約3年以上続いたコロナ騒動の中で、フリマサイトのユーザーが大きく増えたといわれる。それに伴って増えてきたのが偽ブランド品である。以前なら、偽ブランド品は素人でもパッと見ただけでわかるくらい、稚拙な出来のものが少なくなかった。ところが、近年は“品質”が格段に上がっており、プロの鑑定士でも真贋鑑定が難しいスーパーコピーが多数確認されているという。
現在の偽ブランド品の品質は、どのようになっているのか。そして、偽物を手にしないために我々が心がけるべきこととは何か。中古ブランド品の買取を行い、店頭で販売も行う業界最大手「コメ兵」の副社長・山内祐也さん、鑑定士の林幸史さんに、ブランド品を取り巻く様々な事情を聞いた。
【写真】どっちが本物かわかる? 真贋の判断がプロでも難しいヴィトンとシャネルのスーパーコピー品本物と見分けがつかない偽物が氾濫中――まずは、現在の中古ブランド品の市場規模から伺いたいと思います。山内:日本国内ではブランド品の買取店が増加傾向にあり、比例するように中古ブランド品の流通量が増え、二次流通の市場規模は約4兆円にのぼるといわれます。これは業者間で市場を取り合っているというよりは、切磋琢磨し合い、拡大しているといった表現が正しいかもしれません。ただ、これくらい規模が拡大すると、偽物、我々の業界で言う「規格外品」の流通が増えるのは必然といえます。――実際、偽物の流通は増えているのでしょうか。山内:ここに置いてあるシャネルとルイ・ヴィトンは、5年前に作られた偽物です(リンク先の写真(1)参照)。見分けがつきますか? ……難しいですよね。ただ、これで驚いていてはいけません。現在はもっと偽物のレベルが上がっているからです。当社にも、買取に持ち込まれる精巧な作りの偽物が増えています。――素人目にはまったく見分けがつきません。そして、プロの立場から見て、最近の偽物に見られる傾向のようなものはあるのでしょうか。水際で防ぐ山内:有名ブランドの新作が出ると、瞬く間に偽物が出現するようになりました。以前からその傾向はありましたが、スピードが急激に上がっていて、発売から1ヶ月も経たないうちに偽物が確認されるようになっています。また、昔はエルメスでいえばバーキン、ルイ・ヴィトンでいえばスピーディーのように、偽物が作られるのは売れ筋のモデルばかりでした。しかし今では、こんな商品にまさか偽物はないだろうと、我々が油断するようなモデルにまで偽物が見つかっています。さらに、購入店のレシートやカード明細が付いている、手の込んだ偽物もたくさんあります。――そこまで巧妙になっているのですか。偽物を買い取ってしまうと会社的にも大損だと思いますし、販売してしまったら信用にも関わりますよね。具体的にどのような対策をしているのでしょうか。山内:当社では、ブランド品専門のバイヤーは400人くらいいます。社内で専門のカリキュラムを作り、研修を受けたうえで社員が店頭に立つようにしています。これにより、買取の段階で、水際で防ぐことができています。ただ、それだけでは不十分なので、買い取った品物は名古屋にある商品センターにすべて集め、全数検品を行っています。これほどのチェック体制には当初、業界でも賛否あり、コスト倒れするのではないかと言われましたが、現在の偽物のレベルの高さを見ていると、導入して正解でした。センターの商品部という部署で、3回ほどチェックを繰り返しています。――凄まじい手間をかけているわけですね。山内:さらに、店舗にも専門のスタッフがおり、弊社の店頭に並んでいる商品は万全のチェック体制をかけてから流通させるようにしています。当社は、コメ兵のほかに、ブランドオフやオークションも運営しているので、鑑定士が他社よりもバッターボックスに多く立っている強みがあります。それだけ品物を見てきているので、真贋鑑定の精度には自信がありますよ。どこに注目して偽物を見抜くのか――今回いらしていただいた林さんは、鑑定歴20年のベテランだそうですね。近年の偽ブランド品の特徴、傾向などありましたら教えてください。林:先ほど山内が申しあげた通り、とにかく巧妙になっています。ルイ・ヴィトンの場合、以前は本体に製造番号が記載されていたのですが、それがなくなった替わりにICチップが入っています。ところが、それすらも偽造される有様で、いたちごっこが続いています。――具体的にどのように鑑定を行っているのでしょうか。林:偽物を作る業者に知られたくないので、話せる範囲内でお話ししますと、意外と大切なのは“匂い”です。ルイ・ヴィトンは本物特有の匂いがあります。いわゆるステッチなどの“縫い目”も、結構違いができやすい部分ですね。ただ、縫い目にも年代によって差異があり、荒く仕上がっている年代もあるんですよ。経験をもとに査定をすることが大切です。――熟練の経験がものを言うわけですね。林:あとは、持ち込んできた人の雰囲気も案外大切です(笑)。男性の方が女性もののバッグを大量に持ってきたら、明らかに違和感があるじゃないですか。鑑定中に様々な会話をしながら、怪しくないか、見極めるようにしています。ただ、持ち込みが多い日などは短時間で鑑定をしないといけないので、緊張の連続ですよ。偽ブランド品を手にしないためにできること――鑑定士の労力は大変なものがありますね。林:そこで、当社ではAIを使った判定システムを開発しました。改良を重ねてかなり精度が高くなっており、写真を撮るだけで型番や品名などを検索することができますし、ブランドによっては99%正確に判定できている実感があります。ただ、それでもはっきりわからない高精度な偽物があるのも事実で、やはり最終的には人の手と目が頼りなのです。僕はまだまだAIには負けないです。――偽ブランド品を買わないようにするために、注意すべきことは何でしょうか。山内:当社が言うのはおかしな話かもしれませんが、百貨店などの直営店で新品を買えば、偽物を掴まされることは100%ありません(笑)。では、中古がダメかというとそんなことはありません。グローバルな視点からも見直されていますし、当社が扱っている中古ブランド品は丁寧な検品を経て店頭に並べています。したがって、信頼できる専門店で購入すれば、基本的に安全だと思います。――フリマサイトやネットオークションはいかがでしょうか。山内:フリマサイトは鑑定機能がありませんから、偽物が含まれている確率は必然的に高くなると思います。個人的には、信頼できる店で専門のスタッフと話しながら買うのが一番だと思いますよ。安心が担保されていますし、何より高額な商品ですから、実物を目にして、手に取って買う方が、失敗は少ないのではないでしょうか。変わらず高いルイ・ヴィトン人気――現在、人気のあるブランド品はどのような品物でしょうか。そういった品物から見える近年の流行など、ありますでしょうか。山内:日本人の所得が減っているとはいわれますが、肌感覚としては、ルイ・ヴィトンの人気が変わらず高いと思いますね。正規店では休日に入場規制をしているくらいですから、憧れのブランドであることは間違いないはずですが、若い世代にブランド品の魅力をどう届けていくか、我々も考えていかなければいけないと思っています。林:僕は腕時計ではロレックスがやはり一押しですね。耐久性が素晴らしいですし、巻き心地もいいし、圧倒的に長く使えるのがいい。ロレックスは使い手のことを考えたモノづくりをしていて、ずっとつけていたくなる腕時計。資産価値などで注目を集めることが多いですが、第一に製品の質が素晴らしいからこそ、世界中で価値が認められているのだと思います。――コメ兵の店頭に並んでいる商品を見ると、これが中古品なのか、と驚くほど品質が高いです。山内:日本人は物を大切に使うので、日本の中古品はクオリティが高いんですよ。実際、海外からも評価が高く、わざわざ日本に中古ブランド品を買いにくる外国人も多いんです。当社は海外にも販売網を持っていますが、日本人が使ったブランド品は外国のバイヤーにも評判がいいですね。――中古ブランド品のイメージも変わってきていますよね。山内:先日、息子が、お父さんの仕事はカッコいいと言ってきたんです。今の小学生や中学生は、学校でリユースや3Rなどの概念を勉強しているらしく、物を大切に使うことはかっこいいという感覚があるらしいんです。なお、当社はリユースではなく“リレーユース”という言葉を使っています。リレーという言葉はすなわち、物を次の人へと伝承させていくということ。その橋渡しを担える企業になりたいと思っています。山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。デイリー新潮編集部
――まずは、現在の中古ブランド品の市場規模から伺いたいと思います。
山内:日本国内ではブランド品の買取店が増加傾向にあり、比例するように中古ブランド品の流通量が増え、二次流通の市場規模は約4兆円にのぼるといわれます。これは業者間で市場を取り合っているというよりは、切磋琢磨し合い、拡大しているといった表現が正しいかもしれません。ただ、これくらい規模が拡大すると、偽物、我々の業界で言う「規格外品」の流通が増えるのは必然といえます。
――実際、偽物の流通は増えているのでしょうか。
山内:ここに置いてあるシャネルとルイ・ヴィトンは、5年前に作られた偽物です(リンク先の写真(1)参照)。見分けがつきますか? ……難しいですよね。ただ、これで驚いていてはいけません。現在はもっと偽物のレベルが上がっているからです。当社にも、買取に持ち込まれる精巧な作りの偽物が増えています。
――素人目にはまったく見分けがつきません。そして、プロの立場から見て、最近の偽物に見られる傾向のようなものはあるのでしょうか。
山内:有名ブランドの新作が出ると、瞬く間に偽物が出現するようになりました。以前からその傾向はありましたが、スピードが急激に上がっていて、発売から1ヶ月も経たないうちに偽物が確認されるようになっています。また、昔はエルメスでいえばバーキン、ルイ・ヴィトンでいえばスピーディーのように、偽物が作られるのは売れ筋のモデルばかりでした。しかし今では、こんな商品にまさか偽物はないだろうと、我々が油断するようなモデルにまで偽物が見つかっています。さらに、購入店のレシートやカード明細が付いている、手の込んだ偽物もたくさんあります。
――そこまで巧妙になっているのですか。偽物を買い取ってしまうと会社的にも大損だと思いますし、販売してしまったら信用にも関わりますよね。具体的にどのような対策をしているのでしょうか。
山内:当社では、ブランド品専門のバイヤーは400人くらいいます。社内で専門のカリキュラムを作り、研修を受けたうえで社員が店頭に立つようにしています。これにより、買取の段階で、水際で防ぐことができています。ただ、それだけでは不十分なので、買い取った品物は名古屋にある商品センターにすべて集め、全数検品を行っています。これほどのチェック体制には当初、業界でも賛否あり、コスト倒れするのではないかと言われましたが、現在の偽物のレベルの高さを見ていると、導入して正解でした。センターの商品部という部署で、3回ほどチェックを繰り返しています。
――凄まじい手間をかけているわけですね。
山内:さらに、店舗にも専門のスタッフがおり、弊社の店頭に並んでいる商品は万全のチェック体制をかけてから流通させるようにしています。当社は、コメ兵のほかに、ブランドオフやオークションも運営しているので、鑑定士が他社よりもバッターボックスに多く立っている強みがあります。それだけ品物を見てきているので、真贋鑑定の精度には自信がありますよ。
――今回いらしていただいた林さんは、鑑定歴20年のベテランだそうですね。近年の偽ブランド品の特徴、傾向などありましたら教えてください。
林:先ほど山内が申しあげた通り、とにかく巧妙になっています。ルイ・ヴィトンの場合、以前は本体に製造番号が記載されていたのですが、それがなくなった替わりにICチップが入っています。ところが、それすらも偽造される有様で、いたちごっこが続いています。
――具体的にどのように鑑定を行っているのでしょうか。
林:偽物を作る業者に知られたくないので、話せる範囲内でお話ししますと、意外と大切なのは“匂い”です。ルイ・ヴィトンは本物特有の匂いがあります。いわゆるステッチなどの“縫い目”も、結構違いができやすい部分ですね。ただ、縫い目にも年代によって差異があり、荒く仕上がっている年代もあるんですよ。経験をもとに査定をすることが大切です。
――熟練の経験がものを言うわけですね。
林:あとは、持ち込んできた人の雰囲気も案外大切です(笑)。男性の方が女性もののバッグを大量に持ってきたら、明らかに違和感があるじゃないですか。鑑定中に様々な会話をしながら、怪しくないか、見極めるようにしています。ただ、持ち込みが多い日などは短時間で鑑定をしないといけないので、緊張の連続ですよ。
――鑑定士の労力は大変なものがありますね。
林:そこで、当社ではAIを使った判定システムを開発しました。改良を重ねてかなり精度が高くなっており、写真を撮るだけで型番や品名などを検索することができますし、ブランドによっては99%正確に判定できている実感があります。ただ、それでもはっきりわからない高精度な偽物があるのも事実で、やはり最終的には人の手と目が頼りなのです。僕はまだまだAIには負けないです。
――偽ブランド品を買わないようにするために、注意すべきことは何でしょうか。
山内:当社が言うのはおかしな話かもしれませんが、百貨店などの直営店で新品を買えば、偽物を掴まされることは100%ありません(笑)。では、中古がダメかというとそんなことはありません。グローバルな視点からも見直されていますし、当社が扱っている中古ブランド品は丁寧な検品を経て店頭に並べています。したがって、信頼できる専門店で購入すれば、基本的に安全だと思います。
――フリマサイトやネットオークションはいかがでしょうか。
山内:フリマサイトは鑑定機能がありませんから、偽物が含まれている確率は必然的に高くなると思います。個人的には、信頼できる店で専門のスタッフと話しながら買うのが一番だと思いますよ。安心が担保されていますし、何より高額な商品ですから、実物を目にして、手に取って買う方が、失敗は少ないのではないでしょうか。
――現在、人気のあるブランド品はどのような品物でしょうか。そういった品物から見える近年の流行など、ありますでしょうか。
山内:日本人の所得が減っているとはいわれますが、肌感覚としては、ルイ・ヴィトンの人気が変わらず高いと思いますね。正規店では休日に入場規制をしているくらいですから、憧れのブランドであることは間違いないはずですが、若い世代にブランド品の魅力をどう届けていくか、我々も考えていかなければいけないと思っています。
林:僕は腕時計ではロレックスがやはり一押しですね。耐久性が素晴らしいですし、巻き心地もいいし、圧倒的に長く使えるのがいい。ロレックスは使い手のことを考えたモノづくりをしていて、ずっとつけていたくなる腕時計。資産価値などで注目を集めることが多いですが、第一に製品の質が素晴らしいからこそ、世界中で価値が認められているのだと思います。
――コメ兵の店頭に並んでいる商品を見ると、これが中古品なのか、と驚くほど品質が高いです。
山内:日本人は物を大切に使うので、日本の中古品はクオリティが高いんですよ。実際、海外からも評価が高く、わざわざ日本に中古ブランド品を買いにくる外国人も多いんです。当社は海外にも販売網を持っていますが、日本人が使ったブランド品は外国のバイヤーにも評判がいいですね。
――中古ブランド品のイメージも変わってきていますよね。
山内:先日、息子が、お父さんの仕事はカッコいいと言ってきたんです。今の小学生や中学生は、学校でリユースや3Rなどの概念を勉強しているらしく、物を大切に使うことはかっこいいという感覚があるらしいんです。なお、当社はリユースではなく“リレーユース”という言葉を使っています。リレーという言葉はすなわち、物を次の人へと伝承させていくということ。その橋渡しを担える企業になりたいと思っています。
山内貴範(やまうち・たかのり)1985年、秋田県出身。「サライ」「ムー」など幅広い媒体で、建築、歴史、地方創生、科学技術などの取材・編集を行う。大学在学中に手掛けた秋田県羽後町のJAうご「美少女イラストあきたこまち」などの町おこし企画が大ヒットし、NHK「クローズアップ現代」ほか様々な番組で紹介された。商品開発やイベントの企画も多数手がけている。
デイリー新潮編集部