「早生まれは学年の年少にあたるから不利だ」そんな言葉を耳にしたことはありませんか?本当に早生まれは不利で、遅生まれが有利なのでしょうか。両者の差について、「医学的観点」「統計学的観点」から、専門家に話を聞くと、驚きの結果が見えてきました。
【画像】同学年でもこれだけ大きさが違う…赤ちゃんの写真や、認知スキル・非認知スキルと生まれ月の関係グラフなど「早生まれ」と「遅生まれ」。街の人はどのようなイメージを持っているのでしょうか。6月生まれの子を持つ親:「保育園でほぼ一年違うと、体の大きさが違うなと思ったりします」

1月生まれの子を持つ親:「4~6月生まれの子の方が体も大きいですし、背も高いですし、かけっことか速いのはあります。けど、そこまで違いを感じたことはないです」5月生まれの男性:「子どもの頃はスポーツとかで差が出るイメージがありますね。前職で働いていたときに、退職が誕生日迎えた月で辞めないといけなくて、その場合は早生まれの方が少しでも稼げるなっていうメリットを感じました」小学校の低学年ぐらいまでは身体的な差を感じるものの、その後はあまり大きな差を感じない、そもそも気にしたことがない、という声が多く聞かれました。児童生徒の学年については学校教育法で定められていて、一学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの児童生徒までで構成されることになっています。4月1日生まれの女性が感じてきたこと学年の最年少にあたる4月1日生まれの20代の方に話を聞くことができました。4月1日生まれの女性:「母に聞くと、運動会ではすごく足が遅かったと言っていました。2人の兄も早生まれで、3月21日生まれと3月20日生まれなんですけど、真ん中の兄はすごく覚えが悪くて、ひらがなや計算を苦労したって言っていました」現在26歳のこの女性は、小学校中学年ぐらいまでは、クラスで一番身長が低く、休み時間に鬼ごっこをしてもすぐに追いつかれてしまっていたと振り返ります。ただ、彼女の母は、ある理由から、彼女を早く産みたかったそうです。4月1日生まれの女性:「本当は予定日が4月7日頃だったんですけど、母は「早く出てこい、早く出てこい」って思っていたみたいです。その理由が、一年学校にいる期間が延びると、子育てが延びるからだそうで、絶対早生まれで産みたかったみたいです(笑)」では、医学的観点からみて、早生まれと遅生まれの差はあるのでしょうか。小児科医に話を聞きました。教育熱心な親だと、あえて遅生まれにするケースも新生児科・小児科 今西洋介 医師「医学的にみると、早生まれと遅生まれは、極端にいうと11か月も違うわけです。母子手帳にも身長や体重の成長曲線が載っていますけど、4歳0か月と4歳11か月だと、体重も約3キロ、身長も約5センチ違う。かなり体格的な差はあって、体育の授業などで、差が出ると思います」一般的に、男子は17歳前後、女子は15歳前後まで身長が伸びるといわれていますが、対格に関しては、もちろん個人差も大きいとのこと。また、診察などで多くの親子と接するなかで、親からはこんな声も…新生児科・小児科 今西洋介 医師:「すごく教育熱心なお父さんお母さんだと、あえて遅生まれ、4月生まれになるようにする人もいるようです」「また、こういうデータを伝えると、早生まれの親御さんは絶望する人も多いですけど、アメリカのデータでは、プロスポーツ選手で早生まれと遅生まれの選手を比べてみると、遅生まれの人の方が年俸が良いというデータもあります。大人になってからも差が出るということは、やはり影響はあると思います」生まれ月は、大人になってからも、少なからず影響を及ぼしていると考えられるといいます。では、子育てをする上で気を付けるべきこと、注意すべきことはあるのでしょうか。新生児科・小児科 今西洋介 医師:「兄弟構成などで精神年齢も変わってくるので、早生まれ、遅生まれというレッテルを貼るのではなく、子ども一人一人の特性を見るということが大切だと思います」統計学でみる「早生まれ」「遅生まれ」の差一方、統計学の観点から見るとどうでしょうか。早生まれの成長格差などについて研究する、東京大学大学院の山口教授に話を聞きました。山口教授らは、小学4年生から中学3年生までの子どもたち約100万人のデータを分析。学力テストから「認知能力」を、同時に行われたアンケートから「非認知能力」を調べました。その結果、どの学年で比べてみても、いわゆる「遅生まれ」の子どもほど成績が良い傾向が見られたのだそうです。東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「高校入試結果についてみても、早生まれの子が入る学校の平均的な偏差値というのは、そうでない4月生まれの子どもの偏差値に比べて、大体4.5も低いということが分かりました」一方、物事に対する考え方や物事に取り組む姿勢など、数値では表せない「非認知能力」についても、明らかな差が見られたといいます。東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「非認知能力と呼ばれるもの、困難な状況にあってもやり遂げようとする力、自分は難しい状況にあっても問題を解決できるんだという自己効力感についても差があるというのは少し驚いたところです。懸念した点としては、先生やクラスメイトと良い人間関係を築けているかというところを見ると、早生まれの子どもたちが、あまり満足していない。友達が自分の良いところを認めてくれていないという回答の傾向が強く出ていることに対しては、悲しい気持ちになるというか、何とかしなければいけないなと感じましたね」例えば、自己効力感に関しては、調査したどの学年についても、年長の子ほど高い傾向がみられたといいます。さらに、その差がどんなところから生まれているのかを見るため、子どもの勉強期間や塾に通ってるかどうか、習い事についても調べた結果、これについても生まれ月によって大きな違いがみられたのです。東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「早生まれの子どもたちほど勉強時間が長くて塾に通っている傾向があるんです。一方で、その結果、習い事、スポーツとか音楽とかの活動があまりできていないということが非常に興味深いなと思いました」「おそらくは、早生まれの子たちの不利というのは色々言われているので、親御さんも本人も気にして、その不利を補うように勉強時間を増やしたり、塾に通うというのをやっているんじゃないかと思います」つまり、早生まれの子どもたちは、勉強時間を増やす、塾に通うなどして、学力差を縮める努力をしている一方、スポーツや芸術など非認知能力を伸ばすような活動が不足しているというのです。また、その影響が、将来の所得や就業率の低さにつながりかねないと考えられてます。東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「これは我々の研究ではないんですが、大人になってからも、30歳~34歳の年収で見てみても、早生まれと遅生まれでは、年収が4%違うということも分かっているので、完全に成長しきってからも残る違いであるということが明らかになっていと思います」「こういった違いっていうのは、本人に全く責任がない、いつ生まれたかというのは、ほぼ偶然の産物であるわけです。そういった問題に対して、何もしないというのは、やはり不公平だろうと考えています」山口教授は、生まれ月に配慮した入試制度などを検討すべきとした上で、教員をはじめ、教育に関わる人が意識を変えていくということも大事だと警鐘を鳴らしています。今回の取材では、早生まれと遅生まれには、身体的な差に加えて、学力、自己効力感などの非認知能力、さらには将来の年収にまで差があるということが分かりました。ただ、一つの学年を作るとなると、何月はじまりであっても、学年の年長と年少は存在します。クラスメイトや同じ学年の他の子どもと比べるのではなく、本人のこれまでと比べてどう変わったのかをしっかり見ていくことが重要なのかもしれません。
「早生まれ」と「遅生まれ」。街の人はどのようなイメージを持っているのでしょうか。
6月生まれの子を持つ親:「保育園でほぼ一年違うと、体の大きさが違うなと思ったりします」
1月生まれの子を持つ親:「4~6月生まれの子の方が体も大きいですし、背も高いですし、かけっことか速いのはあります。けど、そこまで違いを感じたことはないです」
5月生まれの男性:「子どもの頃はスポーツとかで差が出るイメージがありますね。前職で働いていたときに、退職が誕生日迎えた月で辞めないといけなくて、その場合は早生まれの方が少しでも稼げるなっていうメリットを感じました」
小学校の低学年ぐらいまでは身体的な差を感じるものの、その後はあまり大きな差を感じない、そもそも気にしたことがない、という声が多く聞かれました。
児童生徒の学年については学校教育法で定められていて、一学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの児童生徒までで構成されることになっています。
学年の最年少にあたる4月1日生まれの20代の方に話を聞くことができました。
4月1日生まれの女性:「母に聞くと、運動会ではすごく足が遅かったと言っていました。2人の兄も早生まれで、3月21日生まれと3月20日生まれなんですけど、真ん中の兄はすごく覚えが悪くて、ひらがなや計算を苦労したって言っていました」
現在26歳のこの女性は、小学校中学年ぐらいまでは、クラスで一番身長が低く、休み時間に鬼ごっこをしてもすぐに追いつかれてしまっていたと振り返ります。
ただ、彼女の母は、ある理由から、彼女を早く産みたかったそうです。
4月1日生まれの女性:「本当は予定日が4月7日頃だったんですけど、母は「早く出てこい、早く出てこい」って思っていたみたいです。その理由が、一年学校にいる期間が延びると、子育てが延びるからだそうで、絶対早生まれで産みたかったみたいです(笑)」
では、医学的観点からみて、早生まれと遅生まれの差はあるのでしょうか。小児科医に話を聞きました。
新生児科・小児科 今西洋介 医師「医学的にみると、早生まれと遅生まれは、極端にいうと11か月も違うわけです。母子手帳にも身長や体重の成長曲線が載っていますけど、4歳0か月と4歳11か月だと、体重も約3キロ、身長も約5センチ違う。かなり体格的な差はあって、体育の授業などで、差が出ると思います」
一般的に、男子は17歳前後、女子は15歳前後まで身長が伸びるといわれていますが、対格に関しては、もちろん個人差も大きいとのこと。
また、診察などで多くの親子と接するなかで、親からはこんな声も…
新生児科・小児科 今西洋介 医師:「すごく教育熱心なお父さんお母さんだと、あえて遅生まれ、4月生まれになるようにする人もいるようです」「また、こういうデータを伝えると、早生まれの親御さんは絶望する人も多いですけど、アメリカのデータでは、プロスポーツ選手で早生まれと遅生まれの選手を比べてみると、遅生まれの人の方が年俸が良いというデータもあります。大人になってからも差が出るということは、やはり影響はあると思います」
生まれ月は、大人になってからも、少なからず影響を及ぼしていると考えられるといいます。
では、子育てをする上で気を付けるべきこと、注意すべきことはあるのでしょうか。
新生児科・小児科 今西洋介 医師:「兄弟構成などで精神年齢も変わってくるので、早生まれ、遅生まれというレッテルを貼るのではなく、子ども一人一人の特性を見るということが大切だと思います」
一方、統計学の観点から見るとどうでしょうか。早生まれの成長格差などについて研究する、東京大学大学院の山口教授に話を聞きました。
山口教授らは、小学4年生から中学3年生までの子どもたち約100万人のデータを分析。学力テストから「認知能力」を、同時に行われたアンケートから「非認知能力」を調べました。
その結果、どの学年で比べてみても、いわゆる「遅生まれ」の子どもほど成績が良い傾向が見られたのだそうです。
東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「高校入試結果についてみても、早生まれの子が入る学校の平均的な偏差値というのは、そうでない4月生まれの子どもの偏差値に比べて、大体4.5も低いということが分かりました」
一方、物事に対する考え方や物事に取り組む姿勢など、数値では表せない「非認知能力」についても、明らかな差が見られたといいます。
東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「非認知能力と呼ばれるもの、困難な状況にあってもやり遂げようとする力、自分は難しい状況にあっても問題を解決できるんだという自己効力感についても差があるというのは少し驚いたところです。懸念した点としては、先生やクラスメイトと良い人間関係を築けているかというところを見ると、早生まれの子どもたちが、あまり満足していない。友達が自分の良いところを認めてくれていないという回答の傾向が強く出ていることに対しては、悲しい気持ちになるというか、何とかしなければいけないなと感じましたね」
例えば、自己効力感に関しては、調査したどの学年についても、年長の子ほど高い傾向がみられたといいます。
さらに、その差がどんなところから生まれているのかを見るため、子どもの勉強期間や塾に通ってるかどうか、習い事についても調べた結果、これについても生まれ月によって大きな違いがみられたのです。
東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「早生まれの子どもたちほど勉強時間が長くて塾に通っている傾向があるんです。一方で、その結果、習い事、スポーツとか音楽とかの活動があまりできていないということが非常に興味深いなと思いました」「おそらくは、早生まれの子たちの不利というのは色々言われているので、親御さんも本人も気にして、その不利を補うように勉強時間を増やしたり、塾に通うというのをやっているんじゃないかと思います」
つまり、早生まれの子どもたちは、勉強時間を増やす、塾に通うなどして、学力差を縮める努力をしている一方、スポーツや芸術など非認知能力を伸ばすような活動が不足しているというのです。また、その影響が、将来の所得や就業率の低さにつながりかねないと考えられてます。
東京大学大学院経済学研究科 山口慎太郎 教授:「これは我々の研究ではないんですが、大人になってからも、30歳~34歳の年収で見てみても、早生まれと遅生まれでは、年収が4%違うということも分かっているので、完全に成長しきってからも残る違いであるということが明らかになっていと思います」「こういった違いっていうのは、本人に全く責任がない、いつ生まれたかというのは、ほぼ偶然の産物であるわけです。そういった問題に対して、何もしないというのは、やはり不公平だろうと考えています」
山口教授は、生まれ月に配慮した入試制度などを検討すべきとした上で、教員をはじめ、教育に関わる人が意識を変えていくということも大事だと警鐘を鳴らしています。
今回の取材では、早生まれと遅生まれには、身体的な差に加えて、学力、自己効力感などの非認知能力、さらには将来の年収にまで差があるということが分かりました。
ただ、一つの学年を作るとなると、何月はじまりであっても、学年の年長と年少は存在します。クラスメイトや同じ学年の他の子どもと比べるのではなく、本人のこれまでと比べてどう変わったのかをしっかり見ていくことが重要なのかもしれません。