10月26日発売の『週刊文春』で報じられた、山田太郎文科大臣政務官兼復興大臣政務官の不倫報道。マンガやアニメの「表現の自由」を旗印に「オタク層」からの圧倒的な支持を集める国会議員の呆れた行状に困惑が広がっている。◆「オタク票」を大量に得て自民党入党
山田氏は2010年の参院選に「みんなの党」の比例候補として初出馬、2012年に繰り上げ当選を果たした。この直後から、山田氏は当時議論されていた「児童ポルノ禁止法」の改正案がマンガやアニメを規制する可能性があることを国会で追及、オタク層からは希望の星と目された。
存在を無視できなくなったのは、2016年の参院選以降である。この時、山田氏はおおさか維新の会に入党し立候補を模索するも、希望していた比例代表からの出馬を認められなかったことからすぐに離党。直後、新党改革の推薦で立候補することを決めた。
ここでオタクの街・秋葉原に選挙事務所を置き選挙運動のほとんどを秋葉原でおこなうという奇策でオタク層からさらなる支持を集めることに成功。野党の比例候補では最多となる29万1188票の得票数を集めたが、新党改革の票が集まらなかったために落選した。落選はしたもののオタク層の支持のみによって大量得票は大きな注目を集めた。
こうして2019年の参院選では参議院比例区に自民党公認で立候補54万77票の大量得票で返り咲きを果たした。このように、独自の戦略でマンガ・アニメの表現の自由を守るために活動する議員としての地位を築き、オタク層から圧倒的な支持を集めてきたのである。
◆ネットでは見えない支持者の実態
そんな山田氏を指示するオタク層とはどのような人々なのか。2019年の参院選で、山田氏が秋葉原に開いた選挙事務所を知る関係者は語る。
「秋葉原にこだわったものだから、ひどく狭い事務所しか借りられなかったんです。そこに集まって大声で騒ぐものだから、近所から何度もクレームが入りました。あげく事務所に等身大のキャラクターの人形を持ち込む人までいて……選挙スタッフもドン引きでしたよ」
以前「言論/表現の自由」をテーマに取材を重ねていた筆者は、山田氏に何度も取材したことがある。だから、事務所の惨状を聞いたときにすぐに納得した。2019年の時よりは、いささか広い事務所を借りていた2016年の参院選の時も選挙事務所には理解し難い独特の空気感があったからだ。
選挙事務所は大量のボランティアを必要とする、選挙活動に欠かせない選挙葉書の宛名書きと選挙運動用ビラの証紙貼りの作業のためだ。比例区の場合、選挙葉書は15万枚、ビラは25万枚。ビラは立候補手続きの際に選挙管理委員会から渡される証紙を貼らなくては配布することはできない。
◆筆者が7年前に感じた違和感
当時からオタク層の支持を集めていた山田氏の事務所は人手には困っていなかった。でも、その光景は極めて不自然だった。同じ目的のために集まった彼らは、互いに会話したり、交流したりしようとは一切していなかった。黙々と作業をするだけ。
それが、山田氏が姿を現すと打って変わって歓声を上げるのだ。当の山田氏も事務所にいる時はパーテーションの奥に座っているだけ。毎日おこなっていたネット配信の時間を除いては支持者とは話そうともしていなかった。支持する者とされる者の間には深くて越えられない溝が常にあった。

◆側近も知らない山田氏の私生活
もっとも奇妙なのは支援者はおろか近しい事務所スタッフでも人となりをほとんど知らないことだった。知られているのは、限られた公開情報のみ。当時の秘書は山田氏の自宅にいったこともないと話していた。
いまはネットのあちこちにかかれているが、山田氏の政治活動の始まりがピースボートであることも、2016年当時は、ほとんどの人は知らなかった。それでいて、取材からこのことを知った筆者が尋ねてみると隠すでもなく話し出した。ただし、常に自分がキーマンとしての視点で、である。山田氏の話の大半は「自分のネゴシエイトによって○○を実現した」というものばかりだ。それがどこまで本当なのかわからない。
人となりを見せることのない山田氏だから、推測することは難しい。山田氏が見せているのはオタク文化に関心を寄せ、マンガ・アニメの表現の自由を守っている議員としての姿のみ。もしかすると虚像かもわからないその姿をオタク層は必死に支持していたのである。取材を重ねる中で、その光景がハッキリ見えたので筆者は山田氏を取材するのをやめた。
◆表現の自由を訴えてきたのに表現を恫喝
そして今日まで、山田氏の虚像は肥大化し続けた。物書きの中にもその虚像になにかの利益を見いだし進んで提灯記事を書き連ねる者もいた。とりわけ支援者の狂信を露わにしたのはインボイス制度の問題だ。
個人事業主の多いオタク業界で多くの人々が悲鳴を挙げる中で山田はこの訴えをスルーし続けた。支援者たちは、そのことで山田氏を批判することはなかった。
『週刊文春』の報を受けてSNSにおける支持者たちの態度は様々だ。「この程度で」と疑問を呈する者。「議員は仕事をしてくれればそれでいい」と強弁する者。あるいは応援してきたことを悔やむ者。しかし、大半はSNSでのいつもの饒舌さを封印して、沈黙しやりすごそうとしている。せいぜいがX(旧Twitter)山田氏の謝罪文のリンクをリポストしている程度である。山田氏を知る記者からは、辛辣な意見が。
「オタクの味方だと思っていた山田氏が、自分たちを煽っていた2019年の参院選の時には裏ではパパ活をやっていたわけですよね。もう、どうしていいかわからなくなっているという人が大半でしょう。おまけに、謝罪文では反省しているのかと思いきや“性行為の対価として現金を支払った内容は事実無根”だとして法的措置をちらつかせています。これまで“表現の自由”を訴えてきた人物が訴訟をチラつかせて報道機関を恫喝をしようとしているわけです。どうやっても、擁護するのは無理です」
自身を「マンガ・アニメを守る議員」として売り続けてきた山田氏。その賞味期限は突然に切れた。一方で混乱する支援者たちの姿には、昨今のジャニーズファンにも似た空気を感じる。虚像を信じた者たちのこれからは、どうなるのだろうか。
<TEXT/昼間たかし>