数学者ラッセルが示したパラドックスとは〉は、2月23日(金曜日)公開予定です。
現代数学はじめの一歩 集合と位相 数学はいかに「無限」をかぞえたのか
モノの性質を調べる「集合」と数の近さを考える「位相」。現代数学の入り口となる2本柱をもとに、数とは何か? 無限の姿とは? と探究を続けた数学者たちの思考の軌跡、数の世界を楽しく解説します。
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