今や日本でセックスレスはすっかり常態化しているのかもしれない。3年前の時点で、20歳から49歳の既婚男女においてレスが51.9%という調査があった(第4回ジェクス・ジャパン・セックス・サーベイ2020)。これは04年の調査開始以来、初の50%越えだった。
別の年代別調査では、40代男性の約60%、50代男性の約70%がセックスレスだと答えている。女性においては50代の約80%がレスだという。とはいえ、興味深いのは多くの人が「性的な欲求や興味がないわけではない」ところだ。つまりは夫婦間でのセクシャルな行為がないだけで、浮気率は男性40%、女性30%という数字もある。この数字、リアリティがあると実感している。
【写真を見る】「夫が19歳女子大生と外泊報道」で離婚した女優、離婚の際「僕の財産は全部捧げる」と財産贈与した歌手など【「熟年離婚」した芸能人11人】千紘さんとの偶然の出会い セックスレスだから不倫に走るという短絡的な問題ではないが、レスがひとつの要因になることはありうるし、レスから夫婦間に亀裂が生じることもある。互いにどういうセックス観をもっているのかを知ったとき、あまりにも違い過ぎて驚いたというカップルもいるのだが、そもそも結婚前にそのあたりは話し合ったり感じあったりしていなかったのだろうか。「セックスレスと一口に言っても、その内容はさまざまですよね。僕自身、妻とつきあっていたころは、デート3回に1回くらいの割合だったし、それで不満そうではないからいいんだと思っていた。若いから本当はもっとしたかったけど、毎回だと嫌われるんじゃないかと恐れていたんです」 菅原晃大さん(47歳・仮名=以下同)は、そう言って苦笑した。妻の千紘さんとは同僚と行った居酒屋でたまたまテーブルが隣同士になり、千紘さんたちが頼んだ料理が晃大さんのテーブルに来てしまったことから会話が始まった。「千紘は女性3人で来ていて、こちらは僕と同僚の男ふたり。3人とも明るくていい感じだったので一緒に飲もうということになった。こっちは女性が飛びつくような大企業でもないし、冴えないメーカー社員です、みたいな挨拶をして。彼女たちは有名企業に勤めていました」 そのうち席をシャッフルし、晃大さんの隣に座ったのが千紘さんだった。趣味を尋ねると「落語」。しかもひとりでふらりと寄席に行くという。若い女性で落語が好きだという人はいても、なかなか寄席にひとりでは行かないだろうと思っていたので、晃大さんは驚いた。「というのは僕もたまたま落語好き。今でこそ落語好きだと公言する女性も増えましたが、当時は若い男でも落語好きが少ない時代でした。うちはオヤジが落語好きで、子どものころから寄席に連れて行かれたので、日常的に落語を聴いているような家庭でした。母はクラシック音楽が好きで、このふたりはいったいなぜ結婚したのかというくらい接点がない。でもなぜか仲は悪くなかった。父の仕事が遅い日はクラシック音楽を聴かされ、週末は父に連れられて寄席に行く。そんな子ども時代でした」 結果、彼は落語とクラシック音楽が好きという「妙な」大人になった。4歳違いの弟はどちらにも興味を示さず、スポーツ観戦が大好きな大人になっているから、好みは環境だけで培われるものではないようだ。「千紘とは落語の話で盛り上がっちゃって。今度、ぜひ寄席に一緒に行こうということになりました。その日は5人でカラオケにも行ったんですが、千紘が歌ったのは美空ひばりとか藤圭子とかの昭和の大歌手ばかり。『うちは両親が共働きで、私はおばあちゃんに育てられたの。だからおばあちゃんが好きだった歌ばかり』と彼女は笑っていました。もう20年も前の話ですが、当時、彼女の祖母は健在で、『今も両親よりおばあちゃんのほうが話しやすい』とも言ってましたね」「友だちじゃダメ?」 数日後、晃大さんと千紘さんは都内の寄席に隣り合って座っていた。彼女の笑い声が耳に心地いい。ずっと前からこうやって一緒に落語を聴いていたような気がすると彼は思っていたそうだ。当時、彼は27歳。それなりに恋愛もしてきたつもりだったが、隣にいるだけでこんなに安らげる存在はいなかった。「その日の帰り、居酒屋で食事をしながらふと気づいたんですよ。寄席デートだったんだから、もうちょっといい店へ行くべきではなかったか、と。思わず『ごめん、居酒屋で』と言ったら『ううん。こういう店、いいよね。気楽で』と言ってくれた。その言葉に勇気を得て、『僕とつきあってくれないかな』と押してみたんです。すると彼女、『私、つきあっている人がいるんだ』とさらりと言った。『趣味が同じの友だちじゃダメ?』『うん、いいよ』というやりとりがあったような気がします」 だが彼は諦められなかった。一緒に落語を聴ける女性、隣にいて安らげる女性はめったにいない。つきあっている男より自分のほうが居心地がいいと彼女に認めさせたい。彼は好きな落語を録音したCDを作ってプレゼントしたり、千紘さんの好きな落語家のチケットを取ったりと努力を重ねた。「100万円で譲るよ」「ある日、帰宅したら僕が住んでいたアパートの前に男が立っていたんです。40歳前後かな、僕から見たらかなりの大人でした。『あんた、千紘が好きなのか』といきなり言われました。千紘の彼氏だったんです。怖くて震えましたが、相手が闘いをしかけてきたなら受けて立つしかない。『好きです。つきあいたいと思っている』と答えたら、『100万円で譲るよ』って。びっくりしましたね。つきあっている女性をそんなふうに譲ったりします? どういう価値観の男だよと思ったら腹が立ってたまらなかった。『あんたに彼女とつきあう資格はない。おれがつきあう。あんたはさっさと別れてくれよ』とわざと語調を荒くした。膝はガクガクしてましたけど」 だから100万くれたら別れてやるよと彼はしつこかった。こんな男とつきあっている彼女が不憫だった。どうしようと彼の頭が必死に計算を始めた。彼女に言うわけにはいかない。だが100万渡したら、本当に別れてくれるのか確証はない。「もういいや、と。彼女のためになるなら100万は惜しくない。もし次にゆすったら警察に言う。今回だけだ、オレだってそんな金はないと言ったら、彼はニヤリと笑いました。翌日、定期預金を解約して100万円作って、待ち合わせの場所に持っていった。領収証を書かせようとしたらふざけるなと言われて逃げられました」泣き出した千紘さん 結局、どこの誰かもわからないままだった。大きな仕事をしたかのような気持ちになり、彼は喫茶店でひとりのんびりコーヒーを飲んだ。彼女に電話をかけて、これから会えないかと聞いたら、「これから彼と会うから」という答えが返ってきた。別れ話になるのだろうか、ならないのだろうかと思うと心臓がバクバクと音を立てた。「その晩遅く、彼女から電話がありました。結局、彼は来なかった。電話してもつながらない。私たちもうだめかもしれないと。どうやら彼女は、あんな粗暴な年上の男を心底、好きだったんだと気づきました。僕は彼女が彼に支配されてつきあわされているんだと勘違いしていた」 翌日、彼女を呼び出して会うと、いきなり「カラオケに行こう」と言われた。そして千紘さんはカラオケボックスでさめざめと泣いたという。「彼に別れよう、もう会う気はないと言われたって。『とんでもないヤツだったけど、彼がいないと生きていけない』と泣いている彼女に、何と言ったらいいかわかりませんでした。彼は約束を守ってくれた。でも結局、100万で彼女を売ったわけですよ。僕自身もうしろめたさがあった」 もう彼のことは忘れたほうがいい、僕と結婚しようと彼は言った。彼女は心細そうな表情でうなずいた。後編【レスに悩み、不倫に走った47歳夫は大きな勘違いをしているのか どうしても気になる妻の一言と元カレの呪縛】へつづく亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。デイリー新潮編集部
セックスレスだから不倫に走るという短絡的な問題ではないが、レスがひとつの要因になることはありうるし、レスから夫婦間に亀裂が生じることもある。互いにどういうセックス観をもっているのかを知ったとき、あまりにも違い過ぎて驚いたというカップルもいるのだが、そもそも結婚前にそのあたりは話し合ったり感じあったりしていなかったのだろうか。
「セックスレスと一口に言っても、その内容はさまざまですよね。僕自身、妻とつきあっていたころは、デート3回に1回くらいの割合だったし、それで不満そうではないからいいんだと思っていた。若いから本当はもっとしたかったけど、毎回だと嫌われるんじゃないかと恐れていたんです」
菅原晃大さん(47歳・仮名=以下同)は、そう言って苦笑した。妻の千紘さんとは同僚と行った居酒屋でたまたまテーブルが隣同士になり、千紘さんたちが頼んだ料理が晃大さんのテーブルに来てしまったことから会話が始まった。
「千紘は女性3人で来ていて、こちらは僕と同僚の男ふたり。3人とも明るくていい感じだったので一緒に飲もうということになった。こっちは女性が飛びつくような大企業でもないし、冴えないメーカー社員です、みたいな挨拶をして。彼女たちは有名企業に勤めていました」
そのうち席をシャッフルし、晃大さんの隣に座ったのが千紘さんだった。趣味を尋ねると「落語」。しかもひとりでふらりと寄席に行くという。若い女性で落語が好きだという人はいても、なかなか寄席にひとりでは行かないだろうと思っていたので、晃大さんは驚いた。
「というのは僕もたまたま落語好き。今でこそ落語好きだと公言する女性も増えましたが、当時は若い男でも落語好きが少ない時代でした。うちはオヤジが落語好きで、子どものころから寄席に連れて行かれたので、日常的に落語を聴いているような家庭でした。母はクラシック音楽が好きで、このふたりはいったいなぜ結婚したのかというくらい接点がない。でもなぜか仲は悪くなかった。父の仕事が遅い日はクラシック音楽を聴かされ、週末は父に連れられて寄席に行く。そんな子ども時代でした」
結果、彼は落語とクラシック音楽が好きという「妙な」大人になった。4歳違いの弟はどちらにも興味を示さず、スポーツ観戦が大好きな大人になっているから、好みは環境だけで培われるものではないようだ。
「千紘とは落語の話で盛り上がっちゃって。今度、ぜひ寄席に一緒に行こうということになりました。その日は5人でカラオケにも行ったんですが、千紘が歌ったのは美空ひばりとか藤圭子とかの昭和の大歌手ばかり。『うちは両親が共働きで、私はおばあちゃんに育てられたの。だからおばあちゃんが好きだった歌ばかり』と彼女は笑っていました。もう20年も前の話ですが、当時、彼女の祖母は健在で、『今も両親よりおばあちゃんのほうが話しやすい』とも言ってましたね」
数日後、晃大さんと千紘さんは都内の寄席に隣り合って座っていた。彼女の笑い声が耳に心地いい。ずっと前からこうやって一緒に落語を聴いていたような気がすると彼は思っていたそうだ。当時、彼は27歳。それなりに恋愛もしてきたつもりだったが、隣にいるだけでこんなに安らげる存在はいなかった。
「その日の帰り、居酒屋で食事をしながらふと気づいたんですよ。寄席デートだったんだから、もうちょっといい店へ行くべきではなかったか、と。思わず『ごめん、居酒屋で』と言ったら『ううん。こういう店、いいよね。気楽で』と言ってくれた。その言葉に勇気を得て、『僕とつきあってくれないかな』と押してみたんです。すると彼女、『私、つきあっている人がいるんだ』とさらりと言った。『趣味が同じの友だちじゃダメ?』『うん、いいよ』というやりとりがあったような気がします」
だが彼は諦められなかった。一緒に落語を聴ける女性、隣にいて安らげる女性はめったにいない。つきあっている男より自分のほうが居心地がいいと彼女に認めさせたい。彼は好きな落語を録音したCDを作ってプレゼントしたり、千紘さんの好きな落語家のチケットを取ったりと努力を重ねた。
「ある日、帰宅したら僕が住んでいたアパートの前に男が立っていたんです。40歳前後かな、僕から見たらかなりの大人でした。『あんた、千紘が好きなのか』といきなり言われました。千紘の彼氏だったんです。怖くて震えましたが、相手が闘いをしかけてきたなら受けて立つしかない。『好きです。つきあいたいと思っている』と答えたら、『100万円で譲るよ』って。びっくりしましたね。つきあっている女性をそんなふうに譲ったりします? どういう価値観の男だよと思ったら腹が立ってたまらなかった。『あんたに彼女とつきあう資格はない。おれがつきあう。あんたはさっさと別れてくれよ』とわざと語調を荒くした。膝はガクガクしてましたけど」
だから100万くれたら別れてやるよと彼はしつこかった。こんな男とつきあっている彼女が不憫だった。どうしようと彼の頭が必死に計算を始めた。彼女に言うわけにはいかない。だが100万渡したら、本当に別れてくれるのか確証はない。
「もういいや、と。彼女のためになるなら100万は惜しくない。もし次にゆすったら警察に言う。今回だけだ、オレだってそんな金はないと言ったら、彼はニヤリと笑いました。翌日、定期預金を解約して100万円作って、待ち合わせの場所に持っていった。領収証を書かせようとしたらふざけるなと言われて逃げられました」
結局、どこの誰かもわからないままだった。大きな仕事をしたかのような気持ちになり、彼は喫茶店でひとりのんびりコーヒーを飲んだ。彼女に電話をかけて、これから会えないかと聞いたら、「これから彼と会うから」という答えが返ってきた。別れ話になるのだろうか、ならないのだろうかと思うと心臓がバクバクと音を立てた。
「その晩遅く、彼女から電話がありました。結局、彼は来なかった。電話してもつながらない。私たちもうだめかもしれないと。どうやら彼女は、あんな粗暴な年上の男を心底、好きだったんだと気づきました。僕は彼女が彼に支配されてつきあわされているんだと勘違いしていた」
翌日、彼女を呼び出して会うと、いきなり「カラオケに行こう」と言われた。そして千紘さんはカラオケボックスでさめざめと泣いたという。
「彼に別れよう、もう会う気はないと言われたって。『とんでもないヤツだったけど、彼がいないと生きていけない』と泣いている彼女に、何と言ったらいいかわかりませんでした。彼は約束を守ってくれた。でも結局、100万で彼女を売ったわけですよ。僕自身もうしろめたさがあった」
もう彼のことは忘れたほうがいい、僕と結婚しようと彼は言った。彼女は心細そうな表情でうなずいた。
後編【レスに悩み、不倫に走った47歳夫は大きな勘違いをしているのか どうしても気になる妻の一言と元カレの呪縛】へつづく
亀山早苗(かめやま・さなえ)フリーライター。男女関係、特に不倫について20年以上取材を続け、『不倫の恋で苦しむ男たち』『夫の不倫で苦しむ妻たち』『人はなぜ不倫をするのか』『復讐手帖─愛が狂気に変わるとき─』など著書多数。
デイリー新潮編集部