国内外の旅行需要回復とともに、空港で搭乗前に受ける保安検査で所持品を「没収」される事例が急増している。
関西国際空港の第2ターミナル(T2)では、ライターが最も多く1日平均240個超。航空機内への持ち込み制限は安全を確保するためのルールだが、一部の女性にとっては必需品でもあるヘアアイロンも増えており、対応に苦慮している。
1日平均163個
保安検査の実施主体は日本では航空会社で、T2では「ピーチ・アビエーション」が警備会社に委託している。ピーチ関西空港所長の牛鼻(ごはな)章さんは「ここ3日の検査で回収され、500個以上はあるだろう」と、見せてくれたライターは山のような量。縦48センチ、横36センチ、高さ7センチのかごにいっぱいだ。
保安検査で見つかった制限品は正確には没収ではなく、旅客にその場で物品を放棄してもらい、検査職員が回収する流れ。ライターは「小型かつ携帯型」などの条件を満たせば1人1個持ち込めるが、複数所持している人も多い。
10月中旬までの1カ月間の回収数を調べると、国内線で1日平均163個、国際線では79個と、T2の回収品のトップだ。
対象品は細かく分類
回収が多いのはライターだけではない。机上にずらりと並べられたのは、長さ20センチ前後の筒状の製品。すべてヘアアイロンで、20個を超える。牛鼻さんは申し訳なさそうに「旅先でおしゃれを楽しみたいと持っていたはずなのに心苦しい」と話す。
回収対象は、リチウムイオン電池を内蔵するコードレスタイプ。リチウムイオン電池は発熱、発火の危険性があり、電子機器に内蔵された場合は定格量160ワット時以下に規制するなど、機内に持ち込めるかは細かく分類されている。
「電池を外せるヘアアイロンなら持ち込めるが、取り外せなければ定格量が確認できないため制限せざるをえない」という。回収されるリチウムイオン電池関連製品はモバイルバッテリーなども含め国内線だけで1日平均64個に及ぶ。
凶器に見えてもダメ
そもそもどういった製品が制限されるのか。機内でのテロや事故の防止という観点で「危険物」や「凶器」となる物品が国際民間航空機関(ICAO)の国際ルール、航空法で定められている。
国土交通省航空局の担当者は「化粧品でも引火性が高い液体を含むため制限の対象だが、普段使う日用品であり、量を制限して持ち込める」と説明する。液体類は国際線での制限が厳しく、100ミリリットル以下の容器に詰め替える必要がある。
刃体が6センチを超えるハサミやドライバーなど「凶器」となりうる物品は制限されるが、日本刀の柄(つか)を模した傘、精巧に作られた樹脂製おもちゃのクナイなども制限対象。決して「凶器」ではないが、凶器に見せかけることができるからだ。
テロ対策が強化される中、保安検査は世界的に厳格化されている。国内でも昨年3月から航空法で保安検査を義務化。検査を受けないこと自体が航空法違反になり、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる可能性がある。
なかなか分かりづらい制限対象だが、国交省は判別するための代表例をリスト化して紹介しており、航空会社もリストを作成している。
ピーチの牛鼻さんは「回収された物は処分するしかなく、お互いにとってよいことはあまりない。検査の必要性を理解してもらい、事前にリストを確かめて旅の準備をしてほしい」と呼びかけている。(藤谷茂樹)